「山を歩くインソール」でヒザ負担を軽減 |YAMAPガイド・ひげ隊長が「インソール慎重派」の悩みを開発者に直撃
YAMAPがインソール専門ブランド「BMZ(ビーエムゼット)」と開発した「山を歩くインソール」。2018年の発売以来、全国のハイカーから絶大な支持を集めるロングセラーとなりました。とはいえ、YAMAPユーザーへのアンケートでは、インソールについて「本当に効果があるのか不安」「他社インソールでメリットを感じなかった…」という声があったのも事実です。YAMAP専属ガイドのひげ隊長も、半信半疑で使い始めた一人ですが、気づけばヒザの痛みと無縁に。ガイド生命の危機から救われました。そこで、インソールの導入を悩んでいる人のため、使ったことのない人が気になるだろう質問を、開発者に直接ぶつけてくれました。
インソールを替える必要性とは
「長く登山を楽しんでほしいから」
YAMAPの専属ガイドとして活躍するひげ隊長(前田央輝)は、40歳を過ぎてから、長年の酷使がたたり、職業の命であるヒザを痛めてしまいます。サポーターやテーピングを使ってもどんどんと悪化し、ガイド業の主軸を川や海にシフトせざるを得ない状況に。
しかし、山を歩くインソールとの出会いによって、「嘘みたいにトラブルがでなくなった」といいます。足に悩みのある人はもちろん、今違和感がなくても、長く登山を楽しみたい人に予防的に使ってほしいと願っているひげ隊長。自身も最初はインソールで良くなると期待していなかった経験から、導入に消極的な人の視点で、BMZのインソール開発担当者である山中保副社長に根掘り葉掘り聞きました。
ひげ隊長の命の恩人?
ひげ隊長:「山を歩くインソール」は、僕にとっての命の恩人。ガイド人生は25年になったけど、40歳くらいから下山のときに膝が痛くなっちゃってね…。もう下山中は悶絶ですよ。お客さんを連れているので、バレないようにサポーターをして隠してたんだけど、当時は『これはダメだ。ガイドは引退しないといけないかなあ…』って思ってた。
でも、数年前にBMZのインソールを疑い半分に使ったら、膝の負担を感じなくなった。いや、むしろ若い頃より調子がいいくらい!山にまた戻れたということで、命の恩人なんです。YAMAPでも、これまで「山専用」であるこのインソールの魅力を伝え続け、多くの人に使ってもらってます。ただ、YAMAPがユーザー約3,000人に行ったアンケートだと、インソールの使用者って、37%どまり。残りのうち56%は「使用したことがない」。これは多いのか、少ないのか…。
山中保さん(以下、山中):アンケート対象がYAMAPのユーザーさんということで、かなり多い印象を受けますよ。歩きに対する意識が高いのではないでしょうか。私の感覚では、登山をしている人で、10人に1人いるか、いないかぐらいです。
固定式のデメリットとは?
ひげ隊長:一言にインソールといっても、ブランドによって、足をサポートする仕組みや効果はバラバラだよね。
山中:インソールという道具の原点はギブスです。一般的なものは、土踏まずのアーチを固定し、シューズ内の足を安定させます。ほとんどが「固定」を目的に開発されたものなのですが、BMZのインソールは違います。
ひげ隊長:その違いとは?
山中:BMZは、この固定をやめました。実は開発段階で固定も試したのですが、足の骨格を固定してしまうと、吸収できないねじれや衝撃が膝や腰に上がってしまうので、納得いく結果が得られなかったんです。そこで、あらためて足の骨格を見てみると、骨が26個もある。そんなにあるのはなぜかを調べると、歩くための推進力を得たり、着地の衝撃を和らげるためということが分かりました。
小さな骨同士が連動することで、整地されていない道でも、車のサスペンションのように衝撃を吸収し、安定して歩けるわけです。逆に、骨の動きを固定してしまうと、多くある骨が使えなくなってしまうことも。
最近では、地面からの衝撃吸収をうたった靴やインソールがありますが、それらに頼り続けると、歩くときに使う筋肉そのものが失われていくこともわかりました。
ひげ隊長:登山でもマラソンでもクッション性の高さをうたった厚底のシューズが多くリリースされてるけど、いいことばかりじゃないんだね。
注目したのは立方骨
山中:もちろん、土踏まずを固定しないだけでは、インソールとしては不十分。そこで着目したのが、足の甲の真ん中よりやや外側にある「立方骨」という骨です。この骨を少し浮かせると足の形状が正しく保たれ、指先に力が入りやすくなります。登りでバランスが取りやすく、下りでも安定感が増し、足本来が備え持っている衝撃の吸収力も大きくなるのです。
ひげ隊長:土踏まずあたりのアーチを固定する方式のインソールは、履いた瞬間や短期的な使用では「楽」だけれど、どんどん足が靴やインソールに頼らないといけなくなる。でも、BMZのインソールは、立方骨を支えてアーチを自然に作り、足そのものの機能で歩けるようになる、と。
山中:BMZの立方骨を支えるインソールは特許を取得しており、独自のものです。土踏まずのアーチが高かったり、扁平足であってもぴったりフィットします。固定式が骨を動かさないようにする「ギブス」だとすると、BMZのインソールは体の正しい動きをサポートする「矯正器具」のようなイメージです。
日本人の足が弱っている
山中:少し余談になりますが、日本の「履きもの」と「足」の関係についてお話ししたいと思います。日本で靴が普及したのは、おおむね戦後から。それまでは下駄や草履、足袋が一般的でした。これらに共通している特徴は「足が本来持っている機能を使って歩く道具」ということです。
「靴」は、クッションで衝撃を吸収したり、疲労を軽減したりと、足の機能をサポートする道具。アーチを固定するインソールと同じで、使うと「楽」ですが、その分、足が怠けてしまいます。
実際に、足袋や草履を履いていただろう年配の方の足を見ると、しっかりしています。バランスもいいですし、歩きも力強い。むしろ若い人の方が、靴に頼ってしまっていて、足が弱っているように感じます。
ひげ隊長:靴の進化は、足の退化なのか…。このインソールを使いはじめてから本当に膝に負担を感じなくなったんだよね。これが、“足本来のコンディションが整い始めた”ということだったのね。
僕自身だけじゃなく、YAMAPユーザーさんにも登山中のヒザのトラブルに悩んでいる人がたくさんいる。宣伝ぽくなってしまうけれど、足本来の機能を取り戻し、今後も長く登山を楽しみたい人にはおすすめのインソールってことだよね。
山中:足本来のコンディションを取り戻した他にもさまざまな要素が考えられます。ひげ隊長の場合は、ひざのトラブルが改善したことでインソールの効果を実感できたと思いますが、そもそも、トラブルの原因の多くは一般的に、本来の歩き方ができていないことが考えられます。かかとでの着地を避けるなど、歩き方も一緒に見直してみるのがいいですね。
ひげ隊長:そもそも、歩くときにトラブルがなければ、インソールは登山靴にもともと入っているものでも大丈夫なの?
山中:ダメ、ということはありません。ですが、なぜあえてBMZのインソールを使ってほしいかというと、足のアーチをしっかり支える“足”をつくることを目的に開発されたものだからです。結果、歩きがサポートされ、膝のトラブルなどの悩みを解決することに繋がります。すでに足腰の悩みがある方はもちろん、そうじゃない方もぜひ試してみてほしいと思います。
インソールの効果を実感するためには?
「山を歩くインソール」に即効性はない!?
ひげ隊長:山中さんがその良さについて語ってくれたけど、アンケートでは、インソールを使ったことがない約40%の人が、「本当に効果があるのか不安だ」と答えてる。さらに、使っていたけど、新しい靴の買い替えのタイミングでやめてしまった人も多くいた。効果の有無は、やっぱり人によって違うものなの?
山中:おそらく、多くの方が登山のときにしか「山を歩くインソール」を使っていないと思われます。BMZのインソールは、即効性というよりも、使うことで少しずつ足のコンディションを整えるような効果があるものなんですよね。なので、正直なところ、たくさん使わないと効果は現れにくいと言えます。
ひげ隊長:なるほど。確かに、ユーザーからは、「山を歩くインソールを使ったら疲れやすかった」という意見もあったんですよ…。それも、足本来の機能を取り戻す過程の出来事ということなのかな。
山中:最初は疲れるような違和感があるかもしれませんが、それが正しい反応。使っているうちに筋力がつき、足本来の形状が戻ってくるはずです。
ひげ隊長:じゃあ、ユーザーさんに「山を歩くインソール」の魅力をより体感してもらうにはどうすればいいの?
山中:そもそも、ほとんどの方にとって、登山は多くても月に数回。1年に片手で数えるほどという人もいるはずです。久しぶりの登山で矯正タイプのインソールを使えば、足が疲れてしまうのは当然のこと。であれば、普段の生活でもインソールを使って足を慣れさせ、足のコンディションを整えればいいんです。
街使いの靴に入れて「強い足」に
ひげ隊長:使って足が強くなるなら、山でないときに「山を歩くインソール」を使ってもいいんだね!
山中:毎日トレーニングや運動している人は、体つきがよくなりますよね。足も一緒で、骨を支えているのは筋肉。継続することで効果を実感できるはずです。
ひげ隊長:僕の場合は仕事柄、週に3〜4回も山に登っていたからどんどんよくなった。でも、ほとんどの人はそこまでではないもんな。だったら、街使いの靴にインソールを入れて、日頃からいい足の状態にしてあげれば、山でも強い足になる。使わないで休ませていたらどんどん鈍ってしまうのは当然だもんね。
インソールを使い分ける
足トレとベーシックモデルとの違いは?
ひげ隊長:僕がいつも使っているインソールは「山を歩くインソール」のベーシックなんだけど、「足トレ」というモデルもありますよね。
山中:これはスニーカーなど街用のシューズに入れることで、普段の歩きを「山の中」のようにするインソール。街でも山登りをしてもらいたいと思って開発した製品です。アーチの前あたりにふくらみがあり、履いてみると傾斜を感じます。歩けば歩くほど、自然と登山のトレーニングができるというものです。
ひげ隊長:平坦な道を歩いていても少し登っているような力の入り具合…。順番としては、初心者やヒザに痛みがあるような人は、ふつうのベーシックを山でも街中でも使う。で、どんどん足腰の負担が軽減されていったら、「足トレ」でもっと効率的に動かすという感じが良さそう。
フラッグシップモデル「カーボン」の凄さ
ひげ隊長:「山を歩くインソール」には「カーボン」もある。これはどんなインソールなんですか?
山中:簡単に言うと、よりハードな山行で使える一番高機能なインソールです。
ひげ隊長:そうなんだ!確かに、見た目も少し高級感があるね。そもそも、なんでカーボンなの?
山中:カーボンの良さは、押したら、返ってくるところ。足の立体形状をたわみながら支えてくれます。たわみながら元に戻る。これがカーボンの特性です。足の機能に一番近い性質があるんですよね。なおかつ丈夫で軽い。
登山では、大きく、重い荷物を背負いますよね。普段より重い負荷を足が支えなければなりません。そういうときの大きな負荷を軽減する効果があります。
ひげ隊長:初心者なら、ベーシックモデルの「山を歩くインソール」でOK。ガイドや山岳部、縦走登山など、ハードな山行になればなるほど、カーボンが実力を発揮する、と。
山中:おっしゃる通りです。ただ、初心者でも、身長が大きかったり、体重が重かったりする人にはカーボンはオススメです。「サポート力が高い=足の負担が減る」ということで、サポート機能が一番期待できます。
さらに高負荷に対応したトレランモデル
ひげ隊長:新しいモデルで、「山を走るインソール」というのも出たよね。これはほかと何が違うんですか?
山中:山を走る、すなわち「トレイルラン」のために開発したインソールです。平坦ではない道を走って、下るトレランは、スピードも出ますし、足への負荷が登山より大きいですよね。
素材には衝撃吸収性が高く、靴の中で足が動かないようにグリップ力を高めた素材を使っています。山を走ると、足の裏には体重の5〜6倍の負荷がかかるそうです。その走りを支える設計になっています。
ひげ隊長:カーボンモデルも足トレ、山を走るインソールも仕様は異なれど、どれもが立方骨を支える構造は一緒なんだね。ヒザの調子も良くなったし、次はトレランをやるぞと意気込んではいるんだけど、実はまだ重い腰をあげられてないんだよね(笑)。このインソールをきっかけに、今年こそはちゃんと取り組まないとな!
※ひげ隊長の発言内容は、あくまでも個人の感想であり効果・効能を示すものではありません。
使ったことのない人にこそ、試してほしい
「足に悩みがない人でも、これから何十年も歩けるように、足のコンデションを整えてほしい」と山中さん。インソールは、もともと登山靴に入っているので、「わざわざそれを変えてまで…」と思う方もいるはず。しかし、もし足腰の悩みがあるのなら、YAMAPとBMZが共同開発したインソールの出番なのかもしれません。
ひげ隊長と山中さんが山で語り合う様子と珍道中は、YouTubeのYAMAPチャンネルで公開されています。ぜひご覧ください。