アウトドア業界に「環境革新」を。素材から自然への配慮を追求するSTATICの描く未来

2020年に「Choice for the earth チョイス フォー ジ アース」というメッセージを掲げ登場したアウトドアブランド・STATIC(スタティック)。環境問題、気候変動というキーワードがより一層現実のものとして身近に迫るなか、「地球のための選択肢」を強いメッセージとともに提案するSTATICは、自然をフィールドに遊ぶ私たちの意識に一石を投じたと言っても過言ではありません。

登山をはじめ、アウトドアアクティビティは自然があってこそ。環境問題を人ごとではなく、自分ごととして捉えることはとても大切なことなのです。STATICの自然を守る取り組みを知り、その道具を選ぶことは、未来を変えるための一歩になります。

創立からわずか1年。まさに新進気鋭と呼ぶにふさわしいブランド・STATICを主宰する田中健介さんに、環境という視点でのものづくりについて話を伺いました。
(インタビュアー:清水直人、記事/写真:小林昴祐)

STATICはなぜ、「環境」をテーマにしたのか

アウトドア業界に「環境革新」を。素材から自然への配慮を追求するSTATICの描く未来

—STATICの製品情報を見ると、どれもが環境に配慮した素材や製造工程を選択していることが理解できます。STATICというブランドが、「環境」をキーワードに製品開発を行うまでには、どのような経緯があったのでしょうか。

STATICのスタートは2020年。まだ生まれたばかりのブランドです。私自身は、大手アウトドアメーカーに8年ほど勤めていて、その後いくつかのアウトドアギアの輸入代理店で働いていました。

その後2016年に独立し、海外のアウトドアプロダクトの輸入と流通を行う会社を立ち上げました。しかし、2、3年経ったときに、海外で作られた製品を輸入して売るということの難しさを感じるようになりました。

何が難しいかというと、海外で企画されたものは彼らの土地と気候に根ざしたものだということ。もちろん日本のフィールドでも道具として十分に機能しますし、そこから僕らが勉強することもあるのですが、海外と日本の自然環境のギャップはどうしても埋められないんです。

—たしかに、海外のものはそのメーカーが得意とするフィールドに向けて開発されたものですよね。そもそも輸入されてきたものと日本のフィールドとのミスマッチを感じていたと。

同時に、毎年新しいモノが発売されるアウトドア業界にも疑問を持つようになりました。既存のものより、さらに快適性、機能性を目指す新製品が次々に発売されていますが、その差異を体感できる人はどれくらいいるのか。

十年前のものと比べたら確実に違うかもしれませんが、本当にユーザーが求めているものとは何かということを考えたんです。そしてメーカーとして、アウトドア業界として、私たちはどこに向かっているのかということを考えたんです。というのも、すでに市場にあるものでエベレストのような高峰を登ることができます。クライミングで言えばヨセミテのエルキャピタンだって登ることができます。

腕の太さが絶妙だとか、立体裁断がどうとか、すでにある程度完成されたプロダクトに達しているのに、それよりも上を目指そうというのがアウトドア業界。進化をつづけることは素晴らしいことだと思いますし、それを止める必要はないけれど、「それだけなんだ」という残念さを感じたのが正直なところですね。

アウトドア業界に「環境革新」を。素材から自然への配慮を追求するSTATICの描く未来

—なるほど。毎年どのようにアップデートされたのか、何が新しくなったのかというトピックがアウトドアアイテムにとっては注目されるポイントですよね。

少し視野を広げてみると、車もアウトドアの道具と同じようにどんどん進歩して新しいモノができています。でも、車業界は僕らアウトドア業界のような狭い世界ではなく、もっと大きな世界で戦っています。排気ガスを減らそう、燃料をやめて電気にしよう、リチウムイオン電池にしようとか、世界的に環境に配慮したものづくりをしよう、地球を守ろうという方向に投資がされていますよね。

一方でアウトドア業界は旧態依然としていて、登山文化のレジェンドであるマロリーやメスナーがエベレスト登頂を狙っていた時代とスタンス的にはなんら変わらない。ただ性能のみを追求するばかりで、本質的に環境のことを考えていないんです。

アウトドアは、山で遊び、川で遊び、自然で遊ぶもの。なのに、その環境を守っていこう、維持していこうという動きはほとんどありません。環境保護などの活動はNPOに任せたまま。やはり産業として、アウトドア業界が担うべきなのではと思うんです。このままだとさらに遅れた業界になってしまう。そんな危機感を抱きました。

環境に対しての意識は、自分でビジネスをやるようになってより強くなってきました。環境問題がここ数年でトピックになってきたというのもありますが、そういう中で僕は何ができるか。フラストレーションを抱えるならアクションをしたかったんです。

スピード感をもって、強いメッセージを発信したい。その結論が、機能性と環境性を両立したプロダクトのブランドの立ち上げでした。自分自身が、メッセージを出す立場になろうと思ったんです。

わずか1年の準備期間で辿り着いた本質的なエコ

アウトドア業界に「環境革新」を。素材から自然への配慮を追求するSTATICの描く未来

—STATICは「環境」という軸がかなり強いブランドだとわかるのですが、2019年の展示会でサンプルを拝見して、1年後の今年にはもう販売がスタートしましたよね。おっしゃる通り、すごいスピード感だと驚きました。ブランド立ち上げまでのタイムラインについて教えてください。

思い立ったのは2019年のゴールデンウィーク。もうやるしかないなと思って、そこから1年で立ち上げました。輸入代理店の業務をしながらですが、準備期間は1年です。

アウトドアの展示会は毎年6月あたりに開催されるのですが、2019年のGWから約2ヶ月後にしかないんですよね。でも、その展示会にプロトタイプを間に合わせました。本当に未熟なプロトタイプだったのですが、「機能と環境を両立したブランドをやる!」という表明のような意味合いもありました。展示会で受注を取り、生産を進め、今年の春のシーズンから店頭に並び始めたという形ですね。

—ほとんどのアウトドアメーカーが長い時間をかけて開発を行うなか、わずか1年という短期間で、理想とする素材には巡り会えたのでしょうか。

まずは、どんな選択肢があるのか、環境にいいものはなんだというのを徹底的に調べました。すると、必ずしも全てが日本で揃うわけではないということがわかりました。日本のファブリックメーカーもリサイクルをはじめ環境に配慮した生地を作っているのですが、国内メーカーの採用がないためにすぐに廃番になってしまうんです。

そこで日本より環境への意識が高い海外に目を向けました。展示会に出展している海外のファブリックメーカーのリストや、展示会で受賞した企業のウェブサイトを見ていくんです。「これは!」と思うところにコンタクトしていって、生地サンプルを取り寄せてみて、世界の生地市場には何が存在しているのか、どんな選択肢があるのか、とにかく情報と現物を集めましたね。

今は環境へ配慮した素材というとリサイクルを思い浮かべる方が多いと思いますが、それ以外の繊維や製造工程など、繊維から製品になるまでの全ての工程を注視していく必要があります。また、製品が長く使われるための方策も重要です。

環境にいい服、繊維というのはいろんな側面から考えることができます。カテゴリーやレベルでいい悪いがある。非常に難しい判断なのですが、ある側面では環境によくても、悪いところもあるんです。モノを作る以上どこかで二酸化炭素は出るし、捨てられてしまいます。そういう意味では100%完璧なものはないということ。それを理解した上で、環境への配慮を追求したいと思っています。

アウトドア業界に「環境革新」を。素材から自然への配慮を追求するSTATICの描く未来

近年、フリースに使われている起毛がマイクロプラスチックとして海に流出すると問題になりました。フリースの場合、洗濯するごとに内側の起毛が何万本と抜けるんです。ここで考えられる解決策はふたつ。ひとつはフリースの繊維を抜け出にくいものにする。でも、たとえば5万本抜けていたのが1万本になるというのでは、根本的な解決ではありませんよね。そこでもうひとつの選択肢。抜けにくいのではなく、抜け出ても海で分解されるものにするということ。

一般的なポリエステルは自然界で分解されないので何百年も残ってしまいますが、生分解性のものであればいいはず。今は、樹木の一種であるユーカリ由来の素材で内側が起毛したフリース生地があります。表地はポリエステルの長い繊維を使います。繊維が長ければ抜けないので大丈夫。というように、最新のエコ素材をSTATICでは使いたいと考えています。

また、リサイクルや生分解性でもなく、生産段階に目を向けることもできます。

たとえば、リサイクルでもない100%原油ベースのポリエステル素材。繊維を作るとき、生地を作るときに出る繊維や残布を集めてリサイクル業者に回し、再び生地の材料として蘇らせる。つまりゴミを出さないということです。

ゴミになるものを再利用してできた生地もエコだと思うんです。一言で環境に配慮した商品と言っても、こういう側面もある。そんな業界の仕組みを理解して、製品を作る。そしてそのメッセージをお客さんに伝える。STATICというブランドとして、より環境負荷が少ないものを提示する。それこそが、私がやりたかったことなんです。

理想とこだわりを込めた製品が生まれるまで

アウトドア業界に「環境革新」を。素材から自然への配慮を追求するSTATICの描く未来

—ウインドシェルやベースレイヤーといったアイテムが揃いますが、立ち上げ当初はどのようなアイテムのラインナップを構想していたのでしょうか。

ウインドシェル、レインジャケット、ウールT。まずはこの3アイテムをやろうと思いました。やはり山で使えるレイヤリングとして成り立たせたかったんです。早い段階でウールTとウインドシェルは目処がついたのですが、レインウェアはいい素材が見つからず断念。これからの課題にしました。

—環境にいい素材というのは発展途上。現在進行形で革新が起こっていることもあり、これからどのような製品が出てくるのかとても楽しみです。では、今YAMAP STOREで取り扱っている「オールエレベーションシャツ」と「アポストロ ライト フーディー」について教えてください。

ウールの性能を最大化するマルチベースレイヤー「オールエレベーションシャツ」

アウトドア業界に「環境革新」を。素材から自然への配慮を追求するSTATICの描く未来

「オールエレベーションシャツ」は、特殊な織りを採用したウール素材のベースレイヤーです。ウールにしたのは、速乾性や保温性といったウールならではの機能性に加え、羊という自然由来の素材だということも決め手のひとつです。

市場にはウールを使用したさまざまな製品がありますが、とくにベースレイヤーのように肌に触れるウェアについては、数年前までは繊維の細さが競われていました。細い方がチクチクしにくく、速乾性にも優れます。マイクロンという言葉で表現されるのですが、一番細いもので17〜18マイクロン。21マイクロンでも細い方でした。ニュージーランドやオーストラリアのメリノ種という名前を聞いたことがあると思いますが、繊維の細さや品質がいいので人気となっています。

しかし、今となっては極細は常識となり、ウールの出どころが選択の基準になっています。ウールは動物から分けてもらうものなので、羊に対して優しい管理体制がなされているか、羊の幸せを前提にした飼い方ができているかが、問われるようになったんです。そのスタンダードを定め、認証する団体もあります。北米を中心に発足したRWS(レスポンシブル ウール スタンダード)の認証を取得するのが大前提となっています。もちろん「オールエレベーションシャツ」にはRWS認証を得たウール素材を使っています。

同時に、「オールエレベーションシャツ」では構造にもこだわりました。一般的なウール製のTシャツやベースレイヤーは表も裏も構造が同じですが、「オールエレベーションシャツ」の生地の裏面には凹凸の構造を持たせたています。この凹凸により肌に接する部分が少なくなるため、ベタつきにくいんです。乾きやすく重くならないのも魅力。これは凹凸構造の成せる技なんです。品質のよいウールを使うメリットに加え、特殊な構造を採用することで、ベースレイヤーとしてのレベルをさらに上げることができました。

ただ、生地の40%はポリプロピレンです。化繊なんです。ポリプロピレンは化繊素材のなかでも環境負荷が少ないのですが、今使っているのはリサイクルされていないもの。なので、来年はリサイクルポリエステルに変えようと思っています。製品の機能を維持しながら環境レベルを上げていくようにアップデートしていきたいと考えています。

糸ゴミを再利用したウインドシェル「アポストロ ライト フーディー」

アウトドア業界に「環境革新」を。素材から自然への配慮を追求するSTATICの描く未来

「アポストロ ライト フーディー」は、オーソドックスなウインドシェルです。ハイキングにも、クライミングにも使える汎用性とシンプルさが魅力です。生地は日本のメーカーのもの。当初はリサイクルのポリエステル生地を考えていたのですが、ウインドシェルとして機能的なものにならなかったので、実用性のあるナイロンにしました。

ナイロン繊維は台湾のメーカーのもので、繊維を作るときに出る糸ゴミを集めて再生したユニークなリサイクル素材です。リサイクルと聞くと、製品として販売され誰かが使ったものを回収して再生されたものというイメージがあると思いますが、工場での生産段階で生じた繊維のリサイクルというものもあるんです。糸ゴミのほどんどは焼却処分になっていて、繊維メーカーにとっては問題です。しかし、焼却処分ではなくリサイクルすることで、繊維の製造時に発生する二酸化炭素を75%もカットできるそうなんです。そんな自分たちの問題を改善しようと頑張っている会社の糸を使いたいという気持ちもあり、採用となりました。

ちなみに繊維は台湾製ですが、織りは日本です。織りの緻密さ、縫製の精度の高さは日本の技術がやはり最高峰でしょう。

また、ウインドシェルは撥水加工をするのですが、「アポストロ ライト フーディー」には一般的に使われているフッ素を使用していません。今、世界中で環境負荷の高いフッ素を使わない動きが出ていて、日本のネオシードという非フッ素の技術を使っています。ただフッ素を超える撥水能力はなく、まだまだ満足していないのが正直なところ。環境の面でも機能の面でも理想に近づいてきたのですが、まだまだ撥水に関しては不満があります。これからの課題ではありますが、開発されるのを待っているところですね。

STATICが考える、ものづくりの姿勢

アウトドア業界に「環境革新」を。素材から自然への配慮を追求するSTATICの描く未来

—最後に、STATICの製品をどのようなユーザーさんに使ってもらいたいでしょうか。

環境がブランドのコンセプトなので、環境に対する意識を持っている方に選んでもらえたらとても嬉しいですね。

でも、僕としてはどういう人にというのはまったくないんです。STATICの製品は基本的には山全般で使えるものだと考えています。登山でも、トレイルランニングでも、クライミングでも、好きなアクティビティで使ってほしい。やはり山道具なので機能は絶対的。実用性で選んでもらえるのはとても嬉しいですね。ブランドのことや環境への思いは後から気づいてもらえればいいんです。


—STATICが環境問題に取り組んでいるということを、買った後に知ってもらうのもいいことですよね。ただの道具で終わるのか、実はこんなに素晴らしいストーリーが背景にあるのかは大きな違いだと思います。

STATICには「チョイス フォージ アース」というサブタイトルを付けました。この言葉は、ブランドとして地球を守っていくための選択肢を提示したいという思いを端的に表現したものです。STATICは、リサイクルや動物に優しいものを選び、ゴミや二酸化炭素を削減するなど、さまざまな方向から環境をよくしていこうという取り組みをしています。そのことが製品を通して伝われば、これ以上嬉しいことはありません。

STATIC(スタティック)商品一覧
田中健介(たなかけんすけ)

田中健介(たなかけんすけ)

環境問題にアプローチする日本発のアウトドアブランドSTATIC代表。アウトドアに必要な機能性を追い求めながら自然環境に影響の少ない素材、製造工程などを吟味し製品展開。母体であるSTATICBLOOM社では、植物由来製品の「固形燃料 Fire Dragon」「 スキーワックスmountainFLOW」の輸入卸販売、自然由来コスメブランド「森海谷」の製造販売も展開し、アウトドア業界にエコの意識を広げるべく活動している。

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      STATIC

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