次なる高みへ――。ティートンブロスが新素材「Täsmä(タズマ)」でテクニカルジャケットを刷新

2021年冬、「Teton Bros.(ティートンブロス)」のシェル素材が一新されました。新たに採用されたのは次世代の通気防水素材「Täsmä(タズマ)」。これは東レとの3年間の共同開発で完成した新素材で、通気性や防水性、耐久性などあらゆる性能が従来素材を上回ります。

この素材変更は人気の「ツルギジャケット」はもちろん、フラッグシップの「TBジャケット&パンツ」などテクニカルシェル製品すべてが対象で、これほど大がかりなファブリック変更はブランド始まって以来のこと。新素材に対するティートンブロスの自信と期待がうかがえます。

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「熟成」を重視するブランドが決断した素材変更の意味

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ティートンブロスはシーズンごとにニューモデルを投入するブランドではありません。基本的には今ある製品を大切に育てつつ、フィールドでの活動を通して必要性に迫られたとき、あるいは、なにか新しいアイデアが生まれたときなどに、新たなモデル開発に踏み切るというスタンスを守っています。

たとえば「ツルギジャケット」は2013年のデビュー以来、「TBジャケット&パンツ」に至っては2008年の創業以来、長く基本的なデザインを踏襲しています。その代わりと言ってはなんですが、素材やパーツの変更にシェイプの微調整といった細部のアップデートを毎年のように行ってきました。

それは開発当初のコンセプトとデザインワークが優れている証でもありますが、同時に、完成度を納得いくまで高めたいという姿勢の表れ。「モデルチェンジ」ではなく「質の熟成」という方向性です。

そのため、初期のモデルと現行モデルでは一見して大きな違いが見当たりませんが、実際に袖を通してみると、まるで別物かと思うほど着心地が変化していることに驚かされることになります。

そのなかで、テクニカルシェルのメイン素材変更という大がかりなアップデートも過去にありました。それは従来の素材よりもハイスペックな新素材が市場に投入されたときか、あるいは素材メーカーとの数年越しの共同開発が結果を結んだときです。そして、2021年の素材変更もまさにそれに当たるわけですが、12モデルあるテクニカルシェル製品すべての素材を一斉に変更するというのはブランド始まって以来のことでした。

ティートンブロス代表に聞く、新素材「Täsmä」採用の理由

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ブランド始まって以来という大きなファブリックチェンジを決断した理由は何だったのか。ティートンブロス代表にして開発責任者の鈴木紀行さんに聞きました。

「ティートンブロスが重視しているのは機能性です。いたずらに新しいモデルを増やすことなく、ひとつのモデルをじっくりアップデートさせているのも、フィールドで着たときに、より今まで以上に安全で快適な機能的ウェアとして進化させたいからです。そのため、常に各種パーツや素材メーカーとのコミュニケーションを密にして新しいテクノロジーにアンテナを張り、こちらからリクエストを出すことも少なくありません。

シェル素材については、ティートンブロスの最大のコンセプトである通気性を維持しながら、より耐水圧を高めることが長年の課題でした。どんなに吹雪や暴風雨が吹き荒れても体を濡らすことなく、激しく運動しても汗抜けが良い。そんなアウターシェルは理想的じゃないですか。

けれども、それは言葉にすると簡単なんですが、通気性と耐水圧を高い次元で同時に上げていくというのは、物理的に非常に難しい課題でした。それを技術力でクリアしたのが東レさんです。3年間にわたる共同開発の結果、現状では最高の素材と思える素材が実現できました。それが「Täsmä(タズマ)」です。

ラボテストでは、これまで使ってきたどのシェル素材をも凌駕する数値を叩き出し、また、国内各地のガイドによるフィールドテストをひと冬実施した結果、すべてにおいて優位なスペックが認められたので、採用することを決断したのです」

「次世代の通気防水素材」の実力とは

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アウトドア用アウターウェアに防水透湿性のシェル素材は欠かせません。空気を通す微細な孔を持つ極薄防水メンブレン(膜)をラミネートした生地は、雨や雪などからの濡れを遮断しつつ、発汗による水蒸気を排出してウェア内の結露を防ぐ。つまり「防水性」プラス「透湿性」という機能を持つのです。

そのなかでもティートンブロスが特にこだわってきたのが「透湿性」を越えた「通気性」です。多くの防水透湿メンブレンのメカニズムは、発汗によってウェア内の水蒸気圧が高まったときにはじめて透湿が始まります。そのため、たとえば外気温とウェア内温度が同じ状況では透湿しないという難点がありました。

ティートンブロスが求めてきたのは、ウェアを着用した瞬間から通気が始まる「通気性」です。水蒸気が膜に染みこんで通り抜ける「透湿」ではなく、文字通り、空気そのものが行き来する「通気」。

この「水を止めて空気を通す」という機能を実現しているのが、新素材「Täsmä」の要となるESP(エレクトロスピニング)製法によるメンブレンです。これはミクロ単位のポリウレタン樹脂をクモの巣状に吹き付けて重ねたもので、何層にも重なるミクロの網の目が水分を遮断し、同時に通気を可能にしています。

ラボテストの結果は、通気性については従来の素材と同等の数値が、耐水圧に関しては5,000mmを上回る結果に。また、外気を99.9%遮断することで、高い防風性も備えています。100%にはわずかに欠けますが、残りの0.1%分の風通しは人間の感覚では体感できない数値だといいます。

メンブレンの性能だけではない「Täsmä」の機能性

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「メンブレンの高い性能とともに、重要なファクターが2点ある」と鈴木さんは言います。

ひとつは、各モデルのコンセプトに合わせた表地の選定。具体的には使用するナイロン糸や織り方によって、素材の強度や軽量性、ストレッチ性を実現しつつ、各モデル用に適した表地を採用していること。

表地の違いで、商品によって3種類の「Täsmä」が採用されています。まず「ツルギジャケットKB」には、耐久性とストレッチ性のバランスに優れたメカニカルストレッチナイロン100%使用の軽量素材。「セラックパンツ」には、今季の「Täsmä」中で最もストレッチ性に優れ、使用するギアを問わず雪山でのツーリングをターゲットに開発された素材を採用。そして「TBジャケット&パンツ」には、強度とストレッチ性に優れたメカニカルストレッチの66ナイロンを。これは3素材の中で最高の耐久性と耐摩擦性を有し、過酷な状況での使用を想定した素材です。

もう1点は生地表面に施されるDWR(耐久撥水)加工です。撥水性は生地表面の水を弾くもので、これがなければ生地表面が濡れて水の膜に覆われ、その時点で通気性はストップしてウェア内に結露が始まります。また、水を吸ったウェアが体を冷やすというリスクが生じるのです。

ことにティートンブロスの秋冬モデルのシェルは、基本的にバックカントリースキー・スノーボードやアイスクライミングなど、厳冬期の雪山で着ることを想定して開発されたウェアです。冬山という過酷な環境でウェアの結露や水濡れは、致命的な低体温症にも直結します。したがって、通気防水メンブレンと同じくらい撥水性は大事な機能です。「さらに……」と鈴木さんは言います。

「実際にフィールドで着用するときには、雨や雪などを弾くほか、撥水性や防水性に悪影響を与える皮脂や樹脂などの脂分を弾く『撥油性』も備えている必要があります。現在、環境配慮型の『PFC(過フッ素化合物類)フリー撥水加工』が注目されていますが、現状では撥油性に問題を抱えているため、PFCフリーの使用を控えています。それはティートンブロスのウェアは厳しい自然のフィールドで行動する人のプロテクションであり、自然のなかで行動する人の安全を守ることが、シェル開発のファーストプライオリティだと考えるからです」

東レの担当者に救われた創業時の秘話

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これまでのティートンブロスのユーザーのなかには、ポーラテック・ネオシェルと深い関わり合いをご存じの方もいらっしゃると思います。2020年までのモデルに採用されていたネオシェル・ニットバッカーは、ティートンブロスとポーラテック社が共同開発した高機能素材ということもあって、業界内でもポーラテックと非常に近いブランドとして知られてきたこともあるでしょう。

けれども、ティートンブロスのすべてのシェルがポーラテック・ネオシェルで作られてきたわけでもありません。鈴木さんはこう言います。

「使う用途やシチュエーションを想定して製品開発しますから、ウェア素材を決めるのは、あくまでも私たちが求める機能を満たしているかどうか。それだけに、常に複数の素材メーカーにコンタクトして素材を選ぶのは当然のことであり、機能性重視はティートンブロスの生命線ですから、そこだけは譲れません」

さらにいえば、東レとティートンブロスの関係性は、実は創業当時からでした。2008年にブランドを立ち上げた当時、最大のネックは素材の調達だったといいます。名の知れた生地を仕入れるツテもなく、海外まで足を運んで探してみたものの、スペック的に日本製高機能素材に敵うものは存在しませんでした。

しかし、大手メーカーの高機能素材は最低ロットでも1品番で数万着のシェルに匹敵する量で、立ち上げたばかりの弱小ブランドには、とても手が出せるレベルではありません。そんなときに手を差し伸べてくれたのが、東レの当時の担当者だったといいます。

「普通は大手メーカーとの間には商社が入るものなんですが、当時は業界の慣習も何も知りませんでしたからね。東レさんの電話番号を調べて、当たって砕けろの精神で、直接代表番号に電話をして訪ねて行ったんですよ。そのとき、たまたま相手をしてくれた方のおかげです。困ったと思いますよ。でも、向こうにしてみれば端布くらいの量だから、無理して手配してくれたのでしょうね。『普通はない話だけど、特別にやってみましょう』と言っていただけたんです。それがすべてのはじまりでした」

ティートンブロスの最初の製品である「TBジャケット&パンツ」は、こうして東レの素材を使って世の中にデビューしたのでした。以来、鈴木さんと東レの付き合いはつかず離れず続いてきたそうです。

「Täsmä」から始まる新素材への期待

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「今までと大きく違うのは、『Täsmä』は国内のメーカーで作られることがひとつ。もうひとつは、メンブレンはもちろん、表地と裏地、シームテープまでのすべてを東レさんの社内で開発できること。それには大きな可能性を感じています」と鈴木さんは言います。

群を抜く技術力を持つ世界の「東レ」がこの日本にあることは、より綿密なコミュニケーションにとって大いに有利に働くはず。また、1社で素材のすべてを開発できることがなぜ有利かおわかりでしょうか。それはほかの防水透湿生地メーカーは自社ですべての材料を生産しているとは限らないからです。

たとえば、ゴアテックスを製造するゴア社は化学品メーカーとしてメンブレンとシームテープを自社生産し、それを繊維メーカーから仕入れた表地と裏地とを貼り合わせて完成させます。ところが、それらの工程すべてを東レは自社製造で完結できるわけです。そのメリットは計り知れないと鈴木さんは言います。

「東レさんとの共同開発は物理的な距離が近く、なおかつ、東レさんですべてを製造するというメリット、それに『Täsmä』のメンブレンの構造上のメリットを重ね合わせて考えれば、将来的には通気性と防水性を自由にコントロールすることも十分可能だと考えられます。そうなれば、たとえば1着のウェアに性質の異なる『Täsmä』を使って、より快適でより安全な理想のジャケットもできるかもしれません」

全国各地に点在する多くのガイドやアスリートと協調しながら、社員が率先してフィールドテストを繰り返すティートンブロス。そうした山岳環境に根ざしたブランドの開発力に、世界屈指の技術力を誇る東レがタッグを組んだ将来には期待しかありません。

けれども、まずは新しい「Täsmä」を使ったジャケットやパンツを冬のフィールドで着用し、そのスペックアップした着心地を味わってみたいものです。その際、繊細な服として着こなすのではなく、道具としてガンガン使い込んでみてください。ティートンブロスの新しいシェルは、そうした使い方にこそ応えてくれるはずですから。

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寺倉 力(てらくら ちから)

寺倉 力(てらくら ちから)

編集者+ライター。三浦雄一郎が主宰するミウラ・ドルフィンズに10年間勤した後、「BRAVOSKI」編集部員としてモーグル、フリースキーに長く携わる。現在、編集長として「Fall Line」を手がけつつ、フリーランスとして各メディアで活動中。登山誌「PEAKS」で10年以上インタビュー連載を続けている。

    紹介したブランド

    • Teton Bros.

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