山に導かれ、出会ったものづくりの世界|Okara/ai nittaが描く山道具のものがたり
女性ハイカーを中心に、根強い人気を誇るアウトドアブランド「Okara/ai nitta(オカラ/アイ ニッタ)」。ウルトラライト(UL)仕様でありながら、柔和な雰囲気が漂う独創的なデザインは多くの人々の心を掴んで離しません。
今回はオカラの代表、およびブランドディレクターを務める新田あいさんにお話を伺いました。オカラが生まれたきっかけから、プロダクトへのこだわり、そして山と自身のライフスタイルへの想いをお届けします。
(文:大城実結 写真:小寺晴雄)
本記事で紹介するアイテム
“木道が伸びる風景”に心震えて

──もともとモデルとして活躍していた新田さんですが、何をきっかけに山登りをはじめられたんですか?
私が山登りをはじめたのは2014年の秋、モデル仲間でYAMAP MAGAZINEでも活躍されている加藤由佳さんに連れられて、奥多摩の川苔山へ行ったのが登山との出会いでした。それまでずっと街の中で暮らしていたので、自分自身が自然の中にいるのがとても新鮮に感じたことを覚えています。
その後も近郊の山々に登っていたのですが、大きく人生を変えたのが山形県の月山。どこまでも続く熊笹、山に向かって伸びる1本の木道。そこには今まで見てきた里山とはまったく違う風景が広がっていたんです。その風景に心掴まれて、木道のある山が大好きになりました。
──ひとつの風景に心掴まれて、登山にのめり込んでいったんですね。
ちょうど人生のターニングポイントに差し掛かったこともあり、北アルプスの五色ヶ原山荘で3シーズン働いたり、みかん農家で収穫を手伝ったり、自然と近い生活を送るようになりました。
そうすると日常からアウトドアウェアを着るようになり、どんどん普段着とアウトドアウェアの境目がなくなっていったんです。そうしたときに「もっとこうだったらいいのに」と感じることが増え、オカラのはじまりに繋がっていきます。
「道具を手作りする面白さ」との出会い

──視点を変えて新田さんの「ものづくり」について教えてください。作りはじめたきっかけは何だったのでしょうか?
ちょうど山をはじめたばかりの頃、Off the Grid(オフザグリッド)という国内ガレージブランドが集まるイベントに参加したんです。そのときは「キッチンカーでおいしいハンバーガーがあるよ」と聞いたので、何気なく参加しただけだったのですが(笑)。
そこで出会ったのは、ウルトラライトハイキングという登山スタイル。1から生地を裁断してサコッシュを作っていたり、アルミ缶でアルコールストーブを自作していたり、当時まだ半年しか山をやってなかったんですけど「あ、すごく面白いな」って思ったんです。
そこから山道具を作ることに興味が湧いて、山道具のガレージメーカーが集まるMT.FABs(マウントファブズ)に通うようになっていきました。
──「自分で道具を手作りする面白さ」に魅了されていったのですね。
実は山をはじめる前から趣味でハンドメイドをしていまして、「ニッタメイド」という個人ブランドで、アクセサリーを製作・販売していたこともあったんです。その経験もあって、もっと本格的にものづくりしたいという気持ちが強くなっていきました。
そんな折に出会ったのが、バックパックを中心にブランドを展開するRaw Low Mountain Works(ロウロウマウンテンワークス)。もともと私が製品のファンで、カタログモデルをやらせていただいたりしたこともあったのですが、神戸に引っ越すタイミングで「一緒にお仕事しませんか?」と私からお声掛けをしたのがオカラが生まれるきっかけとなりました。

──ということは、オカラとロウロウマウンテンワークスは姉妹ブランドのような関係性なのでしょうか。
そうなんです。実はロウロウマウンテンワークスと同じ会社で、まさに姉妹ブランドのような関係性。製造ラインも同じで、使っている素材も同じことが多いんです。
.jpg?w=1000)
オカラのプロダクトデザインも主にロウロウマウンテンワークスのデザイナーが担当しています。私はブランドディレクターという立場から、山を歩く中で「こんなものがあったらいいな」という気付きを伝えて、それをデザインに落とし込む。サンプルが完成したら、それを持って私自身が山を何度も歩いてフィールドテストをし、納得いくまで改善を繰り返してひとつのプロダクトを作り上げています。
──オカラといえば、UL系統にありながらも柔らかな雰囲気が印象的だったのですが、その制作工程のお話を聞いて納得です。
私が欲しいと思ったアイテムを作っているので、購買層は女性が多いのですが、男性ユーザーも一定数いらっしゃいます。夫もオカラのザックを背負っているのですが、175㎝でも難なく背負えています。なので、性別に関係なくぜひ手に取っていただきたいです。オカラの男性ユーザーのことを、巷では「オカラ男子」と呼んでいるそうですよ(笑)。
──そんなオカラがはじめて世に送り出したプロダクトは何だったのですか?

最初に作ったのはスカーフでした。スカーフにはオカラのメインキャラクターにもなっているハリネズミの「おから君」や、旅の相棒であるガチョウを描き、ブランドの世界観を表現したものになっています。
私は子どものころ「ニルスのふしぎな旅」というスウェーデンの児童文学が大好きで、そこから着想を得ています。スウェーデン語の響きもどこか可愛いので、プロダクトの名前にも採用しているんですよ。

ハリネズミのおから君は、私が昔一緒に暮らしていたハリネズミなんです。彼はいなくなってしまったけど、道具づくりを通じて今も私のそばに居るんです。
ブランドディレクターが語るプロダクトの魅力
──YAMAP STOREでも人気のトムテ、リーテッ、ミッテン、レクタンについて詳しく教えてください。
もちろんです! 1つひとつご紹介しますね。
ころんと可愛く、使いやすい「トムテ」

丸みを帯びたシルエットが特徴のサコッシュ。しっかり容量を確保しつつ、重たくならないように広めのマチを採用しました。リップなどの小物を入れられる内ポケットとは別に、「秘密のポケット」を底部に設置。


この「秘密のポケット」は、普段は不要だけどいざという時に便利なものを収納できるんです。例えばエコバッグや、小銭を忘れやすいうっかりさんなら現金を入れておいても良いかもしれませんね。
ストラップを外せばハンドバッグとしても使えるので、日常から山までずっと使い続けることができますよ。
これが私の正解ポーチ「レクタン」

長らく山で使うポーチのベストな形が見つからず、ジップロックを代用していました。ふと、私が日常使いしているポーチを見直してみると、とある雑誌の付録のポーチをずっと使い続けていることに気付いたんです。それが整理整頓しやすい長方形。そこからレクタンの着想を得ています。

レクタン素材には透け感が印象的なDCF(ダイニーマ コンポジット ファブリック)を採用しました。中に何が入っているかも分かりやすく便利です。内ポケットも広めのものがひとつ、小さめのものが2つあり、整理整頓もしやすいのもポイントです。
私のおすすめの使い方は「これに入る化粧品しか山に持って行かない!」と決めること。色々持って行きたくなりますが、レクタンに入る量だけ持って行くことにすると、テントや山小屋、お風呂でも楽ですよ。
.jpg?w=1000)
実は、男性の愛用者さんもいらっしゃるんです。その方はレクタンを充電器などをまとめるアクセサリーケースとして使っているそうですよ。
六甲山を歩き尽くして生まれたザック「リーテッ」

開発に2年を要したオカラ初のバックパックです。
私のホームマウンテンは神戸にある六甲山なのですが、既存のバックパックでハイキングをするにはちょっと容量が大きすぎる。低山ハイクで活躍するようなサイズで、しっかりとした作りのものを目指して制作をはじめました。


メッシュポケットやロールトップ、サイドアクセスできるファスナーなどULらしさを盛り込みつつも、可愛らしさを大切につくりあげました。
私はいつもサイドポケットにドリンクボトルを収納しています。こうすると、肩にかけたままドリンクを出し入れできるので便利ですよ。
山小屋泊やULテント泊もお任せ「ミッテン」

ミッテンは日帰りハイキングや日常使いに便利なリーテッのネクストステップ。
山小屋泊やULテント泊に対応できるバックパックとして作りました。生地には張りのあるエコパックを使用し、背面パッドも丈夫にすることで、ぐしゃっと潰れずにパッキングがしやすいのが特徴です。

またショルダーハーネスを硬めに設計しているので、背負えば背負うほど自身の肩の形に馴染み、背負いやすくなるようになっています。

内ポケットには深いポケット、浅いポケットの2種類を設置して、細々したものも迷子にならないように工夫しています。
これからも自分らしく、山へ

──今後のオカラの展望について教えてください。
実は、アパレル製品の展開を本格的に始動させる予定です。まだ型紙ができた段階なので、リリースはまだ先になりますが……。ご期待ください!
──最後に、新田さんの活動の原動力、そしてこれからのライフスタイルについてお聞かせください。
普段は私、月の半分を家で過ごすインドア派なんです。なので、山に出会い、山小屋で働き、ブランドを立ち上げたことは、今でも不思議に感じています。今後は室堂から上高地まで歩くような、そんな「山を長く歩くこと」に挑戦したいです。きっとそれが自信にも繋がると思うので。
日々のライフスタイルでは、愛犬との神戸での暮らしがちょうど良く、これからもオンとオフを明確に分けて生活をしていきたいです。愛犬の名前は「ごまめ」というのですが、元・野犬で神戸の山生まれ。私の六甲山トレーニングにも付き合ってくれる相棒です。

──もしかしたら今後のオカラの登場人物に「ごまめ」くんが登場するかも……?
ふふふ、それは秘密です。どうぞお楽しみに!
山が教えてくれたこと、ものづくりが教えてくれたこと。新田さんの口から語られたのは、彼女が人生を通じて出会ったありのままの魅力でした。山と道具と生活が重なり、生まれるオカラのプロダクトは、きっとあなたを山へ優しく導いてくれるはずです。

新田あい
登山をライフワークに、北アルプスの山小屋勤務やネパールトレッキングを経験。自然の中で過ごす時間を通じて、山での暮らしと日常をつなぐ視点を培ってきた。自身がディレクションを務めるアウトドアブランド〈Okara / ai nitta〉では、女性目線で“山にも街にもなじむ”アイテムを企画・制作。フィールドで実際に試しながら、シンプルで長く使えるものづくりを続けている。現在は神戸を拠点に、元野犬の愛犬「ごまめ」と山を歩き、自然と寄り添うライフスタイルを発信している。



