【快適に背負い続けるには?】バックパック選びのコツ・フィッティングの方法| 正しい山道具の選び方・使い方 Vol.3

「山道具の正しい選び方・使い方を知りたいけど、イマイチよく分からない」という方向けの連載企画。第3回目のお悩みテーマは、「バックパックの選び方とフィッティングのやり方」。

登山用バックパックは、衣食(ときに住)を運ぶ、なくてはならない山の相棒です。重たい荷物を快適に背負うため、各メーカーさまざまな工夫を凝らしていますが、そもそもの最重要ポイントは「そのバックパックが自分の体に合うかどうか」

今回は春〜秋の無雪期の登山を想定し、バックパックの種類、選び方のコツ、正しいフィッティングの仕方を山行経験豊富な山岳ガイドに教えてもらいました。

これから登山デビューする方はもちろん、「正しいフィッティングをマスターしたい」「次バックパックを買うときの参考にしたい」という方にも必見の内容です。

(監修:原 岳広、文:山畑 理絵)

バックパックの種類はさまざま

【快適に背負い続けるには?】バックパック選びのコツ・フィッティングの方法| 正しい山道具の選び方・使い方 Vol.3画像左から45L、40L、16Lのモデル

バックパックの容量・サイズ・仕様はさまざまで、目的や使用者によって最適なモデルが変わります。まずは、「容量の選び方」をチェックしましょう。


容量は、山行プランに合わせて選ぶ

【快適に背負い続けるには?】バックパック選びのコツ・フィッティングの方法| 正しい山道具の選び方・使い方 Vol.3

バックパックに入れるアイテムは、日帰り登山なら飲み物・行動食に防寒具、レインウェア、そしてファーストエイドキット。山小屋泊ならそこに防寒具や着替えがプラスされ、テント泊ならテントや寝袋、食糧なども加わります。

山行計画によって荷物の量は変わるので、それに見合った容量のバックパックを選ぶことが肝心です。

またどの山行計画でも、調理をする場合はクッカーやバーナー、食材も必要になり荷物が増えるので、+5〜10Lを目安に考えておくとよいでしょう。

日帰りハイクにおすすめ

ミステリーランチ/クーリー

雨蓋からバックパックの下部までY字型に大きく収納箇所が開く「3ジップデザイン」構造。パッキングが苦手な方でも簡単に荷物の収納・取り出しができます。ポケットも多く、デイハイキングに最適な大きさとなっています。

1泊2日山小屋泊におすすめ

マックパック/へスパー&ハーパー

背面のワイヤーフレームとウエストベルトが取り外しできる、汎用性の高いモデル。容量的には山小屋泊やUL思考のテント泊に適していますが、荷物が少ないときでも中身がブレにくい設計なので、日帰りハイクでも快適に背負えるでしょう。

2泊3日夏山テント泊におすすめ

ミステリーランチ/ブリッジャー

長時間のハイクでも快適な背負い心地をキープすることにこだわったモデル。背面長は体格に合わせて調整OK。取り外しできる雨蓋はショルダーバッグに変身するので、テントを張ったあとに周辺散策をしたいときや、下山後の観光時にも活躍します。

3泊以上の夏山テント泊におすすめ

エクスペド/ライトニング60

引き裂きに強く、耐水圧1500mmの高い撥水性を備えた生地を使用。素材は軽量ですが、ウエストベルトは程よい厚みがあるので、しっかりと腰で背負うことができます。背負う人の背面長に合わせてサイズ変更できるところもポイント。

バックパック選びのチェックポイント

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バックパックの「容量」がいろいろあれば、「仕様」もさまざま。同じように見えて、じつは異なる部分もあります。

では、一般登山向きのバックパックを選ぶときに注視したいポイントはどんなところでしょうか? 詳しく解説していきます。

チェックポイント【1】背面長サイズをチェック

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正確なフィッティングをおこなうためには、バックパック購入時に、自分の体に合った「背面長」を選ぶことがきわめて重要です。

※背面長とは、腰骨の上〜第七頸椎(下を向いたときに一番飛び出る骨)までの長さのこと

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おもに中型〜大型のバックパックには、同じモデルであっても背面長サイズが異なっていることがあります。

メーカーやモデルによって背面長サイズの表現はさまざまで、例えば、マックパックのユニセックスモデルの場合は【サイズ1(39-46cm)・サイズ2(45-52cm)・サイズ3(50-60cm)】、マックパックのウィメンズモデルなら【W1(37-44cm)・W2(43-49cm)】といったように、背面長サイズが設定されています。なかには、ワンサイズで背面長を微調整できるケースもあります。

背面長は使用する人の体格によって異なるため、必ず自分の背面長に合ったバックパックを購入する、これが快適に背負うための第一歩です。


チェックポイント【2】雨蓋の有無

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「雨蓋(あまぶた)」とは、バックパックの一番上にある袋状の部分のことで、「トップリッド」とも呼ばれます。

雨蓋は雨で荷室が濡れないようにする役割だけでなく、収納も兼ね備えており、素早く取り出したいアイテムや小物の収納に便利。なかには雨蓋を取り外せるモデルもあり、用途に合わせて使い分けができます。

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あれば便利な雨蓋ですが、荷物が少ない方や、軽量化を意識したい方、またサコッシュやウエストポーチを兼用する場合は、最初から雨蓋がないタイプを選ぶのも大いにアリです。

雨蓋のないモデルには、くるくる巻いて封をする「ロールトップタイプ」や、ファスナーでガバッと大きく開閉する「パネルローディングタイプ」があり、雨蓋がないぶん、素早く中身を取り出すことができます。

▼サブバッグでおすすめのアイテム

チェックポイント【3】ウエストポケットの有無

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中型〜大型のバックパックになると、ウエストベルトにポケットがついているケースが多く見られます。ご覧の通り、ウエストポケットはバックパックをおろさずに中身を取り出せる収納スペース。ちょっとした行動食やマップ、スマートフォン、日焼け止めや虫除けスプレーを入れておくのに重宝します。公共交通機関での移動があるなら、コンパクトなお財布を入れておいても良いでしょう。

一方、小型のバックパックにはウエストポケットがない傾向にあるので、さっと取り出せる収納がほしい方は、サコッシュなどで収納を拡張するのも一つの手です。

TIPS| 1|

サイドポケット、フロントポケットの安全性についても考えておく


多くのバックパックには、飲み物やトレッキングポールを入れておくのに便利な「サイドポケット」が備わっており、他にも収納力をアップする「フロントポケット」や「バンジーコード」が備わっていることもあります。

これらはバックパックの“表面”についているので、さっと取り出せる利便性がある反面、狭い登山道や岩場を通る際に引っかかったり、荷物を落としてしまったりする可能性がゼロではありません。

より安全に歩くためには、山の状況に応じてポケットを使う・使わないの選択を。とくに岩場では、バックパックの表面はシンプル&コンパクトにしておきましょう。

チェックポイント【4】ウエストベルトの仕様もいろいろ

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ウエストベルトの仕様も、モデルによってさまざまです。バックパックが大型になるほど、骨盤を包み込むような厚手のパッドになっている傾向にあります。

しかし、パッドが厚手=快適とも限りません。体型は、人それぞれ。自分の体とのフィット感がなによりも大事なので、ウエストベルトの厚みよりも、腰に巻いたときに違和感はないか、痛みを感じる部分はないか、体との相性を優先しましょう。



チェックポイント【5】ショルダーベルトの形状にも注目

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メーカーによっては「ウィメンズ」などと表記しているバックパックもあり、これは各ベルトの角度や厚みを変えるなど、女性の体型に合わせた工夫がなされています。

とくに胸元は男女で大きく差が出る部分で、ショルダーベルトがバストに干渉しにくい設計になっていることも。もちろん、女性モデルだからといって女性にしか合わないわけではないのですが、ショルダーベルトの形状はチェックしておきたいポイントです。

TIPS |2|

ザックカバーの必要性もチェック


ザックカバー(レインカバー)は耐水性の高いポリエステル素材などでできており、雨などから荷物を濡らさないよう、バックパックに被せるアイテム。ですが、外側から防水するのではなく、内側から防水するという発想に転換すると、防水性のあるスタッフサックで代用することができます。

やり方はシンプルで、バックパックの内側に防水スタッフサックを入れ、そこに荷物をパッキングするだけ。バックパックの表面は濡れてしまいますが、中身は守ることができます。ちなみに、原山岳ガイドは「大きなビニール袋で代用することもある」そう。

なお、近年はパックパック自体に耐水性の高い生地を使用しているケースも多く、天候によってはザックカバーが不要となる場合も。もちろん生地の耐水圧は気にすべき点ですが、パックパックそのものに耐水性があると「少し雨降ってきたな…ザックカバーした方がいいかな?」と悩むことがないので、雨天時の煩わしさを減らすことができます。


耐水性素材を使用したバックパック

マックパック / ウェカ

特殊なワックスに浸すことで、高い耐水性を持続する素材「ECO AZTEC」を使用。背面長は3サイズあり、体格に合わせて選べます。凹凸のあるメッシュ地の背面パッドを使用し、通気性の高さもポイント。軽さと耐久性のバランスがいいモデル。

正しいフィッティングをマスターしよう

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ときに何時間も荷物を背負って歩くことを担うバックパック。自分の山行プランに合ったバックパックを選ぶことももちろん大切ですが、何よりも重要なのは、背負ってみたときの違和感がない(重さを感じない)こと。

自分の体型に合ったバックパックを選び、きちんとしたフィッティングをおこなうと、肩、背面、腰で荷重を分散できるため、疲労を軽減し、ストレスのない山歩きにつながります。手で持ち上げると「重い」。でも、背負ってみると「意外と重たくないかも」。こう感じることができたら、自分に合ったフィッティングができている証拠。

そのためにも、正しいフィッティングの仕方を覚えておきましょう。

フィッティングの手順
1|4つのベルト適度に緩めてから、バックパックを背負う
2|ウエストベルトを腰骨の上に載せ、一定の荷重を感じるくらいに締める
3|ショルダーベルトを引いて、肩と背中にフィットするように調整する
4|トップストラップを引いて体に引き寄せる
5|チェストベルトを締める

では、フィッティングのやり方を詳しく解説します。


1|4つのベルトを緩めてから、バックパックを背負う

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ここでいう4つのベルトとは、「ウエストベルト」、「ショルダーベルト」、「チェストベルト」、「トップストラップ」で、これらはフィッティングを高めるためのベルトです。各ベルトがきついままだとフィッティングしにくくなるため、背負う前に適度に緩めておきます。

トップストラップ以外は、背負ったままでも緩めやすい部分なので、バックパックをおろすときに緩めておくとこの手間が省けます。

2|ウエストベルトを腰骨の上に載せ、一定の荷重を感じるくらいに引き締める

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バックパックを背中に担ぎ、腰骨の上でウエストベルトを引き締めます。一定の荷重を感じられるくらいしっかりと締め、腰骨の上に固定します。

4|ショルダーベルトを引き、肩と背中にフィットするように調整する

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ショルダーベルトを引いて、左右対称になるように位置を調整します。このとき、ショルダーベルトを斜め下に引っ張ると締まりやすくなります。肩と背中にバックパックがフィットしていることを確認しましょう。

4|トップストラップを引いて体に引き寄せる

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トップストラップがあるモデルは、トップストラップを引いてバックパックを体に引き寄せます。体側に重心を置くことでバランスがよくなり、歩行が安定します。
ただし、引きすぎると前傾になり肩の動きを制限してしまうので、ほどよい密着感にしておくのがポイント。

5|チェストベルトを締める

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チェストベルトを肩幅に合わせて締め、左右のブレを抑えます。ここはきつく締めすぎず、ショルダーベルトが外側に開かない程度に調整します。

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チェストベルトの位置は、鎖骨の少し下あたりが適正です。

なかにはチェストベルトの位置を変えられるモデルもあるので、そういった場合は予めチェストベルトの高さを設定しておきましょう。


ここでフィッティングは完了です。体のどこかに違和感はありませんか? もししっくりしない部分があれば、フィッティングをし直してみてください。

なお、体に感じる重さは「肩、背面、腰に程よく荷重が分散する状態」がベストです。

TIPS 3|

肩や腰が痛いときの解決法


肩や腰が痛くなるときは、ベルトの締め具合が合っていないことが考えられます。まずは各ベルトを緩めたりきつくしたりして、微調整を。いろいろなポジションを試して、痛くないポイントを探りましょう。

それでも解決しない場合は、他の要因の可能性も。バックパックの耐荷重はオーバーしていないか? 本当に自分の体に合っているのか? 見直してみてください。

■ バックパック自体の重量も意識しておくと◎

【快適に背負い続けるには?】バックパック選びのコツ・フィッティングの方法| 正しい山道具の選び方・使い方 Vol.3

バックパックは、荷物を運ぶもの。空っぽのまま山を歩くことはありませんよね。となると、バックパックそのものの重量に荷物の重さがプラスされ、登山アイテムを積載したバックパックはどんどん重くなっていきます。そのため、バックパックが自分の用途・体に合っているのであれば、バックパック自体軽いに越したことはありません。

30〜45Lの一般登山向きのバックパックなら1,300g〜2,000g程度、30〜45Lの軽量化を意識したモデルだと概ね1,000g前後を目安として考えておくとよいでしょう。

TIPS 4|

あると便利なパッカブルタイプ


山頂近くの山小屋からピークハントするときや、テント泊時にベースキャンプを作って周辺を散策するときなどは、すべての荷物を背負って行かなくていいので、携行しやすいサブパックが大活躍。アタックザックとして使わないときは、スタッフサックとして使うとムダがなく◎。

パッカブルタイプのおすすめモデル

バックパックは、自分とのフィット感がなによりも大事

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最後に、今回の重要ワードをおさらいしておきましょう。

  • バックパックの容量と仕様は、山行プランに合わせて選ぶ
  • 購入時は、必ず背面長サイズをチェック。自分に合ったサイズを買う
  • フィッティングは、「違和感がない」この感覚が大切


繰り返しになりますが、バックパック選びの一番のポイントは「体にフィットするバックパックに出会い、正しくフィッティングする」ことです。体格に合っていないバックパックを背負って歩くというのは、サイズの合わない登山靴を履いて歩き続けているようなもの。そう考えると、全然快適ではありませんよね。

もちろん、見た目のデザインの好みも大事ではありますが、「背負ってラク」「使ってラク」なバックパックを選ぶことで、山歩きをもっと快適に楽しめるはずです。

もしも、バックパック選びに迷ったら、
1、体とのフィット感がいい
2、バックパック自体の重さが軽い
3、山行プランに合った(好みの)仕様になっている
この優先順位で、自分にとって“シンデレラフィット”のバックパックを見つけてください。

公益社団法人 日本山岳ガイド協会 認定山岳ガイド(山岳ガイドステージⅡ、スキーガイドステージⅡ)

原 岳広(はら・たけひろ)

バリエーションルート、沢登り、高難度縦走・ピークハント、アイスクライミング、バックカントリースキーなど、四季を問わずオールラウンドにガイド活動を展開。山岳ガイド歴は、サポートを含め約20年。山に行かない日は3歳から続けているクラシックピアノを弾いて過ごすことも。山と同じくらい音楽も楽しむ。

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