話題の「オクタ」を使った山シャツをレビュー!「着続けられる」フリースは本当?
保温着の定番といえば「フリース」ですが、行動中はオーバーヒートしがち。その結果として脱ぎ着が増えたり、汗冷えにつながったり。みなさんもそんな経験ありませんか。
ここ最近、よく耳にするようになった「Octa(オクタ)」という素材。各アウトドアブランドがオクタを使用したウェアを発表していますが、このオクタが「行動中に着れる保温着」として、冬の登山にありがちな悩みを解決してくれる、画期的な素材らしいんです。
かくいう筆者もその存在を知ってはいたものの、まだ着用したことがなく「本当に登りでも着続けられるのかな?」と気になっていました。今回はSTATIC(スタティック)の「YAMAP別注 アドリフトシャツ」を使ってその実力を検証しました。
先に結論を言ってしまうと「なんでもっと早く着なかったんだろう……!!」です。
(文:山畑理絵 撮影:茂田羽生)
「オクタ」の正体は、特殊なポリエステル繊維
まずは肝となる素材「オクタ」のことから情報を整理したいと思います。
オクタとは、穴の空いた中空糸に、8本の突起を放射線状に配列した「ポリエステル繊維」のことです。先進的な素材を手掛ける帝人フロンティア(株)が開発しました。
中空糸? 8本の突起? いったいなんのこっちゃ……と筆者はなってしまったのですが、下の画像を見て「ほ〜なるほど」とその言葉の意味が理解できました。オクタはすごく独特な断面をしているんですよね。
通常のポリエステル繊維は「丸い」断面をしていますが、オクタは「タコ足型」の断面になっているのが大きな違い。だから「特殊断面ポリエステル繊維」なんて表現されることも。
繊維に8本の突起がある=オクタゴン(8角形)=「オクタ」という名前がついたのかな? と筆者は推測しました。
オクタならではの特長4つ
この特殊断面がもたらすメリットはおもに4つあります。
1.保温性
2.通気性
3.吸汗速乾性
4.軽量性
秋冬のハイキングに欠かせない「保温性」を高めながらも、行動時の汗ムレを解消する「通気性」があるため、行動中に着れる保温着(いわゆるアクティブインサレーション / 動的保温着)として活躍します。
さらに汗もすぐ乾き、軽さも兼ね備えているなど、オクタを使ったウェアはいいこと尽くしというわけです。
メッシュと起毛が合体した「オクタ CPCP」
その機能的なオクタを使って、メッシュ面と起毛面をもった一枚生地が「オクタ CPCP」という素材です。
オクタ CPCPの表面は、通気を促す「メッシュ素材」。裏面は、保温性を保つ「異形断面中空ポリエステル起毛繊維」で、ふたつの側面をもっています。
今回筆者がレビューするスタティックの「YAMAP別注 アドリフトシャツ」は、オクタ CPCPを採用したシャツ型のアクティブインサレーションです。一般的にオクタ CPCPは中綿製品の裏地として使われているのですが、あえて単体のフリースとして採用。より軽く、持ち運びしやすい仕様になっています。
さて堅苦しい話はこの辺にして、さっそく着てみたいと思います!
思っていた以上に……メッシュしてる
まず手に取ってみてびっくり。想像していた以上の軽さ、薄さ、そしてメッシュ!
光に透かしてみるとメッシュ地になっているのがよくわかります。カテゴリーとしては保温着(フリース)になるので、「これだけスカスカだと寒いんじゃないの…?」というのが最初の感想。
ただ、実際にハイクアップすると不思議とこの抜け感がちょうどいいんです。これは後ほど解説します。
重さを測ってみると156g。バナナ1本分くらいの軽さ。
表面のメッシュ地はさらっとしていて、裏面の起毛はふわふわしていて柔らかいタッチです。
いざ羽織ってみると、着た瞬間に暖かい空気を身にまとっていることを体感するくらい、じんわりとからだが温まっていくのがわかりました。
しかも、シャツの存在を忘れてしまうくらいのエアリーさ。これを山で着て歩いたら、いったいどんな体感になるのか……高まる期待!
さっそく山へ。着たまま快適に歩けるか検証します
というわけで、オクタ CPCPを使った「YAMAP別注 アドリフトシャツ」を着て山へ。そこそこアップダウンがあって、尾根歩きもできる低山にやってきました。
本日の気温は、歩きはじめが13度で最高気温は18度。風は風速1〜4m、風向は南南西の予報です。日陰はひんやり寒いですが、12月にしては暖かい気候なので、「フリースを着たまま快適に歩けるか」をレビューするにはちょうどいいコンディションかもしれません。
なお、「YAMAP別注 アドリフトシャツ」の下にはウール混の長袖ベースレイヤーを着用。冬でも登りが続けば汗をかきますし、ひとたび尾根に出れば風が当たって冷えるもの。
基本的にはこのレイヤリングで歩き、「登りで汗をかいても脱がずに快適か?」「メッシュによる寒さはどうか?」を意識しながら歩いてみます。
汗をかいても、不思議とオーバーヒートしない
スタートからわりと急坂で、息が上がって脇の下が汗ばんでいきます。けれども不思議とオーバーヒートはせず、「YAMAP別注 アドリフトシャツ」を着ていてちょうどいい感じ。
ときおり吹く風がシャツとベースレイヤーの隙間から肌にあたって、気持ちよく感じます。
その後も少しずつ登りながらの尾根歩きが続きましたが、汗ばんできても「暑い、脱ぎたい!」とはならないので、極小の穴からウェア内の熱を逃がして、通気を促してくれているんだろうと思いました。
かといって風が吹いてもさぶっ……と身震いしてしまうこともなく。
休憩中もちょうどいい
山頂の気温は17度。周囲に遮るものがないので風はダイレクトに感じますが、日差しがあるおかげで休憩中も「YAMAP別注 アドリフトシャツ」+長袖ベースレイヤーの組み合わせで冷えは感じません。
脱がなくても快適だったんですが、それじゃあレビュー記事としておもしろくない……ので、あえて脱いでみたら、一気に体感温度が下がっていくのがわかりました。
生地はメッシュなのに、暖かい空気を蓄えられるところがオクタ CPCP素材の本当に優れたところだと思います。生地の薄さを考慮すると、びっくりするくらいの保温力です。
今日はたまたま暖かい日でしたが、もし風が冷たいとき、寒いときは上からシェルを羽織ればOK。保温性がグッと上がります。
ここでポイントなのが、「YAMAP別注 アドリフトシャツ」の表地がさらっとしている(モコモコしていない)点。
毛足の長いフリースは保温性こそ長けているものの、その上にジャケットを羽織ると摩擦で動きにくいことがありますが、「YAMAP別注 アドリフトシャツ」は重ね着しても動きやすいところが◎。
さらに襟を立てればもっと保温性アップ。襟を固定するボタンはありませんが、立ち上げるだけでも首元を温められます。
肌あたりのいい質感なので、デリケートな首元にあたっても違和感ないところが個人的には嬉しかったポイント。シャツは首元の温度調整できるところがいいですね!
走って体温を上げてみたけど…
あまりにも脱がなくていいので、体温をグググッと上げるために帰り道は少し走ってみました。さすがにこれなら「暑くなって脱ぎたくなるのでは」と思ったのですが……。
走っているときは、風抜けがめちゃくちゃ気持ちいい。で、止まったあとはからだが熱をもっているものの、ひんやりとした風が肌にあたることでオーバーヒートまではいかず、やはり脱がずに済んでしまいました!
「着続けられるフリース」というのは本当だった
冒頭で説明したように、オクタの特長である「保温性を高めながらも、行動時の汗ムレを解消する通気性がある」のは本当だったんだな〜と身をもって体感。
もちろん感じ方には個人差がある、という点は補足しておきますが、筆者は登りでも脱がずに快適でしたし、メッシュによる寒さも、この日の登山で感じることはありませんでした。
これまではフリースを脱いで、着て、脱いで……を当たり前のようにやっていたけれど、「着たまま行動し続けられる」ことがこんなにもストレスフリーだったなんて、これは嬉しい発見。ウェアの脱ぎ着が減らせる(今回はむしろゼロ)って快適すぎます。
【ここも推したい!】 使って感じた4つ魅力
通気性と保温性のバランスが絶妙の「YAMAP別注 アドリフトシャツ」。ディテールにも推したいポイントが! 伝えたいことが多すぎてだいぶ長くなってしまいましたが、もう少しだけ筆者のおしゃべり(?)にお付き合いください。
【POINT1】腕時計が見やすい
着てみて「あっ!」となったのが袖口。ボタンの上がやけに大きく開いているなと思ったら、これが時計が顔を出すのにぴったりで。
筆者は山行のログを取ったり、ナビゲーション機能を使ったりするので、いちいち袖をまくらずに液晶パネルをチェックできるのが地味に便利でした。人によっては結構嬉しいポイントなんじゃないでしょうか。
【POINT2】着脱しやすいスナップボタン
ボタンホールではなくスナップボタンなので、開け閉めのわずらわしさはゼロ。フィット感の高いグローブなら着用したままでも操作できましたよ。
ちなみに下のスナップボタンを開ければ、ダブルジッパー的な使い方ができるところもシャツならではのメリットですね。
【POINT3】脱いでも軽い、小さい。だから荷物にならない
たたむと手のひらほどの小ささに。このままバックパックに突っ込んでもいいのですが、手持ちの収納袋に入れたら、もっとコンパクトになって携行しやすくなりました。
スマホほどの大きさなので、これなら暖かいシーズンでも「念のため持って行くか」と思えます。しかもこれだけ圧縮してもシワになりにくいところがいい!
【POINT4】洗濯したあと乾きやすい
通気性が高い素材なので、洗ったあとの乾きが早い、早い! 室内干しをしましたが、1時間かからずにからっからに乾いていました。
先述したとおりシワになりにくいので、洗濯後のお手入れもラクちんです。
気になったのはこんなところ
唯一、着用していて気になったのは表地の耐久性です。やわらかいメッシュ地なだけあって、アウターの面ファスナーなどで生地を傷つけないように注意は必要だと思いました。
また、着る前は「ショルダーベルトの擦れで表面がケバケバになっちゃうんじゃ……?」と懸念していましたが、今のところその気配はありません。
もちろんベルトとの相性もあるかもしれませんが、デリケートな見た目とは裏腹に、意外と毛羽立ちにくい印象です!
秋冬は「動的」保温着。春夏は「静的」保温着として、オールシーズン着回しできる
特殊な糸「オクタ」により、高い保温性を確保しつつも通気性がよく、着続けながら歩きやすい「YAMAP別注 アドリフトシャツ」。おもに秋冬は動的保温着として、春夏は静的保温着として活躍してくれます。
筆者はこの冬の普段着としても着回していますが、山行中といっしょで、寒い外↔︎暖かい室内での脱ぎ着が減って快適に過ごせています。個人的には、抜き襟(襟をうしろにこぶし1つ分くらい引っ張って着崩すスタイル)にしてみると今っぽいスタイリングになって、私服にも合わせやすかったです。
シャツはプルオーバー型と違ってレイヤリングの幅が広いので、デイリーユースしやすいアイテム。汎用性の高いハイテク保温着「YAMAP別注 アドリフトシャツ」のスゴさ、たくさんの方に伝わってほしい!
「クルーネック派」ならこちらもおすすめ
YAMAP別注のアドリフトシリーズには、アウターを重ねやすい「クルーネック仕様」もあります。しかも胸ポケットあり、裾のドローコードありで着用の変化を楽しめる技あり。単体着用でもサマになります。
シャツってあんまり着ないんだよね、という方は「YAMAP別注アドリフトクルー ウィズ ポケット」もチェックしてみてください。
山畑 理絵(やまはた りえ)
登山歴15年のライター・編集者。元アウトドア用品専門店スタッフ。のんびり日帰り低山から、山小屋グルメ堪能ハイク、テント泊縦走まで楽しむ。ホームマウンテンは奥武蔵。現在は3歳の娘と山歩きとクライミングジム通いに没頭中。
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