ちょっと夏山に憧れて。│ミドルエイジの夏山挑戦に思いを馳せる、鷲ヶ峰でのチューニングハイク【後編】
いつか目指したい3000mの夏山に思いを馳せた、前編での鷲ヶ峰。眩しくて暑い陽射しと冷たい風を交互に体感する稜線と頂は、憧れの夏山を想定したウェアの着脱や道具のテストに最適な環境でした。後編は、ふもとに広がる八島ヶ原湿原を歩きながら気持ちを整えていきます。目指すのは、お気に入りの諏訪信仰の跡地。そして、下山後のちょっとした寄り道も。
(文:大内 征 / 写真:小池 美咲)
木道一周で整っちゃう桃源郷。八島ヶ原湿原に古き諏訪信仰の地を訪ねる
鷲ヶ峰をあとにしたら、八島ヶ原湿原を時計回りに一周して旧御射山(もとみさやま)という古い諏訪信仰の地に立ち寄るのが、ぼくの定番コース。ここは高低差のほとんどない木道歩きが主体なので、軽装で散策している人もたくさん見かけます。だから、のんびり行くのが吉。
歩いてきた木道から後ろをふり返ってみると、ついさっきまでいた鷲ヶ峰の山容を確認することができます。牛が横たわった臥牛のような姿にも見えますが、たおやかな稜線を左右に広げる優雅な鷲に見立てて、そう名付けられたのでしょうか。おだやかで優しげな山に見えるけれど、あの頂に立つと豪快で壮大な眺めを楽しむことができる。ちょっとギャップを感じてしまう、そんな素敵な山なのです。
木道が途切れたところにあるトイレを過ぎると、乾いたカヤトに囲まれた小径となります。今回選んだ衣類、靴、サングラスがすべて大正解で、とても快適な装備。だからでしょうか、歩調も軽やかです。
周辺の山々からそよぐ風を自分の頬に感じながら、足元を流れる水の音は耳に心地よく、ふと見上げれば大きくて青い空に白い雲が流れゆく、言葉にならないほど素晴らしい時間。こういう感覚は、現地まで来なければ得られません。鷲ヶ峰とはまた違った雰囲気の、なんとも言えない気持ちのいいワールドが、八島ヶ原湿原にはあります。
そうして到着した「旧御射山」は、古い祭祀の場。ここには武神たる諏訪大明神が祀られ、鎌倉時代には流鏑馬などが盛大に行われたそうです。神さまに今日の山行の感謝を伝えて、水の出ずる社の前に腰を下ろし、しばし“整う”ひとときを堪能。ここは本当に気持ちいいんですよね。とくに新緑の季節が一番好きです。
朝からのんびりと鷲ヶ峰を経由してきたので、すっかりお昼を過ぎてしまいました。ずっとお腹がグウグウと鳴っていたので、楽しみにしていた「山で食べたいカレー 日帰り登山セット」を食べることに。このシリーズ、好きなんです。
辛口は、ジャークチキンカレー、グリーンカレー、麻辣キーマカレーの3つがセットになっています。ぼくはジャークチキンカレーを選びました。山で食べるカレーは本当に美味しい。まあまあ辛いので、辛いものは好きだけどお腹が不安……という人は、卵があると少しマイルドになるでしょう。
夏山でも必須のフリースとは?
行動を中断して休んでいるときは、ちょっと身体が冷えてきます。汗冷えもあるし、気温の変化や風の有無にも左右されます。ザックに忍ばせてきたフリース「マウンテンハードウェア YAMAP別注 ポーラテックハイロフトグリッドクルー」の出番が、いよいよやってきました。
この素材はほどよい風通しがあって、中が適度なあたたかさになるという優れもの。あたたかいけど、蒸れない。そして軽い。文句なしの高機能な中間着です。
ここ数年のフリース素材の潮流を観察していると、おなじポーラテックのアルファダイレクトや、テイジンのオクタといった素材も注目されています。薄手で軽く、汗抜けがよいけどあたたかいフリース。加えて、速乾性の高さには目を瞠るものがあります。これからの登山シーンにおいて、スタンダードになっていくことは間違いないでしょう。この手のものは、1枚持っておいて損はありません。いやむしろ、マストバイ。
山も歩けるサンダルは、普段使いにも最適
行動を完了すると、ぼくはすぐにサンダルなどのリラックスシューズに履き替えます。靴下は、そんなときにも便利な5本指。ファイントラックの「メリノスピンソックスアルパイン」は、適度な生地の薄さが夏山向き。明るいグレーはどんな服装にも合わせやすいので、日ごろから重宝しています。
この日は愛用して3シーズンになる「BEDROCKSANDALS(ベッドロックサンダル)」を持参。かなりのお気に入りで、山でも日常でも重宝しています。とくに山を下りたら、こうして脚をリラックスさせるとともに、登山靴を休ませる意味もあったりして。テント泊でも必携だし、車の運転を控えている場合もこれ一択。まあ、さすがに冬は無理ですけどね。
ふもとの温泉に立ち寄って汗を流したら、さっぱりした服にまるっとお着替え。お気に入りはノローナの「フォルケティン フレックス1ショーツ」で、街着としても活躍するし、もちろん夏山縦走にもばっちりです。そこに、さらっと羽織れる「マウンテンハードウェア YAMAP別注 コアエアシェルシャツ」があれば、ちょっと寒くなっても大丈夫。山ではもちろんのこと街着にもなるので、ザックに入れておくと便利です。びっくりするくらい超軽量ですから。
ということで、帰り際に向かったのは上諏訪。お気に入りのコーヒー屋さん「AMBIRD」でテイクアウトしました。苦味と酸味の希望を伝えると、オーナーの黒鳥さんが最高の一杯を淹れてくれます。ぼくは苦味重視でオーダー。時間が許すなら、素敵な店内で落ち着いて味わうべし、です。
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ところで、冒頭でさらっと「ミドルエイジ」と言いましたが、実のところどの年代をそう呼ぶのか、明確な定義はないようです。したがって、ぼく自身をその“ど真ん中”と位置付けて考えるとすれば、前後の10歳――つまり40歳から60歳あたりの人たち――を、ここではそう呼びたい。言い換えれば、同じ時代を歩んできた仲間たち、ですね。
若いころは大嫌いだった勉強が「この歳になってから、学ぶことが不思議と楽しくなっちゃってね!」と子供のように目を輝かせて山のことに夢中になる。体力はずいぶん落ちてしまったけれど、それでも人生の後半戦を楽しんでいこうと山に足を運ぶ。そう、これからの人生をどう楽しむか、それがぼくらミドルエイジの関心事のひとつでもあります。
歳を重ねても目標を立てて学ぶのって、とてもすてきなことじゃないでしょうか。それを未体験の高い山で実現できるなら、なおのこと嬉しいですよね。近い将来挑む「あっちの稜線」を、ぜひ鷲ヶ峰に確かめに行ってみてください。必要な装備はYAMAP STOREで、抜かりなく。
大内 征(おおうち せい)
低山トラベラー、山旅文筆家。歴史や文化を辿って日本各地の低山をたずね、自然の営み・人の営みに触れる歩き旅の魅力を探究。ピークハントだけではない“知的好奇心をくすぐる山旅”の楽しみ方について、文筆・写真・講演などで伝えている。 NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」コーナー担当、LuckyFM茨城放送「LUCKY OUTDOOR STYLE~ローカルハイクを楽しもう~」番組パーソナリティ。NHKBSP「にっぽん百名山」では雲取山、王岳・鬼ヶ岳、筑波山の案内人として出演した。著書に『低山トラベル』(二見書房)シリーズ、『低山手帖』(日東書院本社)などがある。宮城県出身。 YAMAP MAGAZINEで連載中の『大内征の超個人的「どうする家康」の歩き方』が好評。
ちょっと夏山に憧れて。│ミドルエイジの夏山挑戦に思いを馳せる、鷲ヶ峰でのチューニングハイク【前篇】
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