復活したパタゴニアの名品|これからの時期に大注目の「DASパーカ」をひげ隊長がレビュー
2020年に復活リニューアルを遂げたパタゴニアの「DASパーカ(ダスパーカ)」。パタゴニアの中でも永遠の名品と評されるウェアがいよいよYAMAP STOREに入荷しました。
YAMAP専属ガイド「ひげ隊長」こと前田央輝さんは、自他共に認めるパタゴニアマニア。「DASパーカを語らせたら西日本で右に出る者はいない」と豪語し、数あるパタゴニア製品の中でもDASパーカにはひときわ思い入れがあるそうなのですが……。
ひげ隊長は、このDASパーカのどこに惹かれたのでしょうか。そして、復活リニューアル版の洗練された機能やスタイルをどう見ているのでしょうか。これからの季節に大注目の「DASパーカ」の魅力をひげ隊長が余すところなくご紹介します!
DASパーカとの出会いは大学生のとき。試着もできなかった悔しさが……
DASパーカを初めて購入したは2000年だったかな……。
僕が大学生だった1992年に登場した製品で、ずっと存在は知ってたんだよね。当時、パタゴニアの直営店は地方にはほとんどなくて。でも、兄貴のいた東京にときどき遊びに行ってたのよ。兄貴はアメカジとか、そういうおしゃれが好きだったから、裏原宿で有名だった「プロペラ」っていうお店に連れて行ってもらったりしてたんだけど、このお店がアメリカからパタゴニアの製品を直輸入している店で。大学生でお金がないから、Tシャツとか帽子とかだけ持ってて、フリースはギリギリ買えるかなって感じだった。でも、DASパーカはというと、5万円くらいなんだよね。全然手に届かない。せめて試着だけでも…と思ったのに、「若造にはまだ早い」って店長に断られちゃってね。悔しかったな。
とにかく、パタゴニアはアメカジの代表で、憧れのブランドだったんだ。
というのも、うちはおやじがめちゃくちゃアウトドアな人。中学生のとき、カリフォルニアのサンフランシスコへ1か月間、ホームステイに出されたことがあったのよ。本場を見て来いという、いわばアウトドアの英才教育。サンフランシスコからはヨセミテが近くて、キャンプをしたりトレッキングをしたり。本場のテントや道具を間近見たという経験が、西海岸のアウトドアカルチャーへの憧れの気持ちを育てたんだろうね。パタゴニアへの思いも、ここと通じてるんだと思う。
憧れのDASパーカを自分のショップで販売しようと奮闘
DASパーカへの思い入れがより強くなったのは、鹿児島で小さいアウトドアショップを始めてから。それまで屋久島でガイドの仕事をしていたんだけど、2000年、28才のときに店を開いたんだ。最初は鹿児島に移ってもガイドをしてたんだけど、屋久島と違って仕事が入るのは土日やゴールデンウィークだけ。平日は暇だったから、嫁さんと相談してアウトドアショップでも始めてみようかってことになったんだ。それでこの際、大好きなパタゴニアを中心に扱うショップにしちゃおうと。
でもね、そう簡単にはいかなくて。パタゴニアに連絡してみたら「最低でも3年、お店を続けられたら許可を出します」って言われちゃったの。電話一本で門前払いを食らいそうになったから、「今までパタゴニアを愛して購入してきたのに、取り扱いさせてくれないなんてどういうこと?」って詰め寄ったんだよね。当時の担当者とは今でも仲良しなんだけど、「『なんかヘンなのに脅されてるから、許可出させてください!』って、上司にお願いしましたよ」って、飲むたびに話題になる(笑)。
開店当時には間に合わなかったけれど、秋冬からパタゴニアを仕入れられるようになって。ショップのメイン商品として、早速DASパーカも入れたんだ。憧れのDASを紹介できるし、自分は仕入れ値で買えるしで、すごくうれしかった。
冬の看板商品としてしっかり売りたかったから大量に仕入れてた。実際、冬にはいちばん売れたし、ショップに大貢献してくれた商品だった。最高でワンシーズン、60〜70着くらいは出たかな。売り上げの4分の1くらいを占めてたから、娘はDASパーカに育てられたと言っていいくらい。間違いなく、修学旅行代はDASパーカでまかなってた(笑)。
でもさ、鹿児島ってDASパーカを売るには日本でいちばん不利な土地だよ。暖かいし、雪が降らないし。そんな中、DASを鹿児島県民に大いに普及させたという点においては、胸を張れると思う。
まさかの廃番…からの復活リニューアルに歓喜
DASパーカは何年かおきに買い換えてるんだけど、初代は真っ黒なやつで、2000年にショップをオープンするタイミングで購入したもの。今でも部屋にかかってて、普段使いにしてる。次は真っ赤なやつにしてみたんだけど、派手すぎてあまり着なかったから人に譲っちゃった。3着目は2012年に購入したもので、水色の表地とオレンジ色の裏地が目立つやつ。一時期、こういった裏表逆の配色って、めちゃくちゃ流行った組み合わせだよね。これはキャンプとかアウトドアのときによく着てる。
こうやって冬はいつだってDASパーカと付き合ってきたのに、DASパーカが廃番なっちゃったときは驚いたよね。2016年、今から5年前のことかな。以来、毎年ホームページで確認しながら、「やっぱり廃番なのかぁ…」って、がっかりしてたんだけど、去年の冬に復活が決まったと知ったときは本当にうれしかった。
リニューアルされたDASパーカは、以前のものに比べると少しすっきりした印象。DASパーカはいわゆるビレイパーカで、いろいろなものを着ている上に羽織るものなんだよね。だから、ゆったりめのサイズ感で、その野暮ったさが僕は好きだった。
今のすっきりしたシルエットは僕的には少し物足りないんだけど、ここにこそ4年間考え抜いた答えが詰まってるんだと思う。昔はフリースもダウンも、どのウエアも分厚かった。だから着込んじゃうとモコモコになっちゃう。だからDASパーカも大きくせざるを得なかったんだよね。ウェアそれぞれのストレッチ性も小さかったし、ゆとりが必要だったわけ。でも、今のウエアはどれも薄いし、よくストレッチする。だからDASパーカも大きくなくなったのよ。
DASパーカの暖かさにコンパクト性がプラスされた
僕はバイクも好きなんだけど、とにかくバイク乗りはDASパーカをよく使ってた。冬のバイクってすごく寒いんだけど、DASパーカの保温性は最高だったからね。まさにDASの頭文字「Dead Air Space(動かない空気の層)」が、自分の体が発した熱をとどめておいてくれるわけ。分厚くて、肘当てが2重で、頑丈だったのもよかった。だぶっとした無骨なかっこよさもバイク乗りに響いたんだろうね。僕は少し出かけるときは、DASパーカの下はTシャツ1枚のこともある。電車とかお店の中は暖かいから、DASを脱ぐだけでちょうどよくなるからね。
ひとつ弱点だったのが、ものすごくかさばること。全然小さくならない。当時はダウンが流行ってたから、ダウンと同レベルの暖かさを得るために化繊綿を大量に使ってたんだろうね。生地もしっかりしてたから、収納してもシュラフより大きかった。だから、じつのところ、山にはあまり持っていってなかった。でも今回のアップデートで、すごくコンパクトになった。化繊綿も表地も、技術が進化したんだね。同等の暖かさで、小さく軽くなってる。すごいことだよ。
しかも同じタイミングで登場した、弟分の「DASライトフーディ」なんか、化繊綿の量が半分なんでしょ? 昔は玄人好みのDASパーカ一択だったのが、初心者や低山ハイカーにも選択肢が広がって、言うことがないね。
復活リニューアルにはパタゴニアの本気が詰まっていた
パタゴニアでは、一度廃番になったものが復活するのはよくあること。でも、DASパーカはパタゴニア好きにとっての憧れの商品であり、高い保温性をもつ夢のような商品であり、特別な存在。だから、パタゴニアも復活させるにあたっては相当なプレッシャーがあったはず。実際、売れ筋商品だったものをいったん下げるわけだし、期待を裏切れないよね。これでコケたらダメージは大きい。4年間の進化は中途半端なものではダメなわけ。
復活させる方法は大きく分けて2通りあると思うんだけど、ひとつは見た目は昔のまま、今の技術を使って復活させる方法。車で言うと、フォードの「ブロンコ」が同じ方法で復活したよね。だれが見ても「ブロンコだ!」ってわかる状態でリニューアルしてる。もうひとつは見た目もガラッと変えてしまう方法。車で言うとランドローバーの「ディフェンダー」。昔は四角くてとがった感じだったけど、10年くらいぶりに復活して別人レベルに丸くなった。最新の見た目で少しだけモチーフを残した感じ。
DASパーカは後者の方法に近い。見た目を昔に寄せれば、ファンは必ずついてくる。たとえばロゴ。昔は刺繍だったけど、今はプリントになってる。プリントって安っぽく見えるけど、じつはこちらの方が機能的には上。刺繍は高級感があるけど、水が入ったり破けたりする可能性があるんだよね。シルエットの変化もそうだけど、昔の姿を捨てる、時代に合わせて形を変えるのって、すごく勇気のいること。今回のリニューアルを見て、4年間温めてきたパタゴニアの本気を感じたよ。
DASパーカはパタゴニアの四番バッター。冬の相棒として使い続けたい
じつはね、僕は小学2年生から大学2年生まで、生粋の野球少年だった。だから、「パタゴニアで野球チームを作るなら」って考えたりしてるの。ジャケットなら誰がクリーンナップかなとか、小物でナイン入りするのは誰かなとか。DASパーカはというと、パタゴニアジャケットナインの完璧な四番バッター。
四番バッターは「いちばん打てる人」「三冠王になる人」っていうイメージがあるかもしれないけど、それは三番バッターに多い特徴なんだよね。阪神のバースは三冠王にも輝いたけど三番。数回のタイトルしか取れなかった掛布が四番だった。四番は数字じゃなくて、ここぞという打ってほしいときに、必ず打ってくれる人。みんなの期待を背負って、それにしっかり答えられるというのが重要なの。DASパーカは今回のリニューアルでしっかり期待に答えてくれた、まぎれもない四番バッターだと思う。
今まで、DASパーカはアウトドアや日常でガシガシ使ってたんだけど、これからは山にもどんどん連れ行くと思う。リニューアルを経て、シルエットはちょっと僕好みじゃなくなっちゃったけど、それを差し引いてもコンパクトになるという利点があるからね。冬本番はDASパーカが大活躍すると思う。あの憧れのDASを山のお供にできる日が来るとは。これからも、冬の相棒はこれで決まりだね。
(写真:YAMAP 齋藤 光馬)
〈 DASパーカ / DASライトフーディ 〉
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前田 央輝(まえだ ひろあき)
1972年鹿児島生まれ。登山アプリを手がける「YAMAP」専属ガイド。お酒と自然と子どもをこよなく愛するフーテンのアウトドアガイド。23歳の時にユーコンの原野を1か月かけて旅し、「この自然の素晴らしさを子ども達にも伝えたい」と自然学校のひげ校長を志すことに。今も夢に向かって全国を駆け回り、自然の楽しみ方を絶賛普及中。アウトドアショップを経営していたこともありウェアやギアなどについても詳しい。 YAMAPの専属ガイド・ひげ隊長が送る、無骨で愉快なYAMAPのB面企画「ひげチャンネル」も更新中。 https://www.youtube.com/playlist?app=desktop&list=PL0yTTQICNPPu2FSh8HyEcf8yejBf63fZe