山てぬぐいに変革を起こした「チャオラス」|『伝統&革新』コンセプトの深部に迫る

山小屋に立ち寄れば、ほぼ必ず目にするお土産グッズ「てぬぐい」。古くは奈良時代から、長い歴史のなかで受け継がれてきた日本の伝統的なアイテムです。そんな愛され続ける「てぬぐい」の良さを受け継ぎながら、現代のニーズに合わせて進化させた「スポーツてぬぐい」を、皆さんはご存知でしょうか。

アクティブシーンでの使用に特化したサイズ、素材、デザインによって、多くのハイカーから注目を集める「CHAORAS®(チャオラス)」のスポーツてぬぐい。その開発秘話や、製品に込められた思いを、ブランドの代表をつとめる宮本 基広(みやもと もとひろ)さんに伺いました。

「chaoras(チャオラス)」の製品はこちら

スポーツてぬぐいができあがるまで

山てぬぐいに変革を起こした「チャオラス」|『伝統&革新』コンセプトの深部に迫る

ー 本日はよろしくお願いします。まずは、宮本さんが「スポーツてぬぐい」を企画することになったきっかけを教えていただけますか?

少し遠回りな話になるかもしれませんが、よろしくお願いします。

まず、僕は「CHAORAS®(チャオラス)」を始める前からてぬぐい屋さんでした。僕の実家が、木綿業を生業にしていたんですね。「てぬぐい」はもちろん、赤ちゃんが使う「おしめ」や、旅館などにあるような「ゆかた」に使われる木綿織物を製造をしていました。独立する前は、父の会社に就職して企画職を10年近くやっていたんです。

でも、木綿織物は、現代の暮らしのニーズに合わないものが多く、生産量がどんどん下がっているんです。おしめは紙オムツに取って変わられ、ゆかたを用意するような旅館も減る一方。唯一てぬぐいだけは、僕らの会社でも生産量を維持できていましたが、それでも業界全体でみれば縮小傾向であることは確実。

このままなにもせずにいたら業界は衰退してしまう、という不安や、なにか手を打たなくては、という焦りで、悶々とした日々を過ごしていましたね。

山てぬぐいに変革を起こした「チャオラス」|『伝統&革新』コンセプトの深部に迫るてぬぐい染色工場内部の様子

木綿業界って全然進化していなくて、他に比べれば生産量は多いてぬぐいも、江戸時代からずっとおんなじ形と素材なんですよ。時代に合わせて変化していないので、現代では「実用品」というより「伝統品・土産品」のような立ち位置になってますよね。だからこそ、てぬぐいに「実用品として」の新しい立ち位置をつくらないといけないとおもったんです。

『日本の伝統的なものづくりから生み出される製品の良いところを、新しいアイデアで現代にマッチさせ、次世代につなぐ。「Tradition(伝統) & Innovation(革新)」にチャレンジするブランドをつくりたい!』そんな思いから生まれたのが「CHAORAS®」であり、「完全日本生産のスポーツてぬぐい」だったんです。

ー なるほど。てぬぐい産業に関わる立場であったことがブランド発足の理由だったのですね。

そうですね。産業に長く携わり、その発展や衰退の歴史に触れてきたからこそ、日本で培われた伝統をまもりながら、そこに革新を加えて行く必要があると感じていました。それに、日本にはそれを形にできる情熱と知恵とアイデアを持つ人たちが沢山います。イノベーションを支える力が日本にはある。これが、日本製にこだわる本当の理由ですね。

てぬぐいに施した変革

ー では、「CHAORAS®」のてぬぐいにはどのようなイノベーションが施されているのでしょうか?

従来のてぬぐいは、綿100%のもの。ですが「CHAORAS®」のてぬぐいは、生地を独自に開発することにしたんです。これがひとつめの大きなイノベーション。タテ糸に従来と同じ綿100%、ヨコ糸には竹を原料としたレーヨン糸「バンブーレーヨン」を使って織りあげました。

レーヨンを取り入れた第一の理由は、吸水吸湿性の高さ。綿も吸水吸湿性に優れる素材ですが、レーヨンの吸水力は綿の1.2倍。大量に汗をかくアウトドアシーンにこの機能はとても魅力的です。もうひとつが、レーヨンが持つ独特の風合い。しなやかなドレープ感や若干のストレッチ性があり、頭や首に巻くときも、ゴワつきが少なくしっかりと結ぶことができます。

山てぬぐいに変革を起こした「チャオラス」|『伝統&革新』コンセプトの深部に迫る

ー すごく魅力的ですね。なぜこれまでのてぬぐいは新しい生地が採用されなかったのでしょうか?

てぬぐい用の共通規格の生地があるからです。そうすれば、どこのメーカーでも同じ生地が使えるから、在庫の融通が効きやすいんですね。新しい生地を独自に開発して作ってしまうと潰しが効かないし、仲間同士で融通し合えない。自分でその生地の消費ができないと、在庫を抱えるリスクを背負ってしまうんです。それがあだとなって、独自の生地開発がされてこなかった背景がありました。

ー そんな状況でもチャレンジすることにしたのは、可能性を感じていたからですか?

そうですね。コンパクトで、軽くて、速乾性があるっていう、てぬぐいがもつこの三大要素が役に立つ実用的なシーンって何だろうと思った時に、「アウトドアだ!」と思ったんです。

化学繊維の速乾タオルって、軽くて高機能だけど、肌触りはイマイチだし、デザインも素っ気ない。パイル地のタオルは、肌触りは良いけれど、かさばって荷物になるし、濡れたらなかなか乾かない。これらのタオルのちょうど中間を行く存在が「てぬぐい」なんじゃないかと思ったんです。

ならば、『より現代の様式に合わせたアウトドア向けのてぬぐいをつくろう!』と思って生地開発や、製品の仕様を決めていきました。

山てぬぐいに変革を起こした「チャオラス」|『伝統&革新』コンセプトの深部に迫る

ー 生地以外の部分でのイノベーションについても教えていただけますか。

仕様の部分でのイノベーションは大きくふたつで、「長さの改良」と「布端の始末」です。

まず「長さ」ですが、従来のてぬぐいは、幅35cmで長さ90cmと、これも共通企画があるんです。これも、デザインのプリントをする際に使う版の大きさを統一するためですが、僕たちは思い切って長さを110cmに伸ばすことにしました。こうすることで、首かけしやすい長さになっているんです。

山てぬぐいに変革を起こした「チャオラス」|『伝統&革新』コンセプトの深部に迫る左:一般的なてぬぐい、右:スポーツてぬぐい

素材の違いと長さの変更によって、ヘアバンドのように頭に巻くこともできます。プリントのデザインによっても雰囲気が変わるので、ファッションアイテムとしても使っていただけているようです。

山てぬぐいに変革を起こした「チャオラス」|『伝統&革新』コンセプトの深部に迫る

次が「布端の始末」。「スポーツてぬぐい」は布端をロックミシンで始末しています。実はこれも、昔ながらのてぬぐいは「切りっぱなし」と決まっていて。切りっぱなしにしておくことで乾きも早く、緊急時には裂いて紐にしたり、包帯にしたりすることができるんですね。

山てぬぐいに変革を起こした「チャオラス」|『伝統&革新』コンセプトの深部に迫る

なんですが、切りっぱなしにしておくと、端からほつれがでるんです。これはしばらく使うとほつれは止まり、安定するものではあるんですが、現代の見え方でいうとちょっとだらしなく、格好悪く見えたりもする。理由をしらなければ、「ほつれてるよ」と言われるかもしれません。

「CHAORAS®」のてぬぐいは、見た目も現代の感覚に合ったものにしたかったので、端布の始末をすることにしたんです。でも、生地を折り込んで始末をしてしまうと、その部分の厚みが増してしまうので、乾きにくく、硬くなってしまいます。それは避けたかったので、この縫製ができる工場を探しに探して、ようやくできる縫い子さんのいる工場を見つけられたのでお願いすることにしました。

山てぬぐいに変革を起こした「チャオラス」|『伝統&革新』コンセプトの深部に迫る

おかげさまで、「Tradition(伝統) & Innovation(革新)」を実現した、現代版の新しいてぬぐいを完成させることができましたね。

ー 改良にあたって、初めての取り組みということもありかなり苦労をされたのではないでしょうか。

そうですね。てぬぐいの製造はこれまで共通の企画を守ることで、機屋(生地)、染め工場(プリント)、整理工場(仕上げ)の分業体制がうまく回っていました。なので最初はすごく嫌がられました。

生地の原料が変わると、プリントに使う染料も工夫をしないとうまく染まりません。布端の始末もするので、これまでは工程になかった縫製工場を挟む必要もあります。「スポーツてぬぐい」は、全部で8回、10社もの会社が関わってやっと完成します。たくさんの職人さんの理解と協力があって完成する製品なんです。

山てぬぐいに変革を起こした「チャオラス」|『伝統&革新』コンセプトの深部に迫る23年10月末発売予定のYAMAPオリジナルてぬぐいの染色の様子

ー たくさんの人が関わって製品ができあがっているのですね。聞けば聞くほど「実用性」と「愛着」が感じられます。

ありがとうございます。こうして誕生した「スポーツてぬぐい」ですが、発売以降も日々革新を積み上げていっています。現在の「スポーツてぬぐい」は、綿×バンブーレーヨンの生地に、吸水・柔軟加工の「ab・soft®(アブソフト)」加工がほどこされています。

タオル類には「肌触り」と「吸水性」というふたつの機能が要求されますが、従来の柔軟剤を使って仕上げると、肌触りのよいものは吸水性が悪く、吸水性がよいものは肌触りが悪かったんです。

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そこで開発したのが、椿オイルを利用した独自の柔軟加工。これにより、「肌触り」と「吸水性」という相反する効果を両立した、新しい吸水柔軟加工が可能となっています。レーヨンの生地特性とも相まって、使い始めから肌に優しく、巻きやすい風合いになりました。

さらに、ヒバの成分を使った抗菌防臭加工も施されているので、細菌の繁殖も抑え、いつでも清潔に使うことができます。これらの構想が生まれてから、加工剤の選定から試験を 6、7回ぐらいやったかな。トライアンドエラーを繰り返して、この手法に辿り着きました。

ー ますますアップデートされていっているのですね。ところで、「CHAORAS®(チャオラス)」のてぬぐいはおしゃれなデザインが豊富ですが、どのように決めていっているのでしょうか?

山てぬぐいに変革を起こした「チャオラス」|『伝統&革新』コンセプトの深部に迫る

デザインは「CHAORAS®」発足前から親交のあったクリエイターが担当しています。でも、今のラインナップになるまでには紆余曲折がありましたね。

というのも、今ではハイクやトレランなどの目的を主として柄を提案していますが、僕自身がそういったアクティブなものではなくキャンプを趣味としていたこともあって、最初は「アウトドア」という大きな括りで目的を考えていたんですね。海もサイクリングもキャンプもふくめて全部「外遊び」、という感じで、その大きな括りの中で色々なデザインを考えていたんです。

でもあるとき、「ブナとミズナラ」というデザインのてぬぐいを出したら、登山をやっている人たちからものすごい反響をいただいたんです。そこで「あ、こういうデザインのものが欲しかったんだな」ということと、「アウトドアの中でも、登山やトレランのユーザーさんとの親和性が高いんだ」ということに気付いて。バンダナ柄やタイダイ柄は定番として展開していますが、モチーフデザインの方向性はそこから自然と決まっていき、今のかたちがあるような気がしています。

山てぬぐいに変革を起こした「チャオラス」|『伝統&革新』コンセプトの深部に迫る「CHAORAS®」一番人気のデザイン「ブナとミズナラ」

このようにハイク/トレランに軸足をおいて進めていくことを選んだおかげで、そこに関連する方に多く出会えるようになりました。そのおかげで、オリジナルデザインでのスポーツてぬぐいのご依頼もいただくことが多くなりましたし、ヤマップさんとのご縁にもつながっていっているのではないかと思います。


「伝統&革新」の先に描く未来

山てぬぐいに変革を起こした「チャオラス」|『伝統&革新』コンセプトの深部に迫る

ー 最後に、そんな宮本さんが考えられている今後の展望や未来についてお話を伺いたい​​です。

「CHAORAS®」は、「スポーツてぬぐい」を通してアウトドアユーザーの方々に興味を持っていただいているブランドだと思いますが、正直に言うと、僕自身はすごくアウトドアの経験がある人間ではないんですよね。これまでお話しした通りですが、どちらかといえばこのブランドも、産地、産業、ものづくりへの思いから始まっているんです。

なので、今後の展望も変わらず、「日本のものづくり産業に明るい未来をつくる」ということです。日本のものづくり産業って、ほとんどが分業制で成り立っているので、どこか一つ欠けると、もう産業として成立しなくなってしまうんです。さらに、分業制だからこそ、お客さんや使い手の顔って見えにくい。そんな産業が、さらに縮小しているって考えたら、仕事も楽しくなくなってしまいますよね。

やっぱり働く人たちが、実際の使い手さんまで繋がって、「自分たちの作ったものがこうやって使われてるんだ」 っていう喜びを感じてもらいたいと思うんです。そうでないと、楽しくないし、産業も発展しないんじゃないかと思っていて。

加えて僕自身は職人ではないので、じゃあなにができるかといえば、僕たちの産業が必要とされるシーンを作っていくことだと思うんです。 作り手にとって働きがいのある仕事を作っていくことが、僕たちの仕事じゃないかなと思っています。

守るべきトラディショナルなところは守っていきながら、使い手さんの新しいニーズに耳を傾けて、良いものを作って、それを届ける。これを地道に続けていきたいなと思っています。

ー「Tradition(伝統) & Innovation(革新)」という言葉の裏に込められた熱い想いをたくさん聞かせていただきました。本日は、ありがとうございました。

宮本 基広(みやもと もとひろ)

宮本 基広(みやもと もとひろ)

てぬぐい・ゆかたの産地である大阪府堺市生まれ。祖父が木綿業の創業者という環境で育ち、広告代理店の勤務を経て祖父の会社に入社。2014年に独立創業。日本の伝統的なものづくりから生み出されるモノのよさを新しいアイデアで現代にマッチさせ、次世代につなぐTradition & InnovationにチャレンジするブランドCHAORAS®(チャオラス)を展開。

    紹介したブランド

    • CHAORAS®

      CHAORAS®

      CHAORAS®(チャオラス)は日本の伝統的なものづくりから生み出され...

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