目指すのは“機能美”ではなく機能と美の両立「ZANEARTS(ゼインアーツ )」

ZANEARTS(ゼインアーツ)代表:小杉 敬(こすぎ けい)

2018年。画期的な構造のシェルターを立て続けにリリースして、アウトドア業界をあっと言わせた「ゼインアーツ」。創業者であり、開発を一手に担う小杉敬さん。前回のインタビューにつづき、今回は主にものづくりに対する思想などを伺いました。いま大人気になっているシェルターを作り上げた張本人の頭の中を覗き見してみたいと思います!
(インタビュアー/記事:櫻井 卓、撮影:原 光平)

目指すのは“機能美”ではなく機能と美の両立「ZANEARTS(ゼインアーツ )」

——最初の質問として、小杉さんがモノを設計するときの思想から伺えますか。

小杉敬さん(以下、小杉。敬称略):設計開発を長年やってきて、ずっと「物を作る上で曖昧な表現はしてはいけない」というのを頑なに守っていたんです。だからすべてのものに機能的意味をつけなければいけない。ひとつひとつの線も、すべて「このため」という説明ができないといけない。なぜこのデザインで、ここではなぜこのパーツを使っているのか。すべてのなぜ、に作り手が答えられないといけないという考え方です。格好いいという基準もダメです。それは人それぞれ価値観が違うので、普遍的はないですよね。

──機能特化型ですね。

小杉:ただ、いまはそういう考え方はしていません。その考え自体は、間違ってはいないと思っていましたが、実はずっと違和感のようなものはありました。そこでゼインアーツを立ち上げるときにもう一度、きちんとその違和感と向き合ってみたんです。

──答えはみえました?

小杉:昔から、ハードな登山もやってきて、自然の中にある「美」に心を打たれた経験ってたくさんあります。アウトドアでのアクティビティは、美しい環境を見る、という行為でもあるわけです。その「美」をプロダクトに込めること。そういうことが本当にしたかったことなんじゃないかと、今は思っています。

目指すのは“機能美”ではなく機能と美の両立「ZANEARTS(ゼインアーツ )」

——良く機能美なんて言葉が使われますが、それはまた別のものなんですか? ファンクションを突き詰めれば、美がついてくるという考え方だと思うんですが。

小杉:僕も、かつてはそういう考えで物作りをしていたんですが、最近は機能美というものは存在しないと思っています。機能を追求していくと、やはり機能の塊にしかならない。たとえば、僕がつくるシェルターは、機能性としてはデッドスペースの少なさというのが重要なキーになっているんですが、デッドスペースが一番少ないテントを作りたければ、箱型にしてしまえば一番機能的ですよね。

——でも、そんなスクエア状のものが、この自然の中にいきなり登場したら、違和感ありますね。

小杉:そうなんです。機能は確かに果たしている。でもそこに「美」というものが存在していないので、違和感が生じるんです。機能美とひとつの言葉で括ると言うよりは、「機能」と「美」のバランスを追求していくこと。これがいま僕がプロダクトで目指すことです。

——機能を追求していきすぎると、美がなくなっていってしまうという考え方ですね。

小杉:生きるか死ぬかの状況下で使うものだとしたら、機能絶対主義にもなってくると思うんですが、僕がいま作っているのはキャンプというレジャーのためのもの。キャンプを楽しむ人たちが、なにを望んでいるかといったら、美しい環境に行って心を安らげる、ということだと思うんです。だから必然的に、使うプロダクトにも美が必要なはずです。

——たしかに、そこにあるテントが野暮ったかったら、ちょっと興ざめですね。

目指すのは“機能美”ではなく機能と美の両立「ZANEARTS(ゼインアーツ )」

小杉:自然の美しさと人間の作り出す美しさは、違うとは思うんですが、その中で、どう共通項を見つけるかですね。例えば、ゼクーのエントランス部分ですが、もっと高くした方が機能としては当然便利ですし、構造的にはいくらでも高くすることはできます。ですが、それをすると物体としてのバランスが崩れてしまう。

——行き過ぎちゃうと、さっき仰っていた箱型に近づいてしまいますしね。

小杉:機能性重視をどこで留めるか、ですね。必要十分という言葉がありますが、行きすぎた機能性はいらなくて、用途をしっかり見極めて、それにあった機能さえあれば良いんだと思います。さらにそこに“格好いい”というある種曖昧な良さもしっかりと注ぎたい。100人いたら、100人が格好いいと直感的に思うプロダクト。それがいま目指しているところですね。

——本来の機能美ってそういうことなのかもしれませんね。機能を追求した結果の美、ではなくて、機能と美がせめぎあった結果、生まれるものと言いますか。

小杉:経験を積めば積むほど、その2つは表裏一体であるべきだなと思います。でも、さっきも言ったように美の基準は人それぞれですから、実際に作って自分では良いと思っていても、他の人の目にもそう映るのか、というのはいつも不安です。

目指すのは“機能美”ではなく機能と美の両立「ZANEARTS(ゼインアーツ )」

——物作りにおいて、影響を受けた人はいるんですか?

小杉:たくさんいますけど、アウトドア業界だとビル・モスですね。

——有名な「MOSS TENT WORKS」の創業者ですね。画家で彫刻家という芸術家の面も持っていたんですよね。「テントは人が住める芸術作品」という名言も残しています。たしかに、テントの構造で新しい試みをしているという意味では、ゼインアーツはモス以来かもしれませんね。

小杉:ビル・モスが作るテントは機能と美のバランスがとても良いんですよ。自然に馴染む造形美という意味では、完成形に近いんじゃないですかね。彼のデザインの素晴らしい所は主張しすぎないこと。僕自身も自然に調和するかと物作りの時に重視しているので、そこは彼からの影響も大きいかもしれません。

目指すのは“機能美”ではなく機能と美の両立「ZANEARTS(ゼインアーツ )」

——シェルターの構造などのアイデアってどういう風に生まれてくるんですか?

小杉:パッと出てくるものではないですね。ひと一倍長い時間、テントやシェルターのことを考えているという自負はあります。そして30年近いキャリアの中で得てきた情報量も多い。だから、アイデアの断片みたいなものを大量にストックしてある感じです。それであるプロダクトを使っていて不自由を感じた時に「そういえば、あの時のアイデアとこのプロダクトを合致させれば、この問題点が解決できるな」という感じです。よく「アイデアが降りてきた」という表現が使われたりしますが、それを降ろすためには、普段から常にアイデアを蓄積していることが必要なんだと思います。

——考え続けていられることって、ある意味才能ですね。それはやっぱり楽しい行為ですか?

小杉:楽しいです。もう癖のようにもなっていますね。常に頭が動いている状態。だから毎日の晩酌は欠かせません(笑)。脳をリセットさせないと眠れなくなったりするんですよ。

——お酒で、考えを強制終了(笑)。ゼインアーツのシェルターの特徴としては、ワンポールシェルターの両サイドを立ち上げて、居住性を高めたことにあると思うんですが、そのアイデアもずっと頭の中にあったものを具現化した感じですか?

目指すのは“機能美”ではなく機能と美の両立「ZANEARTS(ゼインアーツ )」

小杉:そうですね。ワンポールの弱点についてはかなり前から気付いていて、それはフレームを入れることで解決できそうだというのはありました。それを格好良く見せる、という命題もあったので、あえてメタリックな質感のフレームを外にだして、フレーム自体をデザインに取り入れたのが「ゼクー」ですね。

——結果として、設営のしやすさにも繋がっていますよね。機能と美が両立できている。シェルターを設計するときには、どういう手順を踏むんですか?

小杉:まずは、空間から考えます。実際に模型を作ってその中にミニチュアのギアを配置してみる。ギギの場合だったら2人用なので、コット2つにテーブルがあって、キッチンシステムを置く。その上で導線などを考慮して、ストレスなく過ごせるかをシミュレーションします。それができたら、ロープを使って実寸大のシェルターの形を作って、さらにシミュレーションしながら、細部を調整していく感じです。

目指すのは“機能美”ではなく機能と美の両立「ZANEARTS(ゼインアーツ )」

——今後なんですが、読者層からするとやはり山岳テントの予定が気になるところなんですが……。
 
小杉:自分自身、雪山もやるような人間なんで、山岳テントを作ってみたい気持ちはもちろんあります。アイデアはいろいろと蓄積されているんで、そのアイデアがうまく落とし込めたら、という感じですね。アイデア的には年間100アイテムくらい出せるくらいはあるので、その中でしっかり吟味しつつ、本当に良いと感じてもらえるようなギアを出して行きたいと思っています。


ZANE ARTS

【ZANE ARTS/ゼインアーツ】は北アルプスの玄関口「長野県松本市」で生まれたアウトドアブランドです。
製品それぞれに機能を追求し、ご使用される方をしっかりとサポートする事はもちろん、製品を藝術の域まで高められるよう、時間をかけて丁寧に設計しています。「機能美」とは、機能を追求した先にある造形の美しさを意味していますが、ZANE ARTSのモノづくりはそれとは違い、機能性と藝術性を同時に高次元で考えていく手法を取っています。
アウトドアを機能でサポートするだけでは無く、大自然の中で違和感なく存在する藝術性をもって「自然」と「人」との一体感を生み出すプロダクトの数々。美しい大自然の中で、心に残る素晴らしい体験ができることでしょう。

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