PAAGOWORKSが提案する「アウトドア自由主義」とは?!
カーゴ 55、ニンジャタープ、2つのキーアイテムから紐解く山遊びの奥深さ。
日本が誇るアウトドアブランド〈パーゴワークス〉。というとちょっと大げさに聞こえるかもしれないが、海外ブランドが押し寄せ、国内の総合ブランドがしのぎを削るアウトドア業界において、「日本のフィールドをいかに楽しく遊ぶか」に対して真摯に取り組むことで開発されたパーゴワークスのユニークなプロダクトは、コアユーザーだけでなく幅広いアクティビティを楽しむアウトドアマンたちから愛されてきた。
今回は、そんな〈パーゴワークス〉のアイコンともいえる2つのプロダクトを中心に、ブランドの代表である斎藤 徹さんのアウトドアに対する思いをお届けする。
[インタビュアー / 撮影 / 記事:小林 昂祐]
バックパックを再構築した〈カーゴ 55〉
まずご紹介するのが、〈カーゴ 55〉。一見よくあるバックパックのようだが、ベルトで荷物を支え、背面システムで背負う、いわば「現代版背負子(しょいこ)」ともいえるプロダクトだ。ちなみにこのカーゴシリーズは、2012年に35リットルモデル、2014年に40リットルモデルが発売。そして2019年に55リットルという、さらに上の容量を備えて発売されたという経緯がある。
パーゴが提案する、現代版背負子とは?!
斎藤「最初のモデルは、どちらかといえばULスタイル。生地が薄く、軽量、サイドから締め込むタイプでした。この〈カーゴ 55〉もコンセプトはその頃から変わりません。ただ、容量が大きくなるにつれ、増えた荷物や重くなる荷重に対応できるように設計をイチから組み直しています」。
斎藤「背負子といえば、やっぱりたくさんの荷物を背負うための道具。せっかく背負子のように使えるのであれば、もっとたくさん荷物を持ちたい、重いものにも対応するものがほしいという声もありました。大きく変えたのは、正面にパネルを設けて、サイドのベルトで固定するということ。可変の幅を大きくすることで、さまざまな荷物量に対応できるようになっています。荷物が少ないときであれば、最小で10cmくらいまで狭めることも可能です」。
商品には30リットルと15リットルのインナーバッグ、2リットルのサイドバッグが2つ、ボトルホルダーが2つ付属している。しかし、〈カーゴ 55〉の魅力は自分にあわせて「カスタマイズできる」ことなのだと斎藤さん。
斎藤「行き先や日数に合わせて、自分が使いたいバッグを合わせればいいということを伝えたいと思って、今回はあえて自作のインナーバッグを持ってきました」。
まさに背負子というだけあり、〈カーゴ 55〉は背負うための背面のシステムと荷物を支える仕組みでできているのだということがわかる。こうして分解してみるとより「背負子」なのだと理解できるだろう。
斎藤「そうそう、分解すると、こういうふうに全開になります。いくつものベルトとバックルで支えるような仕組みになっているのですが、この構造は眠れなくなるくらい悩みました(笑)。たとえば、フロントのパネルをひとつ下げて留めれば、長モノを運ぶこともできます。冗談ですが、ヤマハのキーボードだって背負うことができますよ(笑)。
最大で2段ずらしても大丈夫。たとえば、パックラフトだったらパドルを入れたりすることもできるでしょう。開発段階でいろいろなパターンを考えては試作して、この形に落ち着きました。パーツを増やせばできることは増えるのですが、使いにくくなる。そのためにはなるべく最小限のパーツで最大化できるような構造を見極める必要がありました」。
フロントのパネルについているバックル同士を留めることで三脚やトレッキングポールなどの細長いものを包むこともできる(写真左)。またパネルを内側に折りたたみインナーバッグだけをくくりつけて背負うことも可能(写真右)
快適に背負うための背面設計
55リットルという大容量、さらには(どんな荷物を背負うかわからない)ユーザーに応えるために、背面のシステムも試行錯誤を重ねたという。重い荷物を長時間背負うことを考慮した設計はもちろん、用途に合わせたカスタマイズも可能になっている。
斎藤「裏側もカスタマイズできるんです。本来はヒップベルトがついているのですが、今は取り外しています。また、背面にはデタッチャブルのメッシュのパネルがあるのですが、それも外しています(笑)。いちばんシンプルにするとこんな感じ。デイハイクやちょっとしたキャンプ込みの山登りにはちょうどいいのではないでしょうか。
背面の内側には四角いアルミのフレームとEVAのフォームが入っています。そのことによって荷重を支えるのと、背中のカーブにしっかりと沿うようになっていて、背負い心地のよさにつながっていると思います」。
これまでのモデルとの違いは、容量が大きくなることで高さが出るため、背面のフレームに剛性を持たせているということなのだという。安定させるトップスタビライザーも設け、背負い心地は良好だ。
細いところだが、背負いやすくするために重心を高めに設定しているのだそう。フロントのパネルを上にいくにつれ広くなるようなデザインになっているのは視覚的にもそのことを表現しているから(写真左)。ちなみにトップを折りたたむことでポケットにもなる(写真右)。
斎藤「ショルダーハーネスには固めのしっかりしたパッドを入れています。肩に負荷がかかりすぎると痛くなってしまうので、適度な柔さからを持たせつつも、ガシガシ使えるように耐久性も大事にしています。こういう負荷がかかるところの設計は気をつかっています。パーゴワークスの製品はすべて自分たちスタッフが修理しているので、その都度なぜ壊れたかを検証して製品開発に活かしています」。
〈カーゴ55〉に込められたアウトドア思想
〈カーゴ 55〉の仕組みを中心にどのような製品なのかを紹介してきた。では、作り手である斎藤さんは、どういった思いでこの〈カーゴ 55〉を開発したのだろうか。その深層心理を紐解いてみたい。
構想・開発に4年!〈カーゴ 55〉開発秘話
斎藤「製品をデザインする前に、モノのあり方を分解するんです。先ほどお話ししたように、バックパックであれば、モノを収納する機能と荷重を受ける背面の機能。これがバックパックの根本的な考え方だというところまで立ち返ることで、今、求められる製品が生まれます。私はバックパックのデザイナーとしての経験が長いのですが、パーゴワークスで作るものは、もっと根本から再定義したプロダクトでありたいと思っています」。
斎藤さんは〈カーゴ 55〉は「現代版の背負子」だという。背負子はバックパックのある種の原型でもあるが、個人的な思い入れのある製品でもあるという。
斎藤「背負子が合理的だということもありますが、個人的に好きなんですよね。私の原点は釣りと自転車なのですが、そのときに役に立ったのが背負子でした。自転車で山を登って降りるという遊び方をしていて、高校生のときに奥多摩の山を全部自転車で登ってみようと担いで行ったこともあります。。地図を見たら結構走れるんじゃないか?と思ったのですが、ほとんど背負っていました(笑)。他にも、富士山山頂にも行きました。自宅のある多摩地区から自走で漕いでいって、そこから背負っていって、一気に下って家まで帰るという。今やったら怒られますね(笑)。
そういう遊び方をしていたので、使い勝手がよかったのがバックパックよりも背負子だったんです。渓流釣りも自転車で行っていたのですが、やはり背負子で」。
車もピックアップトラックが好きだという斎藤さん。荷台に何を積んでいるのか見えるのが個性だと思うのだそう。
斎藤「バンだとトランクにどんな荷物が入っているかわかりませんが、トラックはバイクが積んであったり、カヤックが積んであったり、何をやっているのか、好きなのか見えるんですよね。ユーザーのアイデンティティが外からはっきり見える。そういうところが好きなんです。そういう感覚ですね。だからこそ中に入れるものは自前で用意したらどう?という気持ちがあります」。
自分が使いやすいようにカスタマイズすること。自転車も行き先によってタイヤを変えたり、釣りも魚によって針や仕掛けを変えるように、自分の道具は自分で使いやすいように手を加える。そんなD.I.Y精神がベースにあり、パーゴワークスの製品が生まれているのだ。
斎藤「〈カーゴ 55〉は、袋と背面の仕組みまで分解してしまったので、そこから先どうやって形にしていくかが大変でした(笑)。試作品を使っては試し、スタッフに使ってもらったりしながら、アイデアを検証していきます。なので、プロトタイプをたくさん作りました(笑)。発売までには4年くらいはかかっているのですが、その分、登山はもちろん、どんな遊びにも対応できる製品になっていると思います。
タープの概念を変える、ニンジャタープとは?
つづいて、パーゴワークスを象徴するアイテムとして人気のある〈ニンジャタープ〉をご紹介。〈ニンジャタープ〉は手裏剣シルエットがユニークな一人用タープ。21カ所もジョイントポイントが設けられ、前後2辺にはテンションスリーブを備えているのが特徴。タープといえば、日差しを抑えたり、テントと組み合わせて使ったりする「一枚のシート」。しかし、形状やディティールに込められたアイデアにより、使い方はもちろん、多彩な設営バリエーションを実現しているのだ。
とにかく張りやすいタープを作りたい
斎藤「なんと言っても、張りやすいのが一番のメリット。製品の紹介では、いろんなパターンで張れるのがウリとなっていますが、開発のスタートはどうやったら簡単に、スムーズに張れるか、でした。
実際に張りながら紹介していきますが、まずは四隅に張り綱を取り付けて、ペグダウンします。一般的なタープの場合は、最初に二本のポールを立てるのが苦労するところ。〈ニンジャタープ〉の場合は、設営の仕方がまったく逆で、最初に四隅をペグダウンしてしまいます。とくに風が強い時、一人で張るときなどは、ポールを立てるのにすごく苦労しますよね。でも、その心配がない。最初に地面に張ってしまうので、風があっても大丈夫です」。
そう話しながらサクサクと設営していく斎藤さん。四隅をペグダウンしたと思ったら、伸ばしたポールを両サイドに立てて、張り綱をキュッと締めて完成だ。
斎藤「これが基本形。見てわかるとおり、すごく張りやすいので、設営にかかる時間がとても短くなるんですよ」。
張りやすさの秘訣はペグダウンからポールの立ち上げによる工程のシンプルさだけではない。手裏剣型になっているため、テンションがかかりやすくなっているのも、張りやすさに貢献しているのだという。
斎藤「横から見ていただくと分かると思うのですが、辺が一直線ではなく、少し凹んでいます。一般的なタープは、このポールの先にも張り綱があって、二カ所にベグダウンすることで支える仕組みになっています。でも〈ニンジャタープ〉のように手裏剣型にすることでその必要がなくなります」。
様々な位置にポールを立てることも可能。二本使うことで開口部を大きくすることもできる(写真下)
使い方が広がる専用パーツ
〈ニンジャタープ〉には、四隅にくわえ、様々なところにトグル(張り綱を取り付けるパーツ)が設けられている。それらを自由に付け替えることで多様な張り方ができるのも特徴だ。
斎藤「この張り綱にはアジャスターがついています。一般的なテントやタープに付属しているタイプと違うのは、張り綱を極限まで短くできること。張り綱の真ん中にアジャスターがついているタイプだと、張り綱の全体の長さが2mだとしたら1mまでしか短くならない。でも、〈ニンジャタープ〉のものは、2mあったとしたら、10cmくらいまで、極端に言えば0まで短くすることができます」。
バリエーション張りで変幻自在!
つづいて、〈ニンジャタープ〉のユニークなポイントである、多彩な張り方の一部をご紹介。ポールをどこに立てるのか、どこを開いてどこを閉じるのか。その組み合わせは無限大だ。
斎藤「雨や風があって、少し囲われたいという時のパターンです。まずポールを内側に立てます。そうするとタープ自体がたるむので、フロントのコードを引く。庇(ひさし)のような形状になります。
ポールの位置をタープの真ん中に持ってくることもできるので、そうすれば簡易的なピラミッドテントみたいなことも可能です。こういう張り方のパターンは、だいたい30通りくらいあります(笑)。なので、正しい張り方というのはないのかもしれません。テントと組み合わせるのもオススメです。
タープを使っていると、もっと囲われた感じにできないの?という声もあります。タープは開放感が魅力なのですが、天候によってはタープの中で暖かく過ごしたいということもありますよね。そんな時はテントのような設営パターンで対応します」。
まずは、タープの角2点を固定して、まとめてペグダウン(写真左)。そして中央にポールを立てるだけ(写真左)。
斎藤「三角形を作って、センターにポール。三角張りと呼んでいますが、これも結構簡単にできますよ!」。
自分でカスタマイズして遊べるのが魅力
斎藤「これ、実は昨夜作ったものです。今日僕がご提案したいことのひとつなのですが、こうやって自分で作ったパーツを組み合わせて遊ぶのって、面白いんだなということを知ってほしいんです」。
斎藤さんが作ってきたのは、タープの入り口部分。タープの辺に設けられているトグルに取り付けられるようにループがついていてピタッと入り口を塞ぐことができる。
斎藤「市販のシルナイロンを三角形に縫っただけのパーツです。家庭用ミシンでも十分作れます。本当に手作りっぽい感じなのですが、こうするだけで一気にテントっぽくなるでしょ(笑)。道具はやっぱり自分で使いやすいようにカスタムしてみるのも面白いものです。山に行く人、ハイキングに行く人、キャンプに行く人、釣りに行く人みたいにいろんなユーザーさんがいるわけで、それぞれが楽しい使い方をしてほしいと思っています」。
〈ニンジャタープ〉ができるまで
一般的なタープよりも「張りやすく」、シーンや目的にあわせた張り方ができる。「一枚の布」なのに、いくつもの機能や使い方が詰め込まれている〈ニンジャタープ〉はいかにして開発されたのだろうか。
いろんな体験ができるアイテムとして送り出した〈ニンジャタープ〉
斎藤「山やフィールドでの負担をいかに軽減するのかが、山道具を作るパーゴワークスとしての基本なのですが、でも、それだけでは飽きたらない人がたくさんいるんです(笑)。快適性だけを追求するのが遊びではないと思っていて、その遊びの楽しさを最大化するアイテムを作りたいと思っていました。
〈ニンジャタープ〉の着想点ですが、まずはいろんな張り方ができるものを作ろうというところから始まりました。タープでありながらも、シェルターみたいなものを作ろうとしていたんです。タープとしても使えるし、シェルターとしても使えるような2WAYですね。でも試作してみると、張りやすくなければダメだと気づきました。
ペグをどこに打てばいいのか、張り綱はどうやって、どこに張ればいいのか。先ほどお話ししたように、かっこよくて面白くても、張るのが面倒だと道具としては失格だなと感じたんです」。
そこでヒントにしたのがワンポールテント。四隅をペグダウンして、真ん中にポールを立てれば出来上がる仕組みをタープにも応用した。さらに、その仕組みベースにして、バリエーションのある張り方ができるようにディティールを検証。「張りやすさ」を軸に開発を進めていったのだ。
初めてタープを使う人にこそ使ってほしい
斎藤「張りやすいのはもちろんですが、張り綱を短くできるので、テント場での占有面積が小さくなります。山小屋のテント場って、意外とスペースが限られていて、一般的なタープやツエルトは意外と場所とるんですよね。それと比べたら自立式のテントを立てた方が…ということになってしまいます。
そのことと同じで、〈ニンジャタープ〉の場合は張り綱の占有面積を少なくできるので、コンパクトに設営できるというメリットもあるんです。さらに、ペグ打ちが少ないということは撤収も早いということなので、そのぶん早くテント場を出られます。天気が悪い時はもちろん、何人かで行ったときにササっと撤収できるとカッコいいじゃないですか(笑)」。
登山はもちろん、川旅やキャンプでも活躍する〈ニンジャタープ〉。タープとは、日よけ、雨よけなのだと斎藤さん。今は個人装備がどんどん増えてきていて、山のスタイルが変わってきたこともあり、かつては一般的だった共同装備で山に行く人は少なくなってきた。
斎藤「今は個人装備が基本。なので〈ニンジャタープ〉は一人で完結するようになっています。でも、仲間と山に行ったときに一緒に楽しめないかなと思って、連結して大きなタープにできるようにもなっています。もともとタープは集団で使うもの。タープは共有の空間ができるし、楽しみが広がります。軽いのでツェルト代わりに持って行ってもいいです。
〈ニンジャタープ〉はどんな張り方をしてもいいし、一人はもちろん複数で使ってもいい。でも結局は一枚の布なんです。これはウルトラライトの考え方に近いのかもしれませんが、シンプルな道具で遊び方を拡張させてくれるもの。それが〈ニンジャタープ〉なんです。どうやって遊ぶかを考えるきっかけになればと思っています。山も自然も、自分が好きなように楽しめばいい。こうしなきゃ、とかこれじゃなきゃダメ、ということなんてなくて、もっと自由でいいと思うんです」。
PAAGOWORKS(パーゴワークス)
斎藤 徹(さいとう てつ)
アウトドアブランド"PAAG0WORKS"代表(元HOBO GREAT WORKS)代表。 パーゴワークスは2011年にスタートした日本のアウトドアブランド。商品の開発コンセプトは"実践的かつ実験的"。徹底したフィールドテストにより機能性を追求しながらも、既成概念にとらわれないユニークな商品開発をしている。ブランド名のPAAGOは ''Pack and go!'' を略した造語。「さあ、荷物を詰め込んで出かけようぜ!」という旅立ちのメッセージを込めています。