山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクト

登山地図GPSアプリを提供する「YAMAP」と、日本のものづくりを伝える「うなぎの寝床」が、山をテーマにしたものづくりを手がける「山 × ものづくり」プロジェクト。今回は、禅僧が使用する「応量器」という食器が、スタッキングできる山食器に生まれ変わりました。制作にいたるきっかけや、プロジェクトの意義をYAMAP代表の春山慶彦さんと、うなぎの寝床代表の白水高広さん、キュレーターの春口丞悟さんにうかがいました。(記事:米村奈穂、写真:塚本圭衣子、場所:うなぎの寝床 旧寺崎邸 NATIVESCAPE STORE)

― 早速ですが、YAMAPとうなぎの寝床が一緒に応量器を作ることになったきっかけを教えてください

春山:久留米絣を使ったモンペなど、以前からうなぎの寝床さんの取り組みは素晴らしいなと思っていました。うなぎの寝床さんは、伝統工芸を含め地域に根づくものづくりと、普段の暮らしをどう繋げていくかを大事にして、実直に実績を積み重ねていらっしゃる印象を持っていました。

白水さん、最初のきっかけって何でしたっけ?

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクトYAMAP代表・春山さん

白水:春山さんから、「何か一緒にやれること 、意見交換しませんか?」というメールをいただいて、YAMAPのオフィスに伺ったんです。受付電話のところにしめ縄があって、案内された部屋の棚に応量器があって、出てきたコップがやちむんで... 一緒に行ったスタッフと、面白いねって話をしていました。それで、「いいっすね、この応量器」みたいな挨拶から、山に持って行ける、機能的でありながら日常でも使える食器を作れたらいいですねという話に自然となって、オフィスを出るときには応量器を作ろうということになっていましたね。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクトうなぎの寝床代表・白水さん

春山:僕がなぜ事務所の会議室に応量器を置いているかというと、機能美を考える時に、応量器以上のモチーフはないと思うからなんです。持ち運びやすさ、収納性、たたずまい... 無駄のないシンプルな美しさを応量器は体現しています。リアルのモノとデジタルで違いはありますが、YAMAPのアプリやWEBサービスも、応量器のようでありたいと思い、モノづくりの見本として、応量器を飾っています。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクト今回つくったヤマオウリョウキと木製のガス缶ケース

登山・キャンプ用品の多くは、ステンレスやチタンなどの金属製品が中心です。木など温もりのある素材で用品をつくるチャレンジを、いつかできたらとずっと考えていました。木製の登山・キャンプ用品の第一弾として、コンセプトを分かりやすく伝えるという意味でこの応量器を選びました。ただ、本当にできるかどうか、最初は全然分かっていなかったです。無理なお願いをしたとは思っているんですが、そこを春口さんが拾ってくれて、実現しました。乗り越えないといけない点がいろいろあったと思うんですが、春口さんいかがでしたか?

春口:そうですね、応量器は僕も持っていて、春山さんと同じようなことを考えていました。山に求められるものと近い機能はすでに持っているので、あとはどう形を変えればいいかを考えました。どこにお願いするかというときに、山中漆器の我戸幹男商店さんとちょうど知り合っていて、応量器を作られていることも知っていたので、相談してみたんです。薄引きを得意とされていて、引き受けていただけたので、サンプルからお願いしてやってもらいました。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクトうなぎの寝床キュレーター・春口さん

― 応量器の魅力はどこにあると思いますか?

春山:機能美も魅力ですが、自分の振る舞いが試される道具なのも応量器の魅力です。金属製のクッカーとは違い、落とすと傷がつくし、一定程度、丁寧に扱わないといけません。でも、道具に対する姿勢としてはその方が健全とも言えます。そこが、“もの”との関わりとして大事な要素だなと思っています。登山やアウトドアの道具が、壊れにくいのはある意味大事なのですが、道具を大切に扱う姿勢までを損なってはいけない。応量器は道具に対する自分の振る舞いが鍛えられる感覚があります。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクト

白水:僕らは、商品を無駄に作らないようにしているんです。基本的には、今あるもので代用できるなら代用したいと考えています。建築でいうリノベーションですね。今、世の中にないものは作るけれど、なるべく長く使えるものを作る。長期的な思考は持つようにしています。それと、“それだけでいい”状態を作りたいと思っていて、僕らが作っている久留米絣のモンペもそれだけで生活が完結するアイテムにしたいと思っています。そう意味で応量器は、それだけで米と、漬物と、汁物が完結する。これさえあれば食器としては十分です。応量器をアウトドアに応用したら、現代においても応量器の実用性を発見できるのかもしれないという興味が、最初の打ち合わせの時からありました。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクト実際の応量器を参考に、収納性にすぐれた構造を実現したヤマオウリョウキ

― 製品となるまでに苦労された部分はありますか?

白水:椀と小皿とガス缶とガスカバーがうまく収まる方法論を図面に書いて考えました。木を縦に取るか、横に取るか、どちらの効率がいいとか、作りやすいかとか。自然のものを扱っているので、特有の問題が出てきたりもしました。山で使うので、摺漆という、つるっとした仕上げではなく、少し荒く使っても大丈夫な仕上げにしたりとか、形状から仕上げまで時間はかかりましたが、作り手とやりとりして詰めながら考えられたプロダクトになりました。僕の中でよくできたなと思うのは、ガス缶の底のくぼみの中に小皿を2枚入れたところですね。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクトガス缶の底に収納できるように工夫したヤマコザラセット

春口:サンプルを作るまでは本当に小皿が収まるかわからなかったのですが、それが一番心配でした。

白水:あとは、厚みの限界とか。ろくろでくれる限界値の心配もありました。

春口:ろくろを引いてくれる人が、応量器を作っていた職人さんに弟子入りしていた人で、応量器の技術を持った人が引いてくれています。

白水:そういう人たちが技術を継承し、ものづくりに携わっていることはひとつの財産ですね。

― ヤマオウリョウキとセットで展開される、風呂敷について教えてください

春山:通常の登山用クッカー袋は、ネット状のものが主流です。今回のヤマオウリョウキに合う「包む道具」って何だろうと話していたときに、風呂敷がいいんじゃないかということになりました。風呂敷は、平面にも立体にもなる不思議な道具です。また、収納する道具でもあり、絵柄の美しさも兼ね備えています。

風呂敷の特徴を活かすため、収納しやすい大きさと、テーブルクロスなど平面にしたときの絵柄の美しさが映えるデザインにしたいと思いました。それで、うなぎの寝床さんとつながりのあるよつめ染布舎さんに風呂敷のデザインを頼むことになりました。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクトヤマオウリョウキを包むヤマフロシキ

白水:よつめ染布舎さんは、大分県の国東で型染をやられているんですけど、もとは広島で神社ののぼり旗や幕を染めていた家系なんです。デザインを学びながら家業を手伝ったりした後、国東に移って、ケベス祭りとかをモチーフに手ぬぐいを制作していて、僕の中では型染めの人なんですけど民族画家だと思っています。

ヤマオウリョウキを包んで山に持って行くとなったときに、単純に可愛いとか、カッコいいとかよりも、山というテーマで解釈を加えた図案を載せたいなと思いました。よつめさんが考える山を表現してもらいたかったので、あまりこちらの解釈は加えずに、制作に至った経緯だけ伝えて、図案を二つ描いてもらいました。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクトヤマオウリョウキ/ブラックと、字をモチーフにしたヤマフロシキ

白水:よつめさんに染めまでお願いすると、手作業になって値段が高くなってしまうので、京都に馬場染工業という風呂敷を染めているところがあって、よつめさんの図案を馬場さんに持って行ってお願いしました。結果、よつめさんと馬場さんとヤマップとうなぎの寝床のコラボみたいな形での風呂敷作りになりましたね。実はよつめさんには、型を掘って手染めで染めるものも15枚ほど作ってもらっています。これは実用品ではなく、手仕事の象徴として額装し、YAMAPのオフィスやうなぎの寝床にアート作品として飾れる予定です。

― 実際のところ、コラボレーションをしようと思った決めては何だったのでしょうか?

白水:僕らは、2012年の7月に筑後のものづくりを伝えるアンテナショップをオープンして、地域文化商社として地域のものを解釈しながら伝えていく活動を始めました。今年で9年目になるのですが、久留米絣をはじめとした地域文化が一部の人にしか伝わってないなという感覚があって、自分たちだけで編集して伝えることに限界を感じていました。

そこで、山というテーマと地域文化をつなげて考えているYAMAPさんのような、我々とは異なる視点を持って主体的に活動している人たちとコラボレーションをしたいなと考えていました。そうすることで地域文化に触れるきっかけを増やし、関心のある人たちを増やしていく。そういうことを、今後はやらないといけないねと社内でもよく話していました。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクトうなぎの寝床 旧寺崎邸 NATIVESCAPE STOREにて

その中でも、山はテーマもハッキリしていて面白いと感じました。生活や用途みたいなところから切り離されて、重く捉えられがちな地域文化や伝統工芸を、登山という用途に合わせた機能性で考えることで、作り手にとっても新たなチャレンジになると思いました。メールをいただいた段階からすごく面白そうだなと思っていて、YAMAPの会社に伺って意見交換したら、活動内容が違うようでいて、根本的には似ていると思ったので進み始めたという感じです。

春山:僕が白水さんの話をはじめて聞いたのは、オールユアーズの木村さんと白水さんの対談でした。その話がめちゃくちゃ面白かったんです。セレクトショップではなく、地域文化商社としてアイテムを選んだり、発信をしたりしているうなぎの寝床さんの哲学を知り、共感を覚えました。

うなぎの寝床さんの言い方だと「ネイティブ」になると思うんですけど、僕も地域やローカルの捉えられ方はまだ浅いと思っていてます。地域を掘り下げると普遍につながる。そのくらいの深みとテーマが各地域、各ローカルにはあると思っているんです。でも、地域での生活を、東京など都市との比較で見てしまう傾向が強いゆえに、地域そのものを十分に掘り下げられていないのが課題だと感じています。YAMAPの場合は、地方の自然になるんですけど、ものづくりも同じ課題を感じているんじゃないかなと思っています。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクトうなぎの寝床さん作「NATIVE SCAPEとGLOBAL SCAPEの対比図』

うなぎの寝床さんの場合は、ものづくりという回路から、YAMAPは山という回路から地域 = ネイティブに入り、風土や暮らし、地域文化に近づいています。ただ、各企業やベンチャーがゲリラ戦でやっても、なかなかムーブメントにはなりにくい。束になりながら一緒に動いてメッセージ性を高めることが重要だと思います。九州という同じ島に暮らしながら同じ世界を見ている気がしたので、ぜひ何か一緒にしたいなと思いました。

― うなぎの寝床とYAMAPが重なる部分とはどんなところでしょう?

白水:僕らは文化を、人と人が関わり合って生まれる現象、もしくは土地と人が関わり合って生まれる現象と定義していて、最終的に文化を簡単に分けると、人と自然だと思っています。僕らはどちらかというと、ものづくりで人にフォーカスしているように見えるんですけど、その人たちがもともと自然とどう関わりあって食やものづくりが生まれてきたのかとか、そういう流れが大事だと思っています。YAMAPが生み出している現象は、サービスとして提供されているけれど、根本的な部分はその地域にいた人の営みだとか、自然との関わり方とか、僕らと近いところを見ているんじゃないかなという気がしました。

春山:うなぎの寝床さんは、場の力が強いなと思います。旧寺崎邸という場所もそうですがが、場をひとつのメディア、発信拠点として位置付けていらっしゃる印象を僕は持っています。最近は、店舗だけでなく、ツアーを手がけられたり、雑誌も発刊されていて、この一連の動きがめちゃくちゃ面白い。同じ商品だったとしても、うなぎの寝床さんにあるというだけで全然見え方が変わります。それは場の力の作用だと。なかなか一朝一夕に作れるものではないと思います。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクト

白水:うちは一見“もの”を扱っているようですが、その先に山とか川とか、地域資源があって、昔の人がそれらの資源とどう関わってきたのかという、全体のつながりを伝えたいんです。“もの”はあくまでもコミュニケーションを取るきっかけと捉えているので、僕らの仕事は、生活用品としてだけの“もの”を提供しているというよりも、いろんなきっかけをより多く与える機会を作ることだと思っています。

YAMAPさんが自然の中を歩きながら感じてもらう直接体験を提供しているならば、僕らはもっと間接的だと思います。先ほど春山さんが場の力と話していただいたように、店舗のような入り口の部分を作ることによって、その後ろにある地域資源にアクセスして欲しい思いで、この7、8年間やってきたところはあるかもしれないです。サービスや活動は違っていても、人と自然の関り合いから生まれてきたものを伝えたいというところは似ているのかなと思います。

― アウトドアを通して、地域を知るということについてお二人の考えを聞かせてください

春山:登山・アウトドアの価値は、身体感覚を通して、風景は我である、あるいは我々であることを実感できるところにあります。お米を作る人など一次産業を生業にしている人はその感覚を当然持っていると思うんですが、自然から離れた仕事をしている僕らは、風景とのつながりを実感できる機会が日常から減っています。その意味で、登山・アウトドアは、自分の命と風景が繋がっていて、その土地の特性、地域資源みたいなものを実感できて、その町の風景、風土、環境を好きになるきっかけを与えてくれます。ネイティブっていうのは、アメリカの先住民だけのことではなくて、日本に暮らす僕らも日本のネイティブであると考えた方が、風景、風土の凄みを実感できると思います。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクト

白水:僕らも、本当はそこまで持って行きたいんです。僕も18歳まで佐賀に住んでいて、それから大分、福岡に移って、今はまた佐賀に住んでいますけど、その間の23年間は、実際、久留米絣や地域のものを全く知らない暮らしをしていました。たまたま妻の母方の実家が久留米絣の織元で、作り手の工房に行ったらリアリティに溢れていたんです。いくらWebが発達しても、体験に勝るものはないと思いました。そういう意味でYAMAPのように、地域資源や土地の特性や先住民にアクセスしたり感じられたりする直接体験を増やすサービスを提供することはいいなと思います。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクト「もの」は生活のものでもあるが、地域資源や先住民に接続している

春山:登山の観点で言うと、明治以降、登山が西洋アルピニズムになっていく段階では、物理的な空白地帯を目指すことが冒険だったと思うんです。でも今は、グーグルマップが世界を覆い尽くし、物理的な空白地帯は事実上あまりない状態です。21世紀の冒険は、極地や高地に行くことではなく、見えないものを見えるようにする、認識を変えるようなモノの見方を提供できるかだと思っています。その意味で、今この時代にエベレストに登るのは、冒険じゃないと思うんです。自分の住んでいる地域をを掘り下げ、価値を再発見し、住みやすい場所のまま、この地球(ほし)を次世代へ引き継いでいく。その営みこそ、21世紀の冒険だと僕は思っています。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクト

白水:発見することが冒険というのはすごくわかります。僕らも、もともと地域に存在していたけれど、23年間くらい全く気にして見えてなかった久留米絣を知ったことで再解釈できたので、そういう体感をすることが重要なのかなと聞いていて思いました。

春山:うなぎの寝床さんがやっていることは、考古学や歴史学のようですね。

白水:まず本質的な地域文化の価値の見立てを行なって、それに合わせて行動する。それをどう繋いでいくかを仕組み化するのが僕らの仕事で、その見立てが重要だと思います。山に行って、これやばいじゃんと自分ごととして思える人や、ものづくりを見て、これもったいないから伝えないといけないとか、そういう視点を持った人が増えればいいなと。“もの”や“こと”は飽和しているので、もう一度、地域や自分たちの土地にあるものを見直して見立て直すみたいなことが重要だと思います。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクトうなぎの寝床の行動指針とプロセス

― 山×ものづくりプロジェクトをやる意義、意味はどこにあると思われますか?

春山:冷静に登山・アウトドア用品を見てみると、画一的な商品が多数です。また、海外製品ばかりをありがたがって着るのも違うなって思う時があります。身近に繊維を作っている場所があるのに、そういう素材を登山・アウトドア用品に活用しないのはもったいない。機能的には少し不便かもしれないけれど、自分たちの身の回りにある素材で道具をつくり、日常でも山でも楽しむのは、日本の登山・アウトドアにおいて大事な精神だと思っています。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクト

久留米絣も応量器も、もともとは家と外を行き来し、風土・暮らしの中で生まれてきた道具です。これらの道具を再定義してあげると、行為だけでなく道具も風土を象徴するメディアになっていく。その一石というか、問いかけがこのプロジェクトじゃないかと思います。だから、応量器や風呂敷、絣がプロジェクトのラインナップになるのは、自然な流れだと思います。

春口:ものづくりにおいて、文化的なものと文明のバランスをどう取ったらいいのかということを考えていました。昔は文化的なものって選択肢がなかったというか、車もないので歩ける範囲で物を調達することが当たり前でした。地元の木を使うこととか、その時代にやれることをやるしかなかった。今は物流もインフラも変わってきて、やれることが広がって選択肢はあるけれど、その中で失われてしまって選べなくなっているものもある。

それをもう一度同じ土俵に上げたとき、じゃあ今後はどういうものを使ってものづくりをするのか。そういう意味で、ぱっと見アプローチが全く違う、「アプリを作る技術を持った会社」と「うちみたいな地域文化商社」が実は同じようなことを考えていて、一緒に取り組むことで生まれる新しいものは、やる意味があるし考えられることがいろいろありそうだなと思います。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクト

白水:今、文化と文明のせめぎ合いをしているんだなと思いました。YAMAPの山の文化とGPSのような文明の領域の掛け合わせみたいな、そこのすり合わせが結構重要なんじゃないかなと思います。僕らも文化的な領域はやってきたけど、文明を取り入れていかないと今後は文化が残っていかないような感覚もあって、このヤマオウリョウキはそのせめぎあいの中で作られた。そこが面白かったなとも思います。

― お話を聞いていると、地域文化の側面からすると登山者は、文化と自然の間という絶妙な立ち位置にいるけれど、登ることに一生懸命でそれに気づけていない気がします。ものづくりに携わる立場から、登山者に向けたメッセージはありますか?

白水:もともと応量器とかろくろで削り出して作る器って、材料となる木を切ってそのまま山麓に下ろすとあまりにも重いので、ある程度器の大きさにまでくって、それをカゴに背負って下ろして、それから器に仕上げられていたんです。だから、ものづくりと山って本当はそんなに遠くないんです。今は、器って生活の中で使うものになっているけれど、もう一度山の中で使ってみて、意外に自分たちが使っているものと、山が近いものだと気づけるきっかけみたいなものを作れたらと思っています。

山道具と日本のものづくりが出合い、新たな地域文化が生まれる。「山×ものづくり」プロジェクト

まずは「柄や形がいいね」というところから入って、使っていくうちに「この木ってどこで取れたんだろう」というふうに、楽しさから気づきみたいなところにいけたら一番いいのかなという気はします。登るという行為だけでなく、登る過程の中にある自然と自分たちの生活がつながっていることを認識してもらえたらいいなと思います。意識的でも、無意識的でもいいと思うんです。そういうものが蓄積されて、あるとき違和感みたいなものが生まれてきたらいいなと思います。

春山:ヤマオウリョウキは家でも外でも使える木製の食器に仕上げました。価格は少し高いですが、一生ものの器になると思います。ぜひ試してみていただき、登山やキャンプ、暮らしの相棒として育てていただければ、嬉しい限りです。

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