神秘的なご来光を見に行こう!「朝駆け登山」に必要な山道具と注意点をチェック
“朝駆け”という言葉をご存知ですか?“夜討ち朝駆け”と言われるように、一般的には新聞記者が早朝や深夜に突撃取材を行うことを指します。じつは九州地方では、いつの頃からか山頂で朝日を拝む“ご来光登山”のことを“朝駆け”と呼ぶようになり、九州独自の登山用語として広がりつつあるのです。
朝駆け登山では、暗い森にこだまする動物の声が聞こえたり、日が昇る直前の空が真っ赤に焼けるマジックアワーに出会えたり、普段とは違った山を体感できます。特に夏場は涼しい時間帯に登ることができ、日中の登山より快適なことも。
しかし、暗い登山道を歩く際には注意点もたくさんあります。そこで、朝駆け登山をより安全で快適にしてくれるアイテムを、シーンごとに紹介していきましょう。冬が来る前に挑戦して、お正月の「初日の出登山」に備えるのもいいかもしれません。
①出発前:どんなに朝早い出発でも、朝ごはん抜きは絶対にNG!
朝駆け登山は出発前からしていつもと違います。まずは前日の就寝時間。日の出前から登り始めるので、逆算するとずいぶん早い時間に就寝することになります。深夜に起きて出発し、朝ごはんを食べようにも中途半端な時間帯で食欲が湧かず、結局何も口にしないまま登り始めてしまうことも。暗い登山道を歩く際はいつもより集中力が必要です。シャリバテを避けるためにも登山前のエネルギー補給は必須。しかし、日の出時刻が迫り気は焦るばかり。そんなときの朝食は、サッと効率よく栄養を取れる行動食で済ませ、山頂でゆっくりモーニングとしましょう。
片手でサクッとチャージできる行動食
日の出まで時間がない!先を急ぎたい!そんなときは、片手でサクッとエネルギーチャージできる行動食がおすすめです。
リポビタン for Sports(リポビタンフォースポーツ)/リポビタンゼリー for Sports
栄養ドリンクでおなじみ、リポビタンブランドのゼリータイプ。食欲がわかない時も、喉ごしのいいゼリータイプであれば無理なく口にできます。複数のエネルギー源成分を組み合わせることで、エネルギーが時間差で少しずつ消費され長持ちするのも登山に役立つポイント。キャップ付きなので、休憩ごとにちびちび飲むこともできて便利です。サコッシュやザックのサイドポケットに忍ばせて出発しましょう。
②登山口〜登山中:登る前から夜が明けるまで、ヘッドライトは必需品!
日の出前の駐車場は、車から出てドアを閉めた途端に真っ暗闇の世界です。車を降りる前にまずヘッドライトを装着しましょう。ヘッドライトは、すぐ取り出せる場所に入れておくと便利ですよ。心配なのは電池切れ。電池の予備や、モバイルバッテリーの準備はもちろんのこと、電池を替える際、真っ暗になることを想定して、予備のヘッドライトを持っておくとより安心です。
グループ登山の場合は、先頭を歩く人のザックに電池式ランタンを下げておくと、前方と後方で距離が離れた際、先頭の人の位置が分かりやすく、後に続く人が歩きやすくなります。休憩時にはライトを全て消して、本当の闇を体験してみてください。ライトの大切さを実感できることでしょう。
昼と夜では、慣れている道も様変わりするため、思わぬ場所で道を失うことも。地図でこまめに現在地確認をおこない、しっかりと休憩を取りながら登りましょう。レイヤリングの調整も面倒がらずに。汗を体に残してしまうと、山頂で日の出を待つ際、汗冷えしてしまいますよ。
朝駆け登山に最適なヘッドライト
朝駆け登山はヘッドライトがなければ始まりません。照射モードが切り替えられるモデルを選べば、まだ暗い歩き始めはスポット照射でより明るく遠くを照らし、空が白んでくる山頂手前ではワイド照射で広く明るく、というふうに使い分けができ便利です。
PETZL(ペツル)/スイフト RL
クライミング用品やヘッドライトで定評のある老舗ブランド「ペツル」の中でも、もっとも高出力で明るい光を出すことのできるヘッドライトです。一般的な登山用ヘッドライトは200〜300ルーメン(明るさを示す単位)のところ、このモデルはなんと最大900ルーメンと、どんな夜道でも安心の明るさです。明るさと光の形状は自動調節という高機能ながら、100gという軽さ。USB充電可能なバッテリーのため、スマホ用モバイルバッテリーでついでに充電することも可能です。
安心感を灯すランタン
ランタンがあれば、駐車場では車のエンジンを切って、ルームライトも消してゆっくり準備ができます。ヘッドライトの電池が切れてしまった場合も安心です。
CARRY THE SUN(キャリー・ザ・サン)/YAMAP限定ウォームライト ミディアム
今や、テント山行をする人のあいだでも定番となったキャリー・ザ・サン。折り紙のようにコンパクトにたたむことができ、太陽光で充電できるLEDランタンです。明るさは3段階調節ができ、電池残量メーター付きなので電池切れの不安もありません。暖色系の明かりが、暗闇でも安心感を与えてくれます。防災グッズとしても一家にひとつ持っておきたいアイテムです。
③山頂周辺:日の出待機中は、しっかりと防寒を!
山頂に到着する頃には、空が徐々に白んできて、今まで闇に隠れていた山の全貌が浮かび上がります。いよいよマジックアワーと呼ばれる空が焼ける瞬間の到来。
ドラマチックな景色を前にすると、つい写真撮影に夢中になってしまいがちですが、せっかくの日の出タイムも、寒さで凍えてしまえば台無しです。山頂に着いたらまず先に防寒対策をしましょう。それでも寒さが心配な時は、エマージェンシーシートがあると安心です。
防寒対策を済ませたら、暖かい飲み物を飲んで体の芯から温まりましょう。しかし、寒くて暗い中でお湯を沸かすのは意外と大変。保温ボトルにお湯を入れて持っていけば、すぐに飲めて暖をとることができます。準備が整えば、あとは日の出のショータイムを待つばかり。ご来光を待ちながら飲むコーヒーは格別です!
年中大活躍!化繊のインサレーション
朝駆け登山の山頂では、真夏でも肌寒いことがあるので、防寒着は必須。化繊の綿を使った防寒着は、濡れると保温性を失うダウンと違い、濡れてもある程度保温性を保つことができ、どんな天候時にも対応できる安心感があります。もし濡れてしまっても、体温で乾く程の速乾性を持ち、気を使わずに洗濯できるのもハードに使うアウトドアウェアでは重要なポイント。気温の読めない旅行時にも大活躍です。
patagonia(パタゴニア)/ナノ パフ ジャケット
ブロックを積み上げたような縫い目で中綿の偏りを防ぎ、裾のドローコードを絞ることでさらに保温性を確保。ポケット部分に小さく収納できるため、年中ザックに忍ばせておきたいジャケットです。中綿と表生地には、リサイクルポリエステルを100%使用。体にも自然にも優しいジャケットです。
これさえあれば安心、エマージェンシーシート
エマージェンシーシートは、ヘッドランプとともに日帰り登山でも常備しておきたい装備のひとつ。これさえあれば、思わぬ寒さや雨からも体を守ってくれることでしょう。もちろん、テント山行でシュラフカバーやグランドシートとしても使える万能アイテムです。
SOL(エスオーエル)/エスケープライトヴィヴィ
一般的なエマージェンシーシートとは違い、筒状になっているのでシュラフのように使うこともできれば、敷いたり掛けたり、シートとして使うこともできる汎用性の高さがポイント。山頂で寒ければ体に巻いてもいいし、パラっと雨が降ってきたら荷物に掛けたり、サッと被って雨を避けたりと、あえて使い方を決めずにいつでもどこでも取り出して使いこなしたい便利アイテムです。
朝駆け登山には欠かせないコーヒーグッズ
山で飲むコーヒーは特別に美味しいとはよく言いますが、朝駆け登山での1杯は、このために登ると言えるくらいまた格別です。日の出を待ちながら、日の出後にゆっくり朝食をとりながら、2杯は飲みたいところ!お気に入りのコーヒーグッズがあれば、山頂でのモーニングタイムをより楽しむことができます。
THERMOS(サーモス)/山専用ステンレスボトル/750ml
その名の通り、山で使うための細かい工夫が施された保温ボトルです。お湯を入れて6時間経っても78度をキープするという、日帰り登山に最適な保温力。これがあれば、山頂で凍えながらバーナーを操作してお湯が沸くのを待つ必要はありません。グローブをはめたままでも使いやすいように、飲み口の栓はシンプルなダブルスクリュータイプ。自宅でお湯を入れる際は、あらかじめボトル内をお湯で温めておくと保温性が格段にUPします。
GSI(ジーエスアイ)/ウルトラライトジャバドリップ/オレンジ
山用コーヒードリッパーの中でも、1,2を争う軽さとコンパクトさ。折りたたんでガスカートリッジの底やクッカーの中に収納できます。ペーパーレスなので、コーヒー本来の旨みを味わうことができ、毎回ゴミを出してしまうストレスもありません。
④下山中:気が緩みやすい下山時は、足元に要注意!
一夜明けると、緊張感漂う真っ暗闇の登山も、一気にいつもの登山に戻ります。鳥が目を覚まして一斉に鳴き出し、登ってくる登山者の姿も見え、新しい山の1日が始まります。しかし、明るくなる下山時はつい気が緩みがちに。ちょうど疲れも出てくる頃です。早朝の登山道は、雨が降っていなくても朝露で濡れていて滑りやすい場合もあります。足元に注意しながら慎重に下りましょう。ゲイターがあると足元の汚れを防ぐことができ便利です。
下山すると、まだまだ時間がたっぷりあることに気づき驚くことでしょう。早起きは三文も四文も徳なのです。どこでランチをしようか?どこに寄り道をして帰ろうか?とりあえず、まだ空いている温泉にでも入って、汗を流しながらゆっくり考えましょう。そうそう、あまり早く下山すると温泉がオープンしていないので要注意です。
朝駆け登山を安全に楽しむための注意点
いつもの登山とは違った魅力満載の朝駆け登山ですが、暗い登山道を歩く際は注意点もたくさんあります。以下のことに注意して安全に楽しみましょう。
・登ったことのある山に行く
暗い道では、普段は間違わないような場所で迷うことがあります。必ず一度は登ったことのある山を選びましょう。
・朝駆け登山の経験がある人と一緒に行く
経験者にアドバイスをもらいながら登りましょう。他の登山者がほとんどいない時間帯に歩くことになります。単独行はできれば避けましょう。
・地図の確認はいつもより入念に
暗い上に、日の出の時間を気にして先を急いでいると、思わぬ道に入り込むことも多々あります。地図での現在地確認をこまめにおこないましょう。
・寝不足、朝食抜きはNG
前日の夜に緊張のあまり寝付けなかったら、とりあえず登山口まで向かい現地で仮眠するのもあり。朝食をコンビニ頼みにしていると、登山口付近で見つからない場合もあります。必ず事前に準備しておきましょう。
・野生動物に注意する
夜の山では、夜行性の動物に遭遇することもあります。鈴やラジオで音を出しながら登り、熊の出没情報が多い山は避けましょう。
暗い道の登山に不安を感じるかもしれませんが、注意事項に留意して装備万端で臨めば、そこにはまだ見ぬ世界が待っています。
冬は日の出時刻が遅いため、ゆっくりと登ることができ、空気も澄んでいるので星が綺麗に見えます。夏は涼しい時間帯に登ることができ、寒さの心配も少ないため、日の出後も山頂でゆっくり過ごせます。季節を問わず楽しめるのも朝駆け登山の魅力です。
ぜひ、山仲間を誘って新しい山登りにチャレンジしてみてください。
この記事で紹介した商品・着用したウェア
米村 奈穂(よねむら なほ)
幼い頃より山岳部の顧問をしていた父親に連れられ山に入る。アウドドアーメーカー勤務や、九州・山口の山雑誌「季刊のぼろ」編集部を経てフリーに。九州の登山WEBサイト、山學舎などで活動中。