「大人の登山者にふさわしい、高級SUVのよう」2つのALTRA新作シューズをひげ隊長がレビュー
YAMAP STOREでも根強いファンが多いALTRA(アルトラ)のシューズ。この度、トレイルシューズとして人気の定番「ローンピーク」の新モデル、『ローンピーク アルパイン』と、ラフな道を長時間走る厚底シューズ、『オリンパス 4』の2タイプが新たな仲間として加わりました。
そこで、山を歩き続けること25年のYAMAP専属ガイド「ひげ隊長」こと前田央輝さんに試し履きをしてもらい、感想をうかがってみました。ひげ隊長、じつは大のアルトラ好きで、「もう他のシューズは履きたくない…!」とアルトラ愛を叫んでしまうほど。
でもアルトラのシューズに出会うまでは、トレランシューズのような軽めの靴とは距離を置いていたのだそう。そんなひげ隊長はアルトラのシューズのどんなところに惹かれたのでしょうか。また、「車に例えると、まるで高級SUVとJeepのよう」と評する新入荷の2足は、これまでのものと比較して何が変わったのでしょうか。早速うかがってみましょう!
「トレランシューズは履かない!」と頑だったけれど…
トレランシューズみたいな、軽めの靴が登山シーンでも流行り始めた時期があったよね。その時は「あんなペラペラのメッシュの靴なんかダメだろ!」って思ってたんだよね。
僕はクラシックな男だから、持ちものや身につけるものはクラシックなものが好き。しかも環境も大事にしたいと思ってるから、できるだけ長く使えるものを選ぶわけ。そうなると、登山靴は自ずと革製のゴツいものになるでしょ。当然、軽量なナイロン素材のトレランシューズとは相容れないわけ。
登山道でよく見かけるようになっても「あんなの絶対履かない!」って、それはもう頑なだったけど、内心は「かっこいいなぁ」と思う気持ちも少しだけあって。トレイルランナーってシュッとした服装で、荷物が少なくて、ロケットみたいなリュック背負ってて、純粋にかっこいいじゃん。
でも、認めたくなかった。古いものを守りたい気持ちがあったし、おじさんになると新しいものを拒絶する傾向も出てくるから(笑)。古いものを捨てたら、自分を否定することになりそうで怖いんだろうね。
転機はイベントでの試し履き。下山後に「これ、購入できる?」と即効で交渉
2020年、大分県日田市で山開きイベントがあって。そのときに、親子登山体験会でガイドを務めたんだけど、普通のスニーカーで参加している人がいたから、レンタルブースを出していたアルトラでシューズを借りることにしたのよ。全サイズのサンプルを揃えてて、無料で貸し出しをしていたんだよね。
「これなんかいいんじゃないですか?」って、参加者さんに説明しながら、「僕もちょっと履いてみたいなぁ」と心の内で思ってたのが顔に出てたんだろうね。アルトラのスタッフが「ひげ隊長も使ってみませんか」って、声をかけてくれたのよ。最初は「いや、僕はいいですよ」って拒否してたんだけど、「いえいえ、そう言わず。履いてみてくださいよ」って押し切ってもらって。渋い顔しながら受け取ったつもりだけど、わくわく感が出ちゃってたかもね。
とはいえ、宿敵のトレランシューズ。道具に関しては人より詳しいって自負もあったから、使い終わったあとに「やっぱりここが弱いね」「足が痛かったよ」って、ダメ出しでもしてやろうかなと思ってたんだけど。使ってみたら、めちゃくちゃいいんだよね。柔らかいし、疲れないし。非の打ちどころがないくらい履き心地が最高だった。
1日目が終了したとき、「1回使ったくらいじゃわからんから、もう1日借りてもいい?」って、翌日分も予約しちゃった(笑)。アルトラのシューズを使いたいだけなのに、とことんレビューしてやるって雰囲気を出してごまかしたけど、きっとばれてるよね。
2日目、そのよさは確信に変わったね。アルトラのシューズは前へ前へと足を運んでくれる。疲れて足取りが重くなったとき、ごつい革製の靴だと足を前に出すのがつらくなることもあったけど、アルトラのシューズはそもそもずっと軽やか。上半身の方が先に疲れても、足だけは疲れなくて勝手に進んでいく感じ。20代を思い出すような足どりで、まるで電動アシストがついてるみたいに足が前に出るからびっくりした。
返却時に「これを売ってくれ」と直談判したんだけど、サンプルは全サイズ1組ずつしかないから売れないって言われて。「僕は明日も、明後日もガイドの仕事がある。このシューズの履き心地を知ってしまったら最後、もうあとには戻れない。ぜひこれを売ってほしい。YouTubeで宣伝するし、レビューもするし、何でもするから!」。もはや懇願だね(笑)。そしたらスタッフの人がたまたま、旧モデルの『ローンピーク4.0』を持ってて、それを売ってもらえることになって。本当にありがたかった。
それ以来、ほとんどアルトラの『ローンピーク4.0』を履いてる。2020〜2021年はコロナのこともあって、日帰りの低山の仕事ばかりだったからローカットシューズの出番も多かったね。山行の8割はこれを使ってたかな。
使っているうちにトレランシューズの意外なメリットにも気がつく
先々月、2週間くらい出っぱなしの出張があったんだけど、荷物を増やせないから、靴は『ローンピーク4.0』1足だけにしたんだよね。梅雨時だったから、大雨に見舞われて。沢筋の道で足首まで水に浸かるようなシーンがあったりして、むろんシューズの中までしっかり濡れちゃった。
実際のところは、一日大雨だったら、どんな靴でも完全防水はなかなか難しいのが現実だよね。ましてやローカットの『ローンピーク4.0』に防水は期待してなかったから、思いっきり濡れても気にはならなかった。
でもここからが驚き。午前中しっかり濡れたのに、午後にはさっぱり乾いちゃったのよ。メッシュのアッパーがこんなに乾きやすいなんて、本当にびっくりした。普通の登山靴だと、一度濡れると新聞紙を入れたり、日陰干しにしたりしても、なかなか乾かないじゃん。だから、登山中も濡れないようにがんばっちゃうんだけど。
でも、トレランシューズみたいに水抜けがよくて、乾きがいいと、水と友達になった方がかえっていいじゃん。完全防水よりも、こっちの方が全天候なのかもって思っちゃうくらい。とはいえ、靴下にも乾きやすさは左右されるし、寒いときには低体温症とかの危険もあるから気をつけなくちゃダメだけどね。
『ローンピーク アルパイン』はさりげないアウトドア感が◎
今回試し履きさせてもらった『ローンピーク アルパイン』は、元祖ローンピークの素材違い。アッパーのナイロンをスエード地にしたもの。
ローンピーク愛用者ではあるけど、心のどこかで「もうちょっとデザインがいいとなぁ…」という気持ちがあったんだよね。トレランシューズはアルトラに限らず、ビビットなカラーだったり、派手な模様が施されていたり。重厚な登山靴を履いてきた僕としては、派手なナイロンのシューズは安っぽく感じちゃうんだよね。そんなトレランシューズ初心者の大人の登山者たちにフィットしそうなのが、『ローンピーク アルパイン』。
スエード地がシックでかっこいい。スエードは手入れが楽だし、傷もつきにくい。『ローンピーク アルパイン』には、スエードとコンビでヘンプキャンバスも使われているのもいいね。ヘンプは肥料や農薬を使わなくてもすくすく成長する植物で、環境にやさしい素材として注目されている。製品が完成するまでのストーリーとか、環境問題とか、僕はそういったものも道具選びで大事にしたいと思ってるから、ビビッときちゃった。
一方で、『ローンピーク4.0』のよさだった水抜けのよさや速乾性は、スエード地によって失われてしまったのはやや残念。でも、スエード地のものがラインナップされたことで、トレランシューズ系の靴をまだ履いたことがない人もトライしやすくなったと思う。性能は『ローンピーク4.0』そのものなのに、見た目は落ち着いたデザインだからね。
僕はアフターマウンテン(下山後の移動や立ち寄りのことね)にはあまり山っぽい格好で歩きたくないから、『ローンピーク アルパイン』はまさにドンピシャ。高尾山で試し履きをしたとき、下山後におしゃれなカフェに入っても恥ずかしくなかったし(笑)。
都会は特に、電車に乗って山に行くことが多い。着る服だって街から山へそのまま入っていけるような、街着でも登山ウェアでもないアウトドアミックスな感じがちょうどいい。「山走ってます!」っていう感じのトレランシューズだと、僕は気恥ずかしいのよ(笑)。『ローンピーク アルパイン』のさりげないアウトドア感がちょうどいいわけ。
車好きの目線から言わせてもらうと、おしゃれな高級SUVみたいな感じかな。ポルシェのカイエンとか、ジャガーのF-PACEとか。高級車の構造はそのままに、アウトドアでも対応できる仕様。山も行けるし、街も走れる。極端に言うと結婚式にも行けちゃう、さりげないアウトドア感と高級感。それが『ローンピーク アルパイン』にはあると思う。
『ローンピーク アルパイン』 の商品概要、カラー一覧はこちら
本家ローンピークの最先端技術はしっかりと搭載しつつ、耐久性をアップさせるとともに、どんなコーディネートにも合わせやすいクラシカルな佇まいを持つモデル。
つま先の空間を広くとった幅の広いフットシェイプデザインを採用することで、足の指がしっかりと大地を捉えるため、脚の力が余すことなく地面に伝わり、効率よく体を前身させるパワーとなります。
オフロード仕様の『オリンパス4』には弱点なしのベタ惚れ中
ためし履きをしたもう一足の『オリンパス4』は車で例えると、まさにJeep。オフロードも何のそのって感じ。僕は実生活でJeepを愛車としてるんだけど、ラダーフレームで四輪駆動もしっかりしていて、普通の車とは構造から違うんだよね。そして、車高があんなに高いのに安定しているのは、オフロード用のどっしりしたタイヤだからなし得ること。だからどんな悪路でも越えて行ける。その代わり、整備された道路の乗り心地はイマイチで、ポルシェのカイエンみたいに結婚式には連れて行けないのよ。
『オリンパス4』に話を戻すと、クッションが分厚いのはロングトレイルを走り切るため。オフロード仕様になってるんだよね。
じつは、『オリンパス4』を初めて見たときの印象は、クッションの分だけ重心が上がって左右にぶれたり、安定しなかったりするんじゃないかなと思ってた。かかとが不格好に張り出してるのも気になってて。でも、履いてみると、めちゃくちゃ安定してるんだよね。
ソールが分厚い分かなり高さがあるのに安定感が抜群なのは、ソールががっしりしていて、接面が広いから。僕が気になってたかかとの張り出しがあるから、しっかり地面を捉えられてるんだよね。ここが、車高が高いのに幅広のゴツいオフロードタイヤだから、荒れた道でも進んでいけるJeepと同じだなって思ったわけ。
アルトラの靴は自然と足が前に出る感じがするんだけど、『オリンパス4』は特にそう。もしかしたら、初めてのトレランシューズが『オリンパス4』だと、筋力や体力が靴の性能に負けて、疲れちゃうかもしれないね。そうした機能性に加えて、デザイン面も『ローンピーク アルパイン』よりアウトドアっぽい感じがする。
改めて見てみると、この不格好な形こそJeepのよう。クッションの分だけ重心が上がるのも、今となっては、身長のかさ上げになるからいいかなって思ってるくらい(身長の公称数値を2cmプラスしちゃおうかな?笑)。あと、ナイロンのメッシュ素材なのに色合いが渋いのもポイント。大人のかっこよさを備えてて……結構ベタ惚れで、今のところ弱点が見当たらない(笑)。
『オリンパス4』 の商品概要、カラー一覧はこちら
『オリンパス4』は、荒れた道を長時間走り続けるトレイルランナーに人気のある、厚みを持ったミッドソールを配置した「厚底」のシューズ。地面からの衝撃を緩和することで足へのトラブルや疲労を回避し、より長くより快適に走り続けることができ、ランナーはもとより、ハイカーでも愛用者が多い逸品。
ソールが厚くなると足の重心は高い位置になりますが、バランスはしっかりキープ。足が持つ力を最大限に引き出し地面に伝えることで、より長くより速く、より安全にトレイルを進むことを可能にした高性能シューズです。
高性能なトレランシューズを「使わず嫌い」にするのはもったいない!
僕の足形はアジア人特有の幅広・甲高。アルトラの靴は足指が動く設計になってるから、幅が広くて、僕の足とはめちゃくちゃ相性がいい。アルトラのシューズを心から勧めたいけど、足形が合う合わないは大事。ヨーロッパ系の幅が狭いブーツが合う人もいると思うから、見極めはしてほしい。
「トレランシューズなんか履かない」という気持ちでいたけど、アルトラに出会って、シューズの進化には本当に驚いた。何度もいうけれど、20代の頃の足取りを思い出すほどだったから。初めて『ローンピーク4.0』を履いたとき、「時代は変わったんだなぁ…」としみじみ思った。もう令和なんだから、技術が進んでないはずがないよね。「使わず嫌い」はもったいない。今までトレランシューズを毛嫌いしてた昭和のおじさんが言うんだから間違いない(笑)。
今回試し履きした『ローンピーク アルパイン』は、トレランシューズらしからぬ見た目でとっつきやすいし、トレランシューズを履いたことがない人にこそおすすめしたい一足。
『オリンパス4』は、タフでハードな道を長時間歩いたり走ったりしたい人に是非試してみてほしい。
その軽やかさに、絶対やみつきになるはずだから。
(写真:YAMAP 齋藤 光馬)