YAMAPオリジナルベースレイヤーが誕生|地球に還る素材だけでつくられた登山服
シーズンを問わず、山行時には必ず着用するベースレイヤー。肌に触れるウェアであり、快適性を左右するとても大切なアイテムのひとつです。これまでYAMAP STOREでもさまざまなベースレイヤーを取り扱い、その魅力をお伝えしてきましたが、「アウトドアシーンでの快適さを追求しつつ、自然とのつながりを感じられるものをつくりたい」という思いからオリジナルアイテムの開発に着手。機能面だけでなく、サステナブルの視点も盛り込むことで、これまでにないベースレイヤーがついに完成しました。製品のことはもちろん、山と自然への思いがたっぷりと詰まった開発の裏側をお届けします。
YAMAPオリジナルベースレイヤー「プラックスウールロングスリーブT」とは?!
ベースレイヤーといえば、天然由来で高い消臭効果のあるウール、もしくは扱いやすく耐久性に優れる化繊素材を使ったものが一般的。しかし、YAMAP オリジナルのベースレイヤー「プラックスウールロングスリーブT」は、表面に「ウール」、裏面に「PlaX」と「キュプラ」をミックスした素材を使った二重織構造の生地を採用しました。「PlaX」は、ポリエステルに似た性質を持つ植物由来の新しい繊維で、「キュプラ」は綿毛から作られる再生繊維。3つの自然由来の素材を組み合わせ、それぞれが持つ機能のいいところ取りをすることで、これまでにない優れた着用感・快適性を実現した機能性ベースレイヤーです。
「プラックスウールロングスリーブT」の真価を知るには、まずは素材から。ということで、3つの素材について解説していきたいと思います。
素材その①|ベースレイヤーの定番素材「ウール」
多くのベースレイヤーで使われているウール(羊毛)。主な効果は、適度な「保温力」と「調湿機能」、「抗菌防臭機能」。汗をかいても衣服内を快適な環境に保ち、長時間着用しても匂いが発生しにくいのが特徴です。
素材その②|天然由来素材「PlaX(プラックス)」
2つ目に紹介する素材は、「PlaX(プラックス)」。聞き慣れない素材名ですが、なんと開発されたばかりの新素材。植物由来の合成繊維の名称で、原料はサトウキビの「糖」なんです。このPlaXが、「プラックスウールロングスリーブT」の核となる素材です。
特徴は、繊維に水分が馴染みにくい「疎水性」。さらに、PlaXは弱酸性の性質を持つため肌に優しく、石油由来の化学繊維が肌に合わないという敏感肌の方も安心。加えて、従来の合成繊維にはなかった「抗菌性」も兼ね備えた、魅力あふれる新素材なんです。
また、環境負荷の高い化石燃料資源ではなく、自然素材を原料にしているのもポイント。原材料も、製造方法も、Co2排出を抑えることに成功しています。
さらに、植物由来の素材であることから、「生分解性」も備えています。近年注目されている地球温暖化問題と廃棄問題に対し悪影響を及ぼすことの少ないモノづくりにつながっています。
素材その③|「キュプラ」
キュプラは綿種に着いた綿毛部分の「コットンリンター」から作られた再生繊維。ツルツルとした滑らかな肌触りと、吸湿性・保湿性を持ち合わせます。また、強度も高く静電気が起きにくいという特徴があります。ジャケットの裏地などにも使われているので、ご存じの方もいるでしょう。
「プラックスウールロングスリーブT」でキュプラを使用している理由としては、素材が持つ機能性に加え、本来は廃棄されるコットンリンターを活用することで、資源を有効活用したいという思いもあります。また、PlaXと同じく生分解性があるため焼却しても有害物質がほとんど出ず、廃棄時の環境負荷を最小限に抑えることもできます。
「PlaX」と「キュプラ」による裏地が着心地のよさのカギ
植物由来の合成繊維「PlaX」と「キュプラ」を掛け合わせることで完成した裏地。ベースレイヤーの機能である「吸水速乾・調湿機能で肌面を快適に保つ」という目的を達成しながらも、「天然由来素材による肌ざわりのよさ(敏感肌の人も安心)」も備えています。
でも、本製品のすごさはこれだけではありません。3つの素材を組み合わせることで、見た目はシンプルなベースレイヤーなのに、驚くほどの機能が相乗効果によって生まれているんです。
1.抗菌消臭効果
ベースレイヤーの匂いは、汗による雑菌の繁殖から発生します。ウールとPlaX、それぞれが雑菌の繁殖を防ぐ機能を備え、汗による匂いの発生を抑制。ウールは人の汗から発生するアンモニアに対する消臭効果を、PlaXは生乾きの匂いの原因であるモラクセラ菌に対する消臭効果を備えており、長時間の着用でも匂いが発生しにくくなっています。
2.肌ざわりが良く、肌に優しい
肌に触れる裏面はPlaXとキュプラで構成。いずれの素材も繊維が非常に柔らかく、なめらかな肌触りを提供します。また、静電気が発生しづらく、敏感肌で化学繊維やウールが苦手な方でも安心して着用いただけます。
3.吸水 / 速乾 / 保温 / 調湿
裏地に使われているPlaXは水を蓄えない疎水性素材であり、キュプラは吸湿性・放湿性に優れているのが特徴です。かいた汗をこの裏地が素早く吸い上げ、表生地へと放湿。さらに表生地のウールがその水分を放出してくれるため、常にドライな着用感が維持されます。
4.ウォッシャブル
天然素材の生地は洗濯時の注意点が多いことがデメリットとされますが、「プラックスウールロングスリーブT」は二重織構造を採用することでメンテナンス性を向上。気軽に洗濯が可能です。
オリジナルベースレイヤーを通じて、YAMAPが伝えたいこと
地球温暖化をはじめ、さまざまな環境問題への取り組みが求められる現代。山道具においても、環境負荷が少なく、持続可能な世界の実現のための選択が迫られています。それは生産者だけでなく、消費者も同じ。
しかし山道具は、自然のなかで自分の身を守るため、快適に過ごすためのもの。お財布に負担の少ないモノを選ぶことも、好きな登山を長くつづける上では大切なことのひとつでしょう。ゆえに、山道具を選ぶ際に環境配慮を重視した選択をしている、という方はまだまだ少ないのではないでしょうか。価格を優先してモノを選ぶことも、誰しも経験があるはずです。
しかし、自然を遊び場とする私たちは、この豊かな日本のアウトドアフィールドを後世に残していくために、ひとりひとりが環境への意識を持ち、小さなことからでも向き合っていかなければならないと考えています。
豊かな自然や、地球の未来のことを大切にしたいと思う方に、よりよい選択肢を作っていくことが私たちの役目。「プラックスウールロングスリーブT」は、アウトドアウェアとしての確かな機能性を備えながらも、環境問題にも向き合ったベースレイヤーです。まずは、使っている山道具のうちのひとつからでも。私たちと一緒に豊かな自然が残る地球の未来を作っていきましょう。
YAMAP開発担当を直撃! 気になる質問にお答えします
新開発の素材を採用し、環境問題にも取り組むなど、これまでにないベースレイヤーとして開発された「プラックスウールロングスリーブT」。まったく新しいアイテムであるがゆえ、「実際の着心地は?」「オススメのシーンやシーズンは?」など、ギモンを持っている方もいるはず。そこで、YAMAPの開発担当者が質問に回答。YAMAPオリジナルのベースレイヤーについて、さらに深掘りしていきたいと思います。
Q. すでにさまざまなベースレイヤーがあるなかで、あらためて開発しようと思った経緯は?
アウトドアウェアは過酷な環境下でも快適に過ごせるように開発されているため、非常に機能性と耐久性が高いものが多いです。ウェアは必ず消耗しますし、機能性や耐久性が高いことはもちろん素晴らしいことなのですが、反面、環境にとってはあまり優しくない素材であることも多いのが現状です。しかし、YAMAP STOREは、商品をただの道具としてだけではなく、自分と自然をつなぐ物語の一部として大切に長く使ってもらう、そんなつながりを提供できるお店でありたいと考えています。そんな私たちだからこそできることは何かないだろうか?と常々考えていました。
そんな最中に出会ったのが、日本で素材の研究開発を行うスタートアップであるBioworks(バイオワークス)社の「PlaX」という素材。植物由来の成分から作られるPlaXは、環境に優しいだけでなく、山での実用性も兼ね備えた、まさに理想的な素材。このPlaXなしでは、オリジナルベースレイヤーの開発は実現できませんでしたね。
Q. 防臭効果について、もっと教えてください。
PlaXとウール、それぞれに消臭効果がありますが、疎水性のある裏面と放湿性のある表面の2層構造にすることで、防臭効果をさらに高めています。汗の原因は、雑菌の繁殖によるもの。裏面が汗をすばやく吸い上げ、表面から乾かすことで、雑菌そのものの繁殖を抑えることに成功しています。
ちなみに、テストではスタッフが120日間連続で洗濯せずに日常生活で着用したり、15日間断続的に大量の発汗を伴う運動を洗濯せずに繰り返し着用しても、不快感なく着用し続けることができました。
これらは少し極端な例ですが、それほどタフな環境で着用しても匂いが出にくいということ。自信をもって「ナチュラルメイドのアクティブウェア」として提案できるベースレイヤーになったと思います。
Q. 生地の厚み、着心地は? どんなシーンやシーズンにオススメ?
2層構造になっていることもあり、一般的なベースレイヤーよりは若干厚手で、持ったときに少し重量感を感じるかもしれません。そのため、体温調整が難しい寒暖差のある春秋シーズンや、夏山であればアルプスなどの標高の高いエリアでの使用がオススメです。
着用感ですが、裏面にPlaXを使用することで表生地のウールが直接肌に触れないため、ウール特有のチクチク感がないのが特徴です。また、汗離れに優れるので、ウール単体のベースレイヤーよりも肌面のドライ感が良好です。
Q.サイズ感、選び方のポイントは?
2層構造で作られているので、『ファーストレイヤー(finetrack社のドライレイヤーなど)の着用は不要か?』という質問を社内のメンバーからも受けましたが、ファーストレイヤーを着用せずに使用するのであれば、肌に生地が触れるようにジャストサイズを着用することをおすすめします。ベースレイヤーは本来「肌着」。ジャストサイズでご着用いただくのが、その機能をより感じられるものになっています。日本のサイズ規格で設計しているので、一般的なアパレルと同じサイズ感で選んでいただけるとぴったりに着られると思います。
ベースレイヤーの下にファーストレイヤーを合わせたい方や、日常での着用も含めてゆったりめで着たいという方は、1サイズ大きいサイズを選ぶといいと思います。ちなみに私は身長155cmなのですが、1枚で着用するならジャストサイズのSサイズ、下にファーストレイヤーを着るのであればMサイズ、ボディラインがでないようにゆったり着るならLサイズ、といった着用感です。(一般的な服を選ぶときはMサイズを選んでいます)
Q.「生分解性がある」ってことは、長持ちしないの?
一般的な使用環境では、生分解はしません。なぜなら、PlaXは独自に研究開発された植物由来の添加剤を使用し、これまでの課題であった耐熱性や耐久性を克服しているから。登山での着用や日常着として使っても問題はありません。
Q. 取扱時の注意点は?
植物由来の「PlaX」とウールは高熱に弱いため、乾燥機やアイロンの使用はNGです。洗濯時は洗濯ネットを使用し、つけ置きはせずにすぐに脱水し、形を整えて陰干ししていただくのが、いちばん長持ちする方法です。
BioworksとYAMAPがタッグを組んで生まれた「ナチュラルメイドのアクティブウェア」
「プラックスウールロングスリーブT」の開発には、実は日本の研究者たちの並々ならぬ努力が込められています。実は、植物由来のバイオプラスチックの繊維化は、技術的に難しいとずっと言われてきました。そんな難題を解決したのが、YAMAPと共同開発をしてくれた日本のBioworks(バイオワークス)という企業。つまり、研究職の方たちが奮闘して作った生地がなければ、「プラックスウールロングスリーブT」は誕生しなかったのです。
「プラックスウールロングスリーブT」には、山のプロフェッショナルであるYAMAPだからこその機能性、環境への配慮、そして日本のモノづくり精神が詰まっています。より快適で安全な山行はもちろん、よりよい環境のための新しい選択肢になることを願っています。