用途・生地・形は千差万別|今、知っておきたい進化系フリースの世界
寒い季節や高所など、低温環境での登山に欠かせない防寒着のひとつがフリースです。ただしひと言にフリースといっても多くのブランドから、さまざまな生地や形状のアイテムが販売されており、その違いが分かりにくいウェアでもあります。
さらに最近は新素材を採用したアイテムもリリースされていますが、果たして自分の山行スタイルやウェアリングに合った一着がどれなのか、ますますわからない……という人もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、フリースの基礎知識から種類・用途を紹介。フリースに関する疑問や悩みを解消して、本当に自分に合った一着を選ぶためのコツがわかります!
登山用フリースってどんなもの?
フリース生地の原点は濡れに強く保温性がある素材の探求
1970年代まで、登山用の防寒着の主流はウール(羊毛)製のセーターやシャツでした。しかしながらウールには、いったん濡れると水を吸って重くなり、乾きにくいというデメリットがありました。
そんな中でアメリカのアウトドアブランド・patagonia(パタゴニア)の創業者であるイヴォン・シュイナードが発見したのが、水を嫌う性質があるアクリル性のパイル(厚みがあるふわりとした質感の)生地。これをヒントに妻のマリンダ・シュイナードが着目したのが、ポリエステル製の生地でした。
このポリエステル素材を使ってパタゴニアが試作したウェアには欠点もありましたが、濡れても水を吸うのは重量の1%以下、簡単に洗濯でき、干せば優れた速乾性を発揮したのです。
防寒性に速乾性・軽量化を兼ね備えたフリース生地の誕生
そして1979年、パタゴニアは素材メーカー・モールデンミルズ(現在のポーラテック) 社と共同でついにフリース生地を開発したのです。
本来フリースとは刈り取られた羊毛の塊を指す言葉でしたが、その柔らかなモフモフ感を表すフリーシー(fleecy)という形容は、まさにこの生地にぴったり。ポリエステル素材を起毛させた生地が、フリースとして定着したのです。
これ以降、さまざまなアウトドアブランドがフリース生地の防寒ウェアを開発。また日本でも安価で高品質なフリースウェアが流行し、日常生活でもすっかり定着しました。
進化系フリースの世界
誕生から40年以上を経て、フリースを使用したウェアにもさまざまな「進化系」が登場しています。
保温を重視していた時代から、行動によるオーバーヒートを防ぐために、通気性も兼ね備えた性能など登山者のニーズに合わせて技術も向上。さらに最近では、機能はそのままに着心地やファッション性も重視されています。そこで今回は、「生地の構造」「素材の組み合わせ」「形」の3つの視点から進化系のフリースをチェックしていきます。
【生地の構造で見る】動き続ける人のための"アクティブタイプ”
フリースは、厚手のものは行動中に着用するには暑く収納するにも嵩張り、薄手のものは風を通しやすいため寒いという弱点がありました。
そんな弱点を克服するアイテムとして、保温性をもたせつつ、適度な通気性を持つ構造の生地を採用したフリースが各ブランドから誕生しています。着続けても常に快適さを持続してくれるから、どれも行動し続ける人にはうってつけなフリースです。
1.YAMAP別注 ポーラテックハイロフトグリッドジャケット
YAMAPがアメリカのアウトドアブランド・MOUNTAIN HARDWEAR(マウンテンハードウェア)と共同開発したフリース。素材にはパタゴニアとともにフリース生地を産み出したしたポーラテック社の「ハイロフトグリッド」を使用しています。
毛足が長く嵩高なハイロフトの保温性と、メッシュのようなグリッド(格子状)の生地による通気性を両立した素材で、行動中にもストレスなく着用することができます。
この「ハイロフトグリッド」のもうひとつの特徴が、グリッドひとつひとつが大きいため低密度であること。フィルパワー(空気を含んで膨らむ数値)が高いダウンジャケットのように軽量で、グッと抑えるとコンパクトになります。
そのためハードシェルジャケットなどのアウターレイヤーを羽織っても、一般的なハイロフトフリースよりもゴワつきが低減されているのです。
わき腹・袖口・裾など装備やウェアとの重ね着で嵩張りやすい箇所には、薄手のストレッチフリースを配して、身体の動きに追従するストレスフリーなウェアです。
2.ドラウトクロージャケット
日本発のアウトドアブランド・finetrack(ファイントラック)が独自に開発した素材「ドラウト®クロー」を使用したフリースです。このアイテムが特に優れているのが、半永久的に持続する吸汗性です。
通常ポリエステルには薬剤加工によって吸汗性を付与しますが、「ドラウト®クロー」は素材そのものに改質加工を施して吸汗性を獲得しているため、何度洗濯しても優れた吸汗性と拡散性が持続します。
数少ないフリースの弱点として、生地が摩耗や熱に弱く、木の枝やザックなどの粗い素材との干渉でダメージを受けやすい点がありました。ファイントラックが独自に開発した「ドラウト®クロー」は表面強度が高く、耐久性を向上させています。
速乾性も一般のフリースより圧倒的に高く、発汗をともなう激しい行動にぴったり。しかし、乾いた汗の水分は拡散されても成分は生地に残り、「臭いの原因になるのでは?」と懸念を感じる方もいるかもしれません。その点においてもこの生地は優秀で、抗菌防臭加工によって長時間行動を続けても快適な着心地がキープされるのです。
3.YAMAP別注 アドリフトシャツ
YAMAPが日本発の環境配慮型アウトドアブランド・STATIC(スタティック)と共同開発したフリース。素材には日本の大手総合化学メーカー・帝人が手がけたポリエステル素材「Octa®(オクタ)」を使用しています。
オクタとはギリシア語由来のラテン語で数字の8を表す言葉。その名の通り穴の空いた中空糸に、8本の突起を放射線状に配列したタコ足型断面の、吸水速乾・軽量性・遮断・断熱に優れたポリエステル繊維です。
「YAMAP別注アドリフトシャツ」は「Octa®(オクタ)」の中でも「Octa CPCP」という生地を使用しています。表面(画像左)はグリッド状のメッシュと裏面(画像右)は起毛の生地を一体化しているため、保温性と蒸れにくさを両立しつつ、軽量化も実現しているのです。
さらに、フリースでは珍しいシャツスタイルである点もポイント。クラシカルな外見を演出できるだけでなく、フロントボタンの開け閉めによって正面からの通気を調整でき、ウェア内は常に快適な状態にキープされます。
【素材の組み合わせで見る】快適な着心地を追求する“ハイブリッドタイプ”
機能の異なる糸や生地を組み合わせて使用する、いわゆるハイブリッドタイプのアイテムも増えています。素材それぞれが持つメリットを部位ごとに分けて使うことで、より快適な着心地を追求。ハイブリッドの生地が活かせるシーンに合わせて着てみると良さが際立ちます。
相反する特性の素材もあるためブランドの実力が試される生地ですが、今回は技術力が凝縮されたそれぞれの素材のいいとこどりを実現したアイテムを紹介します。
1.YAMAP別注 ブラッシュドジップアップフーディー
フリースの開発当初にはデメリットが大きかったウールですが、メリノ種という羊毛から作られるメリノウールは繊維が細く、保温性・吸湿性だけでなく消臭効果も高い素材。何より肌触りが良いことから敏感肌の人でも着用できます。
羊毛の中でも希少なメリノウールを使用したアイテムを作り続けているスイス発のブランドが、[sn]super.natural(スーパーナチュラル)。同社にYAMAPが別注した独自の素材で完成したのがこのウェアです。
生地の表面(画像左)はフリースと同様のポリエステルを100%使用して、耐久性と速乾性を担保。目が詰まった生地のため、適度な防風性も兼ね備えています。UVカット効果も付与されており、アウトドアシーンにぴったりです。
裏面(画像右)はウール84%、ポリエステル16%とウールの配合率を上げることで柔らかな肌触りを実現。ウールならではの天然の調湿・調温機能でウェア内を快適にキープしつつ、弱点である生地の弱さをポリエステルの混紡によって解消しているのです。
2.ロフォテンハイロフレックス200フード
フリースやアクティブインサレーションと並んでミドルレイヤーとして多く着用されるのがソフトシェル。その名の通り伸縮性に優れ、透湿性や比較的高い撥水性も備えている汎用性の高いウェアです。
ノルウェー発のブランド・NORRONA(ノローナ)が開発したこのウェアは、表面にソフトシェル素材、裏面に起毛フリース素材を採用した、まさにいいとこどりのハイブリッド生地です。
表面(画像左)のソフトシェル素材は上半身の動きを邪魔しない伸縮性と透湿性、そして防風性や撥水性で外部環境から身体をプロテクト。裏面(画像右)のフリース素材によって、適度な保温性も実現しているのです。
晴れた日の低山であれば単体でも十分に着用可能、強風雪時には防水性を備えたハードシェルを上から羽織ることもでき、従来のソフトシェルよりもさらに幅広い汎用性を実現しているのです。
【形で見る】カジュアルさと軽量を重視 “プルオーバータイプ”
フロント部分のジッパーなどを廃した、プルオーバータイプのフリースも要注目です。羽織るのではなく被るという着用方法となりますが、タウンユースではカットソーやパーカーとしての着用がメインでむしろよりカジュアルな印象を演出。
スキー・スノーボードなどのスノーアクティビティのミドルレイヤーにおいても、基本的には着用したままとなるためストレスにはなりません。むしろ、フロントジップがないことによる軽量化にも貢献しているのです。
1.YAMAP別注アドリフトクルー ウィズ ポケット
日本発の環境配慮型アウトドアブランド・STATIC(スタティック)とYAMAPのコラボレーションで生まれたウェア。先ほど紹介した「YAMAP別注アドリフトシャツ」と同じく、保温性と蒸れにくさに優れた「Octa CPCP」という生地を採用しています。
この生地はグリッド状メッシュの表面と起毛の裏地を一体化一体化しているため、軽量化も実現しているのです。頻繁な脱ぎ着を想定しないプルオーバータイプだからこそ、軽くストレスのない着心地は嬉しいものです。
フリースの中では比較的薄手なため、寒さからの保温はもちろん、暑さを感じるシチュエーションでの通気性も考慮したウェアで、行動中ずっと着ていても快適です。
裾はドローコードで調整可能なので、下部からの冷気の侵入もシャットアウト。スタティックのオリジナルモデルよりもゆったりとした着心地のため、単体でアウターとしての着用もおすすめです。
2.オクタフリースフーディー
日本発のアウトドアブランドTeton Bros.(ティートンブロス)がリリースするパーカー型のフリースが、この「オクタフリースフーディー」。アイテム名の通り、こちらも素材には日本の大手総合化学メーカー・帝人のポリエステル素材「Octa®(オクタ)」を使用しています。
保温性・通気性・速乾性・軽量性といいことづくめの素材で、ティートンブロスをはじめ米国や北欧のアウトドアブランドでも採用されており、これからさらに多くのアクティブフリースに広がる予感の素材です。
ティートンブロスからは同じカラーリングの「オクタフリースパンツ」もラインナップされており、セットアップでの着用も可能です。タウンユースやランニングから登山まで、個性を演出してくれます。
外見的な特徴はもちろん、下半身でもアクティブフリースの快適さを享受できるのは嬉しいポイント。これまでのトレッキングパンツの概念が変わる穿き心地に、きっと驚くことでしょう。
3.カールサイドグリッドフーディ
アメリカの人気アウトドアブランド・THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)がリリースするプルオーバー型フリースが「カールサイドグリッドフーディー」です。
素材には同社独自の吸水性・速乾性・保温性に優れた中空・異形断面糸で作られた「FUTURE FLEECE」を採用。行動中の発汗による蒸れを排出しつつ、裏面の毛足の長いグリッドフリースが空気をためこむことで、ウェア内の保温性にも優れています。
前の2アイテムはタウンユースにも適していますが、この「カールサイドグリッドフーディー」は細部のこだわりからして、ハードシェルジャケットと組み合わせてのミドルレイヤーとしての使用がおすすめです。
特にフードの作りが秀逸。上下セパレート構造なので、バラクラバとしてもネックウォーマーとしても使用できるのです。静電ケア設計なので、重ね着での擦れなどで発生しがちな静電気も予防してくれます。
自分にぴったりのフリースを見つけるために
ここまでさまざまなフリースを紹介してきましたが、自分にぴったりの一着を見つけるポイントは「主に着用するシーン・環境をなるべく具体的に想定する」ことです。
雪山登山のミドルレイヤーとして着用するのか、低山登山やタウンユースでアウターとして着用するのかで、要求される特性は変わります。同じ雪山登山であっても、気温が低い厳冬期は保温性、気温が高い残雪期は通気性を優先するというようにセレクトが変わってきます。
もうひとつのポイントはカラーやシェイプが自分にとって似合っているかということ。これだけ豊富なラインナップとカラーバリエーションがあるウェアなので、ぜひ着用した自分の姿を想像してみてください。
実はこれが意外と重要。お気に入りのウェアであれば気分もあがり、特に寒くて外出も億劫になりがちな冬でも、おのずと登山に出かけたくなりますよ。
山岳ライター・登山ガイド
鷲尾 太輔
登山の総合プロダクション・Allein Adler代表。山岳ライターとして、様々なメディアでルートガイド・ギアレビューから山登り初心者向けの登山技術・知識のノウハウ記事まで様々なトピックを発信中。登山ガイドとしては、読図・応急手当・ロープワークなどの「安全登山」をテーマとした講習会を開催しています。
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