ニュージーランドの大地が育んだ、シンプルでタフなバックパックブランド「マックパック」
氷河を抱く標高3000mを超える雪山から、原生林が広がる山々、踏破に数ヶ月もかかるロングトラックなど、多彩な自然環境が今も残る南半球の島国・ニュージーランド。そんな場所で、ひとりの山好きの青年が大自然を歩くために作り出したバックパックが「マックパック」です。クラシカルなルックス、実用性と機能性に優れたアイテムは、多くの登山愛好家からの評価を集めてきました。日本国内での販売はゴールドウイン。販売やプロモーションを担当する増井琢也さんにブランドの成り立ちからこれからの展望まで、「マックパック」の物語を伺いました。
(インタビュアー:清水直人、記事・写真:小林昴祐)
—「マックパック」のロゴにはニュージーランドのシルエットが描かれていますね。アウトドアブランドのなかでもニュージーランド発祥のブランドは日本でも人気を集めていますが、まずは「マックパック」の成り立ちから教えてください。
本社があるのはニュージーランドの南島に位置するクライストチャーチという街です。南島と聞くと日本では南国の暖かい場所というイメージがあるかもしれませんが、ここは南半球。南に行けば行くほど寒く、厳しい気候になっています。
驚くかもしれませんが、南島の突端から先はもう南極。夏でも溶けることのない氷河をたたえた山々や、貴重な原生林、多彩な自然環境が広がっています。自然の力が大きい分、人にとっては非常に険しい場所でもあるんです。
ニュージーランドの天候は、「一日のなかに四季がある」と言われるほど目まぐるしく変化することもあります。朝はすごく天気がよかったのに、急に南から風が吹いて雨が降ってきたり、雨が冷えて雪になってしまったという話はよくあることなんです。
そんなニュージーランドのアウトドアで遊ぶためには、シンプルでタフなギアが必要。多彩な自然環境に対応し、日々の酷使に耐えうる道具を求め、自らバックパックを作りはじめたのが、「マックパック」の創業者ブルース・マッキンタイヤーです。1973年当時19歳だったブルースは、両親から借りた2000ドルの資金を元手に、自宅のガレージで自作のバックパックを作り始めました。
山登り好きの青年がつくり出した自分の使いたいパックが、その使い勝手の良さから、次第に登山仲間から評価され、ブランドの存在を世に知らしめていくことになりました。
—まさに、ニュージーランドの自然が生み出したブランドですね。お話にあった「シンプルでタフ」とは、具体的にどのようなことなのでしょうか。
ニュージーランドは日本と同じく島国ですが、人口は500万人ほどです。つまり、国土のほとんどは広大な自然です。数ヶ月かけて歩くトラック(トレイル)もあるほど。そんな大自然で遊ぶということは、道具に対して壊れにくいタフさだけでなく、修理できるシンプルさも求められます。バックパックで言えば、縫製箇所を減らすことで縫い目からの破損リスクを抑えることができます。そもそも壊れにくいのが「マックパック」の特徴です。
また、ニュージーランドの人たちは自分で直して使うことに慣れているので、複雑に作り込んで直せなくなるよりも、シンプルな方が歓迎されるんです。もちろん「マックパック」でも修理を行なっており、何十年と愛用しているユーザーも多いんです。
—「マックパック」は、現地ではどのようなブランドとして認知されているのでしょうか。
現地ではトランピングと呼ばれる山の中を歩くコアな人たちから、ライトに自然を楽しむ人、街使いをする人まで幅広い層に愛されています。
直営店は、ニュージーランドとオーストラリアのオセアニア地区で70店舗ほど。長期遠征用の大型モデルから、高校生や大学生が普段使いするバックパックまで揃います。アウトドアでもタウンでも、本当に生活の一部を支えているブランドというイメージですね。
実は、1980年代にはウェアメーカーと合併し、現地ではアパレルも展開しています。ブルースが立ち上げた当初のコンセプトをそのままに、総合的なアウトドアブランドとして成長しました。日本では、ゴールドウインがブランドの原点であるバックパックを中心に2008年から展開しています。
—「マックパック」と言えば、アズテックというユニークな素材が特徴ですね。
さまざまな自然環境で使える耐久性を追求した結果、アズテック(AZTEC)という独自素材に辿り着きました。「コットンとポリエステルの混紡素材で、専用の織機で高密度に生地を織り上げた後、ワックス樹脂に浸すことで、耐久性と耐水性を兼ね備えた堅牢な生地に仕上がっています。使っていると経年で味が出てくるのも特徴です。
アズテックは、ブルースがバックパックのために開発した素材です。70年代に「マックパック」がはじまった頃は、ちょうど化繊素材が登場したタイミング。多くのバックパックメーカーがナイロンなどを使用していました。もちろんブルースもナイロン素材のバッグを作ったようなのですが、耐久性や耐水性に満足していませんでした。
「ならば生地を自分で作りましょう」というところが、コットンとポリエステルの組み合わせに至ったのです。環境や気候の変化が激しければ激しいほど、道具の消耗は早くなります。そんな環境にもっともふさわしい素材がアズテックだったんです。
アズテックには機能面以外にも魅力があります。経年による味わいですね。ジーンズをイメージしていただくとわかりやすいと思うのですが、コットンは長く使っていると味が出てきていい感じにこなれてきますよね。アズテックには同じような経年が起こるのですが、使い込んだものの佇まいは他のブランドでは出せません。
そして何より愛着が出るんです。 今で言う、「サスティナビリティ」にも通じることなのですが、ひとつのモノを長く使うのがニュージーランドの人たちの考え方です。
—使うことで古くなるのではなく、愛着が生まれるという考え方には共感できます。アズテックを使用した代表モデル「ウェカ」についてご紹介いただけますか?
「ウェカ」シリーズ
「ウェカ」というシリーズは、アズテックを採用した登山向け定番バックパックです。現地のユーザーと一緒に開発したモデルで、「昔ながらのシンプルな商品がほしい」というリクエストに応えた仕様になっています。生地の裁断箇所を減らすことで、耐水性や耐久性を実現しています。生地にハリがあるので形状が安定し、パッキングしやすいのもメリットですね。
さらに、シンプルな構造に加え体にしっかりとフィットするハーネスや背面構造による背負い心地のよさが魅力です。重い荷物を背負っても荷重を腰で支えることができ、さらに肩とのバランス感に優れるので、長時間、長距離の歩行でも快適です。
デイハイクから荷物が少ない山小屋泊まで対応できる30リットルモデルと、主に山小屋泊で使用できる40リットルモデルがラインナップしています。
—日本での「マックパック」の取り扱いは2008年からとのことですが、どのように浸透していると感じますか?
取り扱いがスタートした頃と比べ、今ではより登山スタイルが多様化しています。その中で、ただたんに軽ければいいというよりは、気に入ったものを長く使い込む、自分の旅の相棒のように愛用してくださっている方が多いように感じます。
山道具は、何年か使って買い換えるというのも一つの方法だと思います。テクノロジーが進化して新しいプロダクトが出てきますし、何年も使えば日焼けしたり、壊れてしまうこともあるでしょう。さまざまな使い方があるので、何が正解というのは難しいのですが、ブランドとしては愛着のあるものを長く使ってほしいと考えています。
—まだまだこれから手にするという方もいらっしゃると思いますが、どのような方に「マックパック」の製品を使っていただきたいでしょうか?
やはり、ひとつのバックパックを長く愛用したいという方に使って欲しいですね。 ロゴに山が描かれているので山のブランドというイメージが強いですが、ニュージーランドでは学生が使っているくらいカジュアルで身近なもの。日本でも、本格的な登山をするコアな方から、普段使いの方までいろんな方々に長く使っていただきたいと考えています。
—今後の展望についてお聞かせいただけますか?
日本で「マックパック」ブランドの販売を行なっているゴールドウインとして、これから発信していきたいのは、リペア対応をしっかりと行っているということ。日本国内でもニュージーランドと同じく、マックパック製品のリペア対応も行っているんです。存分にアウトドアで使っていただいて、壊れたら修理をしてまた使う。そんな安心感をユーザーに伝えることで、ブランドの信頼感に触れていただきたいと考えています。
また、「マックパック」はアウトドアを遊ぶための道具を作るブランドです。道具を大切にするブランドの思想を、製品を通じて知ってもらい、そして豊かな自然に触れることで、 環境を守りたいと思うきっかけを持っていただけたら嬉しいですね。
2022年は新しいシリーズも展開されますのでご期待ください。
【マックパック新シリーズ】
マックパック・マーチャンダイザー・増井琢也(ますいたくや)
1978年岐阜県生まれ 幼少より川遊びやキャンプなどをして、自然とアウトドアの世界を体験する。 小学校から始めた野球を大学まで続け、野球三昧の日々を送るも、合間に出かけた旅の経験を通じ、アウトドアカルチャーを追求する仕事に就きたいとアウトドア業界に。以降、一筋で、はや20年を数える。 学生時代にクライストチャーチを訪れ、自然や文化の素晴らしさに魅了された経験から、商品と共にニュージーランドの魅力も広めたいと日々奮闘中。