「WAGAMAMA(わがまま)」が受け入れられる社会を目指して。2人の若き経営者が、だれもが使える吸収型ボクサーパンツを作る理由。
前々から計画して、楽しみにしていた山の予定が毎月来る女性特有の不調と重なったときの残念な気持ち。行きたい気持ちはあるのに、思う存分楽しめないかもしれない、なにかあったらどうしよう、行くのをやめようかなどと、ネガティブなことばかりが頭をよぎります。
女性の体ならではのストレスから少しでも自由になるために、YAMAPが提案するのが「吸水ショーツ」。下着自体に吸水性を持たせることで、履くだけで生理前後の期間を過ごせる、新しいスタイルのサニタリーショーツを、山に取り入れようという提案です。
「OPT(オプト)吸収型ボクサーパンツ」は、女性アスリートが開発した、スポーツを楽しむすべての人のための吸水ショーツ。スポーツの現場で、女性ならではの体の悩みと向き合い続けてきた2人のサッカー選手が、多くの女子アスリートたちの声を取り入れて、本当に自分たちが欲しいと思えるものを作りました。
従来の女性専用プロダクトの枠を越え、ガマンし続けてきた悩みから解放されるための、新しい選択肢。「OPT」ブランドを手掛ける、株式会社Rebolt(レボルト)の2人の代表、内山穂南さん、下山田志帆さんにお話を伺いました。
(インタビュアー/記事:小川郁代、撮影:鈴木千花)
左)内山穂南
1994年生まれ、埼玉県出身。9歳からサッカーを始め、十文字高校サッカー部、早稲田大学ア式蹴球部女子部に所属。大学卒業後、単身イタリアへ。プロサッカー選手として1年半プレーする。“カルチョの国”での生活から日本社会における“当たり前”に違和感を抱き、2019年に帰国後、下山田志帆と共に株式会社Rebolt を創業。サッカー指導やAEDの普及活動など幅広く活動。
右)下山田志帆
1994年生まれ、茨城県出身。現役女子サッカー選手。慶應義塾大学卒業後、ドイツで2シーズンプレー。同性のパートナーがいることを公表している。「普通はこうあるべき」をなくし、1人ひとりの個性が肯定される社会を目指し株式会社Reboltを起業。Forbes UNDER 30 JAPAN 2021選出。
「機能がどんなに優れていても、デザインひとつで使えない人がいる」
海外チームでも活躍した、2人の女子サッカー選手が起業して今年で4年目。ブランドメッセージに「WAGAMAMAであれ」を掲げ、1人ひとりの個性が肯定され、ありのままの自分に誇りをもつことができる社会をつくるための、さまざまな活動を行なっています。
―最近はファストファッションブランドでも販売されるなど、ここ数年で吸水ショーツを目にする機会が増えました。認知度もかなり上がっているのではないでしょうか。
- 下山田
そうですね。もともとは海外で使われていたものが、日本に入ってきたのが2019年ごろ。最近になって商品は爆発的に増えましたが、実際に使っている人はまだ多くない状況なので、これからもっと市場を大きくしていこうとしているところです。
―最初に吸水ショーツを作ろうと思ったきっかけは?
- 下山田
2019年に会社を立ち上げて、私たちの目線で、なにか世の中の人のためになるものが作れないかと考えていた時に、ちょうど日本に入ってきたばかりの吸水ショーツを知って、「めちゃくちゃいい!」と思いました。でも、当時の商品は、いわゆるショーツ型のフェミニンなデザインのものばかりで、自分たちが使いたいと思えるようなものはありませんでした。
吸水ショーツは女性のものだから、女性らしいデザインが当たり前だという考えだと、機能がどんなに優れていても、使えない人がでてきてしまう。それっておかしいよねって。だったら、私たちが本当に使いたいと思えるもの、必要としているすべての人がストレスなく使えるものを作ろうと思ったのがきっかけです。
―ご自身のnoteの記事で、試合中にナプキンを落としそうになった話や、試合後のグラウンドにナプキンが落ちていたというエピソードに触れられていますね。
- 下山田
恥ずかしいし、不快だし、みんなが本当に大きなストレスを感じていたと思います。使い捨てのナプキンは、ウェアが搾れるほどの汗をかいたり、水たまりにスライディングすることを想定していないので、サッカーになじまないのは仕方ありません。タンポンを使う人もいますが、ナプキン派には非常に厳しい状況が、当たり前だと思っていました。そんな悩みを長年抱え続けてきたので、吸水ショーツには、運命的な出会いを感じました。ただ、自分たちが作るのであれば、当初感じたデザインの違和感をなくすだけでなく、アスリートにも本当に納得してもらえるものでなければ意味がないと思い、機能面には徹底的にこだわりました。
554人のアスリートを納得させる機能へのこだわり
―具体的にこだわったポイントを教えてください。
- 下山田
サッカーでは大きく足を伸ばすことが多いので、第一にストレッチ性は不可欠でした。ものすごく伸びがよくて縫い目もないという、理想的なものができたのですが、ストレッチ素材のボクサーパンツ型に、吸水部分をつけるのがすごく難しくて。吸水部分と本体をつなげるためのパターンは、何度も繰り返し見直しをして、ようやく納得のいくものができました。プレーに集中するためには、安心感がないと気持ちよく履けないので、吸水部分をかなり大きくしていています。ボクサーパンツの内側にもう1枚、ビキニ型のショーツがぶら下がっているような構造で、後ろ側にも大きく吸水部分があるので、寝ころぶような姿勢をとるスポーツでも、安心して使えます。
- 内山
吸水部分をもっと小さくすることもできたのですが、中途半端な大きさにすると、継ぎ目が肌に当たる違和感があって、「普段とは違うものを履いている」という感覚が強いんです。それをできるだけ避けたくて、普通のボクサーパンツと同じように履けることを重視した結果、前後ともウエスト近くまで届く、今の形にたどり着きました。
- 下山田
私たちはアスリートの視点でものづくりをしているので、分厚くて動きにくいだとか、汗でべたつくといった不快感は、絶対に残したくありませんでした。そのために、4層構造の素材選びには、とくに強くこだわりました。吸水性は保ちながら、可能な限り薄くして、サラサラとした肌触りの素材を選びました。ニオイ防止や抗菌性にも自信を持っています。
- 内山
細かい部分にもこだわっていて、横漏れを防ぐために、周囲には肌へのストレスがない、フラットな防水テープをつけました。吸水部分に入っているステッチは、履いた時に自然にサイドが立ち上がって、体にフィットして漏れを防ぐための工夫。いかに厚みや肌ストレスを増やさずに、快適に安心して使えるかを徹底して考えています。
- 下山田
自分たちでも数えきれないくらい何度も試しましたが、開発の段階でアスリートに製品を配りまくって試してもらいました。テストには、あらゆる体格の、総勢554人ものアスリートが参加し、ちょっとでも気になるところがあれば修正するという作業をとことん繰り返しました。
- 内山
とにかく、プレー中に汗をかいても、ムレる感じがぜんぜんないんですよね。ニオイも気にならない。本当にすっと消える感覚があって、逆に不安だという声もあったくらい。
- 下山田
OPTの吸収型ボクサーパンツは、30~35mlの吸水力がありますが、多い日や使用時間が長いときなどは、その他の吸水ケアアイテムとの併用をおすすめしています。ラインが出ても下着っぽさがないので、下から見られる機会も多い登山にも、ボクサー型の吸水ショーツがすごく合うと思います。
- 内山
クラウドファンディングでこの商品を紹介したときに寄せられたコメントで、尿漏れに悩む男性や、トイレが近くて心配という人など、生理以外の用途でこの商品のニーズがあることに気付かされました。ボクサータイプにしたことで、使う人の幅が大きく広がって、だれもが心地よく使えるものができたと思います。
「当たり前」が覆された海外での経験
―会社を起こそうと思ったのには、どのような経緯があったのでしょうか。
- 内山
私は2019年までイタリアでサッカーをやっていて、当時、現役を終えた後のキャリアについて悩んでいました。サッカーやスポーツの世界で培ってきた価値を、どうやったら次のキャリアに変換できるのかって。ちょうどそのころ、ドイツでプレーしていた下山田に会いに行って、いろいろと話をするうちに、2人に共通する価値観や、やりたいことがはっきりと見えたのが、起業の出発点になったと思います。
イタリアに行って感じたのは、日本にいたときの私が、サッカーでも日常生活でも、男性は、女性はこうあるべき、アスリートはこうあるべきという、「当たり前」や「普通」という考えに、いかに凝り固まっていたかということです。イタリアでプレーするうちに、その考えが打ち砕かれて、自分らしく、居心地よくいられるという実感がありました。でも、それが日本ではできないとか、サッカーのフィールドを出たらできないのはおかしい。もっとありのままに生きられる世の中にするために、なにか始めたいと思いました。イタリアではチームメイトから「うっちーって好きな人いるの? 彼氏? 彼女?」みたいな感じで、気軽にストレートに聞かれるんですよね。日本でそんな聞かれ方をすることはなかったし、自分もどう答えるか返事に困っていたと思います。
- 下山田
私もドイツで、同じようなことを感じていました。それぞれが「自分は自分だ」というという意識が強いし、周りのチームメイトも、日々関わる大人たちのふるまいも、みんなが私たちの言葉でいう「WAGAMAMA」だと思いました。それが、私自身とても居心地がよくて。日本でもみんながWAGAMAMAでいいと思えたら、絶対に生きやすい社会になると確信しました。今やっているサービスや扱っているプロダクトは、それを実現するための手段です。
起業のもう一つの目的として、女子サッカー選手の価値を、選手としても社会人としても上げたいということがあります。今でこそ、日本にも女子サッカーのプロリーグがありますが、当時はアマチュアリーグしかなかったから、選手はサッカーをするために、価値や意義を感じられない仕事をしながらプレーをしていました。プロとして活動するようになっても、男子に比べて女子サッカー選手は、社会的地位が低いという実感があり、引退後のキャリアの選択肢も非常に限定されています。そんななかで、私たちが自分たちのやりたいことで起業した姿を見せることが、女子選手のキャリアの選択肢を広げることにつながり、これからのサッカー界のためになると思いました。
覚悟の証としての株式会社設立
―やりたいことがあっても、サッカーの世界からいきなり株式会社を起こすのは、それほど簡単なことではないと思いますが、その原動力はどのようなところにあるのでしょう。
- 内山
2019年に帰ってきて、すぐに会社を立ち上げたわけではなく、最初は任意団体としてさまざまな活動をしていました。でも、元アスリートと現役アスリートとして周りの大人たちに話をしにいっても、任意団体だとちゃんと話を聞いてもらえないんですよね。それでも、やりたい気持ちは高まっていたので、覚悟を見せるつもりで株式会社を作りました。正直その時点では、会社の種類もよくわかっていなくて、定款ってなに? という状態でしたが、とにかく必死で必要な書類を作って登記申請したら、株式会社ができました。正直なところ、ノリと勢いですね。2019年の10月のことです。
―下山田さんは起業後も現役としてプレーを続けていらっしゃいますが、選手とビジネスの二刀流に難しい点はないですか? 2人の時間の使い方も違うと思いますが。
- 下山田
私はたぶん、会社勤めには本当に向いていないと思います。だれかから与えられたモチベーションで仕事をすることが本当に苦手なので、起業するのは自分にとってはすごく自然なことでした。結果として、選手としての顔と起業家としての顔が、自分のなかですごくいい関係性を保てていて、お互いに生かし合えることがたくさんあるので、とてもいいバランスでやれていると思います。
- 内山
2人の役割とか強みが全く違うので、それを生かす場所が違うから、お互いの時間の費やし方にもまったく違和感はないですね。
- 下山田
私はOPTというブランドの価値観やアイデアを生み出す立場で、内山はそれを、世の中に届くようにちゃんと翻訳してくれるんです。
―最高のビジネスパートナーですね。高校の同級生で、同じサッカーチームで戦った仲ということですが、昔から仲がよかったんですか?
- 内山
同級生で3年間同じクラスで、サッカーも一緒で、しかたなく一緒にはいたけれど、とくに仲がいいわけじゃなかったよね。
- 下山田
そうだよね。当時のチームメイトも、2人が一緒に起業したことを、かなり不思議に思っていると思います。たまたま、やりたいこともタイミングも、ぴったり合ったという感じですね。
―これからOPTとしてやりたいことや、大切にしたいことを教えてください。
- 下山田
OPTブランドは、これからアンダーウェアとアパレルの、2つのラインで展開していく予定です。アパレルは、トランス男性やノンバイナリーなど、衣類はメンズのものを着たいけれど身体にフィットするものがなく悩んでいる人のためのライン。今日私たちが着ているトップス、パンツと、ほかにジャケットもセットアップで作っています。
世の中の困っている人のためのプロダクトって、その目的に注力するあまり、クオリティの部分がおろそかになったり、無駄に値段が高くなったりしがちですが、それでは意味がないと思っています。だれが使ってもいいと思えるものを、困っている人にも同じように届けることを大切に。そして、アパレルならかっこいい、吸水ショーツなら悩みを解決できそうだとか、商品の魅力に興味を持ってもらい、その背景として、私たちが「普通がない」社会を目指していること、「女性らしさ」「男性らしさ」だけではなく、自分にあった選択肢を提供したいと思っていることを、知ってもらえたらうれしいです。
OPT(オプト)/吸収型ボクサーショーツ YAMAPジップパック付き
株式会社Rebolt(レボルト)
左)内山穂南 1994年生まれ、埼玉県出身。9歳からサッカーを始め、十文字高校サッカー部、早稲田大学ア式蹴球部女子部に所属。大学卒業後、単身イタリアへ。プロサッカー選手として1年半プレーする。“カルチョの国”での生活から日本社会における“当たり前”に違和感を抱き、2019年に帰国後、下山田志帆と共に株式会社Rebolt を創業。サッカー指導やAEDの普及活動など幅広く活動。 右)下山田志帆 1994年生まれ、茨城県出身。現役女子サッカー選手。慶應義塾大学卒業後、ドイツで2シーズンプレー。同性のパートナーがいることを公表している。「普通はこうあるべき」をなくし、1人ひとりの個性が肯定される社会を目指し株式会社Reboltを起業。 Forbes UNDER 30 JAPAN 2021選出。