材料は役目を終えた山の服|「モノと物語の循環」を目指すリサイクルウェア

アウトドアブランド「STATIC(スタティック)」とYAMAPがタッグを組んだ、ウェアの回収&リサイクルプロジェクト「生まれ変わる、やまの服」から、ついにTシャツがリリースされました。

当たり前のようで難しかった、服から服へのリサイクルの仕組み。プロジェクトの経緯や目的、アウトドアウェアのリサイクルの現状と未来について、スタティック代表の田中健介さんと、YAMAPで商品開発を担当する乙部が語ります。

(写真:矢島慎一 文:小川郁代)

自分たちで回収し、新たに商品として再生させる仕組みを確立

材料は役目を終えた山の服|「モノと物語の循環」を目指すリサイクルウェア

乙部:「生まれ変わる、やまの服」から、初めての製品が誕生しました。みなさんから送っていただいた役目を終えた服が、Tシャツとして生まれ変わって、もう一度みなさんの元に届きます。初めて田中さんとお話をさせていただいてから、2年以上の時間が経ちましたが、ようやく商品として形になってうれしいです。

田中:そうですね。うちがもともとやっていたフリース再生プロジェクト「ByeHello(バイハロー)」に興味をもってくださったのをきっかけに、YAMAPさん独自のリサイクルプロジェクトに一緒に取り組めたことを、とてもうれしく思っています。

乙部:YAMAPが「循環」を意識しだしたのはもうずいぶん前のことで、実は過去にも「使わなくなったら捨てずに返せる」というアパレルを販売したことがありました。ただその時は、リサイクルや循環への関心が今ほど深まっておらず、コンセプトをうまく伝えられなかったこともあって、うまく販売にはつながりませんでした。

「ムダにならないモノづくり」を意識しながらも、自分たちで仕組みを作るのは難しいと思っていたところ、すでに自社で回収プログラムを行なっていたスタティックさんとタッグを組むことで、実現することができました。

材料は役目を終えた山の服|「モノと物語の循環」を目指すリサイクルウェア

田中:スタティックが「ByeHello」を始めたきっかけは、自社で製品を作る際にどうしても出てしまう大量のポリエステルの端材を、なんとかゴミにせず有効活用できないかと考えたのがきっかけです。

当時、ほかの素材のリサイクルはすでに行なわれていましたが、僕が調べた限りではポリエステルの仕組みは世の中にありませんでした。技術的には可能なはずだと思い、取引のある生地メーカーに相談したところ、ちょうどその仕組みを作ろうとしていると聞き、ぜひうちでやりたいと名乗りを上げました。とはいえ、同じシステムでポリエステルのリサイクルをやるところはほとんどないというのが現状です。

材料は役目を終えた山の服|「モノと物語の循環」を目指すリサイクルウェア端材を再び糸にも戻して製品にするサイクルを確立

乙部:YAMAPでも「自分たちで回収したものを、もう一度自分たちで販売する服へリサイクルできないか」といろいろな商社やメーカーに相談していましたが、どこに聞いても、それは難しいと言われました。ウェアをリサイクルしてほかの製品の原料にしたり、漁網やペットボトルなどをリサイクルした素材でウェアをつくったりというのは以前からありますが、リサイクル前の状態を把握できる「原材料がトレースできる状態で新しい洋服を作る」ということが難しかったんです。でも、田中さんのシステムならそれができたんですよね。

田中:さまざまな回収品をリサイクル業者がまとめて原料に戻すという、大きなシステムはでき上っていましたが、それだと、自分の手元から回収されたものが何に生まれ変わるのか、本当に再利用されるのかがまったくわかりません。同時に、リサイクルされた製品がもともと何だったのかもわかりません。でも、僕らがやっているのは、自分たちが回収したものが材料となって戻ってくる「クローズド」なシステムだから、材料の出どころや背景がわかるというところが、最大のメリットだと思います。

環境負荷が少なく、回収された服の面影はそのままに

材料は役目を終えた山の服|「モノと物語の循環」を目指すリサイクルウェアグラフィックタイプはYAMAP10周年のプリントが施されたデザイン

乙部:ほかではできないと言われたことが、田中さんがやっているシステムだと可能になるのはどうしてなんですか?

田中:リサイクルで繊維を作る方法が、根本的に違います。ポリエステルなどの化繊は、原料となる小さなチップを熱で溶かして細く引き伸ばした、「フィラメント糸」と呼ばれるもの。一方、ウールやコットンなどは、「スパン糸」と呼ばれ、短い繊維を揃えて並べ、撚り合わせて糸にします。一般的なポリエステルのリサイクルは、回収した製品を高熱で溶かして原料の状態まで戻し、それを引き伸ばして再びフィラメント糸に形成します。

材料は役目を終えた山の服|「モノと物語の循環」を目指すリサイクルウェア生地を反毛して綿毛のようにした状態

田中:一方で、うちが行なっているリサイクルシステムでは、まずポリエステルの生地を細かく裁断したものを、針で引っかいてバラして、綿毛のような状態にする反毛(はんもう)という加工をします。その後、ウールやコットンと同じように、繊維をより合わせて糸にします。これだと一度に大量の糸を作らなくていいので、少ロットでの生産が可能です。

乙部:なるほど、つまり、原料はポリエステルなのに、ウールと同じ手法で糸にしているということですね。

材料は役目を終えた山の服|「モノと物語の循環」を目指すリサイクルウェアポリエステルのワタを撚って糸状にしたもの

田中:そうです。反毛は、資源が乏しかった100年以上前に日本で生まれた原始的な技術で、薬品による分解や高温による溶解を行なわないので、再生に必要なエネルギーが少なく、環境負荷が少ないのが特徴です。手間のかかる方法ですが、自分たちが使ったものを自分たちの元へ戻す、小規模なリサイクルだからこそできることだと思います。

乙部:手間がかかればその分コストもかかるでしょうから、このリサイクル方法がほかではあまり行われていないのは、そのあたりにも理由がありそうですね。

材料は役目を終えた山の服|「モノと物語の循環」を目指すリサイクルウェア回収された衣類は赤・黄・青などのドットとして生まれ変わっても残る

田中:でき上がったTシャツをよく見ると、ところどころに赤や黄、ブルーの色が見えますよね。これは、YAMAPのユーザーさんが送ってくれた、元のウェアの色です。この生地は、YAMAPが回収したリサイクル素材を30%、ペットボトル由来のリサイクルポリエステル70%、加えてスタティックが製品作る中ででた裁断クズも一緒に混ぜて作っていますが、染色による色付けをしていません。

ベースの白っぽいところがペットボトル、黒や赤、青などの色の部分がYAMAPのリサイクル素材。つまり、素材の色がそのまま出ている状態です。染色することもできますが、ポリエステルの染色は高温で染める必要があり、多くのエネルギーを消費することになるので、あえて染めないという選択をしました。

乙部:回収したものによって色が変わると聞いたので、どんなものになるかと思っていましたが、味のあるいい感じに仕上がりましたね。以前の服の息吹が感じられるような気がします。

今回のリサイクルされたポリエステル100%のTシャツは、通常のポリエステル素材と機能面で違いはあるのでしょうか?

材料は役目を終えた山の服|「モノと物語の循環」を目指すリサイクルウェア

田中:元がポリエステル100%のものなので、出来上がった生地も基本的な性能は通常のポリエステルと同じです。ただ、元の素材に吸水速乾や撥水などの加工がされていると、その性能を引きつぐことが考えられるので、それも混ぜるものによって変わります。
本当は、リサイクル後の製品に吸水加工をしたかったのですが、今回は技術的に難しいとメーカーから言われました。これは、今後できるようになると思っています。

乙部:ほかにも、リサイクルの段階で難しかったことや苦労したことなどはありますか?

田中:やはり、回収する服の種類がいろいろなので、糸の太さが均一にならず、機械にかけたときに、引っ掛かったり切れたりという難しさがありました。試行錯誤の末にうまく糸にすることができましたが、当初の予定より発売までに時間がかかってしまいました。

僕は回収されたものを服の状態では見ていないのですが、実際にはどんなものが集まったんですか?

材料は役目を終えた山の服|「モノと物語の循環」を目指すリサイクルウェア多くの山の思い出をともにしたであろう回収された登山ウェア(撮影:甲田和久)

乙部:フリースやカットソー、シャツなど種類はさまざまでした。まだ着られそうなものもありましたが、その方にとっては不要なもので、捨てるのはもったいないからと協力してくれたのだと思います。全部で100着以上が集まり、ユーザーさんの意識の高さを感じました。

正直なことをいうと、最初私は、こんなにたくさん集まるとは思っていなかったんです。今回の回収は、ユーザーさんに送料を負担していただきました。お礼としてクーポンやノベルティをお渡しはするんですが、梱包して送るのだってかなりの手間になるから、難しいんじゃないかって。それでも、やらないよりは絶対にやったほうがいい、やるべきだと思って始めたプロジェクトなので、次々に荷物が集まる様子には本当に感動しました。

山に行くからこそ、フィールドに負担を掛けない理想的な消費を目指す

材料は役目を終えた山の服|「モノと物語の循環」を目指すリサイクルウェア

田中:先ほど乙部さんも言われたように、このシステムに限らず、手間や価格、機能面でも、リサイクルより新しいポリエステルを使う方が、正直楽だし安上がりなのが現状です。それでもやり続ける理由は、自分のフィールドに対してローインパクトであることに尽きます。これは、山に出ていく僕らが先頭を切ってやらないといけないこと。自分の場所のための自分の行動がダイレクトに結果を生む、このクローズドリサイクルのループが完成することが、一番理想的な消費の形だと思います。

乙部:今は手間やコストがかかっても、環境に配慮することが当たり前になって、みんながそういうものしか買わなくなれば、商品が増え品質も上がり、値段は自ずと下がっていくはずです。でも、個人がその意識を持ち続けるのって難しいから、市場にそういう商品しかなくなればいい。作る側として、率先して行動するスタティックさんの姿勢には、心から共感します。

これからもっとサステナブルであることが定着するには、どんな課題があるでしょうか。

材料は役目を終えた山の服|「モノと物語の循環」を目指すリサイクルウェア

田中:リサイクル全体にいえることですが、まずはクオリティを上げることですね。たとえば、ウエストのバックルのような、細かい突起があってテンションがかかるようなものは、今のリサイクル素材では強度が足りなくて使えません。漁網のリサイクルも、細い繊維を作るのがまだまだ難しい。各素材メーカーさんががんばって研究を進めてくれています。

もう一つ大切なのは、出口を作ること。回収できる服が増えて糸をたくさん生産できたとしても、それで再生されたものが売れなければ、この循環システムは成り立ちません。そのためには、再生アイテムの種類を増やしたり、1着のなかでのリサイクル率を上げたり、製品のクオリティを上げたりして、リサイクル素材を使う機会や、使ってくれる人を増やしていく必要があります。

材料は役目を終えた山の服|「モノと物語の循環」を目指すリサイクルウェア

乙部:なるほど。ユーザーのみなさんに深く知っていただくことも必要ですね。YAMAPはメーカーではないので、モノを作るその部分はスタティックさんや生地メーカーさんの力を借りるしかありませんが、いいものやいい仕組みを見極めて「これがいい」とユーザーさんに示すのが、YAMAPの役割だと思っています。

みんながモノを選ぶ基準として、機能やデザイン、価格と同じように、「循環」や「環境負荷」を当たり前のように考え、リサイクルの循環が何度も繰り返されるようになるといいですね。

田中:作る側として、機能面の充実も進めていきたいですし、ポリエステル以外の素材でもクローズドのリサイクルができるよう、メーカーさんと取り組みを始めています。ご紹介できる日も遠くないと思うので、ぜひ楽しみにしていてください。

田中健介(たなかけんすけ)

環境問題にアプローチする日本発のアウトドアブランドSTATIC代表。アウトドアに必要な機能性を追い求めながら自然環境に影響の少ない素材、製造工程などを吟味し製品展開。母体であるSTATICBLOOM社では、植物由来製品の「固形燃料 Fire Dragon」「 スキーワックスmountainFLOW」の輸入卸販売、自然由来コスメブランド「森海谷」の製造販売も展開し、アウトドア業界にエコの意識を広げるべく活動している。

YAMAP STORE 商品企画

乙部 晴佳(おとべ はるか)

YAMAP STOREの商品企画担当。アウトドアブランドのMDを経て2021年YAMAPに入社。現在は様々なブランドさんとの共同企画商品や、ユーザーさんのお悩みに寄り添うオリジナル商品の開発に日夜明け暮れています。衣食住を背負って移動する縦走登山やバイクパッキングが好き。今年は伊藤新道を歩きに行きたいです。

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