メリノウール製品のパイオニア「icebreaker」が追求しつづける自然素材の力

ニュージーランド発のメリノウール製品ブランド「icebreaker(アイスブレーカー)」。自然由来の素材である羊毛から生み出される製品は、化繊素材とは異なる優れた機能性と快適性をもたらし、アウトドアでの活動の可能性を広げてきました。そんなメリノウール製品のパイオニアであるアイスブレーカーの歴史、ものづくりの背景を、日本国内でブランドを展開するゴールドウインの仲田政樹さんに伺いました。
(インタビュアー:清水直人、記事・写真:小林昴祐)

メリノウールとの出会いとブランドの創業

メリノウール製品のパイオニア「icebreaker」が追求しつづける自然素材の力

―今でこそウール素材のアウトドアウェアと言えば「アイスブレーカー」というくらい広く認知されていますが、ブランドのはじまりについて教えていただけますか?

アイスブレーカーは、1995年にアウトドア好きの青年だったジェレミー・ムーンが立ち上げたニュージーランドのブランドです。かつて彼は山に行く時は化繊のポリプロピレンのウェアを着ていました。しかし数日着ていると汗臭くなってしまうのが気になっていたそうです。

そこで、化繊素材よりもっと優れた素材はないかと考えていたところ出会ったのがメリノウールでした。メリノウール100%のTシャツの着心地のよさを体感し、数日にわたる登山、自転車での移動、仕事、寝るときというように、ずっと着つづけたんです。快適性はずっと失われることがなく、匂いも出にくい。メリノウールに可能性を感じたジェレミーはブランドを立ち上げます。

しかし、当時は化学繊維全盛期。多くのメーカーが化繊製品を作るなかで、アイスブレーカーはスタートしました。創業してから最初の5年間は、ニュージーランドでも取り扱ってくれる店舗は少なく、ビジネスとしては厳しかったそうです。売れない商品があったら引き取り、繊維を染め直して、もう一度並べてもらう、ということもしていたようです。

しかし、2000年くらいから、少しずつですがメリノウールの匂いにくく快適な着心地が知られるようになり、ヨーロッパやアメリカでも販売がはじまります。そしてメリノウールのアウトドアブランドという、それまでになかった新しいカテゴリーへと成長していきました。

メリノウール製品のパイオニア「icebreaker」が追求しつづける自然素材の力

―保温性や吸水性、防臭・抗菌、快適な着心地など、メリノウールは完璧な素材のように感じます。

メリノウールを「完璧」と言うには誤解があると思いますが、非常にオールラウンドな機能を有した素材だと思います。それは、メリノ羊たちが過酷な自然環境を生き抜くため、少しでも快適に過ごせるように進化してきたからこそ。メリノウールとは、まさに「羊の神秘」とも言える素材です。

メリノウール製品のパイオニア「icebreaker」が追求しつづける自然素材の力

広大な自然の中で飼育されるメリノ種とよばれる羊は、冬はマイナス20℃、夏は35℃の激しい寒暖差の環境下でも生き抜くことができる動物です。羊毛には、冬は暖かく、夏は涼しく機能し、生き抜く術が備わっているんです。それをアウトドアで使えるウェアにすることは、つまりは自然の恵みを借りているとも言えるでしょう。

ジェレミーは「Born in nature」とよく言っているのですが、「自然の中で生まれた素材を着ることは、とても自然なことだから快適なんだ」と。


―メリノウールは希少な素材というイメージがあります。アイスブレーカーでは、どのように原料を調達しているのでしょうか。

ブランドを立ち上げてからしばらくは、Tシャツの品質にばらつきがあり、すぐに穴が空いてしまうこともありました。そこでジェレミーはいい原毛を入手することの大切さに気づき、牧場と直接契約を結ぶことにしました。

メリノウール製品のパイオニア「icebreaker」が追求しつづける自然素材の力icebreaker創業当初から親しくしている牧羊家と話すジェレミー・ムーン(右)

いい原毛を手に入れるためには、丁寧に羊を育てなければなりません。そのためにジェレミーは牧場のオーナーとパートナーシップを組んでいます。契約は最長10年。安定的に羊毛が売れるため、牧場のオーナーもしっかりと羊に投資し、しっかりと世話をしてくれます。

ジェレミーは、よりよい製品のために信頼関係を築いていくことを大切にしています。パートナーシップを結んでいる牧場のなかには、創業当初から付き合い始めて、今日に至るまで信頼関係が継続している牧場が少なくありません。

メリノウール製品のパイオニア「icebreaker」が追求しつづける自然素材の力

―牧場との信頼関係が現在のアイスブレーカーを支えているのですね。「丁寧に羊たちを育てる」ということは具体的にどのようなことなのでしょうか。

ひとつは、羊にストレスを与えないこと。水が足りない、食料が少ないというようなストレスが重なると毛が綺麗に生えてきません。環境が如実に品質に現れるので、喉が乾かないように水を与える、お腹かが空かないように牧草のある場所で放牧する、安全に寝られるように衛生環境も整える。そうすることで最高品質の羊毛を得ることができるのです。

もうひとつは、自然を搾取しないこと。私たちが暮らすこの資本主義社会は、意図せず自然の恵みを当然のものとして受け取ってしまい、搾取していることがあります。地球温暖化やプラスチックごみ問題などは、それらの一つの例です。

そうではなく、自然とヒツジと人間が永続的に共生して、持続可能な社会の中で自然の恵みが循環していくモデルをジェレミーは目指しました。自然を搾取することなく、恵みが循環していくエコシステムのひとつは、メリノウール原料をキチンと人間が管理、ルール化すること。牧場との契約では、「東京ドームの面積に羊は3匹まで」というように自然との共生を念頭にしたルールを作っています。牧草が絶えないように自然と共生しながら、持続可能的にメリノウールを供給できるような仕組みですね。

アイスブレーカーだからできること

メリノウール製品のパイオニア「icebreaker」が追求しつづける自然素材の力

―自然の恵みであるウールを生み出す羊もまた、自然の生き物ということですね。やはり自然がキーワードになってくると思うのですが、アイスブレーカーのタグラインにある「move to natural(自然への移行)」にはどのような思いが込められているのでしょうか。

これまで以上に、自然由来の素材の純度を高めていこうという意味、「自然素材」が選択肢としてあることをより多くの方に意識していただきたい思いがあります。

耐久性を高めるためにメリノウールにナイロン芯のコアスパンを混ぜ込んだ製品もあります。しかし、私たちの見解として、プラスチックは生活に必要なものではありますが、環境負荷も高く、サスティナブルという時代の流れには反していると考えています。

そこで、化繊ではなく天然素材だけで十分な快適さを提供できるのであれば、それがひとつの選択肢になるのではと考えました。

去年までは、ブランド全体で使用した化繊は13%でしたが、今年は9%に減っています。これからは、さらにプラスチック・フリーを追求していきたいという思いから、「move to natural」というタグラインを掲げているんです。

メリノウール製品のパイオニア「icebreaker」が追求しつづける自然素材の力

―現在では、様々なメーカーがメリノウールを使った製品を作っていますが、アイスブレーカーだからこそのアドバンテージはありますか?

いい原毛を手に入れたところで、正しく加工しないといい生地になりません。どのメーカーでもまず原毛の洗浄までは同じだと思うのですが、ここから先の防縮加工や糸にする時の過程はそれぞれ異なります。

ジェレミーがこだわったのは、メリノウールのよさを生かしながら、フィールドでも使える耐久性に優れた糸作りです。肌触りの良いものはたくさんあるのですが、強度を備えたものは少ないと思います。

また、アイスブレーカー は20数年にわたる牧場とのパートナーシップがあり、メリノウールに対する知識やバックグランドも大きく、他社よりも優れた品質の製品を提供できると考えています。


―アイスブレーカーの製品の表記に「150」、「200」とありますが、これはどのような意味なのでしょうか。

生地には薄手や中厚、厚手、ライトウェイトやヘビーウェイトというように、メーカーによって様々な表現方法があります。アイスブレーカーでは、数値で表すことで客観的な指標にしているんです。

この数字は、生地の1平方メートルあたりの重量です。生地に対して糸がどれくらい使われているかを示す数値で、数値が大きくなるほど厚みが増し、保温性も高くなります。

日本人に合った製品を作ること

メリノウール製品のパイオニア「icebreaker」が追求しつづける自然素材の力

―日本での取り扱いについて教えてください。

ゴールドウインでの取り扱いがはじまったのは2012年から。2014年からは、国内での製品の企画・開発も同時にスタートしました。

本国モデルのデザインは体のラインが出るぴったりしたものでした。そのため、日本人にはなかなか毎日着にくいのかなと考えました。ゴールドウインでは、そういった日本の市場に応じ、メリノウールという素晴らしい素材を日本人に合うように販売させて欲しいとジェレミーに伝えたところ、承諾してくれました。

保温性や着心地のよさに加え、洗濯しなくても臭いにくく、汗をかいてもさらさらとして肌触りもいい。そんなアイスブレーカーの製品を、日本人に合ったデザインで展開することが認知を広めるためには大切だと考えていました。

この素晴らしい素材を長く愛してもらえるために、どのように活かすか。お客様がお手元に置いて2年、3年、5年、10年と飽きがこなくて長く使える。そして、無駄にならない。そういう製品を私たちが提供する立場にあるのかなということを念頭に製品を作っています。


―YAMAP STOREでもアイスブレーカーの製品の取り扱いがはじまります。いくつかご紹介いただいてもよろしいでしょうか?

icebreaker(アイスブレーカー)/ 200 オアシスロングスリーブ クルー

メリノウール製品のパイオニア「icebreaker」が追求しつづける自然素材の力

「icebreaker(アイスブレーカー)/ 200 オアシス ロングスリーブ クルー」は中厚手のロングスリーブクルーです。1995年にジェレミーが作った当時から基本的なコンセプトは変わらず、時代に合わせて作りを進化させています。腕を上げやすいような脇下ガゼットを追加したり、オフセットショルダーで肩に直接に縫い目が来ないようにしたりと、スポーツやアウトドアの着用シーンを前提に考えられています。

保温性に優れているので、運動量が少ないハイクやキャンプ、スノーアクティビティにオススメです。

icebreaker(アイスブレーカー)/ 150 ゾーン ロングスリーブ クルー

メリノウール製品のパイオニア「icebreaker」が追求しつづける自然素材の力

「icebreaker(アイスブレーカー)/ 150 ゾーン ロングスリーブ クルー」は、ラグランスリーブ袖の薄手のベースレイヤー。脇や背中などの汗をかきやすい箇所にはメッシュ生地を配置することで快適性を高めています。こちらはファーストハイクや運動量が多い方向けですね。ランニングでもこれからの寒い時期には適していると思います。

メリノウールが解決してくれること

メリノウール製品のパイオニア「icebreaker」が追求しつづける自然素材の力

―アイスブレーカーの製品は、アウトドアウェアでもありながら普段の生活にもマッチするように思います。

山だから山用、街だから街用という垣根をなくすことのできるウェアだと考えています。また、「山でも街でも」とは、空間を超えて物理的なシーンの違いですが、メリノウールは「明日も明後日も」というように、時間をも超えた使い方ができると考えています。

実は僕が今着ているTシャツ、3日目なんです。ずっと快適だし、クリーンなままです。こういう着方ができるのはメリノウールならでは。何日も着替えられない山ではもちろん、普段使いでも同じように着られるんです。ウェアリングがシンプルになれば服をいくつも持つ必要もなくなるのではないでしょうか。

―一着のウェアが大きな可能性を持ちますよね。化繊のウェアに悩みを抱えている方もいるかもしれませんが、どのような方にアイスブレーカーのアイテムを着ていただきたいでしょうか。

アイスブレーカーのタグラインである「move to natural」のように、自由で多様な世界の中で、化繊とは別軸の選択肢、そのひとつにアイスブレーカーがあれば嬉しいと思っています。アイスブレーカーの製品がもっと生活を楽にしてくれるかもしれない、もっと自由をくれるかもしれない、豊かにしてくれるかもしれない、環境負荷が低くなるかもしれません。

私たちとしては、アイスブレーカーという製品を通じて、環境にも、私たち自身にも負担のない生活を支えるものでありたいと考えています。まだ着たことのない方は、是非一度袖を通してみていただきたいですね。きっと驚くはずです。

アイスブレーカー・マーチャンダイザー 仲田政樹 (なかた・まさき)

アイスブレーカー・マーチャンダイザー 仲田政樹 (なかた・まさき)

アメリカの大学に在籍中、豊かなスポーツ文化に感化・触発され、スポーツに関わりのある仕事を希望し1997年ゴールドウイン入社。入社後、アウトドア流通取引先の方達や先輩たちに恵まれ、バックカントリースキーに巡り合う。今では一番好きな季節は冬、雪を一年中待ち焦がれている。2011年、アイスブレーカー創業者ジェレミー・ムーンと交わした会話がきっかけでブランド担当に就任。自然の恵み、メリノウールが持つ可能性を一人でも多くの人に知ってもらいたい、届けたい、という気持ちを胸に日々仕事している。

    紹介したブランド

    • icebreaker

      icebreaker

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