手元にも「レイヤリング」を!老舗メーカーと開発したYAMAP別注グローブ開発秘話

身体のなかでも冷えやすい末端部分を保温する「グローブ」は、秋冬シーズンの登山の必携品。しかし、「登山」におけるグローブの種類は実に豊富で、フィンガーレスデザイン、フリース素材、中綿入り、防水や防風の機能が備わったものなど、実にさまざま。ぱっと見ただけでは製品の利便性が理解できないことは多いでしょう。フィールドで試すことではじめて知る気付きも多く、自分の最適解にまだたどり着いていない…という方もいるのではないでしょうか。

そこでYAMAPは、「秋冬の山を楽しむハイカーは、これを持っていれば大丈夫!」と太鼓判を押せるグローブの開発に着手。長年山遊びをしているYAMAPのメンバーたちが導き出した答えは、ひとつのグローブではなく、機能の異なるふたつのグローブで実現させる「レイヤリングシステム」でした。

しかし、関節が多く細かな動きを行う手を包む「グローブ」の開発は、やはり一筋縄ではいかないもの。創業60年の老舗グローブメーカーのブランド「handson grip(ハンズオングリップ)」とタッグを組み、幾度のサンプル制作とフィールドテストを経て完成した「YAMAP別注 オープンミトングローブセット」。その開発秘話と込められた想い、こだわりに迫ります。

グローブの「レイヤリングシステム」、その理由とは?


「これさえあれば」を実現できるグローブとはどんなものか。YAMAPがそれを考え抜いてたどり着いた答えは、機能の異なるふたつのグローブで実現させる「レイヤリングシステム」でした。その理由は、無雪の秋〜有雪の冬までの活動をカバーする「温度調整」ができること、必須携行品であるスマートフォンの操作や繊細な手の「動きを妨げない」ことを考慮したから。

手元にも「レイヤリング」を!老舗メーカーと開発したYAMAP別注グローブ開発秘話

「YAMAP別注 オープンミトングローブセット」は、薄手の5本指「インナーグローブ」と、中綿入りのミトン型「アウターグローブ」、そしてアウターグローブの紛失を防ぐ「リーシュコード」の3点セットとなっています。組み合わせ使用だけでなく、単体使用も考えてつくられたそれぞれのアイテムの特徴を見ていきましょう。

①フィット感を重視したインナーグローブ

手元にも「レイヤリング」を!老舗メーカーと開発したYAMAP別注グローブ開発秘話

フィット感を重視したインナーグローブは、薄手でストレッチ性の優れたニットフリース素材「ポーラテック®︎パワードライグリッド」を採用しています。実はこちらは、「handson grip(ハンズオングリップ)」の「ホーボーグリッド」がアイデアソース。ハンズオングリップでも一番人気の製品である「ホーボー」の立体パターンを採用し、軽さやストレッチ性に優れた化繊素材に変更した「ホーボーグリッド」は、薄手で軽い付け心地ながら、冷たい空気から指先を守る適度な保温力があります。

手元にも「レイヤリング」を!老舗メーカーと開発したYAMAP別注グローブ開発秘話
手元にも「レイヤリング」を!老舗メーカーと開発したYAMAP別注グローブ開発秘話

手袋を着用するような寒さでも、スマートフォンの操作は今や必須。近年は指一本で完結するタッチ操作だけでなく、親指と人差し指を使用するスクロール操作や、ピンチイン/アウト操作なども多用され、より複雑な画面操作が必要になっています。そのような状況に応えるべく、親指と人差し指の先端がグローブから出せる仕様が採用されました。

手元にも「レイヤリング」を!老舗メーカーと開発したYAMAP別注グローブ開発秘話左:YAMAP別注インナーグローブ、右:ハンズオングリップのホーボーグリッド

YAMAP別注のこのインナーグローブでは、素材や指出しの仕様はそのままに、手首部分の長さを変更。さらに紛失防止のための、左右のグローブを繋いでおけるミニバックルを取り付けるアップデートを施しています。

②YAMAPオリジナルのアウターグローブ

アウターグローブは、YAMAPの要望をふんだんに盛り込んだ完全オリジナル仕様。指先を出すことのできるオープンミトン型を採用した、インサレーション(中綿入り)グローブです。手の甲部分には雨や雪を弾く防水ナイロン素材、手のひら部分には滑り止めと耐久性向上の役割を果たす人工皮革など、パーツ別に必要に応じた生地の切り替えを行っています。

中綿には、化繊綿「プリマロフト」を使用。ダウンと同レベルの軽量性や保温性を持ちながら、ダウンの弱点である「水濡れ」にも耐性があり、たとえ濡れてしまっても保温力が下がらないという次世代の中綿素材です。

インナーグローブとの組み合わせを想定した中綿量に調整されており、登山中のさまざまなシチュエーションにおいての操作性の高さと保温力のバランスがとれた程よい厚みとなっています。

グローブの手入れ口には風や雪の侵入を防ぐストレッチ素材のインナーカフが内蔵。インナーグローブ同様、左右を連結できるミニバックルも付けられています。

③リーシュコード

アウターグローブの手首部分、インナーカフの外側に付いた三角形のリングパーツは、付属の「リーシュコード」をつけるためのもの。手元の換気やサコッシュ内の小物を取り出す時など、一時的にアウターグローブを外すシーンは度々あるものですが、そんなとき、手首にリーシュコードをつけておけば、知らずのうちにグローブを落としたり失くしたりする心配は不要になります。
「リーシュコード」も単体で、他製品と組み合わせて使用することができます。

タッグを組んだのは、創業60年の老舗手袋メーカー

開発にあたりタッグを組んだのは、YAMAP STOREでも高い人気を誇るグローブブランド「handson grip(ハンズオングリップ)」。ハンズオングリップは、手袋の産地である香川県東かがわ市で創業60年以上の歴史をもつグローブメーカー「サングローブ」社のオリジナルブランドです。

「YAMAP別注 オープンミトングローブセット」の開発は、グローブを専門に培われてきた「サングローブ」の知識や技術、生産背景なしには達成できませんでした。素材選定、サンプル制作、フィールドテスト、改良の行程を一年以上かけて行い、完成したのがこの「YAMAP別注 オープンミトングローブセット」なのです。

「YAMAP別注 オープンミトングローブセット」の開発プロセスを深掘り

手元にも「レイヤリング」を!老舗メーカーと開発したYAMAP別注グローブ開発秘話

今回YAMAP STORE(以下:YS)では、香川県東かがわ市にある「サングローブ(以下:SG)」社を訪問し、製品開発に携わったメンバーに様々な角度から話を伺いました。開発秘話や、フィールドでの使い方、お手入れの方法などについて、さらに深掘りしていきたいと思います。

開発課題①手のサイズ

手元にも「レイヤリング」を!老舗メーカーと開発したYAMAP別注グローブ開発秘話

ー 「YAMAP別注 オープンミトングローブセット」はS・Lの2サイズ展開ですが、どのようにサイズ選びをすればよいでしょうか?

SG内海:ウェアもそうではありますが、手袋もブランドによってサイズ表記や規格の違いが大きく、選び方に戸惑う方もきっと多いですよね。実は日本では、「日本手袋工業組合」が定めたサイズ規格があり、ハンズオングリップのグローブもその規格に合わせてサイズを決定しています。とはいえ、その規格もだいぶ歴史の長いもので、日本人の骨格や手の大きさも年々変化しているので、サイズ選びは難しいですね。

YS乙部:足のサイズが身長に関わらず個人差があるように、手のサイズも個人差があります。細かくサイズ展開をすることも考えましたが、「YAMAP別注 オープンミトングローブセット」のインナーグローブの素材は非常にストレッチ性が高く、あらゆる手のサイズに対応できるため、ウィメンズサイズとメンズサイズの2サイズのみで展開することにしました。

SG河合:アウターグローブのミトンは初期サンプルから改良を重ね、少し大きめの作りになっています。

YS乙部:2サイズ展開とはいえ、ベースの寸法をどうするかは非常に悩みました。結果、ハンズオングリップの製品基準より少しだけ人差し指を長く設定しています。

開発課題②アウターグローブの改良

手元にも「レイヤリング」を!老舗メーカーと開発したYAMAP別注グローブ開発秘話左:初期サンプル、右:最終サンプル

ー インナーグローブとアウターグローブを組み合わせて提案する分、それぞれの相性やバランスも考慮されているのでしょうか。

YS乙部:初期サンプルから最終サンプルで大きく変化しているのは、全体の大きさと中綿の封入量ですね。最初に作っていただいたサンプルは中綿量が少なめで保温力が足りなかったのと、オープンミトン形状の開口部分が狭く、指先を出すためにめくると、その状態では手がうまく動かせなかったんです。

SG内海:自社ブランドの「ハンズオングリップ」でも、これまでこういった形のインサレーショングローブの開発をしてこなかったため、かなり試行錯誤しましたね。単純に中綿量を増やすだけではだめで、中綿が増えた分やそれ以外の改良点も考慮して、全体のパターンも調整が必要でした。

手元にも「レイヤリング」を!老舗メーカーと開発したYAMAP別注グローブ開発秘話左:最終サンプル、右:初期サンプル

SG河合:結果的に、初期サンプルでは約8gだった中綿の量を、約30gまで増やしました。数字で見るとそんなにたくさん入っているようには感じないかもしれないですが、初期サンプルと最終サンプルを並べて比較すると、その差は大きいですね。

YS乙部:手のひら部分の人工皮革の生地も、親指の関節とそれ以外の指の付け根部分に切り込みをいれてもらい、ボリュームのあるアウターグローブでも手の動きにしっかりと追従してくれるようにアップデートしました。

手元にも「レイヤリング」を!老舗メーカーと開発したYAMAP別注グローブ開発秘話左:最終サンプル、右:初期サンプル

YS乙部:初期サンプルではインナーカフもついていなかったのですが、雪山でのフィールドテストの結果、やっぱりあったほうがいいなという結論に至って。リーシュコードも「いる」「いらない」はかなり迷ったのですが、サンプルテストの渦中で必要性を強く感じたので製品では3点セットで提案することにしたんです。

手元にも「レイヤリング」を!老舗メーカーと開発したYAMAP別注グローブ開発秘話リーシュコードを用いることで、グローブの紛失や落下を防ぐことができます

開発課題③生産地

手元にも「レイヤリング」を!老舗メーカーと開発したYAMAP別注グローブ開発秘話

ー「ハンズオングリップ」の製品は基本的にMADE IN JAPANだと思いますが、今回の別注商品は中国生産にされたと伺いました。

YS乙部:こちらもすごく悩んだポイントでしたが、セットグローブの企画を日本で生産するとかなり高価格になってしまうんです。ユーザーさんたちにこのグローブのよさを広く知っていただきたいという思いをサングローブさんに伝え、今回は中国生産を選びました。

SG内海:手袋は衣料品の中でもかなり小さく、縫製にはピンセットを用いるほど細かく繊細な作業と技術が必要とされるんです。僕たちは本社に生産体制をもっているため、MADE IN JAPANグローブの生産も可能ではありますが、中国にも30年以上のお付き合いのある工場があるんです。長年、ほぼ僕たちの仕事だけを受けてくれている工場さんなので、品質はサングローブの国内生産と同じ基準であることが保証できます。

SG河合:また私たちは中国生産であっても、開発と最終検品は必ず自社工場で行っています。生産体制があるため、リペアもここでできるんです。生産体制のグローバル化が進み、日本でこの体制を持っているグローブメーカーもほんの一握りになってしまいました。

YS乙部:サングローブさんがこれまでに培ってこられた生産体制や国内・外に囚われない品質基準は非常に稀有なものです。この企画が完成するために、サングローブさんの存在は不可欠でした。

「YAMAP別注 オープンミトングローブセット」のお手入れ・メンテナンス

手元にも「レイヤリング」を!老舗メーカーと開発したYAMAP別注グローブ開発秘話

ーYAMAP STOREでは、『購入した山道具を、できるだけ長く、愛着を持って使っていただきたい」と考えています。そのうえでメンテナンスは重要なポイントですが、「YAMAP別注 オープンミトングローブセット」ではどのようなお手入れ方法を推奨されますか?

SG内海:これはどのグローブにも言えることですが、夏場の車内など高温多湿の環境や汚れたままの状態での放置は急激な劣化を起こす理由になるので避けていただきたいです。ひとつの手袋を長く使うためには、使った後は毎回、水での単体手洗いをおすすめしています。汚れの度合いや使用頻度など、必要に応じて中性洗剤を使った浸け洗いも行ってあげるとより清潔さを保てます。

YS乙部:手のひらも、足の裏とおなじで、個人差はあれどたくさん汗をかきますよね。寒い冬場は鼻水を拭ったりすることもあります。できるだけ放置せず、使ったら洗う、の習慣が大切ということですね。洗濯機に入れて洗ってしまうのはNGでしょうか?

SG内海:インナーグローブはベースレイヤーなどにも使われる素材のため、洗濯機で洗っていただいても大丈夫かと思います。ただ、生地は非常に薄いので、他の洗い物との相性次第では、摩擦によるスレや穴あきが発生する可能性はあるため、ネットに入れていただくのが良いと思います。アウターグローブは手のひらに人工皮革素材を使っています。水洗いしていただくのは問題ないですが、色落ちや色移りのリスクがあるため、アウターグローブは単体手洗いを推奨します。干す際は、できるだけ直射日光をさけ、陰干しでしっかり乾かしてあげてください。

SG河合:洗濯のシーンだけでなく、アウトドアフィールドで使っていれば、小さい傷や穴ができてしまうことはあると思います。そういった状態はできるだけ放置せず、ご自宅でできる範囲でもかまわないので細かく修理をしてください。傷が大きくなっちゃうと、もう直せない、ということもあるので。

YS乙部:修理の可不可は確認が必要ですが、サングローブさんでは有償修理を承っていますよね。もし使用を重ねてほつれや穴が開いてしまった場合は、YAMAP STOREのカスタマーサポートにご相談ください。

日本の手袋製造技術とYAMAPのアイデアが融合した、特別なグローブセット

創業60年の老舗グローブメーカーの技術とYAMAPがフィールドでの体験を通して得たアイデアが融合し誕生した「YAMAP別注 オープンミトングローブセット」。製品に込められた想いやこだわりについてお届けしました。

その寒さから、山への足も遠のきがちなこれからの季節。しかし、寒さを賢く攻略すれば、澄んだ空気や景色を存分に感じられる秋冬の季節は、最高の登山シーズンになります。YAMAPとハンズオングリップがお届けする「YAMAP別注 オープンミトングローブセット」が、みなさんの山遊びを支える大切な山道具になってくれることを願っています。

内海 祐作(うつみ ゆうさく)、河合 輝(かわい あきら)

内海 祐作(うつみ ゆうさく)、河合 輝(かわい あきら)

内海 祐作(うつみ ゆうさく) 1987年香川県出身。2010年にサングローブに入社。祖父が立ち上げた会社で、現在は兄の紘作と兄弟で会社の運営を担っている。手袋という特殊な製品を製造する難しさと奥深さに魅せられ、その魅力をもっと発信していくため現在は兄弟共に営業として活動。2020年にUNWASTEDというセレクトショップ兼handson gripの直営店を香川に展開。 河合 輝(かわい あきら) 1980年岡山県出身。香川大学卒業後、香川県で手袋製造業に従事。2008年にサングローブに入社し、現在では全国的にも数少ない1から手袋のパターン設計や構造を組み立てられる人材として、開発部部長を担う。自身もアウトドアが趣味で、その知識を企画開発に生かし日々新たな製品を生み出している。

    紹介したブランド

    • handson grip

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