手仕事で紡がれる”想い”。革工房UNROOFのものづくりレポート
東京都・久米川にある従業員10名ほどの小さな革工房「UNROOF(アンルーフ)」は、YAMAP・めぐるしかプロジェクトのレザーアイテムの共同開発と製作を担う、提携パートナーです。物があふれる現代社会において、一つひとつの素材と制作工程を大切にしたいと考え、丁寧な手仕事を心がけながらものづくりをしています。
「めぐるしか」プロジェクトでは、野生の鹿革を使ったレザーアイテムを通して、自然や命を考えるきっかけをつくりたいと考えています。しかし、野生動物はからだの大きさや健康状態などの個体差が激しく、その皮革を製品化するのは一筋縄ではいかないのも事実。このプロジェクトは、狩猟からみなさんの手元に届くまで、関わるすべての人々や企業の「理解」と「協力」のおかげで成り立っているのです。
今回は工房に直接お伺いし、「鹿革スマホポーチ」の製作現場に密着。作り手の想いやこだわりを探りました。
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「切って縫う」だけではない、革小物づくりの裏側
私たちが「縫製」と聞いて想像するのは『切って、縫い合わせ、かたちにする』ことだと思いますが、革小物ができあがるまでには、それ以上にさまざまな工程が存在します。
自然の副産物である革は、通常の布と違い、大きさも、厚みも、状態もさまざま。個性と向き合い、使える部分と使えない部分を「人」が判断しなければならないのは、革を使ったものづくりの、最も特殊な部分と言えるかもしれません。
手仕事が欠かせない革小物の製作プロセス。早速、一緒に見て行きましょう。
1. 緻密に設計されたパーツの「裁断」
なめし工場から革が届いたら、縫製パーツの裁断を進めていきます。
革一枚ごとに状態や厚みをチェックし、シミや傷のひどい箇所、厚みが足りず製品化できない箇所を避けながら、「クリッカー」と呼ばれる裁断機を使ってカットしていきます。
裁断を担当する湯本さん
「命をいただいて作られる革だからこそ、できるだけ、無駄なく使ってあげたい。革のロスは最小限に抑えることを重視しています。革を見て、触れて、状態を確かめながら、できるだけ多くのパーツを取れるように裁断していきます」
2. 仕上がりの美しさを引き出す「革漉き」
革は布よりも厚みがあるため、縫い合わせるとその部分が分厚くなってしまいます。
厚みがあると、綺麗に縫うことが難しいのはもちろん、完成した製品も不恰好なものになってしまいがち。そのため、特殊な機械によって革を削ぎ、重ね合わせる部分の革を薄く整える作業が「革漉き」です。
UNROOFで技術指導を行う萩原さん
「革を小さなパーツに切り分けても、厚みにはムラがあるんです。指で確かめながら、漉きの程度を調整していきます。コツと聞かれても、うまく説明できないですね(笑)。僕も回数と失敗を重ねて、今があります。個体差があるから同じ革には出会えないし、どれだけ多く革に触れるかが大切かなと思います」
3. 職人たちの想いをカタチにする「縫製」
さあ、次は縫製です。各工程を担う職人たちの想いをつなぎ合わせ、世に出る「製品」に仕上げていきます。
ポーチ本体の開口部分は、ミシンの縫い目が一番目立つ箇所。革製品はシンプルな見た目ゆえ、わずかな歪みや撚れが製品の仕上がりを左右するため、この工程は最も時間をかけて丁寧に行われています。
工場管理を担当する原島さん
「筒状になった開け口を縫製する場合、通常のミシンでは生地が引っかかってしまってうまく縫製ができないので、“腕ミシン”というミシンを使用します。これは、針の部分以外に支えが無く、宙に浮いた状態で縫い込んでいくため、平ミシンに比べて難易度が高いんです。真っすぐに縫うだけでも相当な練習が必要ですね」
縫製を担当する坂本さん
「最終の縫製は一発勝負。失敗すれば製品として世に出すことはできませんし、難易度が高く何度縫っても緊張する工程です」
4. いよいよ完成。仕上げの「紐通し」
腕ミシンの縫製工程を経て、本体部分が完成しました。いよいよ、最後の工程です。
肩紐をポーチ本体のループに通していきます。鹿革スマホポーチでは、肩紐に「張り綱結び」と呼ばれる、長さ調整が可能な結び方を採用しています。これはテントロープなどにも使われる、アウトドアラバーなら知っておきたい紐結びの方法です。
仕上げを担当する湯本さん
「全てが同じ見栄えと長さになるよう、紐の取り方や結びの方向も細かくルールがあります。紐結びが終わったら、紐がほつれないように断面を糊で固めて補強するのも忘れずに。最後に革の状態や仕上がりを検品して、ついにYAMAPの『鹿革スマホポーチ』の完成です!」
永く使える製品に仕上げるための下準備工程もご紹介!
・貼り込み
柔らかい革は、パーツによって強度を高めてあげる必要があります。今回の鹿革スマホポーチで言うならば、ポーチの開け口や本体と肩紐を繋ぐ部分。
マグネットのボタンが簡単にはずれてしまったり、ループが擦り切れてしまったりすることを防ぐためにも、芯材を入れて補強します。芯材を入れることで革が固くなり安定性が生まれるため、縫製時にも役立つ下準備です。
・叩き
本体のパーツを袋状に仕上げた後に行う、開け口の縫製をしやすくするための下準備。
開け口の部分はミシンで始末をします。縫製の際に、縫い合わせた側面の縫い代が飛び出ていては、筒状に綺麗にミシンを走らせることができません。
縫い代の部分をかなづちで叩き、本体に添うように倒して貼り合わせることで、縫い代をできるだけ平らに。凹凸の少ない綺麗な輪っか状にすることで、縫い目もほつれにくく、ポーチの仕上がりも一層美しくなるのです。
たくさんの人の手を渡り、その想いをのせて紡がれた製品たち
ご紹介した作業工程は、全体のほんの一部。各パーツや縫い目ひとつひとつの裏側に、細かな作業工程があります。たくさんの職人の手に渡り、その想いをのせて完成するめぐるしかの革小物。そこには、生きた「命」があり、作り手の生きた「想い」があります。使い手の皆さまに末永く使っていただけるよう、細部までこだわってものづくりをしているのです。
すでに製品をお持ちの方も、これからお迎えを検討している方にも、そんな想いやこだわりを手元にある製品から感じていただけたら嬉しいです。そしてこれからは、あなたの世界にひとつだけのパートナーとして、一緒にたくさんの思い出を紡いでいってくださいね。
「めぐるしか」製品はこちら
めぐるしか・パートナーインタビュー
「障がいがあっても、自分の可能性を信じられる社会へ。挑戦する“屋根のない”自由な組織づくり」
丁寧な手仕事と使い手目線のものづくりに定評のあるUNROOFさん。小さな革工房が立ち上がったきっかけは、「障がいがあっても、自分の可能性を信じられる社会を作りたい」という強い想いでした。
現在では、さまざまな多様性を認める考え方や文化が浸透しつつありますが、精神・発達障がい者が活躍できる仕事場は限られているのが現状。そんな中、UNROOFでは障がい者であっても経済的自立やスキルアップが可能な環境、会社づくりを行っています。
今回はUNROOFの代表・太田さんと工場責任者・原島さんのお二人に、めぐるしかプロジェクトへの挑戦やUNROOFに懸ける想いについて、お話を伺いました。
ー めぐるしかプロジェクトは、自然の営みを守るために駆除されてしまっている野生の鹿を、ただ処分するのではなく「山の恵み」として活用したいとはじまったプロジェクトですが、UNROOFさんは以前から山とのつながりがあったのでしょうか?
太田さん:革製品そのものが自然の恵みだと考えていますが、「山」関連のアイテムとのご縁は今までほとんどありませんでしたね。野生動物の革を使った製品づくりは今回が初めての試みですが、僕自身山が好きなので、自然は人が手を入れることでより豊かになるということや、獣害問題については知っていたので、こういったプロジェクトに関わることができてとても嬉しく思っています。
「獣害問題」という言葉は、まるで鹿が悪いみたいで好きじゃないのですが、鹿の大量繁殖が食害を引き起こしてしまうという事実や、駆除が行われているという現実からは目を背けることはできないので、せっかくいただいた生命は大切に使わせてもらうべきだと思っています。そういう点で今回のプロジェクトに共感したので、このお仕事を受けさせてもらったのが経緯です。
ー 野生の鹿の革は個体差も激しいため、製作も一筋縄ではいかないと思います。実際に職人さんたちはどう感じているのでしょうか?
原島さん:「難しい」と口を揃えて言っています(笑)。みんな苦労していますね。でも、生命のため、森のためになるなら頑張りたいと、全員が同じ想いで製作に取り組んでいます。
普通の革よりも個体差が激しいですが、できるだけロスを出さずに良い製品を作ろうと、気付きがあればすぐに共有したり、みんなでアイデアを出し合って製作をしています。
ー 皆さんの想いも重なって、めぐるしかのプロダクトはお客さまに届けられているのですね。
UNROOFさんは、「障がいの有無に関わらず誰もが活躍できる社会を作る」という目標を掲げて運営されていると思いますが、それに向けた今後のチャレンジや、目標はありますか?
太田さん:働くみんなが「この製品が作りたい」と思えるようなパートナーと仕事をしていくこと、そして「UNROOF」を、会社としてしっかり独立させることが目標ですね。現在のUNROOFは事業部であって、会社ではないんです。職人の仕事や新たな雇用の創出は大きな課題ですが、そこに障がいの有無は関係ないと思っています。
原島さん:僕は現場目線の話になってしまいますが、ここに来て改めて感じさせられているのは「個」の意識を持つことの大切さです。社会から見たら「組織」というかたまりであっても、実際現場は「個」によって成り立っています。一人ひとり違って、それぞれの良さがある。「多様性」という言葉で表されることが多いですが、その個性としっかり向き合っていきたいなと日々思っています。
ー 「めぐるしか」プロジェクトのアイテムたちは、UNROOFさんの堅実なものづくりに支えられていることが実感できました。本日は、ありがとうございました。
UNROOF 太田 真之・原島 陵
太田 真之【おおた まさゆき】 1979年神奈川県出身 土木、とび職などを経験した後大手小売り企業に従事。サーフィンや登山を通して世界中の綺麗な自然に触れるなかで、同時に破壊された自然、淘汰された人々と出会う。“人類のビジネス運営を変えていかなければ綺麗な地球を次世代へ残せない”と思い、ボーダレスジャパン・ジョッゴ株式会社の代表に2019年に就任。目標は、より良い地球を次世代へ繋ぐこと。 原島 陵【はらしまりょう】 1980年生まれ東京都出身 野球や音楽活動などアクティブに活動する傍ら、システム開発の会社で活躍していたが、2021年1月よりジョッゴ株式会社のUNROOF事業部にて久米川工場管理者として入社。目標は、障がいの区別をなくしたDiversityな社会実現においてUNROOFを社会のロールモデルにすること。