時期・天候・山域によって着用するグローブは変わる! 冬の低山グローブの選び方 | 正しい山道具の選び方・使い方 Vol.1
「山道具の正しい選び方・使い方を知りたいけど、イマイチよく分からない」という方向けの新連載企画。第一回目のお悩みテーマは、「冬の低山グローブの選び方」。
気温の低い、冬の登山に必要不可欠な「防寒対策」。とりわけ「手先」の保温は重要で、雪のない冬の低山であってもグローブは必須アイテムです。でも、ひとくちにグローブといっても種類はたくさん。山域や山の状況によって使うグローブは変わるので、何を選べばいいのか、悩む方も多いはず。
今回は、「標高1,000m以下の冬の低山、積雪なし」を想定したグローブの選び方と、冬のグローブが担う大事な役割を、山行経験豊富な山岳ガイドに教えてもらいました。「冬の低山、どんなグローブを買えばいいのか分からない」「失敗しないサイズ選びを知りたい」という方に必見の内容です。
(監修:原 岳広、文:山畑理絵)
冬のグローブの役割は、「手の防寒(凍傷のリスク軽減)」と「手の保護」
冬の山歩きにグローブが必須の理由は、大きく2つあります。「手を冷えから守り凍傷のリスクを少なくするため」、「ケガのリスクを減らすため」という理由です。
人間の身体は寒さを感じると、生命維持に不可欠な中枢の体温を逃さないようにするため、末端への血流を減らし、血液を身体の中心に集めます。要は、寒いときには手先・足先から体温が奪われていくということ。そのため、手先はグローブをして保温することで、結果として凍傷のリスクを減らすことができます。
仮に凍傷には至らずとも、素手ではしもやけ・あかぎれの原因に。手にキズがあったり、痛みを伴ったりしていると、岩やロープを掴みそこねることに繋がり、重大な事故を引き起こす可能性も高まります。
また、こうした異常が手先にあらわれなかったとしても、寒さに気を取られて注意力が散漫になるのはよくあること。ちょっとした突起につまづいて、ケガを誘発する恐れもあります。だからこそ、手が冷えを感じないよう、グローブをして防寒対策することが冬山ではとても大切です。
そして、これは夏山にもいえることですが、そもそもグローブをすることによって、木の枝や岩をつかむ際のケガのリスクを減らすこともできます。グローブは、「手の防寒」「手の保護」における必須アイテムです。
TIPS①
体感温度の寒さは「風速」も関係している
気温の低さはもちろんですが、風の有無、風の強さによっても体感温度は大きく変わります。冬は低山であっても「風」があるとより寒さを感じ、気温が低めの日や樹林がなく風が吹き抜ける地形では特に、凍傷のリスクがゼロではないので要注意。ちなみに、風速が1m/s増えると、体感温度は1℃下がるといわれています。
風速の予測は、YAMAPのアプリ内でも確認できる「tenki.jpの登山天気」や「ヤマテン」ですぐに調べることができます。山行計画や防寒対策に役立てましょう。
冬のグローブは、雪山対応か否かで仕様が大きく変わる
冬のグローブは、「雪対応」か「雪には対応しない」かで、仕様が大きく変わります。よって、冬のグローブを選ぶときは、どちらのシーンで使うのかを明確にしておきます。
まず、雪山での使用を想定しているグローブは、防寒性が高いので厚みがあります。そして、アウター層(アウターグローブ)には防水透湿性や撥水性が備わっています。また、デザインにも特徴があり、雪が袖口から入らないようにカフが長めの仕様になっていることが多いです。(もちろん、なかには「雪山ほどじゃないけど積雪がある」シーンに有効な、カフが短めの防水性グローブもあります)。
一方、雪のない山を想定しているグローブは、保温性と操作性のバランスがいいモデルが主流。防水透湿性は備わっていない場合が多く、あっても撥水性程度。雪が入り込む心配がないので、カフも短めです。
よって、使うシーンが雪ありか雪なしかで、冬のグローブ選びは大きく変わることを覚えておきましょう。
〈雪あり〉おすすめのアイテム
〈雪あり低山〉おすすめアイテム
無積雪の低山ハイク、どんなグローブを選ぶべき?
では、冬の無積雪の低山ハイクにはどんなグローブがベストなのでしょうか?
機能の優先順位は、①保温性 ② 操作性 ③ 天候や登山形態によって、グリップ力や撥水性、防水透湿性などを加味する、の3つです。以下、詳しく解説していきます。
まずは「保温性」ファーストで
厚みとしては、「薄〜中厚手」が目安。素材は、濡れてもひんやりとした冷たさを感じにくいメリノウールや、適度な保温性のあるフリース素材を選ぶと◎。
次にチェックするのは「操作性」
グローブの快適性を上げるならば、「操作のしやすさ」がカギ。操作性がいいというのは、グローブをつけたままファスナーの開け閉めができたり、スマホ操作できたりすることです。
近年はタッチスクリーン対応モデルも多く、そういったグローブなら写真を撮るときや地図アプリを見るときも着用したままでき、手を冷やす心配がありません。また、グローブの構造も多種多様になっており、状況に応じて指の第一関節だけ出せるモデルも。なるべく素手にならなくて済む、操作性のよいモデルを選びましょう。
天候や登山形態によって、「グリップ力」や「撥水性」、「防水透湿性」などを加味する
岩登りやクライミングセクションがある場合は、手のひらに滑り止めがあり、「グリップ力」の高いモデルを。雨が降る、もしくは山頂付近だけ多少の雪があるというときは、「撥水性」「防水透湿性」を加味するとより快適になります。
とはいえ、ひとくちに冬の低山といっても、天候や登山形態や使用者の体質(寒がりor 暑がり)によっても、必要な性能は変わります。
①保温性、②操作性、③その他の機能を軸に、臨機応変に対応できるようにしておくと安全です。
TIPS②
軍手はNG。だけど素手よりはいい理由
軍手のような綿(コットン)素材は、濡れると乾きにくく、濡れたまま使用すると低温になり、手がどんどん冷えてしまいます。雪や雨が降っていないときでも、意外と自分の手の汗でグローブ内部が湿っていることがあるので、天候に関わらず、山に軍手は不向き。ただし、素手になるくらいなら軍手でもあったほうがベター。
原 山岳ガイドによると、「夏場でしたが、嵐でグローブが飛ばされ、手がかじかんで感覚がなくなってしまったことがあります。苦肉の策でしたが急きょ山小屋で軍手を買い、装着しました。もちろんずぶ濡れにはなりましたが、手に直接風が当たらなくなるのでその分かじかみが軽減された経験があります」。
もしグローブを忘れてしまったときは、最終手段としてコンビニや山小屋などで代わりになるものを探す選択肢も。雪のない低山であれば、素手になるくらいなら軍手でもあった方が◎。ただし、雪がある山域の場合には、しっかりしたグローブ無しでの入山は絶対に控えてください。
〈冬の低山〉おすすめアイテム
どうして? 忘れてはいけない「予備のグローブ」
行動中は、前述した「薄〜中厚手の保温性グローブ」でOK。でも、長い休憩時や万が一遭難してしまったときを想定すると、より保温力の高いグローブ(厚手や中綿入りモデルなど)が予備としてあると安心です。
行動中のグローブひとつだけでは、濡らしてしまった、落としてしまった、飛んでいってしまったというハプニングに対応できません。それに、「暖かさを確保できる=安心感を得られる」という精神的な効果も、冷静な判断のためには大切な要素と言えます。例えば、遭難時に救助が来るまでその場でビバークしなくてはならないとき。手先が暖かいだけで、不思議と気持ちを落ち着かせることにつながるはずです。
また、グローブの「保温性」と「操作性」は相反する関係にあります。厚ければ厚いほど保温性は高くなるものの、分厚くなる分、操作性は劣ります。そんなときにも、予備のグローブが活躍します。行動中は、ほどよい保温性と操作性のいいグローブをメインに。寒いときに保温性重視のグローブをレイヤリングすれば、相反する「保温性」と「操作性」をうまくカバーできます。
だからこそ、日帰り登山であっても予備のグローブは大切。携行しておきましょう。
〈保温力〉でおすすめアイテム
自分にあったサイズを見極めるコツは、「指先が余らない」こと
とはいえ、いくら状況に見合ったグローブを選んでいたとしても、自分の手に合っていなければあまり意味がありません。自分にあったサイズを見極めるコツは、「指先が余らないサイズを選ぶ」こと。
ただし、締め付けを感じるほどのジャストフィットはNG。血行不良になり、冷えを助長してしまうからです。そのため、指先が余らず、ほどよいフィット感のグローブを選びましょう。
なお、グローブをレイヤリングして使う場合は、外側にくるグローブをジャストフィットではなく、多少ゆとりのあるサイズにすると重ね使いしやすくなります。グローブ同士の相性も意識しましょう。
TIPS③
外したグローブはポケットに入れる
冬であっても、行動中は体温が上がって暑くなるもの。手首には血流の多い血管が皮膚の近くを通っているので、気温の影響を受けやすい部分。手首を温めれば暖かい血流が身体をめぐり、体温は上がります。逆に、冬であっても標高が低い登り始めなどは行動によって体温が上がり汗をかいてしまう場面も。そんなときは、グローブの着脱で効率よく体温調整ができるというわけです。
もし暑くなってグローブを外すときは、アウターシェルのポケットか、ボトムスのポケットにしっかり押し込み、落とさないように。バックパックの中もアリですが、すぐに取り出せないので、歩きながら着脱できるポケットがベストです。
予備のグローブは、防水バッグなどに入れて、バックパックの雨蓋など取り出しやすいところに収納しておきましょう。
行動中は「保温性のある薄〜中厚手グローブ」、予備は「それよりも暖かいグローブ」で
無積雪の冬の低山ハイクならば、「保温性のある中厚手のグローブ」を行動中のメイングローブとして使用
し、予備+防寒用として「さらに保温力の高いグローブ」を持っていく。この組み合わせがあれば、手のトラブルを減らすことができるでしょう。
とはいえ、グローブに限らず、山の道具は行く山の標高や山容、行く日の気温、風速を事前に把握したうえで「どれを持っていくか」考えることがとても大切です。山の状況、自分に合ったグローブを選んで、冬の低山を安全・快適にととのえましょう。