膝・足の痛み、その原因と対策は?|山のお悩み相談室 Vol.1

膝・足の痛み、その原因と対策は?|山のお悩み相談室 Vol.1

【今月のお悩み】

「長時間下りが続くと、膝が痛くなってきます。ストックを使うようにしていますが、他にも対策はありませんか?」

膝痛や靴擦れ、汗冷えや熱中症など、体の不調やお悩みは登山につきもの。まずは原因を知り、予防や対策を万全にしましょう。今回から始まった連載「山のお悩み相談室」。YAMAPユーザーから寄せられたさまざまなお悩みの相談に乗ってくださるのは、医師として北アルプス三俣山荘診療所で夏山診療にも従事する救急救命医の伊藤岳先生です。第一回目は膝痛など、足回りのトラブルのお悩みにお答えいただきました。

(監修:伊藤 岳、文:池田 菜津美)


【膝痛の原因】多くの人に当てはまる原因は「疲労」

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膝が痛くなる原因はいろいろありますが、多くの人に当てはまる原因は「疲労」です。筋肉や体が疲労したことで歩き方が単調になったり、膝関節への負担を配慮できなくなったりすることが膝の痛みにつながります。また、体の柔軟性が足りないと、同じ部位に負荷が集中しやすくなるため、どこかが痛みやすくなります。

同じ部位に負荷を集中させないという意味では、歩き方もポイントです。歩き方には人それぞれクセがあって、何も考えずに歩いていると同じ筋肉ばかりをつかいがちです。斜面に合わせて体の向きを変える無駄な動きを減らすといったことを意識して歩くとよいでしょう。

特に下りには要注意。登りや平坦な道とは異なり、傾斜と速度の影響を受けながら自分の体重と装備の重さを一歩ずつ膝で受け止めているからです。登りでは負荷を軽くするために、斜面に合わせて体の向きを変える人が多いですが、下りではまっすぐ進んでいく人が多いように感じます。早く下山したいという気持ちがそうさせるのかもしれませんが、下りこそ、段差や斜度に合わせて体の向きを変え、体にかかる負荷を抑えるようにすべきです。

【膝痛の予防法①】疲れにくい歩き方を意識することが大事

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いちばんの予防法は疲労を抑えること。先に挙げたように、意識的に疲れにくい歩き方をするというのは大変有効です。また、トレッキングポールを使うのもおすすめです。ただし、正しく使わないとただのおもりになってしまい、余計な負担になるだけでなく、つまずく原因にもなります。登り下りでポールの長さを調整する、ポールは足より前につくなど、正しく使って初めてバランスよく歩けたり、疲れにくくなったりします。トレッキングポールの力を充分に発揮させるためにも、講習会や動画などで正しい使い方を学んでみるのもいいかもしれません。

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【膝痛の予防法②】疲れにくい体や登山で膝痛を予防しよう

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長期的に見れば、疲れにくい体をつくるというのも予防法のひとつです。登山の筋肉は登山でつけるのがいちばんよいですが、日常生活にトレーニングを取り入れるなら、坂道や階段の上り下りをおすすめします。斜度や段差に合わせて、膝まわりや太もも、ふくらはぎなど、登山で使う筋肉のトレーニングになります。階段を使うときは一段飛ばしでゆっくり下りていくと、しっかり負荷がかかります。くれぐれも転落や転倒に気をつけて、手すりに手を添え、無理のない範囲で行ってください。

そもそも、登山の疲労は筋力不足によるとは限りません。心肺能力の不足はもちろんのこと、体調不良や当日の天候、行程の長さなど、さまざまなことに由来します。疲れにくい体づくりも重要ですが、体調管理や計画の立て方などにも留意しましょう。

【まだある足回りのお悩み】靴擦れは「靴+靴下+インソール」の組み合わせで予防を

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足回りのトラブルで、最も身近なものといえば靴擦れです。皮膚の圧迫や擦れが持続または反復することで痛みが生じ、ひどいときには大きな水疱ができることもあります。靴はたいていが既製品ですし、長く履くと足形に近づいていく革製品を除けば、万人の足にフィットすることはありません。つまりはシンデレラフィットでもない限り、靴を自分の足に合わせるために何らかの工夫が必要ということです。

膝・足の痛み、その原因と対策は?|山のお悩み相談室 Vol.1利用者が増えてきたインソール。足本来の機能を阻害しないものなど、さまざまなタイプが販売されている

まずは「靴+靴下」の組み合わせを試行錯誤してみましょう。その際、靴の中で足が遊ばない、とくにかかとまわりがほどよく埋まって固定されるのが、ベストフィットな靴下です。無論、靴の中がパンパンに埋まるような厚みはNGです。最近は部位によって厚みの違う靴下や、クッション性に優れた靴下など、さまざまなものが出ていますので、ベストフィットが見つかりやすいと思います。靴下でフィットさせるのが難しい場合は、インソールを加えて「靴+靴下+インソール」の組み合わせを考えてみましょう。

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新しい靴は履き慣らしが必要だと言われますが、先に挙げたように、靴下やインソールの組み合わせを含め、山へ行く前に使ってみることが重要です。また、平地を歩くだけでなく、アップダウンのある道も歩くこと。登りと下りで圧迫感や遊びの感覚は変わってきますので、必ず確かめておきましょう。こうして履き慣らしをしておけば、どうしても擦れやすい箇所にフィルム剤や絆創膏を貼って、予防策を練ることもできます。

膝・足の痛み、その原因と対策は?|山のお悩み相談室 Vol.1厚手の登山靴下の中に「もう一枚」履く「finetrack(ファイントラック) ドライレイヤーインナーソックス5本指レギュラー」。この一枚をプラスすることで足はサラサラでドライな状態を保てる

また、過度な蒸れや水濡れは、靴擦れを誘発することがあります。乾きやすい素材の靴下を使う、靴下をレイヤリングするなど、足先をドライに保つ工夫も重要でしょう。

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靴擦れで水疱ができてしまったときは、早めに絆創膏やテーピングテープで保護します。水疱のまま治したほうが、傷口の治癒が早く、雑菌が入る心配もありません。水疱が破れてしまったら、水疱上皮をハサミで切り取ったあと、絆創膏やフィルム剤で覆います。水疱が巨大化してしまい靴を履いたり歩いたりするのが辛いときは、水疱を破って同様の処置をします。

【今回のまとめ】疲労しないように心がけることは安全登山への第一歩

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膝痛の程度にも寄りますが、まずは歩き方の見直しから始めましょう。疲れにくい歩き方は膝痛だけでなく、つまずいて転ぶなど、ケガの予防にもなります。また、疲労しないように心がけることは無理のない行動計画にもつながり、引いては安全登山への第一歩となるはずです。

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〈SINANO(シナノ)/フォールダーTWIST125/ブラック

カーボン製のトレッキングポール。場面に合わせて長さ調整が可能。三分割に折りたためてコンパクトに。

〈BMZ(ビーエムゼット)/YAMAP別注 山を歩くインソール〉

土踏まずのアーチを支えながらも、足の指をしっかり使える構造。安定した歩行姿勢を保ちつつ、疲れの軽減にも。最初の一枚として揃えたい「ベーシック」、より重い荷物の長距離山行時におすすめの「カーボン」、登山に向けて脚を鍛えるためにスニーカーに入れて日常使いする「足トレ」、トレイルランニング専用の「走る」の4タイプがある。

〈YAMAP(ヤマップ)/トレイルソックス タビ 〉
踏ん張りの効く足袋型のYAMAPオリジナルソックス。足指の付け根部分とかかとにゴム糸を織り込むことで、足、靴下、シューズがフィットして、滑らない状態を作ることができます。

〈finetrack(ファイントラック)/ドライレイヤーインナーソックス5本指レギュラー〉

ドライレイヤーを足元にも。ベースレイヤーの靴下へ素早く汗を受け渡すため、蒸れにくく、冷えやべたつきを防いでくれる。

伊藤 岳(いとう たけし)

伊藤 岳(いとう たけし)

救急救命医 兵庫県立加古川医療センター 救急科部長 公益社団法人日本山岳ガイド協会 ファーストエイド委員 在学中に文部省登山研修所(現国立登山研修所)大学山岳部リーダー研修会三研修を修了。平成13年アイランドピーク登頂、平成21年神奈川大学山岳部チョモランマ遠征登山隊に医師として参加。平成22年より北アルプス三俣山荘診療所で夏山診療に従事。現在山岳ガイド協会では特別委員会コロナ対策プロジェクトチーム医療班メンバーを併任している。

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