ファッションとアウトドアをシームレスにつなぐ、and wanderのこれまでとこれから

アウトドアウェアにファッションの視点を加えたプロダクトを送り出し、コアなファンの支持を集めてきた「and wander(アンドワンダー)」。2011年のブランド立ち上げのエピソードから、キーとなるアイテムのこと、アウトドアへの想い、そしてこれからの展望を伺いました。

ファッションとアウトドアをシームレスにつなぐ、and wanderのこれまでとこれから

— 本日はよろしくお願いします。まず、and wanderの成り立ちについて教えてください。

池内:「and wander(アンドワンダー)」は、ファッションデザイナーの池内啓太、森美穂子が立ち上げたブランドです。

ブランドを立ち上げる前は、ふたりともアウトドアが共通の趣味で一緒に遊んでいたのですが、いわゆるアウトドアウェアがどうしても感覚的に合わなかったんです。防水性や耐風性、速乾など、アウトドアでの機能に優れたウェアはたくさんあったのですが、いざ自分がそういう服を揃えようと思ったときに戸惑ってしまったんですよね。

その頃、デザインの仕事をしていた私たちの仲間や、同世代の東京で暮らしている比較的感度の高い人たちは、アウトドアウェアに対して同じような印象を抱いていたと思います。それを感じながら、「何か自分たちでも、山で着たいと思える服やモノを作れるのでは」と、思いはじめたんです。

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—立ち上げ当初はどのようにものづくりをしていたのでしょうか。

池内:勤めていた会社を退職したのが2009年の夏。その年はひとりで悶々と過ごしていて、2010年が本格的な準備の時間でしたね。この事務所は2013年からで、それまでは夜な夜な今はなき表参道のロイヤルホストで仕事をしていました。

森:展示会は間借りしていた友人の事務所、今でもアートディレクションをお願いしているデザイン会社の会場を借りて行っていました。

池内:前職で勤めていた会社は規模が大きかったため、仕事内容がしっかり分業されていたのですが、and wanderでは企画から製造、販売まで自分たちですべてやっていかなければなりません。しかも、最初の頃はどうやって売っていいかわかりませんでした。展示会をしてもバイヤーさんを知らないし、そもそも誰を呼んでいいかもわからなかったんです。なのでオフィスの一角にサンプルを並べて、繋がりのある知人たちをとにかく呼んで、見てもらっていました。ファーストシーズンはそんな感じでしたね。

森:お店には、池内くんが直接伺って売りに行ってましたね。

池内:まだ製品が少ししかなかったので、バックパックに入れて持っていって、レジの前に並べさせてもらうという感じでした。

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—今でも当時開発したモデルがラインナップしているんですよね。

森:もちろん素材がアップデートされていたり、パターンの見直しが入ったりしているのですが、原型となったものは今のラインナップの8割くらいはありますね。

池内: あの頃は、今と違ってゼロからのものづくりだったので、ふたりで延々と話して、試行錯誤していた記憶があります。何を作ってもいいという状況のなかで、何を作るか見極める段階でした。その段階でブランドで展開する基本的なラインナップは出来上がっていて、現行のアイテムの多くはそのときに生み出したものがベースになっています。

ベストセラーアイテム

「60/40クロスリブパンツ」

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創業初期から展開をしているロングセラー。日帰り登山や山小屋泊登山におすすめのハイキングパンツです。

綿とナイロンで作られた撥水性能を持つ生地、通称「ロクヨンクロス」をメイン素材に採用しています。伸縮性がないため通常はジャケットなどに用いられる素材ですが、アンドワンダーではあえてパンツに採用。代わりに股下のガゼット部分に大きくリブ生地を配することで、伸縮性と透湿性を持たせています。

ハイカットブーツとの相性がいい9分丈に仕上げており、「ロクヨンクロス」の独特の風合いを活かした、他ブランドにはないパンツに仕上がっています。

池内:基本的な考え方は変わりませんが、もちろん、製品を使い込んでいくうちに違うと感じたところは改良しています。商品たちは新陳代謝をしているというような感じですね。

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池内:「エックスパック 30L バックパック」は、ブランドを立ち上げたときのコンセプトのまま。もともとは「バックパックを下ろすのが大変」というところから開発がはじまりました。山行中にバックパックの荷物を取り出すのが煩わしいなと感じていたのがキッカケで、もう少し手元にバッグがほしいなと。ポケットに入っているのは携帯電話やカメラなどありましたけれど、それだけだとちょっと足りなくて。当時はまだサコッシュがなかったんですよね。

そこで、and wanderでどういうバックパックを作るか考えたときに、雨蓋を前に持ってきてチェストバッグにするというアイデアが浮かびました。雨蓋がチェストバッグになるバックパックというのは、割と早い段階から考えていました。

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森:ほかにも、比較的シンプルにしつつ、ファスナーを斜めにすることで荷物を取り出しやすくしています。蓋を開けずともバックパックの中身にアクセスできるので、街でも電車で中身を取り出しやすいんですよね。後から前にバッグを持ってくれば下から開ければ出せるので。こちらも基本は変わらずですが、素材もディテールもアップデートしています。

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池内:この30リットルはバックパックのなかでも人気で、日帰りの山だったらこのくらいがちょうどいい。肩で荷重を背負えるように作っているので、男性でも女性でもフィットします。素材自体は防水性もあるので山目線だけでなく、街目線でパソコンも入れることもできますし、幅広い層に支持していただいていると思います。

新たにラインナップした40リットルと45リットルは、山小屋泊の登山から、装備を軽量化したテント泊に使いやすいサイズ。ふたつは背面長サイズ違いで作られているので、40リットルは165cmくらいまでの身長の方、165cm以上の方には45リットルがおすすめです。

森:私たちデザイナーが親しんでいるアウトドアフィールドは、創業当初から今まであまり変わっていないんですよね。もし私たちの仲間に、海外のすごく高い山を目指すような登山家がいたら、そのための新しい製品が生まれているかもしれません。でも、私たちはずっと東京に暮らしていて、週末や長い休みにどこか出かけるようなことがずっと好きなんです。だから最初に作ったものが今使えなくなるかというと、そうではないんですよね。

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—それがand wanderのスタイルになっているのかもしれませんね。

池内:山で遊ぶためのウェアではあるのですが、やはり私たちはファッション業界出身なので、ファッションとしてのデザイン性、都会的な感覚も大切にしたいと思っています。もちろん自然と対峙するウェアなので機能面も優れている必要があります。そこを担保しながら、ファッションとしても成立させるというのは、自分たちが目指しているブランドの姿でもありますね。

森:and wanderのアイテムは、山のアイコンでフィールドへの対応性能を示しています。山をしっかり歩くことのできる山マーク3つのハイグレードのものから、山マーク2つのキャンプや山マーク1つのカジュアルなライフスタイルまであります。そのすべてをファッションとして楽しんでもらいたい。同じウェアで山と街をシームレスに繋いでいく感覚を、ブランドとして提案していきたいですね。私たちはウェアを通じて、アウトドアで遊ぶことの楽しさや、自然の素晴らしさを伝える後押しをしたいと思っています。

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—and wanderが考えるアウトドアウェアとは、どういうものなのでしょうか。

池内:いわゆる機能的なウェアやギアを身につけるのは、変身願望のようなものだと思っています。私たちにとって、アウトドアウェアはもっとマイルドに自然を楽しむことができるものですね。

森:古着屋さんで80年代、90年代のアウトドアウェアを見つけると、ただただ面白いと思う好奇心もあるんですよね。そこには、山専用や街専用というように山でしか着られない服よりも、ファッションの視点でのかっこよさを感じます。

池内:and wanderでも、他のアウトドアメーカーと同じようにフードがついている防水シェルを作っているのですが、考え方や立ち位置が少し違います。「スリーレイヤーULレインジャケット」はアンドワンダーの考えるUL(ウルトラライト)志向のレインジャケットです。ただ、結果的には『軽さ(=UL)』に特化するというよりは『快適性』を重要視してベンチレーションをつけたり、ハンドポケットをつけたりと、実用性も大切にしています。

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森:他のブランドはベンチレーションをなくして軽量化を図っていることもあるのですが、自分たちはその5gの軽量化よりもやっぱり日本の山で遊ぶなら脇下のベンチレーションは必要だよねと。ほかにもポケットもやっぱりあった方がいいねということもあります。テント場にいる時間も結構長いですし、ポケットは便利なんですよね。削ぎ落として作ると軽くはなるのですが、自分たちの遊びにちょうどいいところを考えるとベンチレーションやポケットは必要。軽量だけど高機能なジャケットになっています。

—実際に自分が山で使いやすいかどうかという目線ですね。

森:良くも悪くも、私たちはアスリートではないんです。週末登山、お散歩ハイキングなので、このくらいのものが使いやすいんです。山だけではなく、街での使いやすさもイメージしていますね。

and wanderの思想を体現する

「ハイブリッドベースレイヤーショートスリーブシャツ」

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街でも着用したくなるスタイリッシュなデザインでありながら、山でも使える機能性を兼ね備えたベースレイヤーです。

通常のTシャツやベースレイヤーは伸縮性に優れた編み生地(ニット)が使われるのに対して、この製品の前身頃には、シャツなどで使われる織り生地(布帛)を採用しています。織り生地(布帛)は、型崩れやシワが起きにくいというメリットがあり、よくあるアウトドアウェアのようにボディラインを拾わない、美しいボックスシルエットを実現しています。生地の風合いを含めて、アウトドアウェアの無骨な印象を覆す上品な印象を与えてくれるアイテムです。

さて、気になるのは肝心の山での機能性。後身頃には通気性・伸縮性に優れた、メッシュ構造の編み生地(ニット)を採用することで、脇や背中などの、大きな動きが伴い、汗をかきやすい部分の通気性や動きやすさを確保しています。生地の構造や裁断パターンに工夫が凝らされた、まさにアンドワンダーのデザインスピリッツを感じられる製品です。

合わせて履きたい新作パンツ

「ナイロンタフタハイカーパンツ」

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「ハイブリッドベースレイヤーショートスリーブシャツ」とコーディネートしやすいのがこの「ナイロンタフタハイカーパンツ」。採用されている生地は、薄手でありながら摩擦強度が高く丈夫で軽量な高密度のナイロン生地で、紫外線ブロック機能も備えています(UPF50+、紫外線遮蔽率:99.9%)。

深めに設計した股上のおかげでヒップやもも周りにゆとりをもたらし、足上げなどの動きにもストレスフリー。リラックスできる履き心地とすっきりとしたシルエットを両立しています。街着としても穿けるきれいで自然なラインのテーパードシルエットは、登山時の足さばきのよさにも貢献します。スマホポケットなど充実した収納も大きな魅力。

「ハイブリッドベースレイヤーショートスリーブシャツ」と「ナイロンタフタハイカーパンツ」の組み合わせはまさに、春先からの街と山をシームレスに歩けるコーディネートと言えます。

—どんな方にand wanderのアイテムを使ってほしいと思いますか?

森:ブランドの役割としては、初心者の方、これから登ってみたいなという人のためにあるのかなと思っています。ハイキングクラブというイベントをやっているのも、そういったお客さんにも使ってもらいたいという気持ちがあるから。

また、登山って、玄人になればなるほど機能が必要なくなってきます。一通り登山をやった人、頼らなくても自分たちの知恵で対処できる人たちにも着て欲しいですね。そうするとブランドが持っているウィットみたいなものに共感してもらえると思います。

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—最近はキャンプ向けの製品にも力を入れている印象です。

池内:そうですね。ラインナップは広がってきています。ですが実は、and wanderでは昔からキャンプを想定した製品を少しずつ企画していたんですよね。なぜなら、and wanderの考えるアウトドアやプロダクトには、少なからず「旅」の要素が含まれているから。

森:YAMAP STOREでも取扱のある「エックスパック ツールバッグ」は、もともとはテント用のペグなど、設営道具入れを作りたいと思って企画がスタートした製品なんです。軽くて丈夫なエックスパックの素材で制作し、中に入れる道具の量で大きさを可変できるようにコンプレッションベルトをつけました。ところが、あるスタッフがクライミングシューズを入れるのに使っていると聞いて。それならばとサイドグラブハンドルを付けたんですよ。

池内:さらに、中につけているメッシュポケットや大きく開口するジップデザインによって、旅行用のアメニティケースのようにも使えるなとアイデアが広がっていきまして。内側にフックをつけて、タオルフックなどにひっかけられる仕様を盛り込んだんですよね。ペグケース、シューズケース、トラベルポーチ、ボディバック、、、気付けば用途の幅が広がりすぎていたので、「ツールバック」という名前になったんです。

森:そんな経緯で、実はキャンプには以前から意識が向いていたのですが、我々の好きなキャンプというのは、「目的」としてのキャンプではなく、旅のなかの「手段」としてのキャンプ。例えば、北海道を一周するときに自然を満喫するためにキャンプしながら旅をする、というような感覚です。国内外を問わず、自然やその地域を感じるための旅のなかで「手段」として使いたいと思って企画されたプロダクトなんです。そのため、持ち運びやすさや使いやすさを重視して企画・開発を行っています。

ー 他ブランドとのコラボレーションが多いのも印象的ですが、精力的に取り組まれる理由はなんですか?

森:先ほどもお話しした通り、and wanderはアウトドア初心者の方やこれまで関心のなかった人たちがアウトドアに興味を持つきっかけづくりをしていきたいと考えています。ブランドコラボレーションは、色々な趣味や趣向を持つ人たちに、私たちのブランドを知ってもらえる機会になります。コラボレーションを通して、コラボ先のブランドの魅力をand wanderのお客さんに届けたいという思いもありますね。

ですが何より大切なのは、ファッションとアウトドアをシームレスにすること。アウトドアに興味ない人に、アウトドアを好きになってもらいたいという思いが一番かもしれません。

毎シーズン人気の定番コラボ

「サロモンXT-SLATEフォーアンドワンダー」

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YAMAP STOREでも定番で取り扱いのあるsalomon(サロモン)とのコラボレーションアイテム。salomonのコラボレーションは、and wanderがシーズンルックのスタイリングにサロモンのシューズを使っていたことがきっかけ。salomon本社から連絡があり、2018年から共同企画を開始して、2019年に初のコラボアイテムをリリース。salomonの機能とandwanderのデザイン性を掛け合わせた、ファッションとアウトドアを融合したシューズが毎年リリースされています。

「サロモンXT-SLATEフォーアンドワンダー」は、アッパーの素材とデザインを変更した特別なモデル。山の稜線をイメージしたグレーのラインをあしらった今年だけの特別なモデルです。

—ふたりにとって、アウトドアとは?

池内:アウトドアとは、心を豊かにしてくれるもの。僕は学生時代から旅が好きで、60Lのバックパックにいろいろ詰め込んで、バックパッカーの旅を1ヶ月くらいやっていたこともありました。いろんなことを見たり、触れたり、体感したりということがそのとき面白くて。

登山をするようになって、自然の遊びをするようになっても同じくらい楽しかったんですよね。旅は旅で人の営みに触れて楽しかったのですが、自然はより根源的。面白いというか豊かになります。

森:都会に息がつまってしまっても、自然に行くことで解放されることがあります。アウトドアは「自分には関係ない」「行くところではない」と思っている人にも知ってもらい、加わって欲しい。私たちは洋服をつくること、and wanderというブランドを通じて自然で過ごすことの魅力を伝えていきたいと思っています。

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森美穂子(もりみほこ) / 池内啓太(いけうちけいた)

森美穂子(もりみほこ) / 池内啓太(いけうちけいた)

森美穂子 デザインチームを経て2003年に独立。フリーランスのデザイナーとして活動した後2010年に池内啓太とand wanderを設立し共同デザイナーに。 池内啓太 メンズウェアや雑貨のデザイン、企画などを経て2009年に独立。2010年に森美穂子とand wanderを設立し共同デザイナーに。

    紹介したブランド

    • and wander

      and wander

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