夏の縦走用インサレーションの選び方|違いを知って賢くチョイス!
街では夏に使う機会が少なくても、夏の縦走登山では、気温低下に備えた保温着の用意が欠かせません。さまざまな素材や種類が揃うインサレーションウェアのなかから、どんなものを選べばいいのか、アイテムの特徴やシーンに合わせた選び方と、おすすめのアイテムを紹介します。
夏山にふさわしい保温着選びのポイントとは?

普段の生活で日々暑さを感じていると、山の上がどれほど寒くなるのかは、イメージがしづらいものです。しかし、標高が100m上がると気温は0.65度下がることから、2000m級以上の山では、8月でも最低気温が10℃を下回ることがあります。昼間は過ごしやすくても、夜間や早朝の冷えこみは東京の真冬並み。夜間はもちろん、早朝からの行動や強風などに備えて、しっかりとした防寒対策が必要です。
保温着といえば、ダウンやフリースが定番ですが、ここ数年の間にさまざまな新しいアイテムが登場し、選択肢が大幅に増えました。機能を十分に生かして快適に使えるよう、基準となる要素をチェックしておきましょう。
◆ 使用シーン
同じ日、同じ山に登るのでも、使用シーンでふさわしい保温着は異なります。まずは、着用するのが「行動中」か「停滞中」かを、分けて考えなければなりません。
体温の下がる停滞中に使うことを目的にしたものは、着たまま行動すると汗や熱のストレスが生じます。逆に、着たまま動くことを前提にしたものは、停滞時に体温が下がると、保温力不足となってしまいます。
◆ 保温性
保温着の最大の目的は、気温や標高、使用シーンに適切な保温力を確保すること。夏山で冬と同じ保温着を使うことは可能ですが、多くの場合、保温力とコンパクト性は反比例するので、余計な荷物を増やさないためにも、過不足ない保温力を見極める必要があります。単体だけでなく、複数のアイテムを組み合わせたレイヤリング全体の保温力で考えましょう。
◆ コンパクト性
夏の保温着は使わない時間も長いため、軽くコンパクトに持ち運べることも重要。荷物の多いテント泊や、スピード感が重視されるファストパッキングならなおさらです。
ポケットに収納できるパッカブル仕様のものや、収納袋が付属するものもありますが、よりコンパクトにできる圧縮タイプのスタッフバッグに変えたり、平らな状態で荷物の隙間やバックパックの底に滑り込ませたり、デッドスペースをうまく活用する工夫をしてみるのもいいでしょう。
◆ 着心地や扱いやすさ
動きやすさや伸縮性、肌触りなどの着心地も、ウェア選びの重要な要素。夏山だけで使うのか、もう少し幅広い季節やシーンで使うのかで、汎用性やレイヤリングのしやすさの重要度も変わります。使用頻度や環境によっては、メンテナンスのしやすさや、摩擦などのストレスに対する耐久性などを考えることも必要。それぞれの要素に優先順位をつけて考えることが必要です。
夏山で使えるインサレーションウェア、アイテム別の特徴をチェック!
ここからは具体的に、夏の高山で使える保温着の種類と、おすすめのアイテムを紹介していきます。注目は、従来の保温着にとって代わる、新しいスタイルのインサレーションウェア。それぞれのメリット、デメリットにも注目です。
◆ 大定番の実力は夏も健在「コンパクトダウン」
【こんな人におすすめ】寒さが苦手! 小屋やテントで暖かく過ごせることを優先するなら

中綿にダウンを使用した、インサレーションウェアの大定番。軽さや重量あたりの保温力、圧縮率が高くコンパクトに収納できることなどが特徴です。ただし、汗や湿気で一気に保温力を失い、一度濡れると回復しにくいので、あまり動かない状況で使うことが前提。行動中や水濡れのリスクがある環境で使うなら、表地や羽毛自体に撥水加工を施したものを選び、持ち運び時も防水を意識しましょう。
夏山用の特徴は、軽量コンパクト性のためにポケットやパーツ類が省略されていること。日常生活用の安価なものもありますが、羽毛の質で保温力が大きく変わるので、アウトドアブランドが登山用に作ったものを選ぶのが安心です。
コンパクトダウン
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保温性 ★★★★★
停滞時の活用 ★★★★★
行動中の活用 ★
〇 軽量コンパクトで保温性が高い、着心地がいい、見た目で保温力がイメージしやすい
× 濡れに弱い、価格が高い(価格が品質に比例する)
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Teton Bros.(ティートンブロス)/ルフトジャケット


800フィルパワーの撥水グースダウンを65g使用した、高品質ダウンインサレーション。ウエスト部分にファスナーのないプルオーバースタイルは、ゴワ付きのないソフトな着心地。ゆとりのあるシルエットでレイヤリングしやすく、胸ポケットに本体を収納して軽量でコンパクトに持ち運ぶことが可能。夏のテントや山小屋での保温着として、安心感のある一着です。
◆ ダウンに代わり次世代を担う「化繊インサレーション」
【こんな人におすすめ】1枚でいろいろ使えて、丈夫で扱いやすいものが欲しいなら

羽毛の弱点を克服すべく開発された、化繊の中綿を使用したもの。当初は軽量性やコンパクト性でダウンに及びませんでしたが、最近ではほぼ変わらないところまで進化しています。濡れても保温力が落ちにくく乾きも早いので、行動中の使用も可能。ダウンのような羽抜けがなくメンテナンスも簡単で、シーズンを問わず、行動中も気軽に使うことができます。停滞時の保温を重視したもの、行動中に着られることを重視したものなど、特長が異なる製品が混在するカテゴリーなので、よくチェックして選びましょう。
化繊インサレーション
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保温性 ★★★★
停滞時の活用 ★★★★
行動中の活用 ★★★
〇 濡れに強い 扱いやすくお手入れも簡単 行動中も使えて汎用性が高い
× 保温力や軽量コンパクト性、ふわりとした着心地はわずかにダウンに及ばず
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finetrack(ファイントラック)/YAMAP別注 ポリゴンライトジャケット


極細のポリエステル繊維をシート状に立体成型した、特殊な保温材を使用。日の出前の出発時や風の吹く稜線など、夏の高山で活躍する、ほどよい保温性を発揮します。広めのクルーネックは、フーディやスタンドカラーなどに重ねてももたつかず、内外どちらにもレイヤリングが可能。ネックゲイターなどを合わせて保温性を上げることもできます。山にも街にも似合うルックスで、1年中どこででも使える汎用性の高さも見逃せません。
patagonia(パタゴニア)/マイクロパフフーディ


化繊インサレーションの草分けともいえるパタゴニアが、ブランド史上最高値の重量に対しての保温性と、化繊インサレーションでもっともすぐれたコンパクト性を実現した一着。縫い目を極力減らしながら中綿のよれや偏りを抑え、熱を効率的に循環するイレギュラーなキルティングステッチを採用。リサイクルした漁網を使用するなど、環境にも人にも優しい仕様。低温時に頼れるパフォーマンスモデルです。
◆ 安心感と着心地の大定番「フリース」
【こんな人におすすめ】気負わず使えて着心地のいいものが欲しいなら

一般的に、化学繊維を起毛した保温素材やウェアの総称として使われるフリース。中綿がないので「インサレーション」ではありませんが、ダウンと並ぶ保温着として、実にさまざまな種類があるのが特徴です。
なかでも、表面がフラットな毛足に覆われたベーシックなタイプが、スタンダードフリースと呼ばれるもの。夏の登山で使われる、短い毛足の薄手タイプは、ソフトで動きやすく、肌触りがよくて着心地がいいのが特徴ですが、厚さと保温力が比例するため、保温力を高めようとすると、思いのほか重量やかさが大きくなります。
また、毛足が水分を含むので意外と乾きにくいこと、汗抜けが悪くムレやすいこと、防風性がないので風が吹くと保温力が期待できないことなども、フリースの弱点。夜間の保温や、負荷の大きくない行動中メインなら、手軽で使いやすいタイプといえるでしょう。
スタンダードフリース
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保温性 ★★★
停滞時の活用 ★★★
行動中の活用 ★★
〇 柔らかく着心地がいい 見た目から保温力がイメージしやすい
× 保温力のわりにかさが高い 防風性がない 汗をかくとムレがちで濡れると乾きにくい
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RIDGE MOUNTAIN GEAR(リッジマウンテンギア)/フリースレイジージャケット
ソフトタッチな外見は、まるでバニラアイスクリームのような滑らかさ。防風性、撥水性もそなえ、体内からの熱気や蒸気を分散させて逃がしてくれます。
山小屋での保温着兼リラックスウェアとして選ぶなら、これ以上ない選択肢です。
フリースのデメリットを解消するため開発されたのが、素材の構成により通気性を高めたグリッドタイプなどと呼ばれるもの。肌にあたる面に空気を通す溝を作ることで、通気性を高めムレを解消する工夫が施されています。スタンダードなフリースと比べて保温性は低いため、おもに行動着として使われます。
グリッドタイプフリース
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保温性 ★
停滞時の活用 ★
行動中の活用 ★★★
〇 柔らかく着心地がいい 見た目から保温力がイメージしやすい
× 保温力のわりにかさが高い 防風性がない 濡れると乾きにくい
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YAMAP別注 ポーラテックハイロフトグリッドジャケット・クルー
防寒着であるフリースジャケットに「通気」という機能を持たせた、行動中に着続けられるフリース。毛足の長いフリースをメッシュ生地のようにグリッド状に配置することで、保温力を持たせながら通気性も確保しています。シェルジャケットと組み合わせて防寒姓をあげたり、行動中のアレンジのしやすさが特徴です。
◆ 素材革命が生んだ新カテゴリー「中綿のないアクティブインサレーション」
【こんな人におすすめ】アクティブシーンの不満を解消するコアな1着が欲しいなら

もうひとつ触れておきたいのが、「アクティブインサレーション」ということば。「動的保温着」という意味を持ち、行動中の使用に特化した保温着をこう呼びます。
ここまで紹介してきた、ダウン、化繊インサレーション、フリースの3つは「素材」の分類ですが、「アクティブインサレーション」は「目的」に関する分類なので、素材もタイプもいろいろ。
例えば、先にご紹介した化繊インサレーションのうち、表地や中綿の素材に通気性の高いものを使用したタイプや、グリッドフリースなども「行動保温着=アクティブインサレーション」に分類されます。
そして、ここ数年でとくに存在感を増してきたのが、「中綿のないアクティブインサレーション」です。
そもそも「中綿入りの」という意味をもつ「インサレーション」という名が、中綿のないタイプに使われるのは少し不思議に思えますが、きっかけは、「オクタ」や「アルファダイレクト」という素材が開発されたこと。もともとは「中綿」として使われる素材を、生地に編み込むことでフリースのような起毛生地にして、むき出しの状態で使用できるようにしたことから、インサレーションということばが、このタイプの名称として定着したのです。
トレランやバックカントリーなど、とくに運動量の多いシーンで火がつき、登山やハイキングのシーンでも徐々に存在感を増してきました。
ただし、使い方には注意点もあります。止まると寒い、動くと暑いという低温時のアクティブシーンで、大きな快適性を与えてくれるアクティブインサレーションですが、比較的薄いため、体温が上がらない停滞中の保温性は期待できません。休憩時に風でも吹こうものなら、シェルなしではほとんど保温の意味を成さないでしょう。しかも、見た目でどれくらいの保温力があるかが非常に想像しにくいので、使いこなすには、それなりの知識や経験が必要。どちらかといえば、経験者が選ぶブラスアルファのアイテムといえるでしょう。逆に言えば、正しく使いこなせれば、これ以上ない強い味方になることも間違いありません。
中綿のないアクティブインサレーション
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保温性 ★★
停滞時の活用 ―
行動中の活用 ★★★★★
〇 適度な保温性 通気性が高く運動量の多いシーンで着続けられる 軽量コンパクト
× 運動時以外、単体での保温性はほぼ期待できない 保温性がイメージしにくい
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Teton Bros.(ティートンブロス)/ランウィズオクタ、ブレスランナー


激しい運動で起こるオーバーヒートを防ぎながら、適度な保温性を保つ、プルオーバースタイルのアクティブインサレーション。通気性と防風性の両方を備える撥水ストレッチ素材をベースに、体の前面と腕から肩にかけての裏側に、保温素材「オクタ」を配置。冷えやすい部分を効率的に保温しながら、汗をかきやすい背中や脇下のムレをスムーズに排気。保温と通気両方をバランスよく確保して、夏の高山をはじめ、気温の低い環境でスピーディに移動するアクティブシーンをサポート。
NORRONA(ノローナ)/フォルケティン オクタジャケット


体に程よくなじむコンパクトなシルエット。しなやかで軽く、防風性を備える素材と両サイドのストレッチ素材で、動きやすさも確保しました。裏生地の前面には、大量の空気を取り込む特殊な構造の繊維を編み込んだ「オクタ」のメッシュ素材を使用。オーバーヒート知らずの保温着として、さまざまなアイテムの隙間を縫うような、使い勝手のよさが実感できる一着。夏の登山やハイキングから、雪の季節のちょっとした温度調節まで、オールシーズン活躍します。

夏の高山をじっくり楽しむために必要な、快適な保温着選び。目的に合った1着を見つけるヒントは見つかったでしょうか? アイテムが豊富で選択肢が多いだけに、選び方が難しいものでもありますが、それぞれの特徴をふまえて、じっくり選んでみてください。
<紹介した商品>
◆ 大定番の実力は夏も健在「コンパクトダウン」
◆ ダウンに代わり次世代を担う「化繊インサレーション」
◆ 安心感と着心地の大定番「フリース」
◆ 素材革命が生んだ新カテゴリー「中綿のないアクティブインサレーション」