カリフォルニアが誇る「マウンテンハードウェア」の先進性と自由さ|名品フリースにYAMAP別注が登場
アメリカ西海岸が育んだアウトドアブランド、「MOUNTAIN HARDWEAR(マウンテン ハードウェア)」。自由な発想から生み出される先鋭的なプロダクトは、ヒマラヤに挑むクライマーから、ロングトレイルのハイカーまで、北米を中心に熱烈な支持を集めてきました。
商品ラインナップはアメリカ本国の企画が多いなか、今シーズンにはYAMAPとの共同開発が実現し、別注のフリース3モデルの取り扱いがスタート。マウンテンハードウェアの誕生秘話と、名品をデザインソースに用いた別注商品について、日本国内での商品展開を担う伊藤大悟さんにお話を伺いました。
今回ご紹介するアイテムはこちら
創業初期からトップレベルの登山家に対応したマウンテンハードウェア
ー マウンテンハードウェアといえば、いまやアメリカ有数の西海岸を代表するアウトドアブランドですが、その成り立ちについて教えてください。
MHW商品本部の伊藤大悟さん(以下、伊藤):MHWは、ヒッピー文化発祥の街とされているカリフォルニア州バークレーで、1993年に誕生したブランドです。立ち上げの初期からヒマラヤ8,000m峰などの高所登山をターゲットにした高機能アイテムを多く展開しています。
ガレージブランドのように創業者がウェアやバックパックを手縫いで……というブランドではなく、創業の早い段階から、トップレベルの登山家に向けた本格的な製品を多く開発していたブランドです。
— 創業から総合アウトドアブランドだったというのは驚きですね。
伊藤:日本国内ではあまり知られていませんが、創業を支えたのが、同じくカリフォルニアの老舗アウトドアブランド「シエラデザイン」の精鋭スタッフ十数人。業界でバリバリやっていたスタッフたちが得意な分野をそれぞれ持ち寄ったことで、アパレルだけでなく、寝袋やテントといった、開発にノウハウと時間が求められるラインナップを一気に用意できました。
伊藤:アメリカ本社の現社長も、自らが高所登山に挑むクライマーであり、テクニカルでタフな山行をターゲットとした製品開発には余念がありません。
ちなみに直近では、2019年に社長がアメリカ本社のスタッフを20人ほど連れて、エベレストでの製品テストツアーを企画しました。ほとんどのスタッフはベースキャンプまでですが、社長と一部のメンバーがエベレストを登頂するプラン。残念ながら山のコンディションが悪く登頂は叶わなかったのですが、マウンテンハードウェアというブランドの姿勢を象徴していますね。
カッコつけすぎない、自然体のものづくり
YAMAP商品開発 乙部晴佳(以下、乙部):高所向けのアイテムを作るアウトドアブランドは他にもあります。でも、MHWは、アメリカ西海岸の自由な空気をまとっているところに大きな違いがありますよね。私も行ったことがあるのですが、カリフォルニアは海沿いの州でありながら、内陸にはクライミングの聖地ヨセミテで知られるような雄大な山脈があります。日本で言うと、湘南と立山が一緒にあるみたいな感じのイメージ。
乙部:ヒッピー的な「自由に、自分らしく生きようぜ」みたいな空気感の人たちがモノを作っているので、シリアスなモノ作りをしつつも、シリアス過ぎなかったり、カッコいいものを作りつつも、カッコをつけすぎなかったりしている。それがマウンテンハードウェアの中でも体現されていているのも、魅力のひとつだと感じます。
西海岸の遊び心とカジュアルさ
— カルチャーが盛んなアメリカ西海岸発のブランドということもあり、遊び心と機能性を兼ね備えたカジュアルなウェアもそろっていますね。
伊藤:高所登山向けのウェアを作るブランドのものとは思えないかもしれませんが、オールドスクールな感じのボーダーのシャツもあります。もちろん登山向けのウェアなので、吸水速乾の性能を高めるため、コットンではなくポリエステル100%です。
本国のスタッフたちにも西海岸のカルチャーが根付いています。ふだん足元は、同じカリフォルニアブランドのVANSを履いている方も多く、山で使える仕様でありながらも、ストリート的なアレンジを施したスタイルが好まれています。
─ こちらは一般的なダウンジャケットのように見えますが…。
伊藤:ひとつ余計なポケットがついているのがポイントです。何のためかと言うと、なんと缶ビールを入れるため(笑)。本国で発表されたときには、ショールームも拍手喝采で盛り上がっていました。遊び心というか、カリフォルニアらしいというか。最先端の機能を突き詰めつつも、遊び心を入れるのが、マウンテンハードウェアというブランドであり、西海岸で支持されている理由ですね。
フラッグシップモデルがデザインソースとなったYAMAP別注商品
— MHWのブランドの空気感を説明していただいたところで、YAMAP別注モデルの3商品について、お伺いします。
乙部:YAMAPの別注モデルとして共同開発したのが、ポーラテック社の高性能フリース生地「ハイロフトグリッド」を使用したジャケットと、えりなしのクルーネック、ビーニーの3モデルです。
ジャケットタイプの「ポーラテックハイロフトグリッドジャケット」は、マウンテンハードウェアの代表的なジャケット「モンキーマンフリース」がデザインソースとなっています。伊藤さんがこの撮影で着ているもので、現行モデルは「ポーラテックハイロフトジャケット」という商品名で展開されています。
今回、YAMAPの別注でフリースのジャケットを企画するにあたり、日本の山で使いやすいものにしたかったので、保温と通気を兼ね備えた「ハイロフトグリッド」を採用しました。
■登り始めから山頂、下山までずっと着続けられる
—「ハイロフトグリッド」シリーズのこだわりポイント3つを教えてください。
乙部:1つめは、もちろん高品質な素材。「ポーラテック®︎ハイロフトグリッド」ですね。マウンテンハードウェアの現行モデル「ポーラテックハイロフトジャケット」は、毛足が長く目の詰まったフリース素材「ポーラテック®︎ハイロフト」を使用しています。すごく暖かく、秋冬の定番アイテムとして人気があるのですが、登山が中心で、動いているときにも着たいという方にとっては、少しオーバースペックなんです。
乙部:そこで「通気性」をプラスしたいと考え、ポーラテック社のハイロフトシリーズの中から、グリッドバージョンを選びました。「ハイロフトグリッド」は、手を通した瞬間から暖かさを感じる一方、風が吹くとスーッと通気していくのが特徴。行動時のムレや汗をフリース生地が溜め込まずに発散してくれるので、登りはじめから登頂、下山までずっと着ていられます。
■ユニセックスで着られる配色カラー
— 次のポイントはどうでしょうか。
乙部:2つ目は、ユニセックスで着られるカラーリングです。伊藤さんが着ている「ポーラテックハイロフトフリース」は男性的なコントラスト強めの色味。マウンテンハードウェアのブランドイメージを象徴するようなルックスです。ただ、YAMAPユーザーには女性も多いので、別注モデルはユニセックスに使える優しい色味のトーンにしました。
■アジアンフィットではなく、「ジャパニーズフィット」
乙部:最後は、日本人に合わせたサイズ感です。マウンテンハードウェアの製品のほとんどがアメリカ本国の企画なので、アイテムによっては日本人の体格に合わないこともありました。「アジアンフィット」も用意されていますが、それも決して「日本人」向けではありません。そこで、別注モデルでは、日本人の体型に合わせた「ジャパニーズフィット」で作っています。
サイジングをする上で最もこだわったのが、ゆき丈(首の後ろの付け根中心部から肩を経由した袖先)です。欧米の人たちは手足が長いので、日本人が本国モデルを着ると袖が余ってしまうことがあります。これまで海外仕様でサイズが合わなかったという日本の平均的な体型の方にも、安心して着ていただけます。
アウトドアシーン以外でも着られるクルーネック
— 別注モデルにはプルオンタイプの「ポーラテックハイロフトグリッドクルー」もありますよね。
乙部:山での利便性では、脱ぎ着しやすいジッパーつきのジャケットタイプに軍配が上がります。普段でも着ることを考えると、えりのないクルーネックのタイプがいいと思ってシリーズに加えました。
「ポーラテックハイロフトグリッドジャケット」は上にインサレーションやシェルジャケットなどを羽織ることを前提にしているので、少しタイト目な仕上がりです。一方、このクルータイプはタウンユースにもなじむよう、身幅も大きめのシルエットにしています。
隠れた名品、万能ビーニーが復活
—「ポーラテックハイロフトグリッドビーニー」は乙部さんのお気に入りだとか。
乙部:以前、この「ポーラテック®︎ハイロフトグリッド」でできたビーニーがマウンテンハードウェアのラインナップにあったんですよね。それをずっと使っていたのですが、本当にめちゃくちゃ便利なんです。でももう売っていなくて、「また作ってほしいな」と思っていて。
冬は防寒を考えるとニット帽を選ぶことが多いと思うのですが、かさ張るし、汗をかいたときに不快感がありました。一般的なニット素材は洗いづらいというデメリットもあります。
その点、「ポーラテックハイロフトグリッドビーニー」は暖かさはもちろん、わずか27gと超軽量でコンパクト。しかも洗濯機で洗えるくらい扱いやすい。山を歩いていて暑いなと思ったら、ポケットにたたんで入れられる手軽さも魅力となっています。
乙部:小屋やテント泊のときに、ビーニーがあるとやっぱり便利。小屋のなかでかぶって過ごせば、ぐちゃぐちゃになった髪型を気にしないでいいですし、寝るときも暖かいです。冬にランニングをするときにもちょうどいい。秋冬だけでなく、夏場の登山でも、朝晩の冷え込み対策でビーニーが活躍してくれます。
伊藤:先ほどもお話ししたように、「ポーラテック®︎ハイロフトグリッド」の収納性の良さは大きな魅力。ジャケットでもクルーでも、通常の「ハイロフト」に比べて、グリッド構造のおかげで収納性に優れています。
— YAMAPとの別注モデルを開発するにあたって、乙部からのリクエストを伊藤さんはどのように受け止めたのでしょうか?
伊藤:マウンテンハードウェアの代表作のひとつである「モンキーマンフリース」がデザインソースで、登山での行動を考えて、通気性に優れた「ハイロフトグリッド」をセレクトしたことは、すごくいい着眼点だったと思います。
実は、マウンテンハードウェアも「ハイロフトグリッド」を使用したジャケットをかつて展開していました。日本国内のコアなユーザーからの評価は非常に高かったのですが、本国の意向で品番からなくなってしまい……。数年たった今も「なんで廃番になったの?」と言われていました。日本で復活を要望するニーズがあっただけに、私自身もうれしく感じています。
— 今回の別注アイテムについて、気に入っているところはありますか?
伊藤:マウンテンハードウェアの通常のラインナップにはない色のチョイス、日本の山岳フィールドで使いやすい生地やシルエットなどの仕様は、別注モデルならではですね。私はついついコントラスト強めの配色を選びがちなので、YAMAP目線でアレンジをいただいたことで、より多くの方に愛されるアイテムに仕上がったと思います。一般的に、オフホワイトは女性用と考えられがちですが、男性が来ても違和感ない色味で、弊社の社員には好評でした。
— 本日はお時間をいただき、ありがとうございました。
関連アイテムはこちら
本記事のインタビュー時の様子は、動画からもご覧いただけます。
MOUNTAIN HARDWEAR / 伊藤大悟、YAMAP STORE / 乙部晴佳
【伊藤大悟(いとう・だいご)】 マウンテンハードウェア商品本部にて、MD(マーチャンダイザー)をつとめる。学生時代に 始めたサーフィンのキャリアは25年以上。そこからスノーボード、トレラン、クライミングと、海と山の垣根を越えてアウトドアスポーツを楽しみ、そこでの経験を活かした商品企画やMD業務を行っている。 【乙部晴佳(おとべ・はるか)】 アウトドアブランドのアパレルMDを経て2021年9月にYAMAPに入社。登山をメインに、スノーボードからトレイルランニングまでアウトドアを全方位楽しみながら、フィールドで得た気づきを生かして商品企画を行う。