トレッキングポール専門ブランド・GRIPWELLが挑む、ユーザーに寄り添ったものづくり。

山歩きを支えてくれるトレッキングポール。アウトドアショップに行けば、さまざまなモデルが並んでいますが、目移りしてしまうことも多いでしょう。その中に、「日本人のために」開発・設計した専門ブランドがあります。それがGRIPWELL(グリップウェル)。厳選して仕入れたカーボン素材を贅沢に使用し、さらに日本人に合ったサイズ感、日本の山歩きをターゲットにした機能を備えたトレッキングポールは、長年にわたって支持を集めてきました。トレッキングポール一筋。そんなGRIPWELLを運営する有限会社ヤマプランニング代表取締役社長の山口大助さん、代表取締役会長の山口秀彦さん父子に、ブランドの歴史とこだわりを伺いました。
(インタビュアー:YAMAP 清水直人、記事/撮影:小林昂祐)

トレッキングポール専門ブランド・GRIPWELLが挑む、ユーザーに寄り添ったものづくり。

—すでにGRIPWELLのトレッキングポールはYAMAP STOREでお取り扱いさせていただいていますが、軽量かつシンプルな機能で使いやすいと評判です。トレッキングポールというとアウトドアメーカー各社から発売されていますが、GRIPWELLは専門メーカーですよね。まずはブランドの成り立ちからお聞かせいただけますか?

山口 秀彦さん(以下:秀彦さん):雪国生まれの私は、幼少期からスキーに親しみ、大学ではスキー部に所属していました。その経験と技術を買われ、国産スキー開発にテスターとして携わりました。その後、スキー用具販売の業界に入り、輸入品などを扱う商社に勤務しました。
さまざまな製品を扱うなかで、「自分ならこういう機能のものがほしい」「もっといいものを作りたい」という気持ちが高まり、長年培ってきたノウハウやビジネスの繋がりを活かして、ブランド「GRIPWELL」を立ち上げることになりました。

今はトレッキングポールのメーカーですが、最初のアイテムはスキー用のグローブ。発売と同時に、1999年に有限会社ヤマプランニングを立ち上げました。このグローブは、最高品質のレザーを使っていて、しっかりしたパッドが入っているのに握りやすいのが特徴。スキーやアウトドアのプロショップで扱ってもらい、ハイエンドユーザーから好評をいただきました。

トレッキングポール専門ブランド・GRIPWELLが挑む、ユーザーに寄り添ったものづくり。

秀彦さん:スキー用のグローブといえば、当時は海外メーカーのものばかり。外国人向けなので形状が平たく、強く握る必要がありました。そこで日本人向けに、「もっと楽に握れるもの」を作りたかったんです。カッティングや縫製にもこだわり、「使っているうちに馴染む」というより、「最初からフィットする」グローブに仕上がっていると思います。

2000年代前半まではこのグローブが主力商品だったのですが、スキー市場もかなり縮小してきていたことと、小さいメーカーなのでグローブのサイズやカラー展開も難しくなってきたこともあり、私たちのこだわりが存分に込められて、いいものづくりができる製品を考えたときに辿り着いたのがトレッキングポールでした。

トレッキングポール専門ブランド・GRIPWELLが挑む、ユーザーに寄り添ったものづくり。

—主力製品がグローブからスタートしてポールになったんですね。GRIPWELLというブランドの名前のとおり、「握る」製品ですね。

秀彦さん:実は、アウトドア用品大手の小売店からトレッキングポールの依頼があったんです。そのときはリクエストもありアルミ素材で作ったのですが、やはりGRIPWELLというブランドで出すなら、よりいいもの、最高のものを作ろうと開発に取り掛かりました。

山口 大助さん(以下:大助さん):発売当初から素材はカーボン。当時のもので1本あたり198g、今は166gまで軽量化しています。もともとシンプルな構造なので、なかなか削るのは難しいのですが、かなり頑張っています。

GRIPWELLのトレッキングポールは、ヨーロッパやアメリカのブランドと設計の考え方が違います。欧米の方は体力も筋力もあるので、重いポールでも大丈夫。ですが、体格に差がある日本人の場合は、軽くしないと使いにくくなってしまいます。そこでカーボン素材を検討しました。

カーボンは軽いだけでなく、丈夫で耐久性に優れるというメリットもあります。シャフトが軽く重量バランスが良いため、ポールを伸ばした状態で「振りやすい」のも大きな特徴です。ちなみに発売当初からの設計変更が少ないので、今でもほとんどのケースで修理やパーツ交換が可能です。10年以上前のモデルでの修理やメンテナンスをお受けすることもあります。

トレッキングポール専門ブランド・GRIPWELLが挑む、ユーザーに寄り添ったものづくり。

—日本人が使いやすいというのは大きなアドバンテージですね。GRIPWELLの製品はどのように広がっていったのでしょうか?

大助さん:グローブを製造していたときからの小売店さんとも長年の付き合いがありましたし、信頼もありました。なので、店頭で実際にお客さんに使ってもらい、よさを実感してもらっていましたね。とにかく触れてもらう。すごくアナログな伝え方ですが、そのおかげでじわじわと評価をいただくようになりました。

開発の際も、まず自分でプロトタイプを使ってみる。使ってみてどうか。いいところを残し、よくないところは改善しました。テストは山登りの現場で行う、フィールドテストがほとんど。日本人が使いやすい長さ、重さ、振りやすさや機能などを見極めました。やはり海外のブランドは長いものが多く、日本人にはオーバースペックになってしまいます。長さだけでなくグリップのサイズも握りやすく調整しています。

—自分が使っていいもの、というのがスタートなんですね。それをずっと継承していると。

大助さん:私は元々エンジニアでしたから、自分で考えて作ったものを自分で確かめるということは必ずやっていますね。いいものを作ればユーザーは認めてくれると信じています。

トレッキングポールはもちろん、アウトドア用品の多くは「機能」でアピールすることが多いのですよね。トレッキングポールで言えば、先端に金属のサスペンションや硬いゴムを使うことでアンチショックと呼ばれるショックを吸収する機能を持たせたものもあります。

GRIPWELLのトレッキングポールにはそのような機能はないのですが、それは本体のカーボンがショックを和らげる効果を持っているから。たしかにアンチショックがあればそれは謳い文句になりますが、私たちが不要だと思うものを採用したくはないんです。

さらにアンチショックがないことで軽量化にもつながりますし、シンプルな分故障の原因も減らすことができます。もちろん自分で使ってみて判断しています。

トレッキングポール専門ブランド・GRIPWELLが挑む、ユーザーに寄り添ったものづくり。

—謳い文句と実用性はまた別ですよね。さて、トレッキングポール「専門」メーカーというのも珍しいですよね。GRIPWELLとして、別の商品やカテゴリーに広げることはあるのでしょうか?

大助さん:考えてないことはないんです。ただブランドのキーワードとしては、「よりたくさん歩ける」「より楽しく歩ける」というようなものづくりですね。山を歩くための補助になるアイテムで、たとえばアイゼンや休憩に使えるポールのアタッチメントなども考えています。ただ、これらはまだアイデアの段階です。

—今、YAMAP STOREで取り扱いのあるアイテムについて教えてください。

トレッキングポール専門ブランド・GRIPWELLが挑む、ユーザーに寄り添ったものづくり。

大助さん:「ジェム・カーボン」ですが、ご覧のとおり、ビビッドなカラーとツートーンが特徴です。カラー展開とツートーンは、道具に個性を持たせたいと考え採用しました。トレッキングポールでは、シャフトに絵柄を入れることが多いのですが、細いシャフトではそもそも絵柄を見せられる面積が少ないため、「ジェム・カーボン」ではあえて絵柄を入れることはせず、カラーのみで勝負しました。

上と下でツートーンになっているのは、単色よりも上にいくにつれて色が明るくなることで浮上するイメージを与え、軽さを表現するためです。イエローのポールを50〜60代の男性が使ってくださっていたりと、幅広い世代から支持いただいています。

トレッキングポール専門ブランド・GRIPWELLが挑む、ユーザーに寄り添ったものづくり。

大助さん:鮮やかな色味のギアとのコーディネートにはもちろん、落ち着いた色味に取り入れても、ワンポイントでアクセントになってくれると思います。カーボンポールの場合、デザインの一つとしてカーボン素材を見せることが多いのですが、あえてそれはしていません。カーボンのトレッキングポールで塗装をしたものというのはなかなかないんですよね。

—カラーに目が行きがちですが、やはり素材としてカーボンのメリットは大きいんでしょうか。

大助さん:振動を和らげる、金属に比べて体積あたりの重量が軽いという点でカーボンが最適な素材だと考えています。いわゆるカーボン素材のシャフトは、基本的には編み込んだカーボン繊維を樹脂で固め、シャフト状に加工したものを使用しています。編み方や樹脂の配合で、シャフトのしなり具合や強度が変わってきますが、試行錯誤を重ねて今の製品に行きつきました。

トレッキングポール専門ブランド・GRIPWELLが挑む、ユーザーに寄り添ったものづくり。

—どんな悩みを持ったユーザーに使ってもらいたいと考えていますか?

大助さん:「ジェム・カーボン」はカーボン製ということもあり、荷物を軽くしたい方におすすめです。また、より長い距離を歩きたいという方にも最適だと思います。

トレッキングポールと聞くと、「歩く際に体重を預ける道具」というイメージをお持ちかと思いますが、自分のポテンシャルを引き出すものでもあるんです。たとえば、歩く姿勢を良くする、バランスを保つ、スピードをあげるというような「プラス」になること。もちろん膝が痛いというような消極的な理由で選ぶこともあると思いますが、使うことによる効果はもっと広いんですよね。

トレッキングポール専門ブランド・GRIPWELLが挑む、ユーザーに寄り添ったものづくり。

—やはりGRIPWELLというだけあり、握りやすさもポイントですね。

大助さん:日本人の手のサイズに合わせたグリップ形状になっています。他社ですと男性用、女性用と作り分けているメーカーもありますが、私たちはグリップ自体をあまり細くする必要はないと考えています。というのも、細くしすぎると握る力が必要になり、手が自然な状態ではなくなってしまいます。GRIPWELLのトレッキングポールのグリップは比較的しっかり目なので、力を入れなくても安定して握ることができると思います。この形状もこだわりのポイントですね。いい意味で意識せずに使えると思います。

—GRIPWELLのトレッキングポールは軽くて使いやすいことに加え、ユニークなカラーリングが好評です。貴重なお話、ありがとうございました。

ブランドページへ
山口 大助(ヤマグチ ダイスケ)/ 山口 秀彦(ヤマグチ ヒデヒコ)

山口 大助(ヤマグチ ダイスケ)/ 山口 秀彦(ヤマグチ ヒデヒコ)

山口大助 1979年生まれ。大学卒業後、産業機械メーカーに入社。印刷機械の設計、高精細印刷技術やタッチパネル製造技術の研究開発に携わる。2014年有限会社ヤマプランニング入社。2020年、同社の代表取締役社長。写真の趣味を活かし、販促用の写真を自ら撮影している。 山口秀彦 1945年生まれ。幼少期からスキーに親しみ、大学スキー部卒業後は国産スキー開発にテスターとして携わる。その後はスキー・アウトドア用品の輸入商社勤務などを経て1999年に有限会社ヤマプランニングを設立。2020年、同社の代表取締役会長。

    関連する記事

      関連する記事は見つかりませんでした