暑い時期のベースレイヤー診断|あなたにぴったりが分かる
山々が新緑に包まれる5月。登山シーズンの訪れを嬉しく思うと同時に、思い浮かぶのがこれから来る夏の「汗・暑さ」問題。額から滴り落ち、服をべったりと湿らせ、風に吹かれれば冷え、ニオイの原因にもなる汗。不快なだけでなく、体力を奪い疲労を増幅させてしまう暑さも大きな悩みでしょう。汗抜けのよい服を選んだり、熱がこもらないようレイヤリングを調整したりしても、なかなか解決されないという方は少なくないはず。
そこで、「汗・暑さ」問題に有効な最新のベースレイヤーとレイヤリングをYAMAP視点でセレクト。効果的なハウツーとともにご紹介します。
日々進化をつづける機能的なベースレイヤーはもちろん、レイヤリングの工夫で快適性はグッと上がります。汗と暑さを諦めていた方、ぜひとも参考にしてみてください。
「汗・暑さ問題」とは?
対策をご紹介する前に、山での「汗・暑さ問題」とは何なのか、簡単に解説してみましょう。夏の登山においては、大きく分けて2つの要素があると考えています。
1)運動による発熱、発汗
まずは、登山者自身の行動による「内的」な発熱。歩くことで上昇した体温を下げるために、体は汗をかきます。水分が蒸発する際に発生する気化熱が体温を下げる効果があるからです。
そこで問題となるのは、蒸発が追いつかないほどの発汗です。かいた汗が自然と乾いてくれればいいのですが、衣類に染み込み、まるで水を浴びたように濡れてしまうことも。しかも「濡れ」は不快なだけでなく、外気や風の影響で必要以上に体温を奪うため、冷えや低体温症の原因となってしまいます。登山では極力避けたい状況です。
対策としては汗を効率的に処理する「吸水・速乾性」のあるウェアを選ぶこと。しかし、この機能を備えたウェアはさまざまなタイプがあり、どれを選んでいいのか?と悩んでしまう方も多いでしょう。具体的なウェアの種類や選び方については後述しますので参考にしていただければと思います。
2)気温の高さ、日差しの強さ
もうひとつは、気温や日差しによる「外的」な暑さ。気温が高ければ動かなくても暑さを感じますし、樹林帯などでは湿気との相乗効果で不快指数はMAX。さらに強い日差しを浴びつづけていると体に熱が溜まり熱中症のリスクも高まります。
暑さやムレは、ウェアの「通気性」に注目してみましょう。熱の滞留を最小限に抑え、かつ汗の蒸発によるクーリング効果を感じられるはずです。また、日差し対策は、「遮光性」のあるウェアが有効です。夏山は気温が高いため、生地面積の少ない半袖Tシャツを着ることが多いと思いますが、通気性のよい長袖の方が、日差しの影響を受けにくく、体温上昇を抑えることができるケースもあります。こちらも、後の章で詳しく紹介していきます。
ぴったりのベースレイヤーはどれだ?!チャート
では、夏山の「暑さ・汗」対策にはどのようなウェアがあればいいのでしょうか。アウトドアメーカー各社が、さまざまな視点から快適性を追求したアイテムを展開していて、化繊素材やウールなどの素材に加え、汗の特性を利用した機能性ウェアなどが存在します。
その多様なウェアを選ぶ際に考慮しておきたい大きな要因が「体質」です。汗をかきやすいのかどうか、のんびり歩くのか早く歩くのかなど、シチュエーションは人によってさまざま。つまり、いくら機能的なウェアを着ていても、体質とマッチしていなければ効果を正しく得られない可能性があるのです。
そこで、ベースレイヤー選びの参考になるチャートをつくってみました。ベースレイヤーは、「暑さ・汗」対策の軸となるアイテムです。質問に答えていくことで、より快適なベースレイヤーに辿り着くことができます。さて、あなたはどのタイプでしょうか?!
※登る山の標高や天候によってはこの限りではありません。あくまで参考としてご覧ください。
①のあなたにオススメは
①のあなたにオススメなのは、瞬時に汗を肌から引き剥がす「ドライレイヤー」を素肌に着用し、その上に防臭機能と保温性に優れた「メリノウール」と速乾性が特徴の「ポリエステル」をミックスしたベースレイヤーを重ねる組み合わせ。
運動に伴う発汗を「ドライレイヤー」が瞬時に吸収し、ベースレイヤーへ移行。すばやく蒸発させると同時に、ニオイを抑えるため快適な着用感が持続します。
とくに運動量が多く、登っていると滝のような汗に悩まされてしまうけれど、同時に寒がりという方に最適。標高の高いアルプス登山やテント泊や小屋泊での縦走登山など、山行時間が長めの方にもオススメです。
アイテム例
②のあなたにオススメは
②のあなたにオススメなのは、疎水性のあるメッシュ生地が汗を肌から吸い上げる「ドライレイヤー」に、防臭機能を盛り込んだ「ポリエステルベースレイヤー」をプラスする組み合わせ。
ウールほどの保温性は必要ないため、速乾性のあるポリエステルに、防臭加工が施されたベースレイヤーで汗によるニオイを予防します。汗抜けがいい化繊素材にメリットを感じつつも、ニオイが気になっていたという方はぜひとも試していただきたいアイテムです。
こちらも運動量が多め、ガシガシ登りたい!という方にぴったりなセレクトと言えるでしょう。化繊素材で乾きが早いので、ベースレイヤーがいつもビショビショになってしまうのであれば試してみていただきたいと思います。
アイテム例
③のあなたにオススメは
③のあなたにオススメなのは、「ドライレイヤー」と「保温性の高いポリエステルベースレイヤー」の組み合わせ。
かいた汗が「ドライレイヤー」を通じて「保温性の高いポリエステルベースレイヤー」に移動。肌面をドライに保ちつつ、寒さから身を守ってくれます。汗対策を確実に行いながらも、山行時の快適性も気になるという方には最適な組み合わせでしょう。
標高が高く気温の低いアルプスの山行や環境変化の大きい長期の縦走などにオススメです。
アイテム例
④のあなたにオススメは
④のあなたにオススメなのは、汗を瞬時に肌から引き剥がす「ドライレイヤー」と速乾性に優れる「ポリエステルベースレイヤー」による、汗処理スピードに優れた組み合わせ。
汗が乾くときに発生する気化熱は汗冷えの原因にもなりますが、ドライレイヤーを着用することで体への冷えがダイレクトに伝わりにくいのが魅力。もしこれまでポリエステルのベースレイヤー単体での着用で汗冷えを感じていたという方は、ドライレイヤーを導入してみて下さい。
とにかく発汗から吸水、速乾までのスピードが早いのでトレイルランニングやファストパッキングなど運動量の多いアクティビティにも最適です。
アイテム例
⑤のあなたにオススメは
⑤のあなたにオススメなのは、適度な吸水速乾性と保温性、優れた防臭効果をもつ「メリノウール」。
やわらかな着心地も大きな魅力です。汗を吸うと生地全体にゆっくりと広がるため、汗の不快さを感じにくいと同時に、ゆるやかな蒸発は汗冷えを抑えてくれます。ウールと聞くと「暑いのでは?」と思うかもしれませんが、立体的な構造で肌面に触れる面積も少ないため想像より清涼感があります。
低山ののんびりハイクや朝晩の冷え込みなど気温差が気になる山行で活躍してくれるのがメリノウールのベースレイヤーです。ダイレクトに肌に触れるウェアということもあり、肌触りが着心地のよさを重視したいのであれば、これ以上ない選択肢でしょう。
アイテム例
⑥のあなたにオススメは
⑥のあなたにオススメなのは、「防臭効果付きのポリエステルベースレイヤー」。
吸水速乾性にすぐれる化繊素材のメリットを感じつつも、汗によるニオイが気になっていたという方に、ぜひ試していただきたい機能です。汗の原因は、細菌の繁殖によるもの。防臭効果により細菌の活動を抑えニオイの元をブロックすると同時に、ポリエステル素材ならではの快適性を体感することができます。
数日にわたって着ていてもニオイが気になりにくいので、日帰りの登山はもちろん、テント泊や小屋泊でも効果を実感できるでしょう。ウールと比べてメンテナンスがしやすいのもポイント。山行回数が多く、ケアの手間を省きたい方にもベストな選択肢と言えるでしょう。
アイテム例
⑦のあなたにオススメは
⑦のあなたにオススメなのは、「保温重視のポリエステルベースレイヤー」。
ベースレイヤーにおいて化繊素材はもっとも一般的な素材ですが、乾きが早いのは大きなメリット。近年は汗を感じにくい立体構造や肌触りのよい生地を採用したものなども増えています。ウールに比べて清涼感があるため、夏山では重宝するアイテムのひとつです。
汗対策は重要だけど、寒さも気になるという方は、適度な保温効果も備えたポリエステルタイプを試していただきたいと思います。保温効果を備えていますが、化繊素材のため速乾性は抜群。日陰の多い低山や朝晩の冷え込みが気になる山行で活躍してくれるはず。
アイテム例
⑧のあなたにオススメは
⑧のあなたにオススメなのは、機能性ポリエステルベースレイヤー。
汗冷えやニオイの心配が少ない日帰りの登山では、機能性ポリエステルベースレイヤーが使い勝手がよく便利です。速乾性はもちろんのこと、汗をかいても肌に触れにくい構造や、クーリング効果のある加工を施した生地を採用したモデルも揃います。
山行にあわせてベースレイヤーを変えていくのも「暑さ・汗対策」として有効です。日差しを除けられるフーディーや通気機能のあるロングスリーブタイプなど、バリエーションが豊かなのも魅力的です。素材の機能性に加え、ウェアとしての形状や特性を軸に選んでいくのもいいでしょう。
アイテム例
山域・山行スタイル別レイヤリングサンプル
つづいてご紹介するのは、具体的なレイヤリングです。ベースレイヤーにどのようなウェアを組み合わせれば快適な山行が実現できるのか。シーン別でご紹介します。快適性や安全性をグッと高めてくれるウェアもピックアップしてみました。
森林限界を超えて歩くアルプスの山
標高の高い山域を歩くときに心がけたいのは、天候や気温の変化への対応です。稜線で風に吹かれたり、雨に降られたり、暑さや汗対策以外にも気をつけたいことがあります。宿泊を伴う場合は、朝晩の冷え込みも忘れてはいけません。防風効果のあるレインウェアや保温ウェアのインサレーションジャケットを携行しましょう。インサレーションは汗ムレしにくい化繊中綿タイプがベター。
ボトムスは、ショートパンツ&タイツの組み合わせやロングパンツがオススメ。山の上は紫外線が強く、岩や枝で怪我をするリスクもあるためです。通気性と吸水速乾性のあるものを選びましょう。夏山向けのモデルをピックアップしているのでパンツのムレが気になっているという方はチェックしてみてください。
緑豊かな低山の樹林帯のんびりデイハイク
比較的シンプルなレイヤリングで楽しめるのが低山デイハイク。しかし、標高が低いために気温と湿度が高く、暑さに悩まされることも。そんなときこそ、汗対策に効果的なベースレイヤーが活躍してくれます。ニオイが気になるのであれば防臭機能のあるものを選ぶとよいでしょう。休憩時は汗冷えすることもあるので、防風性のあるウインドシェルなどの防風ウェアを携行しましょう。パンツは、アルプスの山でお伝えしたものと同じ考えでOK。
帽子も忘れずに
日差しが強い屋外での活用に必須なのが帽子。風に飛ばされにくい特徴を持つキャップや、遮光面積の大きなハットなど、形によって特徴も違うため、登る山の状況に応じて選びましょう。
ウェア選びをマスターして、夏山を快適に
夏山に行きたいけれど、暑さが嫌で諦めていたという方は少なくないはず。不快さはなんとか我慢できても、熱中症のリスクもあるため、無理して登山をするのは危険です。
しかし、嬉しいことにアウトドアメーカー各社は暑さや汗対策向けのアイテムに力を入れて開発しており、素材、デザイン、レイヤリングなど、さまざまな方法で解決策を提供しています。それぞれのアイテムの機能をしっかりと理解し、適切に使うことで、快適な夏山登山を楽しめます。夏に向けて、ウェアとレイヤリングを見直してみてはいかがでしょうか。