知ればもう手放せない快適さ|icebreaker担当者に聞く、メリノウール製品との上手な付き合い方

ハイテクな化学繊維が数多く存在するアウトドアウェアのなかで、数少ない天然素材として、存在感を示すメリノウール。価格は高いけど、その高い抗菌防臭効果から一枚で3日以上着用してもニオイは気になりません。

ベースレイヤー素材の代表として愛用者も多い反面、価格が高い、お手入れが難しそうなど、手を出しづらいというイメージを持つ人もいるはずです。実は、意外と知られていないメリノウールのいろいろや、賢いウール製品の選び方、お手入れの方法などについて、アウトドア用メリノウールの専門ブランド「icebreaker(アイスブレイカー)」の仲田政樹さんに、詳しくお聞きしました。

(文:小川郁代 / 撮影:小池美咲) 


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アイスブレーカーメリノウール

厳しい環境で育つヒツジの毛だからこそ山に適している

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ー最近はメリノウールの認知度がかなり高くなったと思いますが、普通のウールと何が違うのかを、改めて教えてください。

ウールはご存じのように、ヒツジの毛を原料とする獣毛繊維です。ヒツジには1000以上の種類がありますが、そのひとつが「メリノ種」というヒツジ。非常に細い繊維を産出するのが特徴です。

メリノヒツジの毛から作られるメリノウールは、ほかのウールに比べて繊維が細いため、肌触りがとてもよく、素肌に直接触れるベースレイヤーなどの素材に向いています。よく「ウールはチクチクする」といいますが、これは大きな誤解。人間の肌は、30マイクロン(0.03mm)より繊維が太いと、綿でもポリエステルでもチクチクを感じます。「ウールだから」ではなく、多くのウールの「繊維が太いから」というのがチクチクの理由。メリノウールは繊維が細いので、チクチク感がなく肌触りがいいということです。


ー肌触り以外に、メリノウールが山岳用のベースレイヤーに適している理由はどんなところでしょうか。

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簡単にいえば、断熱性や吸湿・放湿性、防臭性などの、山岳用ウェアに必要な特徴を、非常にバランスよく備えているところです。特定の機能で100点をとれる化学繊維はありますが、ウールは、すべての要素で90点のハイスコアを揃えるイメージです。

これは、ヒツジが数千年をかけて自ら進化してきた、自然の恵みによるものです。気温35℃にもなる夏は、高い通気性で体温を適正に保ち、マイナス20℃まで冷え込む冬は、優れた保温性で寒さから体を守る。「天然のエアコン」などといわれる優れた温度調節機能が、ウールには備わっています。防臭効果は、着替えも入浴もしないヒツジたちを、雑菌の付着や繁殖を防ぐことで、病気から守るために備わった機能。厳しい日差しをブロックする、UVプロテクション効果も備えています。


本当に質のいいメリノウール製品は行程技術も大事

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ーいろいろとメリットが多いのはわかるのですが、やはり、メリノウール製品は価格が高いので、購入をためらう人も多いと思います。

価格が高い大きな理由に、メリノウールができるまでの行程の多くが、人の手に委ねられていることがあります。

羊毛は人の手で1頭ずつ刈られ、その場で熟練の職人によって品質の選別が行なわれます。メリノヒツジは良質な羊毛を産出する品種ですが、個体差や育った環境によって、毛の太さやコンディションにばらつきがあります。それを仕分けるのが、まさに「神の手」といえるほどの精度をもつ職人の手。刈られたその場で触るだけで毛の太さを感じ取り、アパレルの素材としてふさわしい品質であるかを判断します。紡績(糸づくり)作業に入る前の段階で、デジタル計測による抜き取り検査が行なわれますが、この人たちの存在なくして、メリノウール製品の品質を保つことはできません。

化学繊維なら、作れば作るだけ単価は下がりますが、メリノウールは、作った分だけ人の手がかかるため、大量生産によるコストダウンもできないのです。


ーでは、同じメリノウールでも、価格帯にばらつきがあるのはなぜですか。

お寿司を例に考えてみましょう。活きのいい最高級の魚が手に入ったとしても、それを捌いて寿司ネタとして仕込み、握るまでの行程で、職人の腕で味に大きな違いが出ますよね。メリノウールもそれと同じで、良質なメリノヒツジの毛も、紡績、縮み防止加工、縫製などのすべての段階で、高い技術がなければ良質なウェアにはなりません。着心地や肌触りはもちろん、縮みかたやピリングの出方など、製品の持ちにも大きな違いがでます。高い技術にはそれだけの手間や時間、お金もかかります。それが製品のコストに反映されるため、いい商品ほど価格が高くなる傾向があります。


ー高い買い物だけに失敗したくはありません。良質のメリノウール製品を選ぶためのポイントなどがあったら教えてください。

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先ほどもお話ししたとおり、メリノウールは原料の価格が高いため、製品価格を安くするためには、原料の品質を落とすか、加工の手間を省くことになります。メリノウールに関しては、価格が品質に比例すると考えていいでしょう。多少価格は高くても、信頼できるメーカーのものを選ぶことをおすすめします。安く手に入れても、傷みが早かったりすぐに縮んだり、着心地が悪かったりすれば、結局のところ着られる回数が減り、コスパも悪くなってしまいますから。


汗ばむ季節こそメリノウールが活躍

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ーメリノウールは夏も使えるといいますが、どうしても暑いイメージがぬぐえません。夏に使いたくなるような理由を教えてください。

メリノウールのメリットが最大限に発揮されるのは夏。山はもちろん、日常生活にも、夏こそメリノをおすすめします。一番の理由は、汗をかいても臭くなりにくいこと。ウールが持つ抗菌効果が、ニオイの元となる菌の繁殖を抑えます。体が発した臭いを繊維内に閉じ込める効果もあるので、汗をかきやすい夏には最適といえるでしょう。

また、ウールは繊維自体の熱伝導率が低いため、外気の変化を一拍おいてから体に伝えるのが特徴。炎天下の屋外から冷房がガンガン効いた室内に入ったときなどに感じる、急激な温度変化によるストレスを、メリノが和らげてくれます。稜線に出たとたんに風が吹いて、震えるような寒さを感じるときも、同じような状況ですね。

もちろん、夏には夏向きのメリノウール製品を選ぶ必要があります。季節やシーンに合ったものを選べば、ウールだから暑いということはまったくありません。むしろ、吸湿性が非常に高く、化繊にはないサラサラとした着心地なので、湿度の高い日本の夏には、とてもよく合うと思います。


ードライ系の化繊アンダーウェアを下に着るのはどうですか?

着心地のよさを考えると、メリノウール1枚で着るのがいいですが、吸水はウールが苦手な部分なので、大量に汗をかくようなシーンでは、ドライ系のインナーと組み合わせてもいいと思います。

ちなみに、メリノウール100%では吸水性が不足するときのために、icebreakerでは吸水性が高くピリングもできにくい、天然由来素材のテンセルをミックスしたタイプを、夏用として用意しています。


夏用のメリノウール製品

下着もウールにすることで着心地アップ。濡れた場合は「着乾かし」テクニック

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ーほかに、着方のコツやおすすめのレイヤリングなどはありますか?

ウールの上にコットンや化繊を重ね着すると、ムレ感が強いので、これからの汗ばむ季節には、避けるのがいいでしょう。薄手のメリノを、1枚でゆったりと着るのがおすすめです。

レイヤリングするなら、ウール同士の重ね着をおすすめします。下着やミッドレイヤーもウールにすると、ムレ感が少なく、かつ断熱性に優れた着心地が得られます。

トップス以外にも、アンダーウェアやソックスもウールがいいですよ。防臭効果はあるし吸湿性も高いので、サラサラで気持ちよく過ごせます。

知ればもう手放せない快適さ|icebreaker担当者に聞く、メリノウール製品との上手な付き合い方下に別のウールを着用することで上の濡れたシャツが乾く「着乾がわし」

夏場の10日くらいまでの縦走なら、私は、半袖と長袖のウールTシャツの2枚で出かけます。これはちょっとしたテクニックですが、日中着ていたシャツが汗で濡れてしまった場合、下に乾いたシャツを着て、その上に濡れたシャツを重ね着して寝ると、翌朝には乾燥機にかけたように乾いています。「着乾かし」と呼んでいますがイヤなニオイもなくて快適ですよ。

長持ちさせる家庭でのお手入れ方法

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ーウールはお手入れが難しいという印象がありますが、ケアはどのようにするのでしょうか。

基本的には、製品の洗濯表示に従った方法で洗ってください。メリノウールは洗濯機で洗えるし、icebreakerの製品は、ウール専用ではなく一般的な弱アルカリ性の洗剤が使えます。より長持ちさせるには、洗濯ネットに入れるといいでしょう。

知ればもう手放せない快適さ|icebreaker担当者に聞く、メリノウール製品との上手な付き合い方干す際は裾を上にすることで肩まわりに跡がつかない

直射日光に当たると変色する可能性があるので、干すときは日陰で。平干しできればいいですが、私は吊るし干ししています。肩の部分にハンガーの型がつくのを避けるために、裾を上にして、ピンチで吊るすのがおすすめ。絶対にダメなのは、乾燥機を使うこと。一度縮んだウールは、2度と元には戻りません。柔軟剤や漂白剤もNGです。


ーピリングができてしまったときは、市販の毛玉取り器などを使ってもいいですか?

そういったものは、生地自体を傷つけてしまうことがあるので、あまりおすすめしません。

毛玉ができてしまったら、ジーンズなどの硬いものと一緒に洗濯を繰り返すと、次第に毛玉が脱落して、だんだんピリングが気にならなくなります。繊維の脱落を抑えて製品を長持ちさせるには、ネットに入れるのが効果的ですが、ピリングに関しては、逆に脱落を促すことで、繊維をリフレッシュさせることができます。


ー保管方法などはどうでしょう? 

知ればもう手放せない快適さ|icebreaker担当者に聞く、メリノウール製品との上手な付き合い方

できるだけ風通しがよく、湿度の低い所で保管してください。建物の環境にもよりますが、湿気の多い環境なら、虫食いやカビ防止のために、乾燥材や防虫剤を使うといいでしょう。


抗菌防臭効果のあるウールは1枚で7日分の衣類になる

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ー最後に、長年メリノを扱ってきた仲田さんだからこそが感じる、メリノウールの魅力を教えてください。

ほかの人にお話しするとき、いつも「ウールはそんなに洗濯をしなくてもすむので、楽で気持ちいいですよ。1枚で3枚分や3日分、人によっては7日分です」と冗談のように伝えています。

私は、ウールの衣類は毎日洗濯しません。普段の生活でも、トレッキングや縦走の時のように、お風呂から出たら、脱いだTシャツや下着をそのまま翌日も、その翌日も着回しています。とても楽ですよ、洗濯しないって。人間は毎日洗濯して、その排水を海に流していますが、本当に毎日洗濯が必要なのでしょうか? 毎日洗濯が必要じゃないのなら、とても楽だし、環境負荷や持続可能性の面でも、それが気持ちよいと感じています。ヒツジは一年間、毎日同じウールの服を着ていますし。

メリノウールは高い買い物ですが、一度着たら手放せない快適性があります。直接肌にメリノウールを着て、大汗をかかないようにゆっくり歩くと、メリノウールと肌が息を合わせて呼吸するような感じがします。多くの方に、ヒツジさんがくれる天の恵みの心地よさを味わってもらえたらと思います。

アイスブレーカー・マーチャンダイザー 仲田政樹 (なかた・まさき)

アメリカの大学に在籍中、豊かなスポーツ文化に感化・触発され、スポーツに関わりのある仕事を希望し1997年ゴールドウイン入社。入社後、アウトドア流通取引先の方達や先輩たちに恵まれ、バックカントリースキーに巡り合う。今では一番好きな季節は冬、雪を一年中待ち焦がれている。2011年、アイスブレーカー創業者ジェレミー・ムーンと交わした会話がきっかけでブランド担当に就任。自然の恵み、メリノウールが持つ可能性を一人でも多くの人に知ってもらいたい、届けたい、という気持ちを胸に日々仕事している。

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