自然から感じる思いをかたちに。街と自然の距離を縮めるYURI MIYATA(ユリ ミヤタ)の「IN THE FOREST」コレクション

「街の生活と山の自然はかけ離れたところにあるけれど、その間をつなぐ存在になれたらいいと思うんです。山で感じたものを形にできたら、身につけることで街にいても意識が自然に向いたり、山の雰囲気をふわっと感じたり、離れているけれどどこかでつながっているのを感じてもらえるんじゃないかなって」

落ち着いた静かな声で、ゆっくりとそう話すのは、宮田有理さん。2017年に、自身のブランド「YURI MIYATA(ユリ ミヤタ)」を立ち上げ、山を歩いて見つけた植物や景色など、自然のなかで感じたものを形にすることをテーマに、デザインと制作を行なうアクセサリー作家です。

YURI MIYATAの作品を、ひとりでも多くの山を愛する方に知ってほしくて、YAMAP STOREで取り扱いを始めることになりました。最初にお届けするのは、「IN THE FOREST」というシリーズの、10種類のブローチ。
「山にアクセサリーは必要ない」、「アクセサリー自体に興味がない」という方にこそ、作品ひとつひとつに込められた想いや、形になるまでのストーリーを、ぜひ知っていただきたいのです。
(インタビュアー/記事:小川郁代、撮影:鈴木千花)

自然から感じる思いをかたちに。街と自然の距離を縮めるYURI MIYATA(ユリ ミヤタ)の「IN THE FOREST」コレクション

上野や御徒町にほど近い、活気あふれる下町の裏通りに、その建物は突然現れます。ファッションやデザイン関連のクリエイターの起業をサポートする施設「台東デザイナーズビレッジ」。1928(昭和3)年に建てられた小学校の校舎をそのまま再利用したという、モダンでクラシック、昭和レトロな建物に、YURI MIYATAのアトリエはあります。

自然から感じる思いをかたちに。街と自然の距離を縮めるYURI MIYATA(ユリ ミヤタ)の「IN THE FOREST」コレクション

かつては子どもたちの下駄箱が並んでいたであろう1階のエントランスを抜け、壁に囲まれた広い階段を登り、廊下を何度か曲がった先にある、209の教室札がかかった部屋。窓からは心地よい風が吹き抜け、ラジオもBGMもない空間に、どこか遠くから聞こえる子どもたちの遊び声。昭和にタイムスリップしたような穏やかな空気のなかで、宮田さんの作品は生まれます。

自然から感じる思いをかたちに。街と自然の距離を縮めるYURI MIYATA(ユリ ミヤタ)の「IN THE FOREST」コレクション

デスクに並べられたたくさんの作品は、名前はわからなくても、どこかの山で必ず見たことのある植物たち。目の前にあるのは金属なのに、頭の中には自然の中に生き生きとある姿が、その場の温度や光などの記憶と一緒に浮かび上がります。

あの葉っぱだとわかるけれど、そっくりそのままではなく、繊細だけれど力強さもあり、思わず「かわいい」と言葉がこぼれるけれど「プリティ」とは違う表情。

自然から感じる思いをかたちに。街と自然の距離を縮めるYURI MIYATA(ユリ ミヤタ)の「IN THE FOREST」コレクション

「モチーフは実際にある植物そのものなんですが、普段の生活に取り入れやすいように、シンプルな形に落とし込んでいるからでしょうか。直線的な表現も多く主張が強すぎないので、意外と男性がよく使ってくれます。実際のサイズやバランスにはあまりとらわれず、アクセサリーとして使いやすいことを考えて作ります。

山を歩いていると、出会っちゃうんですよね。『ああ、このカーブを削りたい!』って思うものに。普段街では見ない植物が山にはいっぱいあって、どうしてこんな形になったんだろうって。それを見つけるのが楽しくてしかたないんです」

自然から感じる思いをかたちに。街と自然の距離を縮めるYURI MIYATA(ユリ ミヤタ)の「IN THE FOREST」コレクション
自然から感じる思いをかたちに。街と自然の距離を縮めるYURI MIYATA(ユリ ミヤタ)の「IN THE FOREST」コレクション

―削るんですか? 金属を?

「最初にワックスを削って原型を作るんです。それで型をとって金属を流し込んでと、いくつかの行程を踏んで、最後は手で磨いたり表面の加工をしたりして、金具を付けて完成。型どりと鋳造は職人さんにお願いしていて、原型を作るところまでと、磨きから仕上げを、私がここでやっています。

山で出会ったものをイメージして、落書きみたいなスケッチはするけれど、きちんとしたデザイン画のようなものは書きません。写真も好きでいろいろ撮るんですが、デザインのためというわけではなくて、削りながら考えていく感じ。だから、私のなかでは『創作=削る』っていうイメージなんです」

自然から感じる思いをかたちに。街と自然の距離を縮めるYURI MIYATA(ユリ ミヤタ)の「IN THE FOREST」コレクション

―山で見つけたものをアクセサリーにしようと思ったのは、何かきっかけがあるんですか?

「もともとは岡山の大学で陶芸を学んでいて、卒業後、名古屋の洋食器メーカーで、ディナーセットなどの形をデザインする仕事をしていました。デザインしたアイテムは、最初に石膏を削って原寸大のモデルを作るんです。そこで『削る』ことを身に付けました。

プレートの淵やティーカップの持ち手など、レリーフのデザインにツタや唐草の模様がよく使われていたので、植物には当時から関心がありました。特別詳しいわけではないけれど、自然が作る造形が好きなんですね。

ちょうどそのころ、山登りを始めたんです。今から10年くらい前、周りが富士山に行くというので軽い気持ちで始めて、せっかく道具も揃えたからほかの山にも行ってみようと。そうしたら、初めて見る植物がいっぱいあって、山が変わると植物も違って。すぐに心を掴まれて、ここで感じたものを『削りたい』と思いました。

仕事でやっていた、削って型をとるという工程がアクセサリー作りと同じだったこと、もともと作ることが好きで、自然や植物にも関心があったこと。それまでバラバラだったことが、山に行ったことで一気に全部繋がったんです。

自然から感じる思いをかたちに。街と自然の距離を縮めるYURI MIYATA(ユリ ミヤタ)の「IN THE FOREST」コレクション

それからは、とにかく山に行くのが楽しくて仕方なくなりました。あの山の頂上に立ちたいとか、景色や花が見たくて山に行くことはあまりないんですが、なんとなく街で考えていたアイディアが、山で偶然見つけたものに繋がって形になるのがうれしくて。下ばっかり見て歩いているので、すぐに疲れちゃうんです」

自然から感じる思いをかたちに。街と自然の距離を縮めるYURI MIYATA(ユリ ミヤタ)の「IN THE FOREST」コレクション

―モチーフを見つけるために山に登っていて、山が楽しめないなんていうことはないんですか?

「何がなんでも探さなきゃとは思っていないから、それはないですね。出会うか出会わないかは偶然だから。以前は長野や山梨に行くことが多かったけれど、最近は新しい出会いを求めて、東北方面にも行きます。夏は道がなくて積雪期じゃないと行けないところなんて、すごく惹かれます」

作品のモチーフとなった植物の名前を教えてもらったり、写真を見せてもらったり、ひとしきりお話を聞いたところで、実際の作業の様子を、少し見せてもらいました。

自然から感じる思いをかたちに。街と自然の距離を縮めるYURI MIYATA(ユリ ミヤタ)の「IN THE FOREST」コレクション

ワックスの原型が、職人さんの手で真鍮に姿を変えて、再び宮田さんの手に戻ってきたところ。ここから小型の工具を使って磨きをかけていきます。

目の粗いものから細かいものへと順番に砥石を変えて、時間をかけて何度も磨く作業を重ねます。最後に超音波洗浄をして重曹で洗えば、磨き作業は終了。繊細で時間のかかる作業に、これが本当の「手作り」であることを実感します。

自然から感じる思いをかたちに。街と自然の距離を縮めるYURI MIYATA(ユリ ミヤタ)の「IN THE FOREST」コレクション

「ここで磨きをかけることで、形が引き締まります。素材は、真鍮とシルバー925。真鍮は表面をきれいに加工するのが難しいんですが、街でも山でも使えるブローチを作りたいと考えたときに、貴金属よりもカジュアルに使えるものがいいと思って選びました。少しガサっとした独特の質感があります。シルバーは真鍮に比べると、柔らかくて繊細です。

自然から感じる思いをかたちに。街と自然の距離を縮めるYURI MIYATA(ユリ ミヤタ)の「IN THE FOREST」コレクション

こうやってきれいに磨いて光沢を出すこともあるし、サンドブラストという方法でマットに仕上げることもあります。磨き方の違いで、光が当たったときの表情がまったく変わるので、光沢とマットを一つの作品で組み合わせたり、削りの段階で模様やデザインを加えたりもします。どうしても時間がかかるので、大量には作れないんですよね」

「YURI MIYATA」のアクセサリーコレクションには、ほかにもうひとつ、「From the Atmosphere」というラインがあります。小さくて繊細な「IN THE FOREST」とは対照的に、大ぶりで存在感のあるシルバーのアクセサリーたち。

自然から感じる思いをかたちに。街と自然の距離を縮めるYURI MIYATA(ユリ ミヤタ)の「IN THE FOREST」コレクション

「このシリーズはつくり方が違って、素材も純銀を使っています。削り出しで原型を作るところまでは同じですが、それを特殊な機械で50時間くらい電気加工をして、型の周りにシルバーを付着させます。そこに穴を空けて、中のワックスを溶かして抜くと、中が空洞になるので、こんなに大きなものでも、ものすごく軽いんです。
この方法で、山の空気とか風とか霧とか、形のないものを表現したかったんです。私が今日着けているピアスがクラウド、こっちの四角いのはスナックっていう名前で……」

『空気』と『スナック』が出たところで、ハッとすべてが理解できました。そう、これは紛れもなく、山でしかお目にかかれない、パンパンに膨らんだポテトチップの袋。これ以上の山の空気の表現がほかにあるでしょうか!

「あれを見ると、『ああ、こんなに高いところまでがんばって登って来たんだな』ってうれしくなりますよね。山に登らない人には伝わりにくいかもしれないけれど」

自然から感じる思いをかたちに。街と自然の距離を縮めるYURI MIYATA(ユリ ミヤタ)の「IN THE FOREST」コレクション


自然から感じる思いをかたちに。街と自然の距離を縮めるYURI MIYATA(ユリ ミヤタ)の「IN THE FOREST」コレクション

「YURI MIYATA」の作品は、ひとつひとつの存在はもちろん、その明確で率直なコンセプトに価値があるのだと思います。静かで柔らかなものごしの宮田さんの内側にある、感じたものを形にしたいという強い欲求と、それを具現化する才能。クリエイターであり、職人であることのエネルギーのようなものが、響くように伝わってきます。繊細でかわいい作品にどこか強さを感じるのは、それがにじみ出ているからなのでしょう。

自分の作品で、山と街を繋ぎたいという想いは、作品を通して必ず使う人の心に届くはずです。初めてあの真鍮の葉っぱを見た時に、いつか登ったどこかの山の情景が、距離も時間も超えてフルカラーで頭に飛び込んできた感覚は、それを確信させるのに充分なものでした。

急登がつらくても、雨に降られても、山から下りて『ああ、楽しかったなあ』と思うのと同時に、楽しかった分だけ寂しくなるのが、山に魅せられた人に共通の感情。
その寂しさを「IN THE FOREST」の葉っぱたちが癒してくれます。10種類のなかからどれを選んだらいいかと迷うことになると思いますが、あせらずに思う存分悩んでください。そうすれば、次に山に戻るまでの時間が、ずいぶんと短く感じられるでしょう。

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宮田 有理(みやた ゆり)

宮田 有理(みやた ゆり)

岡山県倉敷市出身。大学でセラミックデザインを学んだ後、名古屋の洋食器会社に形状デザイナーとして5年間勤務。 25才で初めて富士山に登ったことをきっかけに様々な山へ行くようになり、YURI MIYATAとして山の自然をテーマにしたジュエリーやプロダクトのデザイン・制作を行う。 登山と制作を繰り返しながら、東京を拠点に活動。

    紹介したブランド

    • YURI MIYATA

      YURI MIYATA

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