グローバル展開に挑む、NANGAの次なるビジョン

国産ダウンメーカーとして登山者に親しまれているNANGA(ナンガ)。寝袋をはじめ、上質なダウン製品に定評がありますが、近年はさまざまなブランドやショップ、アパレルとのコラボレーションアイテムも注目を集め、日本を代表するメーカーとして急成長してきました。そんなNANGAが描く未来は「世界に通用するアウトドアブランド」。代表の横田智之さんに、これまでの歴史からブランドの理想像まで、経営者としてのビジョンを伺いました。
(インタビュアー:乙部晴佳、記事:小林昴祐、写真:渡部健五 )

羽毛布団、寝袋、そしてアパレルへ。時代の波に合わせて進化を続けるNANGA

グローバル展開に挑む、NANGAの次なるビジョン滋賀県にあるNANGA本社

— 以前はNANGAと言えば「寝袋のメーカー」というイメージがありましたが、今ではアパレルも手がけるなど、ユーザーにとっての認知の幅が広がったように思います。あらためて、ブランドの成り立ちについて教えていただけますか?

創業は祖父の代で、1941年です。実は元は自転車店だったのですが、中綿の布団メーカーに業態を変え成長しました。拠点は滋賀にあります。よく「なんで滋賀なんですか?」と聞かれるのですが、もともと祖父が住んでいた場所というだけ。製造も流通も問題ありませんし、とくに東京や大阪に出る必要もなく、今も滋賀に本社を置いています。

グローバル展開に挑む、NANGAの次なるビジョンNANGA本社は伊吹山の麓にあり、本社からは雄大な伊吹山が望める

羽毛布団メーカーがアウトドアの寝袋を作りはじめたのはなぜか、というのは、羽毛布団だけでは会社が成り立たなくなりそうだったから。父の代なのですが、当時は羽毛布団というと訪問販売が主流でした。一枚30〜40万円もする高価な羽毛布団でしたが、よく売れていたんです。

しかし、次第に他社メーカーの生産拠点が海外の工場に移るとコストが下がり、国産にこだわっていた弊社では太刀打ちできなくなってきました。そこで目をつけたのがアウトドア用の寝袋でした。扱っているものは羽毛なので近しいものがありましたし、寝具という共通点もあり比較的入りやすかったのだと思います。ちなみにNANGAというブランド名は、寝袋を製造しはじめた父の代に生まれました。名前の由来はパキスタンにある8126mの山、ナンガ・パルバットです。

グローバル展開に挑む、NANGAの次なるビジョンNANGAのロゴの背景には名峰ナンガ・パルバットの山影が描かれている

— 今では寝袋だけでなく、ダウンジャケットなどのアパレルも製造していますね。寝袋メーカーの枠を飛び出していく理由は何なのでしょうか?

登山やキャンプをする人にとって寝袋は必須アイテムですが、そうでない人にとっては馴染みがありません。広い視野で見てみると、とてもニッチな産業なんですよね。同時に寝袋は秋〜冬に売れる商品でもあり、4〜8月が製造の閑散期となっているのも会社として改善したい点でした。

そこで目をつけたのがアパレルでした。アパレルは販売店からのオーダーが早く、その閑散期に工場を稼働させることができる。また、寝袋はニッチな産業ですが、アパレルはよりマスに向けて発信しやすいという狙いもありました。

グローバル展開に挑む、NANGAの次なるビジョン代表の横田智之さん。NANGAの事業の中でも、経営やアパレル部門、新規事業を担当している

ただ、寝袋のメーカーがアパレルをやると言っても、そんなに簡単なものではありません。寝袋とダウンジャケットはまったくの別物。布団を作れれば寝袋を作れるわけではないし、寝袋が作れればダウンジャケットが作れるわけではない。原材料が一緒なだけ。

ーアパレル製品の生産に踏み切った際に、特に苦労されたのはどんな点でしたか?

一番難しかったのは生産のノウハウを蓄積すること。これはすべてのものづくりに通じますが、ノウハウがないまま製品づくりはできません。ある程度のモノを作ることはできても、そこから高い段階に上げていくのが大変なんです。

グローバル展開に挑む、NANGAの次なるビジョン

最初にダウンジャケットを製造したときは年間600着のオーダーでも納期遅れを起こしました。今は15万着ほど製造していますが、ゼロから1にするためにすごく勉強し、社員と一丸となってノウハウを蓄積したからこその成長だと感じています。

ちなみに、副社長は弟なのですが、寝袋の部門は彼が、アパレルなどの新規事業は私が担当しています。もう15年以上一緒に働いていて、会社の急成長を共に支えた戦友のような存在です。

グローバル展開に挑む、NANGAの次なるビジョン寝袋部門を担当する、副社長の横田敬三さん(左)

前例のない「アフターケアサービス」付きの寝袋

グローバル展開に挑む、NANGAの次なるビジョン

— NANGAと言えば、アフターケアサービスや国内生産というイメージがありますが、どのように運営されているのでしょうか?

アフターケアに関しては、専門に対応するスタッフが在籍し、空いた穴を塞ぐなどの修理を寝袋であれば基本無償(※ファスナー交換や羽毛の増量、生地交換などは有償修理)で、ジャケットは有償で行っています。冬季などのハイシーズンだと毎週20点くらいは修理対応していますね。実はこのアフターケアサービスは運営がすごく大変で、生産に使った生地やパーツを修理用に残しておかなければいけなかったりと、はじめた当初からやめた方がいいと言われていました。

グローバル展開に挑む、NANGAの次なるビジョンアフターケアサービスは、修理箇所を専任の方が一つづつ確認し、生産ラインの担当の方に的確な指示がされ修理が行われる

しかし、海外で製造されているものがほとんどの寝袋市場において、後発ブランドである私たちが新たに参入していくのであれば、他のブランドにはできないことで差別化をはかりたかったんです。日本で作っているからこそ、直して使いつづけられることに価値があると考えました。

きちんとメンテナンスをすることが大前提ですが、外側の生地は劣化しても、中の羽毛は基本的に劣化しません。50年はもつと言われています。NANGAでは、中身をリメイクすることも可能なんです。

グローバル展開に挑む、NANGAの次なるビジョンNANGA国産寝袋の製造現場

— 現在はアメリカなど海外の展示会への出展など、活動の場を広げていると伺いました。

私はNANGAをグローバルブランドにしたいんです。今、NANGAの生産キャパシティーは寝袋やアパレルなどをまとめると15万点ほど。国内での流通では十分かもしれませんが、世界に目を向けてみると15万点「だけ」なんですよね。

今取り組んでいるのは、ユーザーからのニーズに100%応えられる体制づくりです。これからNANGAがもっと育っていくためには、絶対的な生産キャパが必要。それは国内だけではまかないきれません。国内の製造業では職人の高齢化も進んでいます。

これまでは「MADE IN JAPAN」の国内生産が中心でしたが、これから先はどこの国でどんな製品を作っても、「NANGAの製品っていいよね」というクオリティのある製造体制を構築するのが目標です。

グローバル展開に挑む、NANGAの次なるビジョン
グローバル展開に挑む、NANGAの次なるビジョン

グローバルで戦っているブランドは、生産国で選ばれていません。「MADE IN JAPAN」にこだわりたい人は国内製造のものを選べばいいし、そうでなくてもNANGAの製品が欲しい人に確実に供給するためにはグローバルでの生産体制を作ればいい。世界で100万点を製造し、日本で5万点でもいいんです。むしろそのことで日本製の価値も上がると思います。

今では、寝袋やアパレルなどの全製品の7割が国内、3割が海外で製造しています。本社工場では60名ほどが働いていて、年間1万着を製造しています。私が会社を継いでアパレルをはじめてから12年、生産規模は約5倍になりました。

グローバル展開に挑む、NANGAの次なるビジョン

海外販売への足掛かりとしては、OR(アウトドアリテイラー)ショー(アメリカで開催される、世界最大級のアウトドア展示会)に出展しています。もう7年ほど出展をつづけていますが、そこで感じたのは、現地からすると日本なんて所詮「アジアの一国」だということ。「ジャパンクオリティ」という言葉もありますが、とくにアメリカ中部の方たちにとって、日本製であることの価値というのはないに等しいんです。いいものかもしれないけれど高い、と。

西海岸や東海岸はファッション的な視点もあり、むしろ「MADE IN JAPAN」がウリになる。ただ、ファッションとしての一時的な評価はいずれ廃れてしまいます。需要のボリュームとして圧倒的に大きい中部に、いかに浸透できるかが、NANGAというブランドが世界で認められるための一手になると感じ、精力的に取り組んでいるところです。NANGAの製品はいいものだと、アメリカをはじめ世界の人たちに知ってもらいたいし、届けていきたいんです。

日本で培ったノウハウを活かして世界を見据える

グローバル展開に挑む、NANGAの次なるビジョン

— 世界進出を視野に入れて活動するにあたり、NANGAの強みはどこにあるのでしょうか?

これまでのノウハウの蓄積と開発ですね。海外で生産し、市場を拡大していく上で、日本での経験と製品クオリティが大切な鍵になります。自分たちが工場を持ち、いい製品を作れるからこそ、グローバルチェーンでの指導が可能になります。そのためには、まず日本でさらに優れた製品を作ることが必須。

NANGAの製品は正直安いものではありません。だけど、きちんと手間をかけて生産しているし、中身に嘘はついていません。ここ数年、世の中のダウンのクオリティは正直驚くほど下がっています。その中でNANGAはダウンのクオリティを維持するための手間を惜しまないから、ふっくらと反発力がありデッドエアをためやすいダウンになります。また、ダウンはフィルパワーや使用温度の数値的な側面で機能を判断されがちですが、私たちは数値表記で商品を実際よりもよく見せることはしません。

グローバル展開に挑む、NANGAの次なるビジョンダウンの吹き込みの様子。一つのキルトに吹き込むダウン量にまで、NANGAのノウハウが凝縮されている

外側の素材とダウンの相性や、どこにどのくらいのダウンを入れれば、使った時にいかに快適にすごせるかというパフォーマンスの部分にも心血を注いで開発してます。それが実際に使ってみてあったかいという評価に繋がるのだと思うし、正直そんなダウンブランドは他にはないと思います。そのノウハウの蓄積こそが日本のブランドの意味でもあると考えています。

ー海外生産に踏み切る際、迷いはなかったですか?

かつて、海外生産をはじめるときに全社員を集めて意見を聞いたんです。やはり社員からは賛否両論ありました。海外生産にすることでブランドがダメになると思う社員もいました。でも、私が考えていたのは、大事なのは生産国関係なく、ユーザーに買ってもらい、使ってもらえるかどうかということなんです。

グローバル展開に挑む、NANGAの次なるビジョン

ー最後にNANGAのユーザーさんに伝えたいことなどはありますか?

私はNANGAという会社の3代目として、ブランドの方向性を決め、経営していくことが仕事です。そして、どこまで行けるかはわからないけれど、私たちはグローバルで戦えるブランドになりたいと思っています。

そのために寝袋という枠にとらわれず、グローバル市場で戦っていくための施策をいろいろと考えていますが、我々の本質は質の高いダウン製品を製造することであって、それ以上でも以下でもありません。付随する要素がファッションなのか、技術機能なのかはまだわかりませんが、ダウン製品作りには決して手を抜かないことを約束します。

培ってきたノウハウを捨てず、軸をぶらさなければ、どんな新しいことをやってもいいと思っていますし、だめならやめてもいい。いろいろやってみて、お客さんに判断してもらいたいと考えています。世界中の人が納得し、いいと感じてもらえる製品を作る。それがNANGAのミッションです。

YAMAPオリジナルモデルが登場

グローバル展開に挑

NANGA(ナンガ)とYAMAPがコレボレーションして開発した「YAMAPオリジナル UDD BAG450 HD」。軽さと暖かさを高次元で両立したフードレススタイルのユニークなモデルです。3シーズンのテント泊登山をもっと快適に、軽快にするYAMAPだけのオリジナルモデルは数量限定。気になる方はお早めにチェックしてみてください。

NANGA(ナンガ)/横田智之・横田敬三

NANGA(ナンガ)/横田智之・横田敬三

横田智之(よこたともゆき) 代表取締役社長 2001年に株式会社ナンガに入社。 入社後、約2ヶ月間の山行を経て営業へ。その後、アパレル(ダウンジャケット)の製造・販売を手掛ける。 現在では、その営業や山行・アパレルのノウハウを活かし更なる製品開発に携わっている。 横田敬三(よこたけいぞう) 代表取締役副社長 2007年に株式会社ナンガへ入社。 前職のアウトドアアクティビティのインストラクターなどの知識を活かし寝袋の営業へ。 現在では、ナンガのフラグシップアイテムともいえる寝袋(スリーピングバッグ)の製品開発に携わっている。

    紹介したブランド

    • NANGA

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