登山用ガスバーナーの安全で正しい扱い方をマスターしよう | 正しい山道具の選び方・使い方 Vol.2 

「山道具の正しい選び方・使い方を知りたいけど、イマイチよく分からない」という方向けの連載企画。第2回目のお悩みテーマは、「バーナーの正しい扱い方」。

山のなかで食べるごはんは、特別な時間そのもの。自分で作って食べてみたいけれど、「どんなバーナーを買えばいいの?」といった悩みや、「なんとなく使ってるけど、これって正しい扱い方?」といったギモンもあるはず。今回は、バーナーの種類正しい使い方知っておくべき危険性と回避術などについて、山行経験豊富な山岳ガイドに教えてもらいました。

(監修:原 岳広、文:山畑 理絵)

登山で使う火器には、こんな種類がある

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登山で使うバーナーの種類は、目的や登山スタイルによって細分化されています。まずは、それぞれの特長をチェックしておきましょう。

① 一体型(直結型)

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一体型とは、バーナー本体とガスカートリッジを直結させて使用するタイプのこと。OD(アウトドア)缶を縦向きにつないで使う「タテ型」が 主流ですが、なかにはCB(カセットガスボンベ)缶を横向きに繋ぐ「ヨコ型」も。使用するガス缶の違いだけでなく、コンパクトさや安定感の違いもあります。

どちらもシンプルな構造で、収納時もコンパクトになるので持ち運びのしやすさも◎。使用する燃料は、ガス(OD缶・CB缶)です。

② 分離型

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分離型は、バーナー本体とガスカートリッジを被覆(ひふく)ホースで繋いだタイプのこと。一体型と比べるとサイズが大きく、重量も増しますが、近年はゴトクが薄く折りたためる仕様のモデルが増えており、携行性の高さも向上しています。

重心の低さが大きな特長で、大きめのクッカーを載せても安定感が得られます。使用する燃料は、ガス(OD缶・CB缶)もしくは液体燃料(ホワイトガソリン)を使用するタイプがあります。

③ ポケット型

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ここでいうポケット型とは、「固形燃料ストーブ」や「アルコールストーブ」など、ポケットに収まるくらいコンパクトな火器のこと。

上記で紹介したガスバーナーと違い火力が小さく、使い方にはちょっとしたコツが必要ですが、扱いに慣れてしまえば手軽に使うことができます。卵1個分ほどの軽さと、ポケットに収まるくらいのコンパクトさはなんといっても魅力的。燃料は、固形燃料や液体燃料(アルコール)を使用します。

④ 高効率型(オールインワン型)

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高効率型は、クッカーとバーナーがセットになったタイプで、クッカー内にすべてのパーツを収納でき、スマートに持ち運ぶことが可能です。

注目すべき点は、クッカーと一体型になった蛇腹状の吸熱フィン。これによりバーナーが生み出す熱を効率よく伝え、小さな火力でもすばやく沸騰させることができます。ガスの消費を最低限に抑えられるため、燃費のよさは抜群。燃料は、ガス(OD缶)を使用します。

最初の1台は「一体型バーナー」がおすすめ。その理由は?

登山用ガスバーナーの安全で正しい扱い方をマスターしよう | 正しい山道具の選び方・使い方 Vol.2 (左)「タテ型」の一体型バーナー、(右)「ヨコ型」の一体型バーナー

登山で使用する最初のバーナーにおすすめなのは、「一体型バーナー」です。

おすすめする理由は、 組み立てがカンタン、 着火しやすい、 軽い、 コンパクトで携行しやすい、 安定した火力が得られる、 湯沸かし&調理どちらにも向く、といった特長があり、初心者の方でも扱いやすい仕様になっています。

ここでは、SOTOの「マイクロレギュレーターストーブ ウインドマスター」と「レギュレーターストーブ」を使って解説していきます。

「タテ型」の一体型バーナー

ソト / マイクロレギュレーターストーブ ウインドマスター

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風にも寒さにも強いSOTOの定番バーナー。本体の重さはわずか60グラムと軽量性が魅力で、調理やお湯を沸かすのに使いやすいスタンダードなモデルとなっています。ゴトクが着脱式になっており、本体とは別々に収納することも可能です。

「ヨコ型」の一体型バーナー

ソト / レギュレーターストーブ

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キャンプから登山まで幅広く使えるのがこちらのヨコ型。一番の特徴はコンビニなどでも手に入る家庭用CB缶が使える汎用性の高さです。低温でも火力が落ちにくく、気温が低い場所での使用も、常に一定の火力を発揮します。

一体型バーナーは初心者でも扱いやすいものの、注意点も。「タテ型」モデルは、コンパクトなので狭い場所でも使いやすい強みがあるものの、高さが出るぶん安定性に欠けるため、クッカーの転倒には注意が必要です。もし、軽さ&コンパクトさよりも安定性を優先したいなら、「 レギュレーターストーブ」といった重心が低い一体型バーナーの「ヨコ型」モデルがおすすめです。

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そして、ゴトクの本数にも注目。ゴトクは「3本」か「4本」が一般的ですが、「3本」はより軽量でコンパクトになる強みがあり、「4本」はより安定感を得られる特長があります。どちらを選ぶかはお好みですが、面積の広いクッカーをのせるのであれば、「4本」を選ぶとよいでしょう。

「 マイクロレギュレーターストーブ ウインドマスター」は3本のゴトクですが、より安定性を求めるのであれば別売りの「ウインドマスター専用ゴトク フォーフレックス」を使用することをおすすめします。

一体型バーナー、正しく扱えてる?

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一体型バーナーは扱いやすく便利なので、すでに持っている方も多いことでしょう。でも、“なんとなく”使っていませんか? 

バーナーは、火を扱うアイテム。使い方を間違えてしまうと、大きな事故に繋がることも。山での食事を心ゆくまで満喫できるように、今回はOD缶を装着するタイプの一体型を例に、「バーナーの安全で正しい使い方」をいま一度確認しておきましょう。

✔︎ まずは、各パーツの呼び名からチェック


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【バーナー本体の各部名称】
● バーナーヘッド|火が出るところ
● 電極|着火のための火花を飛ばす重要な部分
● ゴトク|クッカーをのせる部分
● 点火スイッチ(イグナイター)|押すと電気が発生して、バーナーヘッドから出るガスに点火する装置
● 器具栓つまみ|つまみを回すと、ガスの出る量を調節でき、火力を変えられる
● ガスカートリッジ|液体になったガスが入っている

✔︎ 次に、着火までの手順をチェック


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【着火の手順】
1 .器具栓つまみを右に回し、完全に閉じていることを確認する
2. バーナー本体にガスカートリッジを取り付ける。この時、ガスカートリッジは垂直にしたまま取り付ける
3. ゴトクを開く(もしくはゴトクを装着する)
4. 器具栓つまみを少し回し、シューッと小さく音がするくらいに細くガスを出す
5. 点火スイッチを押して着火する(点火スイッチがついていない場合は、ライターの火を向ける)
6. 水などを入れたクッカーをのせてから火を大きくする

✔︎ 調理中の火力は、鍋底から炎がはみ出さない大きさで


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調理中の火の大きさは、最大でもクッカーの底面から炎がはみ出さない程度にしておきましょう。また、クッカーのサイズとバーナーの相性によっては、クッカーをのせたままだとつまみに手が届きにくいことも。そういったときは、少々面倒でも火からクッカーをおろして調整を。

✔︎ 調理する場所は、なるべく平らなところで


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もし、熱々のお湯を沸かしたクッカーがひっくり返ってしまったら…。危ないのは、言わずもがなですよね。調理の際は、なるべく平らなところを探しておこないましょう。また、草木やテントなど周囲に燃えやすいものがないかも確認を。

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とはいえ、山のなかでは水平な地面を探すのが難しいときもあるもの。そんなときは、まな板にもなる「置き板」を敷いたり、「折りたたみ式のミニテーブル」を使うと、不整地での安定性をアップできます。荷物は増えますが、安全性に加え調理中の快適性も上がるので、いつもの装備にプラスするのもひとつの手。

✔︎ 持ち歩きの際は、収納ケースに

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バーナーヘッドにある電極の位置がずれてしまうと着火しにくくなることがあり、バーナーヘッドは見た目よりもデリケート。また、むき出しのままだとクッカーを傷つけてしまう可能性も。双方の保護のためにも、バーナー本体は収納袋に入れて持ち歩くのがベターです。

TIPS 1|点火スイッチが使えない状況下、救世主となるのは「フリント式ライター」


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点火スイッチ付きのバーナーであっても、気温や風、湿度など自然条件によって点火がうまくいかないことがあります。そんなときのために、ヤスリを回転させて火花を発生させる仕組みの「フリント式ライター」を携行しておくと安心です。

意外と盲点なのは、湿度。天気が晴れていても夜露などで湿っていることはよくあり、点火スイッチが湿っていたり濡れていたりすると点火しにくくなるため、いざという時のために持参するとよいでしょう。

どんな危険性があるの? 安全に使うために知っておきたい【5つ】のこと

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山での調理を簡単にしてくれる便利な「バーナー」。しかし、やはり火を扱う以上は大きな危険性がつきまとうのも事実。安全に使うために知っておきたい、5つの重要ポイントもしっかりおさえておきましょう。

1. テントの中では使用不可!


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テント内でのバーナーの使用は、一酸化炭素中毒、ヤケド、火災のリスクがあり大変危険です。これは命に関わることでもあるため、火器を使用する際は必ずテントの外でおこなってください。

2. 調理中は、必ずクッカーの持ち手を握っておく


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火器によるヤケドでやりがちなのは、熱湯やアツアツの食材が入ったクッカーをひっくり返してしまうこと。原 山岳ガイドによると、グループ山行のときには「鍋持ち係」といって、鍋の持ち手を握っておく人を決め、鍋がひっくり返らないように対策する場合もあるそう。

ヤケドしてしまうと山では致命傷になることがあるため、安全性を高めるためにも、火にかけているときは念のため片手で握って鍋を安定させておくのも一案です。

3. 使用後は、体に触れないところに置いて冷ます

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ヤケドを防ぐため、バーナーやクッカーなどの熱が冷めるまでは体に触れないところに置いて冷ましましょう。テント泊時なら前室やテントの外に。

4. 必ず「PSLPGマーク」がついている製品を買う

登山用ガスバーナーの安全で正しい扱い方をマスターしよう | 正しい山道具の選び方・使い方 Vol.2製品によってPSLPGマークがついている場所は異なる

「PSLPGマーク」とは、国の法律で定められた厳しい検査をクリアし、ガス器具の安全基準に適合していることを証明する大事なマークのこと。近年、この「PSLPGマーク」を取得していない輸入品がインターネット上を中心に数多く出回っており、問題視されています。

もちろん、このマークがついていても、各々が正しくガス器具を使わなければ100%安全とはいえませんが、最低限の保安を確保するためにも、「PSLPGマーク」のないバーナーは買わないようにしてください。

5. 「Oリング」は消耗品。劣化のチェックを忘れずに

登山用ガスバーナーの安全で正しい扱い方をマスターしよう | 正しい山道具の選び方・使い方 Vol.2矢印の黒い部分がOリング

「Oリング」は、ガス器具とガスカートリッジを接続させる部分についている黒いリングのこと。ガス漏れを防ぐ、とても大事な役割をしています。しかし、Oリングはゴムでできているため、使用頻度に関わらず年月とともに劣化していきます(年に一度しか使用していないようなガス器具でも同様です)。

そこで大切なのが、劣化のチェック。一部が切れていたり、ささくれていたり、ひび割れていたりしたら、劣化しているサイン。縮んだり、硬くなっていたりするのも、Oリング交換の合図です。ガス漏れによる事故(やけど、火災、破裂など)を防ぐために、バーナーを使用する前は必ず“目視”で、異常がないことを確認しましょう。もしも異常を感じたときは、販売店やメーカーに相談を。

TIPS 2|中途半端に残ってしまったガスカートリッジ、どう使う?

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残量がちょっとしかないガスカートリッジを持て余している方、結構いるんじゃないでしょうか? 登山に持っていくには物足りない気がするけど、新しい缶と2つ持っていくのは荷物になるし……。仕方ない、満タンのガスカートリッジだけ持っていくか……というのが続くと、中途半端にガスの残った“余り缶”が溜まっていってしまうんですよね。それに、残量の少なくなった燃料はドロップダウン(ガスが気化しにくくなる現象のこと)しやすく、状況によっては使い物にならないことも。残り少しになったら、ちょっとした湯沸かしだけの日帰り登山で使い切ったり、登山オフの日にお庭でコーヒーを飲むなどして使い切りましょう。

またガスカートリッジを廃棄する際は、中身のガスを使い切るのが鉄則。空になったガスカートリッジの廃棄の方法は各自治体によって異なるので、自分の住む街の廃棄方法を調べておきましょう。

スタイルに合わせて選ぶ、各種バーナー

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ここまで一体型バーナーを軸にご紹介してきましたが、山行スタイルは人それぞれなので、必ずしも一体型バーナーが万人に最適解というわけでもありません。

●コンパクトさ、扱いやすさを最優先にしたい【一体型】
●複数人分のごはんを作りたい、調理の幅を広げたい【分離型(OD缶・CB缶)or 一体型のヨコ型】
●湯沸かしがメイン【一体型、高効率型、ポケット型】
●寒冷地で使用【分離型(ホワイトガソリン)】
●使い勝手のよさよりも軽さを最優先したい【ポケット型】

このように、山行スタイルや、何を優先したいかで選択肢が変わります。「どんなバーナーを買えばいいのか分からない」という方は、まずは自分の目的を明確することからはじめると、選ぶべきバーナーが見えてくるでしょう。

TIPS 3|ガスカートリッジにも種類がある

登山用ガスバーナーの安全で正しい扱い方をマスターしよう | 正しい山道具の選び方・使い方 Vol.2(左)ノーマル仕様、(右)寒冷地仕様

OD缶、CB缶問わず、ガスカートリッジには主にノーマル仕様と寒冷地仕様の2つのタイプが販売されています。これらの違いはブタンガスとプロパンガスの比率で、プロパンの比率が高い=寒冷地に向く仕様ということ。価格にも差があるので、状況に見合ったガスカートリッジを選ぶことで、結果としてコストパフォーマンスがよくなります。パッケージの違いはガスの混合比率の違いなので、購入時にチェックしましょう。

「山でごはんを作って食べる」時間は、至高のひととき

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これらのバーナーは「ストーブ」 と呼ぶこともあり、 緊急時には“暖をとる”役割としても活用できます。バーナーの安全で正しい扱い方をマスターし、危険性をしっかり理解したうえで、“山でごはんを作って食べる”という特別な時間を心ゆくまで楽しみましょう!

公益社団法人 日本山岳ガイド協会 認定山岳ガイド(山岳ガイドステージⅡ、スキーガイドステージⅡ)

原 岳広(はら・たけひろ)

バリエーションルート、沢登り、高難度縦走・ピークハント、アイスクライミング、バックカントリースキーなど、四季を問わずオールラウンドにガイド活動を展開。山岳ガイド歴は、サポートを含め約20年。山に行かない日は3歳から続けているクラシックピアノを弾いて過ごすことも。山と同じくらい音楽も楽しむ。

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