100マイルトレイルライターが、トレランアイテム選びのポイントを紹介
「アルプスの稜線はすっかり雪景色に染まり、これからは身近なフィールドでどう遊ぼうかと思案中」。そんな人も多いと推測しますが、それは同時に、体力作りも兼ねたトレイルランニングにとってベストなシーズンが到来したということ。
著者である僕、礒村がコーチを務めている「Run Boys! Run Girls! トレイルランニングクラブ」でも、秋口までは各自が目指しているレースを中心にカレンダーが回りますが、それがひと段落した今からは、心向くまま好きなフィールドを駆けまわれるタイミングになります。
蒸し風呂ジャパンにいっときの別れを告げ、頬をなでる空気がひんやりと気持ちよく、澄みきった空の向こうには遠くの山々がくっきり見える。山のすべてを五感で味わえるこれからがトレイルランニングにも最適ですよね。
そしてまた、使っているギアを見直してみるいい機会でもあるんです。
(文=トレイルライター / 礒村 真介)
100マイルレースで人体実験してみて痛感、ギア選びからトレイルランニングははじまっている
元々モノ情報誌の編集者だったこと、そして現在は言葉遊び半分ながら「トレイルライター/ランナー」を名乗らせてもらっていることもあって、ありがたいことにギア選びの相談を受ける機会がままあります。
ギアに頼ってパフォーマンスを上げられる。それがトレイルランニングの醍醐味のひとつでしょう。比較的歴史の浅いアクティビティだけに、ほかの山関係の道具と比べてギアの進化スピードも日進月歩です。すなわち最近の最新モノが抜群にオモシロいんです。
個人的には「今持っているものを、使い切る」のがモットーですが、幸か不幸か、山を夢中で駆けているとギアの寿命は思いのほか早く到来します。ハイクよりも、ましてやロードランニングよりも!
どんなに優れたギアでも寿命が近づけば性能が低下しますし、その分からだへの負担はアップ。転びやすくなるなどリスクも高まります。一言でいうと「気持ちよく走りにくくなる」んです。
せっかく汗をかくのだから、より快適に、安全・安心に楽しめるように、今こそ手持ちのトレイルランニングギアを見直しましょう!
①シューズを見直す|どんなによく出来たシューズも、ヘタるにつれて性能が落ちると知ろう
トレイルランナーとトレイルとの唯一の接点、それがシューズです。だからこそ製品寿命にはひときわ敏感になるべきでしょう。アッパーが破けたり、アウトソールのラグ(凸)が無くなったら分かりやすい買い替えどきです。でもそれ以前に、ミッドソールにシワが寄って、新品時に比べて歪みが出ている状態になったら要注意。足への負担が大きくなっていると心得てください。故障のリスクが高まります。
シューズ選びはとても一口では語り切れないのですが、そのモデルの得意分野を大まかに掴みたければ、「量ってみる」のが近道。メンズの27㎝を基準に、各メーカーが公表しているカタログ重量をチェックしてみましょう。
足を保護するためのプロテクションやクッション性を高めると、片足重量が300g以上になることが往々にしてあります。足入れしたときの感触は軽いモデルの方が快適かもしれませんが、いざ不整地たるトレイルを走るとなると、その重さは安定をもたらすポジティブな重さ。極端な話、マラソンシューズでも山を走れはするでしょう。でも気持ちよく安全にトレイルを駆けたいなら、それなりの重さがあるシューズがおすすめです。
LA SPORTIVA(スポルティバ)「アカシャ」
登山靴メーカーが手掛けるトレイルランニングシューズは、概して安定性の高いモデルが多いです。なかでもスポルティバの定番である「アカシャ」は、片足重量で約330gのロングラン向けモデル。実際に走ったときの軽やかさと安定感のバランスがいいので、初心者に「何か一足」と聞かれたときに胸を張って推薦できるシューズです。
ALTRA(アルトラ)「スペリオール5」
片足重量約255gのモデルは、比較的アップダウンの緩やかなトレイルをスピーディに駆け抜けたいときに大活躍。つま先の作りがワイドというユニークな個性があるので、その足型に合う人や、指先を使って地面を掴むように走りたい人におすすめです。
②-1. ウェアを見直す/レインウェア|持ち歩きの負担にならない薄軽タイプが便利。その分、ある意味消耗品だと心得て
防水透湿仕様のジャケットは、たとえ雨が降らずとも、木枯らしによる冷えを防ぐという意味でこれからの必需品。今後レースに出たいという人も、レインジャケットがルール上の必携装備品となっているケースが多いので、撥水性のみのウインドシェルではなくまずはレインジャケットを選びましょう。
前がフルオープンするジップアップジャケットが基本。保温力や蒸れ具合の調整がしやすいです。嵩張るとつい持ち歩くのが億劫になってしまうため、薄くて軽いタイプの方がいいでしょう。一方で耐久性や耐摩耗性とはトレードオフの関係になるので、シューズに引き続きメーカーの回し者みたいで恐縮なのですが、毎週末のようにお出かけした場合は1-2シーズンで買い替えが必要と割り切って下さい。
THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)「ストライクトレイルフーディ」
ザ・ノース・フェイスの中でもアスリートと共同開発したフライトシリーズのアイテムで、ウインドシェルのような軽さなのに3層の防水透湿生地という点がスゴい。ハイベント®フライウェイトという独自の防水透湿素材は、同じような他社素材よりも透湿性に優れていると言われています。大休憩を取ることなく移動し続けられる人ならこれで十分かもしれません。
OMM(オーエムエム)「カムレイカパンツ(ショーターレッグ)」
レインパンツはジャケットに比べ優先順位は下がりますが(雨具の下がないと移動し続けられないほどの条件下ではトレイルランしない)、防寒や行き帰りの移動着として検討の余地あり。防水透湿素材としては珍しくタテヨコによく伸びるため、足さばきをジャマしません。
一方でストレッチ性のない生地と比べれば肌に張り付きがちなので、濡れ感を感じやすく、本降りのときは油断しないでくださいね。
②-2. ウェアを見直す/ショーツ
気にしたいのは丈のバランスです。短い方が脚さばきがよく、スピーディ。その一方で、人によっては気恥ずかしさを感じるかもしれません。そこは好みのバランスを選ぶとよいと思います。
スマートフォンやエナジーフード類を「落とさず、揺らさず」で調子よく収納できる設計のポケットがあると、使い勝手が大幅によくなります。あとは腹部への締め付け具合にも配慮を。細いゴムでキュッと押さえつけているものは腹痛を誘発することがあります。
THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)「フライウェイトスピードショーツ」
トレイルランの動きにしっかり追随するしなやかなストレッチ素材で、汗による張りつきや衣擦れの音をほとんど感じさせない点が好もしいです。腹部は幅広のメッシュになっており、フィットさせたときの圧を広い面で分散させるとともに、小物類の収納ポケットとしての役割も兼ねています。
②-3. ウェアを見直す/アンダーウェアなど
トレイルランニングではハイク以上に天気・気温の変化スピードがめまぐるしいもの。レイヤリング(重ね着)を駆使して、とくにアンダーウェア類は積極的に活用したいところです。細やかな体温調整と素早い汗処理を行うことが、ストレスを減らして長く快適に走り続けるためのキモになります。
finetrack(ファイントラック)「ドライレイヤーベーシックシリーズ」
リニューアル前までの「スキンメッシュ」という名まえで聞き覚えのある方も多いかもしれません。肌面側は水分をよく吸い上げる構造で、表側は撥水加工が施されているのがポイント。Tシャツなどの吸汗速乾ウェアを一枚で着るのでなく、このアンダーと組み合わせることで、肌面側への汗の濡れ戻りを防いでくれます。初心者こそ試してみるべきだと思っています。
Goldwin C3fit(ゴールドウイン シースリーフィット)「インスピレーションアームスリーブ」「インスピレーションカーフスリーブ」
いわゆるコンプレッションウェアーですが、アームスリーブは半袖Tシャツと組み合わせて着用すると「長袖Tシャツ」感覚のレイヤリングに。そしてオーバーヒートを感じたら、手首側にたくし上げる(下げる?)ことで、半袖Tシャツと同じような状態に。単純にしてベンリな裏ワザです。
同様に、カーフスリーブも「ショーツ以上、ロングパンツ未満」のレイヤリングとして転用できます。
③バックパックを見直す|アラウンド10ℓが合言葉。“中”は大・小を兼ねる!?
コンビニや自販機のない自然の中を駆け抜けるからには、「背負って、走る」のがトレイルランナーの宿命です。バックパックの選び方はけっこうシンプルで、目的に合わせて容量を決めるといいでしょう。
大きな段ボールの中に小さな荷物しか入っていない状態を想像してみて下さい。中で荷物が遊んでしまい、持ち運ぶときにストレスがかかりますよね。それと同じで、その日の荷物に対して過不足のないサイズを選びましょう。
どれかひとつだけというなら、普段のランもレースにも使える10ℓ前後が一番使えると覚えてください。
PAAGO WORKS(パーゴワークス)「ラッシュ 12」
容量12ℓと、何かと荷物が増える冬のトレイルランでも不足を感じることのないサイズです。背中側のメインコンパ―メントは横方向に伸びるストレッチ素材を採用していて、荷物を入れない状態では驚くほどフラットな状態。荷量が少ないときでも比較的揺れが少なく、汎用性が高いです。ファーストバックパックに選んでも後悔することはないでしょう。
<現在入荷待ちのアイテム>
PAAGO WORKS(パーゴワークス)
ラッシュ 12
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④補給を見直す|頑張る日のご褒美エナジーは国産メーカーのものを選ぶ
自分の脚で登った山頂で摂る食事って、それだけでミシュラン顔負けじゃないですか。だから普段のトレイルランの補給食は「好きなものを、好きなだけ」でOKだと思っています。
そのうえで、いつもより少しだけ頑張りたい日は「消化の負担」と「エネルギーとして活用されるまでのスピード」の2点に気を配りましょう。コンパクトに携行でき、動きながらでも消化しやすいのは、やはり専用に開発されたエナジーフードです。国産メーカーのものなら日本人の舌の好みにも合いやすいですよね。
Mag-on(マグオン)「エナジージェル」
バナナ約1/4本分の重さで、バナナ1本分より沢山のカロリーが摂取できるエナジージェル。はちみつのようなテクスチャーには好き嫌いが分かれがちですが、日本メーカーが開発したマグオンは、海外ブランドのものより舌に馴染むと評判です。攣り防止として注目される水溶性マグネシウムが含有されているのも嬉しいポイント。
Enemoti(エネモチ)「エネモチ」
「食べ物はやっぱり固形に限る」という人には、和菓子のクルミ餅をベースにしたこちらを。自然な甘さの味わいはもちろん、パラチノースと呼ばれる「ゆっくりとエネルギー源になる」糖質を含み、早め早めに摂取することでロングランでのバテをケアします。買い置きしておけば、寝坊した日に慌ててコンビニに寄る必要もありません。
ギアを新調してモチベーションアップ!
トレイルランニングって、どこかRPG(ロールプレイングゲーム)に近い感覚があると思うんです。経験を積んで、レベルアップして、新たなフィールドを攻略する。レベルやシチュエーションに合った装備に買い替えればより楽に攻略できる。ギアを使いこなすのはトレイルランニングの醍醐味です。自分に合ったギアを身に付けて、トレイルランのベストシーズンを満喫しに飛び出しましょう!
礒村 真介(いそむら しんすけ)
山道を走って、書く、自称「トレイルライター」。某モノ雑誌の編集者時代にギアの面白さからトレイルランニングにハマり、山の世界へ。仕事柄徹夜にはめっぽう強く、国内外の100マイルレースで入賞経験あり。東京のトレイル&ランニングショップRun Boys! Run Girls!が運営するクラブ「ランボーズ」ではコーチを務めている。各メディアでのテスト企画などを通じ、ここ10年で履いてきたトレイルランシューズは200足以上。ちなみにレースではスポルティバを愛用中。2022年は米国の草シリーズを転戦する野望アリ。