ライフスタイル=アウトドアを体現する、PeakPerformanceがプロダクトに込めた想い
優れた機能性とデザイン性に定評のある北欧発のアウトドアブランド。とりわけグローバルに展開しているのが、PeakPerformance(ピークパフォーマンス)です。 ブランドのはじまりは、3人のスキーヤーたちが自分たちのためのウェアを作るという、小さくも熱い想いでした。
それから30数年、ブランドはスキーだけでなく登山やゴルフ、カジュアルウェアといった幅広いカテゴリーをカバーするラインナップを揃えるまでに成長。その背景にあったのは、PeakPerformanceが生まれたスウェーデンという土地、そして彼らの国の人たちのライフスタイルでした。アウトドアに限らず、ブランドの成り立ちから現在の製品のことまで、ブランドマネージャーの香山祐甫(かやまゆうすけ)さんにお話を伺いました。
(インタビュアー:YAMAP 清水直人、記事/撮影:小林昂祐)
3人のスキーヤーたちが「自分たちのために」作ったウェアが国民ブランドになるまで
—PeakPerformanceのアイテムについては、すでにYAMAP STOREで取り扱いがあるのですが、ブランドのことについて、もっと知りたいと思っています。まずは、ブランドの成り立ちから教えてください。
香山:PeakPerformanceは、1986年に3人のスキーヤーが立ち上げたブランドです。その3人とは、ワールドクラスのモーグルスキーヤーのStefan Engström(ステファン・エングストローム)、スキー雑誌で編集長をしていたPeter Blom(ピーター・ブロム)、アートディレクター・デザイナーのChrister Mårtensson(クリステル・マーテンセン)です。
その3人が、アメリカのスキーのモーグルの大会に出ているときに、「自分たちが使いたいウェアを作ろうよ」と話したのがきっかけです。1980年代は、表面的に飾られた贅沢な物に囲まれるのに疲れ、本当の品質を備えたものを待ち望んでいたようなんです。きらびやかなネオンに合うファッションからチェック柄のネルシャツになり、音楽がシンセサイザーからオルタナティブ・ロックのグランジになったような変化が訪れるタイミングだったので、彼らは、スキーウェアにも本当に機能的で、かつ落ち着いたデザインを求めたのかもしれません。
発祥の地は、スウェーデンにあるオーレという、北欧でも最大のスキーリゾート。北欧発のアウトドアブランドは、ブランド名や製品名に現地の言葉を用いることが多いのですが、PeakPerformanceは英語を使用しているのが特徴です。おそらく、最初からグローバルでの展開を視野に入れていたようなんです。
—スキーヤーが自分たちのために作ったウェアが、スキー好きのスウェーデンの人たちに認められ、広まっていったんですね。
香山:そうですね。そもそもスキーというアクティビティが根付いている土地柄というのもありますが、現地ではまさに「国民的ブランド」です。スウェーデンにはミーティングで年に何回か行くのですが、街を歩いているとそこかしこでPeakPerformanceのジャケットやダウンを着ている人に出会います。もちろんスキー場やトレイルなどのフィールドでもかなり見かけますね。
ちなみに、PeakPerformanceの旗艦店はストックホルムの、GUCCIやLOUIS VUITTONといったハイブランドが軒を連ねるメイン通りにあります。二階建ての大きな建物で、あらゆるラインナップが揃っています。ほかには、ツェルマット、シャモニーやウィスラーといったヨーロッパやカナダのスキーリゾート、また北欧の百貨店や主要空港にもショップを展開しています。本当に色んなところにあるので、いかにスウェーデンのみならず、ヨーロッパやカナダでのスキーシーンで支持されているかがよくわかります。
日常がアウトドアで満たされるスウェーデンのライフスタイル
—PeakPerformanceが支持されている理由というのは、どういうところにあるのでしょうか?
香山:スウェーデンの人たちにとって「ライフスタイルブランド」であることだと感じています。PeakPerformanceのユーザーというのは、普段は仕事をしているけれど、休みの日にはアクティビティをしっかり楽しむ人。自分で自分の時間をコントロールしながら、アクティビティにも時間を使うし、リラックスタイムも楽しむ。そんな、アウトドアにとどまらず日常そのものがアクティブなスウェーデンのライフスタイルに対して、あますことなく応えることのできるブランドだから、なのだと思います。
スキーはスウェーデンをはじめ北欧の人たちにとってはライフスタイルの「一部」。日本と比べて、とても身近なアクティビティなんですよね。加えて、スウェーデンは自然がとても身近にあり、仕事のあとにそのまま何かアクティビティを楽しんで一日を終えるという過ごし方が一般的です。ライフスタイルのなかにアウトドアアクティビティが自然に存在しているんですよね。例えば、冬はスキー、夏はハイキングやカヤック、ゴルフを楽しむような人がとても多いんです。
そういった文化的背景もあり、ブランドとして、スキーヤーが過ごすライフスタイルに合ったものを広めていこうという目的を持ち、アウトドアからライフスタイルまで、トータルに提案できるラインナップを展開するようになりました。
—アウトドアアクティビティの間に垣根がなく、シームレスに楽しむことのできるライフスタイルは羨ましいですね。
香山:また、BIKE TO BAR、WORK TO WORKOUTというように、仕事からそのまま何かのアクティビティを楽しむことも一般的です。そういう観点でもPeakPerformanceが「スウェーデンの人たちの暮らしから生まれたウェア」と言えますね。普段でも着られて、そのままアウトドアに行くことができる。そういうコンセプトのブランドはあまりないと思います。
着る人を満足させる、PeakPerformanceのデザイン哲学
—PeakPerformanceのウェアはスタイリッシュな印象があります。ブランドとして、どういう考えを持った人に着て欲しいと考えているのでしょうか?
香山:機能に加えて、スタイリッシュさ、佇まいを求める方でしょうか。機能的なウェアというのは、アウトドアメーカー各社がこぞって開発しています。もちろんPeakPerformanceもそうなのですが、「着た姿」のかっこよさにもかなりこだわっているんです。アウトドアウェアを選ぶ上で、ファッション的要素も大切にしている人に刺さるブランドなのだと思います。
実際、スキー場や山で、遠くから見て「かっこいいな」と思ったウェアがPeakPerformanceだったということがよくあります。着たときのシルエットがPeakPerformanceはいい。よく「シュッとしているよね」と言われることが多いのですが、フィールドで絵になるデザインだと思います。
具体的には、腕周り、身頃が細くなっています。細くすると動きにくくなりそうですが、カッティングを工夫することで動きやすさを出しています。ゆったりして動きやすくするのではなく、デザインやパターンで解決しているんです。
ちなみに、PeakPerformanceの開発は「アクティブ」と「カジュアル」のデザインチームが、それぞれ独立して存在しています。あえてしっかり分けることで、アクティビティの「DO」とライフスタイルの「FASHION」のクオリティを高く保つことができています。もちろんチームどうしがお互いに情報共有を行うことで、機能とデザインがシームレスにつながったプロダクトとして完成させることが可能となっています。
それは本国がアウトプットする写真や動画などのイメージにも大きく影響しています。ルックや映像に関しては、他のブランドよりも、DOだけでなくスタイリッシュなライフスタイルのイメージを伝えているように思います。機能的でありながら、洗練されたかっこよさがある。それは、アウトドアとファッションのエキスパートが同じ会社にいるからできることだと感じています。
—YAMAP STOREでも取扱のある2つのアイテムについて、あらためてご紹介いただければと思います。
「PeakPerformance(ピークパフォーマンス)ヘリウムハイブリッドジャケット」というシリーズはPeakPerformanceのなかでもアイコニックなラインナップで、ダウン製品を代表する品番です。ヘリウムというくらい軽いのが特徴。ダウンボックスのステッチが波打ったデザインは10年ほど前からつづいているもの。意匠的な面もありますが、ボックス内でダウンが偏らないようにするためのアイデアから生まれたものなんです。
また、このハイブリッドという製品群は、フリース素材とダウンをコンビネーションさせることで、体幹部分をしっかり暖めつつ、肩周りは動きやすいように、脇下は通気しやすいようにしているのが特徴です。
「PeakPerformance(ピークパフォーマンス)ヘリウムハイブリッドジャケット」を一言で表現するなら、あらゆるアクティビティで重宝する、「ほどよい一着」。がっつりアクティビティからカジュアルまでマルチに使えます。重ね着がしやすく、脱ぎ着しやすいのも魅力。肩を動かすようなアクティビティ、バイクやゴルフなどもオススメです。
「PeakPerformance(ピークパフォーマンス)アルゴンライトジャケット」は、2019年からスタートしたシリーズで、こちらは化繊インサレーションモデル。中綿にはリサイクルペットボトル由来のポリエステル素材を使用していて、表・裏生地ともにすべてリサイクル素材。環境にも配慮したアイテムとなっています。
特徴的なボックス構造は、表生地と裏生地を織る「二重織」という技術を使用しています。表生地と裏生地の接点部分を織り留め、ひとつの生地のように一体化させ、できたボックスに化繊を封入するという特殊な構造です。圧着だと経年変化などで剥がれてくるリスクがありますし、縫いだと針を落として穴を開けるので風が抜けてしまうことも。その両方のデメリットを克服したのがこの技術です。
近年は化繊インサレーションの進化が飛躍的です。化繊素材はダウンと違い、湿気が溜まったときの保温力の低下が少ないのが特徴ですが、発汗しやすいハイクアップを伴う山行や、スキーなどのアクティブな動きのあるシチュエーションではムレの抜けがいいので圧倒的に使いやすいですね。
—ラインナップしている製品を見てみると、PeakPerformanceの製品は環境に配慮したものがほとんどですが、どのような取り組み、製品開発をしているのでしょうか?
新製品に関しては、ブランドが定めるサスティナブルな基準をクリアすることが大前提になっています。YAMAP STOREでも取り扱っている2019年から展開が始まった「アルゴン」というシリーズがすべてリサイクル素材を使っているのもそういう理由です。
世界的に注目されているサステイナビリティについて、PeakPerformance本国ではいちはやく取り組みを行っています。ほんの一部ですが、ご紹介します。
化学物質の排除を目的としたスウェーデン国内の専門家フォーラム・Kemikaliergruppenへの参加(2009年)、化学マネジメント規則の成立(2012年)にはじまり、近年では、水資源の節約への取り組みとして、スキーのカテゴリー内に環境汚染の少ないDrydye™を試験的に使用したことでISPO GOLD awardを受賞(2015年)。RDS(Responsible Down Standard)と連携してダウン製品に使用される羽毛生産の基準に賛同する(2016年)ほか、持続可能な開発目標の策定、レザーやリアルファーの使用を停止(2017年)など、段階的に推し進めてきました。
近年は、私たちの行動がどのようにサステナビリティと連携することができるかを考え、さらなる改善への取り組みを行っています。2019年は、サステナビリティワークショップを行うことでエンドユーザーにコンセプトを広げたり、社用車をハイブリットカーへ切り替えたるほか、ITシステムを導入し資源コントロールの効率を向上させています。2014年から自社だけではなく、サプライチェーン全体のサステイナビリティ度を測るHIGG Brand Index Scoresでは250%増加を達成しています。
本国とのセールスミーティングでも環境配慮に関する話題は多く、素材はリサイクルに変えていくというロードマップを作成し、脱炭素に関してもグローバルな基準にのっとって2030年までに半減させるという取り組みを行なっています。さらに、店舗のマネキンなどもリサイクル素材を使う、ショッピングバッグもリサイクルを使う、など細部にわたって配慮が施されています。
環境問題に関して北欧はとくに先進的。もちろんPeakPerformanceも積極的に取り組んでいます。デザインチームや素材調達のチームとミーティングしながら、機能やデザインだけでなく、環境のことを考えて商品化を進めています。
—最後に、ブランドの今、そしてこれからのことについてお聞かせください。
あらためてブランドとして何ができるかということを考えてみると、これまでも、そしてこれからも、スキーや登山といったアウトドアアクティビィティの楽しさを発信、共有するブランドでありたいということでした。
30年以上、PeakPerformanceは「アクティブ」なライフスタイルを追求してきました。登山でもスキーでも、バイクでもランでも、もちろんライフスタイルでも、「アクティブでいること」をサポートすることが、ブランドの役割なのだと考えています。
今は状況的に、できることに制限がありますが、自然の中でアクティビティを仲間と一緒に笑顔で楽しんで欲しいという想いが強くあります。やはり「アウトドアを笑顔で楽しんでほしい」。自然を楽しむことに対して、ブランドとして寄り添っていたいと願っています。
香山 祐甫(かやま・ゆうすけ)
株式会社RCTジャパン、PeakPerformanceの日本ブランドマネージャー。PeakPerformanceは、日本での立ち上げから携わる。 個人的なミッションは、「自分のようなスキーをやったことがない人に、スキーの楽しさを感じてもらい、一人でも多くの人とそれを一緒に共有すること」。ブランドミーティングでは本国チームのスキートリップに混ざったり、 PeakPerformanceがスポンサーを務めるスイス・ベルビエで開催されたスキーの大会では本国チームと一緒に観戦しに行ったりと、 外国人の輪に飛び込んで積極的にコミュニケーションを図り、文化の違いを肌で感じるようにしている。