登山用レインウェアの「撥水」を回復させるメンテナンス術とケア用品
「登山道具三種の神器」のひとつに数えられるレインウェア(雨具)ですが、実は正しいお手入れの方法を知らない方もいるのではないでしょうか。「洗濯をした方が良い? それともなるべく洗わない方が良い?」こんな疑問を持たれている方も多いかもしれません。
メンテナンスを怠ったレインウェアで突然の雨に遭遇すると、状況次第では低体温症になり、生命の危険につながることも。秋の変わりやすい天気に備えて、この時期だからこそやっておきたい「レインウェアのメンテナンス」についてご紹介します。
メンテナンスを怠ると、撥水機能が低下!
さっそくですが、結論からお伝えすると、レインウェアを長持ちさせる秘訣は「使ったらすぐに洗濯」です。
十分にメンテナンスをしないまま使用を続けていると、せっかくの機能もみるみる低下し、レインウェア表面の撥水性が失われてしまうことに。その結果、水分がウェア内に浸透し、肌が濡れることで体温が奪われ、低体温症のリスクにもつながります。
さらに、生地の内側に汚れや皮脂が付着すると、水蒸気が抜ける穴が詰まり透湿性がなくなってしまいます。そうなると、体から出る湿気や熱気が内部にこもり、汗をかきやすくなったり脱水症状を引き起こしてしまったりするのです。
登山におけるレインウェアは生命を守る大事な道具。メンテナンスの時間は自分の生命を守る時間でもあります。まずは「使ったらすぐに洗濯」を心がけてみましょう。
今使っているレインウェアは大丈夫? まずは現状の撥水状況をチェック!
用意したのは、YAMAPスタッフが数年前に購入して以来、正しくメンテナンスをしてこなかったレインウェア(私物)。恥ずかしながら、雨の時には水が染みてくるだけでなく、中の蒸れもひどい状況になっています。
まずは現状の撥水性を確かめるところから。ということで、さっそく水をかけてみると…
この通り、じんわりと水が染みてきてしまいました。表面の撥水性はほとんど失われていることがわかります。なお、水をかけた直後は撥水しているように見えても、時間を置くと染み込むことも多いので注意して見てみましょう。
登山用レインウェアの撥水性を復活させるメンテナンス方法
① 洗濯機でしっかりと汚れを落とす
手洗いでも洗濯機を使ってもOKですが、手軽に洗うなら洗濯機がおすすめです。
間違っても、撥水性がなくなってきたからといって、すぐに防水スプレーをかけたりしないこと。最初にウェア全体の汚れを落とし、その後に撥水加工をしていくのが正しい順番です。
洗濯機に入れる前に注意したいこと
洗濯したいレインウェアのジッパー・ベルクロはすべて閉じます。ジッパーの金具は、裏地に当たると生地を傷めてしまうことがあるからです。
フードは収納せずに出しておきましょう。また絞ってあるドローコードは戻しておく。絞ったままだと洗いにムラができるだけでなく、他の部分にコードに引っかかって生地が痛む可能性があるからです。
袖口や襟などの気になる汚れがあれば、洗濯機に入れる前に軽く汚れを拭きます。目立つ汚れには、洗剤の原液を予め少量垂らして馴染ませておくのも効果的です。ウェアによっては、色落ちのリスクもあるため、事前にタグなどに書かれている洗濯方法を確認しておくと良いでしょう。
洗剤選びが重要!
洗濯機に規定量の洗剤を投入し、 デリケートコースで洗濯しましょう。生地が傷まないように、レインウェアはネットに入れます。
この時に重要なのが洗剤。アウトドア用品専用の洗剤、finetrack(ファイントラック)/ケアファイン オールウォッシュがおすすめです。
ファイントラックの「ケアファイン オールウォッシュ」はアウトドアウェアの機能を阻害せず、皮脂や汚れだけを綺麗に落とすことができる、まさに、アウトドア専用と言える洗濯用洗剤です。
実は、市販の洗剤にも含まれている柔軟剤の成分は、撥水の機能を落としてしまうものなのです。大切な登山用ウェアは、専用の洗剤を使って、正しく洗濯することがおすすめです。
② 洗濯後の必殺技「ウォーターリペル」で撥水加工を取り戻せ!
洗濯で繊維の奥に入り込んだ汗や泥汚れなどをすっきり落とした後は、撥水性を復活させるために加工液に浸していきましょう。撥水性を復活させるにはfinetrack(ファイントラック)/ケアファイン ウォーターリペルを使用します。
撥水加工といえばスプレータイプのものがあります。しかしながらスプレーは手軽な反面、レインウェアなど面積の大きなものに、ムラなく均一に吹きかけるのは結構難しいもの。量もかなり多く使用するため、噴射時の換気などにも気を使わなければなりません。
一方、ウォーターリペルは、水を加えウェアを付け置きするだけで簡単に撥水加工が元通り。一度ケアをすると、その後10回の洗濯をしても撥水効果を持続させることができるという優れもの。レインウェアなどの防水透湿性のウェアだけでなく、ドライレイヤーや撥水機能を備えた様々なウェアに利用できます。
1)オールウォッシュで汚れを落とし
2)ウォーターリペルで撥水加工!
ということを覚えておきましょう。
ウェアが入る容器に、ウォーターリペルを10倍の水で薄めた加工液をつくり、洗濯・脱水後のウェアを浸します。ウェアの種類や大きさによって、どのくらいの量で加工液を作ればよいか明記されているので、誰でも安心して作ることができます。
ウェア全体をしっかりと優しく押し込むようにして、全体に馴染ませましょう。全体にムラがないように浸らせていきます。
このまま1時間、加工液が馴染むのを待ちましょう。
③ 最後は陰干しor乾燥機でしっかり乾かす
浸し終わったら、加工液から引き上げ、軽く絞ります。ウェアに記載されている表示に従って干しましょう。風通しのよい直射日光の当たらない日陰がおすすめです。
もっと撥水性を高めたいという方は、熱を加えるとさらに効果を実感することができます。ウェアの取り扱い表示に従ってアイロンで熱を加える方法か、乾燥機をかけて熱処理を加えましょう。そうすることで自然乾燥よりも強力な撥水力を得ることができます。
今回は検証のために自然乾燥で外干しをしました。
乾燥の過程でウォーターリペルが繊維にしっかりと固着し、撥水加工を取り戻してくれます。しっかりと乾いたら、これで完了です!
撥水効果は復活したのか…?
洗濯、撥水加工、乾燥が終わりました。色落ちなどもなく、綺麗に洗濯ができました。それでは前回同様、水をかけてみましょう。
前回は数秒ほどで染みてきていましたが、加工後はしっかりと水を弾いてくれました。
アーム部分もこの通り。購入直後のようにしっかりと水を弾いており、本来の機能を充分に発揮していますね。まだまだ長く使っていけそうです。アウトドア専用の洗剤を使うことで、確かな効果を実感することができました。
レインウェア、長持ちさせるメンテナンスのコツ(まとめ)
今回の内容をまとめると、レインウェアを長く使うには
・レインウェアは使ったら洗うという意識を持つ
・洗濯をし、全体の汚れを落とす
・撥水が失われていたら、つけ置きをする
・洗濯・つけ置きの際には、専用の洗剤や撥水加工液を使用する
ということを大切にしていきましょう。
機能を維持しながらレインウェアを使用していくためには、しっかりとした洗濯とメンテナンスが必要です。お家にあるウェアを、これからもずっと大切にしていきたいですね。
アウトドアウェアの吸汗性をよみがえらせたいなら?
ここまでは撥水性を回復させるための工程と専用の洗剤・ケア用品をご紹介してきましたが、その逆とも言える吸汗性を向上させるための吸汗加工剤、finetrack(ファイントラック)/ケアファイン ベースリカバーもご紹介しましょう。
この吸汗加工剤は、何度も使ううちに汗を吸いこみにくくなってしまった吸汗速乾性のウェアの吸水性を、自宅で簡単に復活させることができるというもの。
使い方はとても簡単。衣類はあらかじめ洗濯し、皮脂や汚れをしっかりと落として乾燥させておきます。たらいや洗面器などに水を入れ、ベースリカバーを溶かしてウェアを1時間浸します。1時間たったら軽く絞って、ウェアの取り扱い表示に従ってしっかりと乾燥させます。
手順は以上。浸して干すだけの、たった2ステップで、吸汗速乾性が劇的に回復します。試しに汗をかきやすい、背中や首の部分に水滴を落としてみてください。すぐに水が繊維に広がって染み込むようになっているはずです。
1本でTシャツ8枚分が加工できるので、これでウェアの機能が回復するのなら、トータルで考えてもかなり経済的ですね。
長寿化が進むレインウエアも、性能は永遠ではない
ここまでご紹介したようなこまめなメンテナンスに加え、近年のメーカーの加工技術によりレインウェアの長寿命化が進んでいますが、永遠に使えるものではないことは理解しておきたいところです。
メンテナンスをしても撥水性が回復しなかったり、肩や腰など力がかかりやすい部分の破損があったり、生地同士の縫製箇所を防水するシームテープやジッパーが壊れたりといった目に見える破損は買い替えのサインです。
季節が秋へと移り変わるこれからのシーズンにぴったりなレインウエアもいくつかご紹介しましょう。
finetrack(ファイントラック)/エバーブレスフォトンジャケット
上記でご紹介したウェアのケア商品を展開しているファイントラックのレインウェア「エバーブレスフォトンジャケット」。体の動きに合わせてよく伸び、ウィンドブレーカーとしても、秋の肌寒いときの防寒としても活躍する、レインウェアと呼ぶには万能すぎるマルチシェルです。
THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)/クライムライトジャケット
秋から冬にふさわしい、魅力的な深いカラーも取り揃えられたザ・ノース・フェイスの「クライムライトジャケット」。軽量でコンパクトに収納できる防水レインジャケットは、バックパックを背負っていてもラクに腕を上げることができるなど、高い運動性を実現します。
patagonia(パタゴニア)/トレントシェル3Lジャケット
パタゴニアが独自開発し、進化を押し進めてきた防水透湿素材で作られたレインジャケットが「トレントシェル3Lジャケット」です。脇下のベンチレーションは、日差しや気温によって体感温度が変わりやすい秋にはお役立ち。ポケットが大きくスマホを楽に取り出せるので、写真を撮りながらの紅葉登山シーズンにはぴったりですね。
動けば汗ばみ、止まると肌寒いという、気温の変化により気をつけたいこれからのシーズン。レインウェアのコンディションに不安感のない状態で、秋のアクティビティを楽しみましょう!
記事初出:YAMAP MAGAZINE「登山レインウェア【撥水回復】させるびっくりメンテナンス術」2020.08.01公開