アルトラの新作モデルを100マイルトレイルライターがレビュー

年が変わり、冬の出口が近づいてくると、シューズ好きにとってはワクワクするシーズンが到来します。そう、ニューモデルが店頭へと並び始めるのです!
 
今回、ALTRA(アルトラ)の定番「ローンピーク」のニューモデル「ローンピーク6」と、新定番候補の「モンブラン」を履いて試走してみる機会を得ました。
 
結論から先に言うと、どちらのシューズもアルトラらしさはそのまま、「履きやすくなった」という印象。もともとアルトラのシューズはかなり履きやすい部類でしたが、ベアフットランを掲げるだけあって、特徴的な個性があります。「履きやすくなった」と感じた理由を含め、早速、個性ある2足をレビューしていきたいと思います。

(文=トレイルライター / 礒村 真介)

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そもそもアルトラで走ると、どんないいことが?

アルトラの新作モデルを100マイルトレイルライターがレビュー今回の新作「ローンピーク6」の横顔。「ゼロドロップ」設計であることがわかる

アルトラは、裸足感覚で走ったり歩いたりするためのベアフットラン系のシューズを専門に作っているシューズメーカーです。地球上にランニング用スニーカーが登場する以前、人類はそもそも裸足で走ったり歩いたりしていました(当りまえ)。だからこそ、シューズ自体のクッション性能に頼りすぎず、裸足のときと同じフォームで走るほうが人にとってナチュラルで、故障に繋がらないのでは、というコンセプトに基づいています。
 
それを適えているのは、主に「ゼロドロップ」と「ワイドなトウボックス」の2点。
 
ゼロドロップとは、かかと側とつま先側のソールの厚さ(高さ)が一緒で、高低差がゼロであること。裸足もいわばゼロドロップの状態なのですが、世の中のシューズはかかと側が4~8㎜程度厚く(高く)、履くと強制的に前傾のポジションとなるものが大半です。ワイドなトウボックスも然りで、裸足で生活していると本来は足の指と指のあいだが広がるはず、だから足指を広げてワイドに使えるトウシェイプにしよう、という狙いがあるのです。

アルトラの新作モデルを100マイルトレイルライターがレビュー

ちなみにベアフットランには、足袋や“わらじ”のようなミニマムなフットウェアも存在します。でも、それだと現代の舗装されたアスファルトの上や、石・岩がゴロゴロするトレイルの上を気兼ねなく駆けるのは難しいというランナーが一般的でしょう。足運びは裸足的でも、プロテクション性能は現代的な方がいい。
 
アルトラのトレイルランニングシューズ、中でもこと定番たる「ローンピーク」はまさにそれ。しっかり厚みのあるミッドソールに、よくグリップするアウトソールが備わり、実際にトレイルを走っても何ら不安なく快適です。でも、ベアフットランならではの足裏感覚は損なわないさじ加減が絶妙。さしずめ「裸足とシューズのいいところ取り」ができ、日米を問わずブランドナンバーワンの支持を得ています。

グレートヴィンテージがさらに履きやすく

アルトラの新作モデルを100マイルトレイルライターがレビューヒールカウンターの補強を薄めに仕上げるなど、「ローンピーク6」では軽量化が図られている

やや前置きが長くなりましたが、「ローンピーク」はアルトラ創業来、細かなアップデートを重ねながら10年超もカタログに載り続けている定番モデル。ロードランシューズや登山靴と違って、トレイルランでこうした定番的な存在となっているシューズは、実は他ブランドを含めても数えるほどしかありません。
 
それだけトレイルランシューズのトレンドや開発が日進月歩とも言えるのですが、裏を返せば「ローンピーク」がいかに完成度の高いバランスかということを物語ります。ベアフット系では間違いなくナンバーワン。
 
その上で、前作「ローンピーク5」は、多くのアルトラ愛用者が「過去最高」と認めた完成度でした。ミッドソールの素材を変更したことで反発性と耐久性が増し、アウトソールもより大地を噛むグリップパターンに微調整され、「気兼ねなく不整地を走れる」度合いが高まっていたのです。

アルトラの新作モデルを100マイルトレイルライターがレビュー登りパートで主に接地するつま先側は、後方へのスリップを防ぐラグ形状だ

トレイルランシューズはF1のマシンなどと一緒で、アッパー、ミッドソール、アウトソール各々が単体でスペックアップしただけではダメ。今まで200足以上のモデルをテストしてきた経験上、それを一足のシューズへと組み合わせたときのバランスが非常に大事だと感じています。いくら新素材や新技術を開発しても、実際にシューズとして完成品になってみないと性能や評価が定まりません。各社が新しいモデルをリリースし続け、結果定番モデルが少ないというのは、この辺りにも理由があるのかもしれません。
 
そんななか「ローンピーク5」は、グレートヴィンテージとも言える“当たり”モデルだったのですが、「ローンピーク6」が好もしいのは、その点を十分に踏まえて「敢えてのマイナーチェンジ」に留めているところです。

アルトラの新作モデルを100マイルトレイルライターがレビュー

早速いつものホームマウンテンを駆けてみるとアルトラらしさは全開。低重心のゼロドロップな走りが土の上でより気持ちよく、適度なクッションと滑りしらずなトラクションは健在です。堅く踏みしめられたパートだけでなく、日本特有のソフトな土の上でしっかりグリップしてくれ、5本の指で大地を踏みしめるかのような感覚は率直に心が躍るフィーリングでした。

増設された紐穴を使いこなしたい!


ではどこがマイナーチェンジされているかと言えば、ひとつはアッパーがさらに軽量化されているところ。300g(27.5㎝)まで軽くなり、走りだす前、履いた瞬間からも快適さを感じるほどです。

アルトラの新作モデルを100マイルトレイルライターがレビュー外側に一列飛び出したような位置に紐穴を増設。お好みで通しても通さなくてもいい

もう一つは、上の画像からわかるように、シューレースを通す穴が増設されている点。そんなところ?と思うかもしれませんが、これが冒頭の「履きやすくなった」というインプレッションに繋がった部分。
 
今までのアルトラのシューズは、トウシェイプの特性上、どちらかというと“幅広足”向きという印象でした。自分は平均的な足型のため、とくに下りパートでスピードを上げたときにこのゆとりが若干の不安定さに繋がっていました。でも、新たな紐穴の部分にまでシューレースを通すことで、よりフィット感をカスタムしやすくなっているのです。中足部をしっかり締めることでブレにくくなり、やや大き目のサンプルでもあまり不安を感じなかったほど。一方で足指をフリーに動かせる特徴は健在です。

アルトラの新作モデルを100マイルトレイルライターがレビュー

このアップデートは地味に大きく、上手に活用することでより万人向きへと進化した印象があります。初級者、上級者も問わないのではないでしょうか。十分なプロテクションを備えたベアフットラン系シューズで故障しにくいフォームを体感するのは、初級者にとってメリットのあること。長距離向きのスペックでもあるので、上級者は故障に繋がりやすい長時間のランでその恩恵を得られるはず。

足裏の感触センサーが働くので、石の上に足を置く、木の根に足を置くといった、ステップワークにもっと鋭敏になれます。上手くいくときがあれば、いかないときもあるかもしれません。まるでサーフィンとか、スキーのように。

だからこそ「ローンピーク6」ならトレイルを駆け抜ける動作自体の面白さが一段階増すのではないでしょうか。

〈ローンピーク6 商品ラインナップ〉

テクニカルなトレイルを攻略するならこのニューモデル!

アルトラの新作モデルを100マイルトレイルライターがレビュー「きっと定番&新定番になるはず!」アッパーデザインからしてスピード感を感じさせてくれる「モンブラン」

一方で、「ローンピーク6」のようなシューズは傾斜がキツかったり、ロッキーな岩場だったり、いわゆるテクニカルな路面を攻略するには履き手自身に一定以上のスキルが要求されるかもしれません。
 
その点を補うような位置づけと感じたのが、今季のニューモデルである「モンブラン」。メーカーによるとヨーロッパのマーケットからのリクエストを反映させて誕生したモデルとのことで、誤解を恐れずに言えば、よりテクニカルな路面を攻略するためのアルトラという位置づけです。

アルトラの新作モデルを100マイルトレイルライターがレビュー「きっと定番&新定番になるはず!」アウトソールを貼る面積を最小限に留め、軽量化を追求している

アウトソールはビブラム社のメガグリップ。トレイルラン専用に配合された粘り気のあるスティッキーなラバー素材で、「ローンピーク」よりも細かなラグパターンゆえ岩場の上でも制動性を発揮します。スピードを上げたいときには安心感があります。

アルトラの新作モデルを100マイルトレイルライターがレビュー「きっと定番&新定番になるはず!」右の「ローンピーク6」と比べると、紐穴1~2個分前から締められる

また、シューレースがかなり前方まで締められる点もスピードモデルたるゆえんでしょう。テクニカルな下りでは、シューズの中での足の遊びを無くし、狙ったステップを刻みやすくするためにも、シューレースはタイトに締めた方が絶対にいい。その点、この工夫は拍手モノだと思うのです。
 
ミッドソールにはEGO™ MAXという新しいフォーム材が採用されています。これはランニングシューズなどでもトレンドになっている高反発系の味付け。硬い路面で前への推進力に繋がるはずです。高反発系ソールのウィークポイントはブレやすくなることですが、それを見越して幅広の台形形状に。「ローンピーク6」と比してみればその違いは明白で、どっしりとした安定感があります。

アルトラの新作モデルを100マイルトレイルライターがレビュー「きっと定番&新定番になるはず!」左が「モンブラン」で、右が「ローンピーク6」。こうした裾広がり形状のソールユニットを採用するモデルが増えてきている

とはいえ、登山靴メーカーが手掛けるテクニカルな路面向けのトレイルランシューズと比べたらはるかに軽量です。シューズだけに頼ってガンガン下れるがっちり系のモデルではないかもしれませんが、履きこなせればガンガン下れるだけのポテンシャルを感じます。

〈モンブラン 商品ラインナップ〉

アルトラのラインアップの中でも理想的なツープラトンを形成する!?

アルトラの新作モデルを100マイルトレイルライターがレビュー「きっと定番&新定番になるはず!」

「モンブラン」も、全体的なプロポーションは、ベアフット系であるアルトラらしさをきっちり踏襲。ローンピークよりもテクニカルなコース向きで、このシューズで下りをガンガン攻められるようになったら、履き手自身のスキルもレベルアップしているはず。というかむしろ、レベルアップを促してくれるのではないでしょうか。こうして得たスキルは、ショートレンジでも、ロングレンジでも大いに役立つと思います。
 
テクニカルな路面を攻める足さばきに鋭敏になれるからこそ、「モンブラン」はレーシングシューズにいいかもしれません。まったくの初心者には薦めにくいですが、中級者以降にはこれまた「履きやすい」モデルと言えるでしょう。丁寧なステップでスピードに乗れるはずです。
 
トレイルランニングシューズは、コースの特徴や距離によって何足かを履き分けるのが一般的で、その方がより楽しく快適に山を遊べます。ロングディスタンス、テクニカルすぎないサーフェスをクルージングするのに向いている「ローンピーク6」と、ガレた岩場や斜度の強いコースでスピードを発揮する「モンブラン」。この2つのニューモデルの組み合わせは、偶然にも相当に理想的なコンビとなる気がしています。

(2022年3月9日 加筆修正)

アルトラの新作モデルを100マイルトレイルライターがレビュー

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〈ローンピーク6・モンブラン〉


登山にはこれ。完全防水の「ローンピーク」も新入荷

〈ローンピークオールウェザーミッド 商品ラインナップ〉

礒村 真介(いそむら しんすけ)

礒村 真介(いそむら しんすけ)

山道を走って、書く、自称「トレイルライター」。某モノ雑誌の編集者時代にギアの面白さからトレイルランニングにハマり、山の世界へ。仕事柄徹夜にはめっぽう強く、国内外の100マイルレースで入賞経験あり。東京のトレイル&ランニングショップRun Boys! Run Girls!が運営するクラブ「ランボーズ」ではコーチを務めている。各メディアでのテスト企画などを通じ、ここ10年で履いてきたトレイルランシューズは200足以上。ちなみにレースではスポルティバを愛用中。2022年は米国の草シリーズを転戦する野望アリ。

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