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読みもの

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アウトドアシーンに新たな選択肢を提供する、muraco(ムラコ)誕生のストーリー 既成概念を超えたものづくりと下町ロケット的職人気質。金属加工の世界から生まれたアウトドアブランドの想いとは。

by akiko omuro
アウトドアシーンに新たな選択肢を提供する、muraco(ムラコ)誕生のストーリー

アウトドアシーンに新たな選択肢を提供する、muraco(ムラコ)誕生のストーリー  ー 既成概念を超えたものづくりと下町ロケット的職人気質 ー

アウトドアシーンに異彩を放つ、モノトーンカラーとシンプルなデザイン。スタイリッシュなイメージばかりが先行しがちだが、muraco(ムラコ)を支えるのは、わずかな誤差も許されない金属加工の世界で培われた技術とノウハウだ。アウトドア界に新たな波を巻き起こすブランドの想いとは何か、ブランド代表の村上卓也さん、デザイナーの森 玲音さんに伺った。

[インタビュアー:株式会社ヤマップ 春山慶彦、撮影:大室明子、記事:小川郁代]

やる気はゼロどころかマイナス。できるなら家業は継ぎたくなかった。

まずはmuracoの母体である「株式会社シンワ」について教えてください。金属加工の会社が母体というのは、アウトドアブランドとしてはとても珍しいですね。

 

村上:株式会社シンワは1974年創業の金属切削加工の会社です。昨年亡くなった父が創業し、僕が2代目です。muracoは、株式会社シンワの新規事業として2016年に立ち上げました。

 

―株式会社シンワで製造される製品は、どのようなものですか?

 

村上:実際に工場の中を見ていただくのがわかりやすいでしょう。主に作っているのは、工作機械の中に組み込まれる部品です。この工場にある機械にも、うちで作った部品が使われているんですよ。

こういう製品にはとても高い精度が必要で、100分の1㎜単位の誤差が許されない、シビアな世界です。機械に乗せれば自動的にものができるわけではなく、材料を押さえる爪の形状や加工の順番など、いろいろな工夫をしてようやくこの精度を保つことができます。切削加工だけでなく、その前後の工程も含めたサービスや、次の工程で加工がしやすい状態に仕上げることも大切で、それができるのがうちの強みでもあります。

 

―ずいぶんたくさんの機械があるんですね。

 

村上:旋盤とマシニングセンタという金属を加工するための2種類の機械が主なのですが、サイズや形状など、加工するものによって使用する機械が違うため、どうしても設備には多くの費用を投じることになります。

ーこちらの会社にご自身が入られたのはいつ頃ですか?

 

村上:12年ほど前ですね。大学を卒業した後インテリアの会社に就職し、退職してアメリカに1年行った後広告代理店に勤めて、それからシンワに入りました。

 

―家業を継ぐことについてはどのように思われていましたか?

 

村上:最初はものすごく嫌でした。子どものころに住んでいたところは、工場と家が台所でつながっていたので、音もにおいもすごくて。親父はいつも油まみれだし、いつもどこかに切り傷を作ってるし、そういうのがものすごく嫌で、やる気はゼロどころかマイナス。興味もないし、できるなら継ぎたくないと思っていましたね。

 

―お父様から継いでほしいと言われることはなかったんですか?

 

村上:「いつ(会社に)入るんだ」ということはいつも言われていましたが、大学を卒業するときに入れとは強く言われませんでした。本当に理解があったのか、カッコをつけていたのかはわかりませんが、「やりたいことをやれ」と言ってくれました。

インテリア会社では販売の仕事をして、そのあとマーケティングを1年くらいやりました。きれいなところで働く仕事は好きでしたね。そこをやめてアメリカに行き、帰ってきてから入ったのがとても大きな広告代理店だったのですが、働いていても自分が会社に貢献しているという実感がまったくありませんでした。そんなときに親父が、「そろそろうちの会社に来てもいいんじゃないか」と言うようになって。まあしばらく好きなことをやらせてもらったので、そろそろ家業を継ぐときかと、入社して旋盤のオペレーターとして働き始めました。

 

―やる気がマイナスの状態から始めて、仕事が楽しいとかやりがいがあるとか、プラスに転じたきっかけはありますか? 

 

村上:最初はとにかく、何から何まで全部が嫌でしたよ。でも、僕が小学6年生の頃からうちで働いてくれている工場長だとか、会社の人たちみんな、とてもていねいに仕事を教えてくれて、ちゃんとやらなきゃいけないという気持ちが次第に生まれてきました。よそで働いているうちは転職という逃げ道があったけれど、もう逃げ場がない、もうやるしかないと、わりと早い段階で腹をくくれたと思います。

それに、技術的なことを身に着けるのが難しいだろうと予想していたんですが、わりとスム―ズにできたんですよね。根を詰めて黙々と作業するのが好きで、難しくてみんなが手を出したがらないことも、どうやったらうまく削れるのか、時間が経つのを忘れて研究していました。

そのうちに、もっと仕事を取りたいという経営的な考えも出てきて、自分で営業にも回るようになった。義務感でやっていたのが、次第に自分から動けるようになってきたと思います。大学を出てすぐに家業を継いでいたら、きっとこんな風には思えなかったと思います。

「なんだよ、社長はチャラチャラして…」みたいな空気感がすごかった。

―muracoを始めたのは何がきっかけだったのでしょう?

 

村上:金属加工業ははすごく浮き沈みが激しくて、景気変動の動きをモロに受ける業態です。経営的に、景気の変動に左右されにくい、金属加工業とは異なる需給バランスの事業を、もうひとつ社内に持つべきだと考えました。

新規事業を考えはじめた2015年頃は、アウトドアの分野は頭にはありませんでした。金属加工の技術を生かせることは何かと考えて、キャンドルホルダーなどのインテリア小物を試作していました。

もともとインテリアの仕事をしていたこともありますが、きっかけは、自分の結婚式の引き出物として金属の風鈴を作ったことです。すごくいい音がすると評判がよくて、自分たちがやっている仕事で、こんな形で人に喜んでもらえることがあるんだと衝撃を受けました。普段は、自分たちが削ったものが使われるところを見ることは絶対にないですからね。ちょうど「能作」という鋳物製造の会社が、風鈴を作って個人向けに販売を始めたのを知っていたので、手法は違うけれども同じ金属加工のうちも、何か消費者向けの商品を作れないかと考え始めたわけです。

 

―なぜ個人向けの商品を、そしてなぜアウトドアという分野を選んだのですか?

 

村上:特に個人向けにこだわったわけではなく、うちの技術を生かせる企業向けの事業を思いつかなかっただけです。

試作を始めてみたものの、よく考えたら風鈴やキャンドルホルダーじゃあ、さすがに事業にならないと思って。ちょうどそのころ、ゴールドウインが扱っているALITE(エーライト)のアウトドアチェアを買ったら、そのフレームのパーツが挽物( 物を回転させて削ること)で作られていたんです。

それまでは、製品づくりというのは、最初から最後までを全部社内でやるものだという感覚しかなかったのですが、あのイスを見た時に、得意なところはうちでやって、座面など布製の部分は協力してくれるところを探せばいいと気づきました。加工技術や素材に関する知識があることは、大きなアドバンテージになる。アウトドアなら事業になるんじゃないかと思いました。

 

―新規事業に対する、周囲の反応はどうでしたか?

 

村上:それはもうひどかったですよ。うちがメインでやっている工作機械の部品なんて、挽物の中でも特に真面目でコツコツと取り組むジャンルなので、今まで作業着を着た人しかいなかった工場にアウトドア業界のカジュアルな服装の取引先の方が入ってくること自体が異質なことで、「なんだよ、社長はチャラチャラして…」みたいな空気感がものすごくありました。

まさに四面楚歌でしたね。1年半くらいの間、ほぼ一人でmuracoの業務を行なっていたので、プライベートも休みもなく、家に帰れば家族は寝ているし、娘達は「休みなのにパパが家にいない」と泣き出すし。でも家内は我慢してくれましたね。

 

―つらいところですね。そんな状況のなかで、最初に作った商品は何ですか? 

 

村上:ノースポールという、タープポールシリーズのシンプルな軽量タープ用のタイプです。これは比較的すぐに商品化できました。ポールがあるなら、次はやはりタープも作りたいと思ったんですが、これがものすごく大変で、ポールのようにスムーズにはいかなかったんです。

NORTHPOLE™ 200

そもそも、当時は繊維に関する知識がまったくなかったので、服飾の学生が読むような本を買ってきて、ナイロンとポリエステルの違いは…… みたいなところから勉強を始めました。

材料となるテントの生地を探すのですが、これがなかなか見つからない。WEBで調べたり、幼稚園バッグを作るお母さんたちが行くような生地屋を探し回ったりしましたが、そんなところに、当然テント用の生地なんて売ってないわけですよ。それで次は、自分のMSRのテントを泣く泣く切って、こんな生地で製品が作れないかと、あちこちの縫製工場に聞いて回りました。うちの会社に、毎日資材や工具の営業の人が来るように、縫製工場にも、生地を営業する人が来るに違いないから、そこから素材が手に入るんじゃないかと考えたんです。

でも3、40社くらい回っても、どこも話すら聞いてくれず、門前払いばかりが続きました。ようやく、サンプルを1回だけなら作ると言ってくれる会社を見つけたのですが、それではどうにもならない。こんなに難しいものなのかと途方にくれました。

ちょうどそのころ、私と同じ2代目として家具メーカーの社長になった後輩と飲む機会があって、生地も縫製工場も見つからないという話をしたところ、「先輩、タープみたいな大きなもの、日本でなんて無理ですよ。それ、絶対に中国です」と言われたんです。

アドバイスを受けて中国で探したところ、すぐに生地も工場も見つかりました。1か月もしないうちにサンプルが上がってきて、そのスピード感に驚きました。こうして何とか、繊維に関しても生産の流れを作ることができたのです。

「売れた」と感じたことは正直まだない。もっと売れると思っていました。

―ご自身のアウトドア経験は?

 

村上:高校を卒業したころだったか、車の免許をとった翌日に、僕の運転で予備校の先生と一緒にキャンプに行ったのが最初です。そこから一気にアウトドアが好きになりました。大学のときには自転車にハマったり、バイクにテントを積んで九州一周をしたり。山にも登りますし、アウトドアは常に生活の片隅にあります。

 

―2016年にブランドを立ち上げて、最初に「売れた」と感じたものは何ですか?

 

村上:うーん、正直まだないんです。もっと売れると思っていたんですよね。

中国の工場が見つかってタープを作れることになったので、それなら自在金具やロープ、ペグも揃えたいと、工場をいろいろ見つけて製品化しました。タープは最小ロットが300本と言われたところを、最初だけという条件で無理を言って150本作りましたが、全部売れるのに、多分1年くらいかかったと思います。こんなに売れないのかと思いました。

―売れなかった原因は何だとお考えですか?

 

村上:販売のノウハウがないことが原因ですね。最初はインスタとフェイスブックにアカウントを作って、そこに商品情報をアップすることしかPRと呼べるようなことをしていませんでした。今のように、新しいものを探しているセレクト系のアウトドアショップなどが少なかったので、どこにアプローチしたらいいのか、見当もつきませんでした。

 

―店舗での販売は考えていなかったのですか?

 

 村上:アウトドア用品の量販店を眺めながら、「あそこに置けたらいいよな」とは思っていましたが、当時は卸のノウハウもまったくないし、何をどうしたら商品を置いてもらえるのかもわからなかったです。

今は、全国45カ所くらいの店舗で扱っていただけるようになりました。この春にもう少し増えて50店舗くらいになる予定です。

 

―売り方がわからない、どうやって認知を広げていくかという苦闘から、抜けられたと感じた瞬間は?

 

村上:いやー、それもまだないですね。本当に一歩一歩進んでいる感じです。 少しずつ売れるようになってきて、俳優の岩城滉一さんや建築家の谷尻誠さんなど、影響力のある人がmuracoの製品を使ってくれたことなどもあって、ほんとに少しずつ認知されてきているかな、という感覚です。

ただ、ユーザー層の7割が男性だというところが課題ですね。まあこのデザインテイストからすると、女性はとっつきにくくて当然なのですが。でも、すべてmuracoの商品で揃えるディープなmuracoファンは、実は女性に多いんですよね。

 

―ところで、muracoのブランド名の由来は何ですか?

 

 村上:小学校のときからの僕のあだ名です。そのころ苗字の上の漢字に「コ」を付けて呼ぶのが流行っていて、未だに同級生からは「muraco」と呼ばれています。

業界の常識にとらわれずに、本質を考えてものを作れる人材が必要だと思いました。

―ここからは、muracoのデザイナー、森さんにも加わっていただき、お話を伺っていきます。森さんはmuracoに入られてどれくらいですか? 以前は何のお仕事をされていたのでしょうか?

 

森:muracoに入って約1年です。僕も社長と同じインテリア畑の出身で、以前はインテリアブランドで生活雑貨の商品開発をしていました。たまたま求人サイトで社長からメッセージをもらって、僕もこの近くの出身なので地元の縁も感じたし、ブランドのスタートアップに参加できて、これまでの経験も生かせそうだと思い、こちらに来ることを決めました。

 

村上:僕自身がデザインも設計もやるので、最初はデザイナーを採用するつもりはなかったんです。でもこれから商品点数を増やしていかなきゃいけないし、自分以外にも物を作れる人が必要だと感じ始めました。

ただ、アウトドア業界の経験者を採用するつもりはありませんでした。アウトドアのものって、まだ本当の意味での完成形ができ上っていない分野だと思うんです。例えばスプーンとかフォークのように、だれもが同じ形を思い浮かべるようなものが、アウトドアにはまだないんじゃないかって。だから、アウトドア業界の常識にとらわれずに、違う目線から本質を考えてものを作れる人材がほしいと思いました。

 

―実際に働き始めてみてどのように感じましたか? 以前の仕事との違いなどは?

 

 森:前の会社は社員も多くて直営店も多くありました。役割が分担されていて、組織でモノを作っていた印象ですね。

ここに来たら、最初から最後まで自分で考えて、少しずつ商品のユーザーが増えていって、商品を扱ってくれるディーラーや、商品開発に協力してくれる工場などの仲間が広がっていく。そういうブランドづくり、ものづくりの流れを実感することができました。

 

―自分の作ったものがユーザーに届いたのを直接感じられるのは貴重ですよね。

 

森:本当にそうですね。店舗やイベントでお客さんと直接話をするのも楽しいし、以前の会社では味わえなかった、会社の戦略だとかブランディングだとか、上流から下流まで、すべてに関わって考えて工夫することにやりがいを感じます。

 

―お二人の仕事の分担などはどのように? 一緒に作られた商品もあるのでしょうか?

 

村上:一緒に作るというのはまだないですね。僕は金物が得意だし、彼は樹脂などに強いし、バッグなどの経験もある。それぞれの得意分野を手掛けている状態ですが、いずれは一緒に作るものがあっても面白いでしょうね。

 

―森さんが入られて、社長一人で作られていた時と比べて違いはありますか?

 

村上:それはもう、彼が加わったことの意味は絶大ですよ。ずっとデザインでやってきた人の意見はとても貴重です。外部のデザイン事務所だとかコンサルではなく、社内にそういう存在がいる。これまで自分ひとりで悶々とやっていたのと比べると、相談できる相手ができたのは、本当に強いと思います。

 

森:僕は決断を下すのがあまり得意じゃないのですが、壁打ちの役割は果たせると思います。

 

村上:壁打ちといっても、ただ聞くだけだとかオウム返しを続けるだけの人には、だんだん話かけなくなってしまいますよ。今までと違う意見が出てくることが、とても貴重なんです。

サードウェーブ的なアウトドアブランドが集まって波を起こして、ユーザーさんと一緒に盛り上げていきたい。

―商品に対してユーザーさんから直接フィードバックを受ける機会はあるのですか?

 

村上:ユーザーさんからはまだあまりないですが、ディーラーの意見を製品に反映させることはあります。この太いタイプのポ―ルがまさしくそうで、当初は先端のパーツを一体型で作っていたのですが、今は別にパーツを作って着脱できるようにしています。先端に段差を作ってロープを引っ掛けて設営しやすくしているのですが、muracoのタープに合わせて作っていたので、はと目の付いたタイプの他社のタープだと、穴に入らないという指摘を受けて変更しました。ねじ式にしたことで原価はグンと上がってしまいましたが、価格は据え置きです。

ほかにも、テントのロープが長すぎるだとか、細かいフィードバックをもらって改良をしています。

森:これからは、自社が直接ユーザーと取引をするD2Cの販売が広がっていくと思うのですが、フィードバックをどうやって集めて、どのように製品に取り入れられるか、そこがとても重要になると思います。そういう点では、ユーザーからの意見を直接受け取って、しかもそれを公開しながら対応しているYAMAPのやり方には注目しています。

 

 村上:ちょうどこれからどうしていこうかと模索しているところで、イベントなどを通じてユーザーさんとつながりたいと思っています。うちが単独でできることもあるでしょうが、マスブランドでもガレージブランドでもない、サードウェーブ的なアウトドアブランドが集まって波を起こして、ユーザーさんと一緒に盛り上げていきたいですね。

 今は工場の敷地内に直営のショップを設けていますが、もう少し来てもらいやすいところで、直接商品を手に取って、作り手の思いを伝えられる場所を作っていくつもりです。

気を付けているのは、ガレージブランドと呼ばれないようにすることです。

―muracoの一番の強みは何ですか?

 

村上:製販一体のブランドであることですね。アウトドア業界は海外メーカーを扱う商社が多いですが、僕らは、自分たちで考えて、手を動かしてものを作って、検品して、社内で完結できる。すべてを理解して自分たちでやるのは、アウトドア業界では少ないと思います。

 

―スタイリッシュで、今までのキャンプラインにはない洗練されたデザインがmuracoのブランドイメージとして定着しつつあるように思うのですが、金属加工の仕事や工場の様子を見せていただいて、機械や材料を知り尽くして、かつアウトドアの経験がないとできない質実剛健な商品であることがよくわかりました。

 

村上:そこが今の課題でもあるんです。おしゃれでカッコいいというイメージはありがたいのですが、そっちばかりが目立って、muracoのものづくりへのこだわりの部分が評価されていない。何ミクロンの誤差が許されない工業製品のようなシビアさはないですが、muracoの製品も、クオリティとか責任感とか、ベースの部分は同じ気持ちで作っています。

気を付けているのは、ガレージブランドと呼ばれないようにすることです。現在たくさんのガレージブランドが生まれていますが、クオリティ、価格、供給、アフターサービスにしても、「ガレージブランドだから」許されているという甘えが、作り手、ユーザー双方にある。しかもそれによって、作り手側が上に立つような関係ができてしまっていると感じます。本来は、作る人、販売する人、使う人は、すべて同じで上下はないはずです。

品質も、安定して供給することも、甘えることなくナショナルブランドに肩を並べていかなくてはいけないと考えています。

それに、今のアウトドア業界は、生産側の押し付けがあるように感じます。デザインのために何かを加えたり、合理化のために必要なものを削ったり、本当にユーザーのことを考えて作っているのかと感じることも多い。我々が工業製品の図面を引くときに、ムダなものなんてなにひとつもありません。muracoではデザインやテイストは大切にしていますが、それは使いやすいもの、必要とされているものができて、はじめて意味のあるものになるのです。

山岳用テント"RAPIDE X1"

muracoの技術が詰まった山岳テント。

YAMAP STOREでも今春取り扱い予定。

―ところで、今回キャンプシーンを外れて、山岳用のテントを出されるとお聞きしました。

 

村上:はい。これはうちにとってただの新商品ではなく、いろいろな意味を持った新しい挑戦になると思います。さっきも言ったように、muracoのデザインのイメージが強すぎて、金属加工などテクニカルな部分が伝わっていません。それを払拭するための製品として、山岳テントを開発しました。

キャンプ用のものに比べて、山岳テントは求められる条件がはるかにシビアです。そして開発の経緯からスペック、構造、コンセプトをすべて言葉にして伝えないと売れません。表だけでなく中身を見て買う山のユーザーに認められれば、キャンプの人たちにも、うちの技術、品質、ブランドの姿勢を広く知ってもらえるチャンスになると考えました。

とあるディーラーには「山男がいない会社が山岳テントなんて作るなよ」なんて言われましたけれど、ヒマラヤに10回行ったからといって、いいテントが作れるわけではない。作っちゃいけないなんていう決まりもありません。それにアウトドア業界では「山のものは難しい」というのが常識で、よくやるねとか、なんで手を出すのか理解できないともたくさん言われました。

正直なところ、売れても売れなくてもいいと思っているんです。それよりも、ブランドの姿勢を詰め込んだ、ブランドアイコンになるものを作りたい。それが後にmuracoの力になると信じています。 

 

―具体的にはどのような商品展開になるのでしょうか? 

 

村上:1人用と2人用のダブルウォールテントです。フライは3色、インナーのカラーはブラックとホワイトのコンビネーション1色ですが、ハーフメッシュとファブリックの2タイプから選べます。

金属製のセンターハブを備えたフレーム構造で、設営のしやすさと強度を確保しました。頂点からずれたところにハブを設けることで、フレームが外に張り出す形になり、居住性を高めています。

 

―インナーがメッシュとファブリックから選べるというのは珍しいですね。

 

村上:そうなんです。今ある山岳テントは、海外ブランドはメッシュで凝ったデザイン、日本製はファブリックタイプで昔ながらのベーシックなデザインというのが一般的。確かに日本の高山で使うならファブリックでもいいけれど、メッシュにも利点がある。もちろん機能性が最優先だけれど、デザインだって気に入ったものを選びたい。情報も商品もたくさんあるのに、どこか妥協しなきゃいけないなんてもったいないじゃないですか。もっと自由に選ぼうよ、というメッセージを込めて、イージーオーダー方式にしました。

フォトグラファーであり、ヒマラヤの登山経験が豊かな飯坂大さんにも協力してもらい、フィールドテストと、5回のサンプルトライを繰り返し、時間をかけて作り上げた自信作です。

登山で使ってもらうのはもちろん、このテントの評価によって、muracoの製品の技術を知ってもらい、デザインだけじゃなく中身を見て選んでくれる人が増えることが、キャンプシーンでもよい結果につながるはずです。今年のゴールデンウィーク前くらいには販売できると思うので、ぜひ期待していてください。

埼玉・狭山市にある、shinwaの工場兼事務所。

外階段を上がった2階には、muracoの店舗も併設されている。

■ profile

村上卓也(むらかみ・たくや)

株式会社シンワ代表取締役社長。二代目として引き継いだ金属加工会社の新規事業として、アウトドアブランド“muraco”を立ち上げる。既成概念にとらわれない自由な発想と、金属加工業のクラフトマンシップを武器に、自ら製品の企画、デザイン、設計から、販促ツールの作成までを手がけ、プレイングマネージャーとして業界に新たな風を送り込む。

森 玲音(もり・れおん)

設計室・デザイナー。インテリア業界でのプロダクトデザイナーを経て、地元企業の“muraco”と出会うことでアウトドアの世界へ。異業種で培った豊富な経験を活かし、新鮮な目線でユニークな製品を生み出す。製品開発にとどまらず、マーケティングにも積極的に関わり、社長の右腕としてブランドの成長を支える。

muraco(ムラコ)

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