いつも一緒の山道具 “Every Mountain Carry”をアップデートしよう!
山道具に関心の高い人が多いからなのか、ちょうど2年前に書いたこの記事が、いまでもよく読まれているそうです。
必ず持っていく山道具 “Every Mountain Carry”を楽しもう!
毎日のように持ち歩く道具のことを「Everyday Carry(略してEDC)」と呼ぶことから、山に行くときに必ず持っていく山道具のことを「Every Mountain Carry」と言い換えて、自分なりにEDCならぬ“EMC”を考察してみようと試みたのが、2021年2月に書いた記事のテーマでした。
あらためて読み返してみると、道具を「持ち運ぶ」のではなく「身につける」という視点でとらえています。その考え方はいまも変わっておらず、お気に入りのギアやここぞという場面で必要になる道具を、ぼくはできるだけ小さくまとめて身につけたいと考えています。そのための道具の点検や見直しを欠かさず、自分仕様にアレンジするのがまた楽しくて。この記事を書くにあたり、過去記事をふり返る過程で、そういうところ全然変わっていないんだなあと、あらためて気がつきました。山道具を通して再発見する自分、いいもんです。
そんなわけで、今回は以前の「Every Mountain Carry」の記事をアップデートするべく、2023年のぼくの気分で、いつも一緒にいる大切な山道具を考察してみたいと思います。
(記事 / 写真:大内 征)
山行に欠かせない、自己満足のお気に入りギア
よく使うものや貴重品を収納するケースとして、いまやサコッシュは定番アイテムです。出始めのころは、薄いペラペラのポシェットのようなものに頼りなさを感じたものですが、それも遠い昔のこと。とにかく軽くて、四角いシンプルな構造が使いやすく、そのうえ洒落たデザインのものが多い。いざ店頭で選ぼうとすると、目移りばかりして悩ましいくらいですよね。もちろん、YAMAP STOREでもさまざまなタイプのサコッシュやポーチを扱っています。
一方で、ぼくはというと、2年前と変わりなく小さなウエストバッグを使っています。公共交通機関で移動するときは斜め掛けにして財布の出し入れをしやすくしておき、山に入るときにザックにしまう。もうずーっと、このスタイル。今後も変わらないんだろうなあ、とは思うものの、中身はちょっとずつ変化しています。自己満足の世界ですが、それがあってこその向上心。山道具のアップデートにつながっていくわけです。
やっぱり貴重品は常に“身につける”のが安心
では、実際に持ち歩いている中身を紹介しましょう。自分で満足しているだけで、人に自慢できるようなものはありませんが、もうすっかり定着したぼくの「リアルなEMC」です。
愛用しているのは、Hyperlite Mountain GearのVERSAというウエストバッグ。2.5Lという絶妙な容量で、ふだん使いとしてもちょうどいい。耐久性と防水性に優れたDCH素材というのも魅力。雑に扱っても大丈夫なのが◎です。
ナイロンケース(紙幣や名刺など)、レザーケース(コインとカード類)、そして防水ケース「EXPED(エクスペド)/ミニビスタオーガナイザー」には目薬やちょっとしたファーストエイドキット。あとは超強力な小型ライト、お気に入りのメモ帳とペン。これらが、日常から持ち歩いてるぼくのEDCです。レザーのコインケースはどんなときでも必ず持つというのが自分らしさでしょうか……。
それらに加えて、ナイフは山に入るときだけウエストバッグに入れておきます。下山したらすぐにザックの奥底へ。目的外の場において刃物を「携帯」することは、刃の長さに関わらず違法です(刃の長さなどで銃刀法または軽犯罪法に触れます)。そういうことは、しっかり調べて注意したいところ。公共交通機関ではなく車で移動するときはキーもありますね。先述のEDCに加えたこれらが、ぼくの「Every Mountain Carry」となります。免許証や健康保険証を含めたカード類と車のキーは、絶対に失くすことができません。だからこそ「身につける」という発想になるわけです。
さらに、数日間の縦走やテント泊をするようなときには、「patagonia(パタゴニア)/ウルトラライトブラックホールミニヒップパック 1L」に入れ替えて軽量化しています。こちらは1Lという小ささなので、あらかじめ中に入れるものを吟味しなければ収まりません。上記のEMCと比較してみると一目瞭然ですが、ここではナイロンケースを省きます。紙幣は小さく折りたたんで前面のポケットに。
荷物を少しでも軽くしたいという場合、この「中身を吟味する」という作業は、とてつもなく大きな意味があります。上記の通り、ぼくは「Every Mountain Carry」をひとつのウエストバッグに固定せず、時と場合によって使い分けるようにしていますが、こうすることによって絶えず中身を精査をすることができるというわけです。
サイフとモバイルくらいなら、1Lサイズが使い勝手よし
つねに持ち歩く貴重品は、しっかりしまっておける構造で丈夫なこと、自分的に出し入れしやすいこと。デザインの前に、この2点を重視したいところです。公共交通機関で乗車料金の支払いをするときなど、財布やICカードを探してモタつくと、後ろに並んでいるハイカーをイライラさせてしまうだろうし、できればスマートに支払いたいですよね。これは、山小屋で買い物をするときも同じことでしょう。
ということは、大きなサコッシュやウエストバックにしてしまうと、あれこれと入れてしまい、結果的に探すことになる可能性があります。そこで、サイフとスマートフォンくらいなら、1L程度の小さなサイズがおすすめ。この「MYSTERY RANCH(ミステリーランチ)/フォーリッジャーヒップパック」は、2.5Lと1.2Lの2サイズ展開なので、用途に合わせて選ぶことができます。個人的に1.2Lは好み。これいいなあ。
長期縦走やテント泊のときには、こうした1Lサイズのウエストバッグに入れ替えて肩から斜め掛けしています。1Lサイズならそれほど邪魔にはならないので、テントの中にいる時も、寝る時も、小屋の中やトイレに行く時も、水を汲みに行くときも、うっかり落としたり置き忘れたりしないよう、つねに身体に密着させて身につけておくようにしています。小さくて大事なものゆえ。
2.5Lサイズなら、ヘッデンやウィンドシェルも収納可能
「MYSTERY RANCH(ミステリーランチ)/フォーリッジャーヒップパック」は、ヘッドランプやパッカブルなウィンドシェル、エコバッグなどなど、貴重品プラスアルファをカバーできる大きさ。収納力の高さからつい楽しくなってしまい、あれこれと入れてしまいそう。もちろん、そういう使い方も問題なし。道具においては、自分で考えて納得しながら使ってみることが大事で、それがやがて創意工夫につながっていきます。
そうそう、ぐんと容量が大きくなる分、身につけるという意味ではちょっとわずらわしいかもしれません。そんなときは肩から斜め掛けするのではなく、腰につけるのがベター。ウエストバッグ本来の使い方ですね。山小屋やテント場を動き回るとき、これが意外といいんです。
エチケットセットを収納するケースを考察
登山は、交通機関や山小屋といった公共の場を利用することが多くなるため、人と接する機会が増えます。出会いとコミュニケーションは山旅の醍醐味でもあるので、ここはやはり自主的に対策をしておきたいところ。中でも予備のマスクや殺菌効果のあるウェットティッシュは、忘れると代用が難しいアイテムのひとつ。こうしたものは色で区別できるケースにしておくと、ザックの中から取り出すときに便利です。
これらを入れておくのにぴったりなのが、「RIDGE MOUNTAIN GEAR(リッジマウンテンギア)/トラベルポーチプラス」。素材にダイニーマをつかった丈夫かつ軽量なポーチで、別売りのショルダーストラップをつければミニポーチとして使うことも可能。カラーバリエーションが豊富なので、ほかの収納ケースとは異なる色にするのがポイントかも。
エチケット用品といえば、個人的に欠かせないものとなったのが、うがい薬と耳栓。山小屋やテント泊でも活躍するし、ロケや出張でホテルに泊まるときも必ず持っていきます。
こうしたものを入れるのにちょうどいいのが、「Matador(マタドール)/フラットパックトイレタリーケース」。防水性の高い素材でありながら、中に入れたものの水分が蒸発して乾くという、なんとも不思議なケース。うがいで使ったコップや歯ブラシなんかにぴったりなので、山旅にもってこいですね。これ欲しいなあ。
緊急時の相棒たちは「ボトルホルダー」にざっくり詰め込む
最後に紹介するのは、ぼくが長年使い続けているミステリーランチのボトルポケット。その名の通りポケットのような構造で、飲料の入ったボトルをすっぽりいれておけるケースです。バックルでホールドするシンプルな仕様になっているため、ザックのウエストベルトはもちろんのこと、ショルダーストラップにぶら下げて使うこともできる優れもの。ちなみに、赤いのはバンジーコードで作った自作の留め具。
で、これになにが入っているかというと……。
緊急時に使う山道具をごそっと入れています。
ヘッデン、予備の電池、ホイッスル、熊鈴、塩、波刃のナイフ、ハサミ、ダクトテープ、リペアテープ、そして吸水速乾のミニタオル。真ん中のダイヤルロックは海外を旅したときに使っていたもので、ザックをデポして移動したり温泉に入るときに、丸ごと持っていかれないよう括りつけたりします。とくにグループで山歩きをするときはなにかと重宝。テントの入口をロックするときにも活躍します。
ただ残念なのは、もう廃盤になっていること。ぼくは色違いで2つ持っているため、まだ数年先はこのスタイルを続けていこうと思っていますが。
その代わりとして、同じミステリーランチの新作「MYSTERY RANCH(ミステリーランチ)/ウィングマンAFP」が代用できそう。試しに黒のボトルポケットに入っていたものを移してみたのが、上の写真。やや小さく見えますが、ストレッチする柔らかな素材でできているため、この通りすべて収納することができました。
覗いてみると、中はこんな感じ。この上からヘッデンとタオルを丸めて入れれば完了です。本来はボトルホルダーのように使いますが、行動食やスマートフォンなどもよさげ。材質的にはサングラスにも合いそうです。ウィングマンAFP、なかなか万能ですね。
さて、いつも持ち歩く登山道具ということで、個人的な2023年版「Every Mountai Carry」について考察してきました。2年前の記事と読み比べてみてもらうと、ひとつのサンプルとして興味深いと思います。変わったことと、変わっていないことと。
必ず持っていく山道具 “Every Mountain Carry”を楽しもう!
道具を新しくしたり増やしたりすることがアップデートなのではなく、自分の山との向き合い方をよりよくすることが本当のアップデート。そんなことを思いながら、なかば勢いで書き上げました。みなさんのよりよい山行のヒントになれば、これ幸い。
あ、つぎの更新は、また2年後かも?!
大内 征(おおうち せい)
低山トラベラー、山旅文筆家。歴史や文化を辿って日本各地の低山をたずね、自然の営み・人の営みに触れる歩き旅の魅力を探究。ピークハントだけではない“知的好奇心をくすぐる山旅”の楽しみ方について、文筆・写真・講演などで伝えている。 NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」コーナー担当、LuckyFM茨城放送「LUCKY OUTDOOR STYLE~ローカルハイクを楽しもう~」番組パーソナリティ。NHKBSP「にっぽん百名山」では雲取山、王岳・鬼ヶ岳、筑波山の案内人として出演した。著書に『低山トラベル』(二見書房)シリーズ、『低山手帖』(日東書院本社)などがある。宮城県出身。 YAMAP MAGAZINEで連載中の『大内征の超個人的「どうする家康」の歩き方』が好評。