「日常と山を隔てることなく」を追求しつづけて|RIDGE MOUNTAIN GEARブランドインタビュー
「ベーシックロングスリーブシャツ」や「グリッドメリノ イヤマフキャップ」といった、YAMAP STOREでもお馴染みのアイテムを展開するRIDGE MOUNTAIN GEAR(リッジマウンテンギア)。ベーシックでありながらも、ユニークなアイデアを込めたプロダクトは、ユーザーからの高い支持を集めてきました。以前にも、リッジマウンテンギア・代表の黒澤雄介さんにお話しを伺ったことはありましたが、今回あらためてインタビューを敢行。ブランドとして取り組んでいること、ものづくりの裏側について聞きました。
(インタビュアー:YAMAP 大室明子、記事/撮影:小林昂祐)
「1人メーカー」からの成長と変化
── 前回のインタビューは2021年。あれから4年が経ち、プロダクトのラインナップも大きく広がりましたが、ブランドやものづくりの姿勢に変化はありましたか?
本当に、時間が経つのは早いですね。あの頃は、自分が作りたいものを一気に作る、そんな期間だったように思います。リッジマウンテンギアとして独立したのが2019年でしたから、まだブランドとして走り出したところ。販売する製品を自分で縫うことも多く、ただただ毎日が楽しかったですね。
そこから少しずつブランドの規模が大きくなり、以前取材にきていただいたアトリエでは手狭に。2022年に現在の場所に移転しました。取り扱い店舗が増え、商品展開数も多くなってくると、次第に「楽しい」だけでは収まらない部分も増えてきました。
プロダクトでいえば、シャツなどのクロージングアイテムがはじまり、提携工場で生産する製品も増加。これまでのように自分の手だけをひたすら動かしていればよいわけではなく、工場とのやりとりや生地の手配、さらには会社の経営面にも目を向けなければなくなりました。

── リッジマウンテンギアというブランドをどう運営していくか、みたいなことでしょうか。
以前のアトリエにいた頃は、ギア類は製造から配送まで、クロージングは仕入れから配送までを、ほぼ自分ひとりで行っていました。 大変ではありましたが、どの作業も好きだったので苦には感じませんでした。でも今は、ブランドとしてのフェーズが大きく変わってきたというか、悩んだり考えたりすることが格段に増えたと感じています。
ブランドとしては、まだまだ作りたいものがあります。
レインウェアや防寒着も構想にありますし、「リッジマウンテンギアの製品で装備が一式揃う」という状態にはまだまだできていないので。これから少しずつそういったアイテムも形にしていきたいと思っています。なので、まだ変化の最中という感じですね。
「ベーシック」であることへのこだわり

──「 ベーシック」な製品が リッジマウンテンギアには多い印象ですが、トレンドを意識することはありますか?
気にはしています。 いや、どうかな……(笑)。 一応、シルエットやサイジングは気にしているんですが、結局は自分が着たいものをつくりたくなってしまうんですよね。もともと服が好きでアパレルの仕事をしていたのですが、当時好んで着ていたものと、好みはいまもほとんど変わらないんです。
自分自身、流行に合わせてスタイルを変えるのがあまり好きではないというか。以前はいろいろな服を買っては試していた時期もあったのですが、最終的に落ち着いたのが、「すごくシンプルで、いつでも着られる服」でした。
リッジマウンテンギアのクロージングも同じで、たとえば5年前につくった服が「今では着られない」なんてものにはしたくないんです。そんな気持ちもあって、ベーシックなものを作ってるっているんだと思います。
── 落ち着いたカラー展開にもこだわりがあるのでしょうか。
自分自身、ほとんどグレーとブラックぐらいしか着ないので(笑)。グレーが一番好きなので、ブランドのメインカラーもグレーにしています。どの商品にも必ずグレーのアイテムが入っているんですよ。ほかにも、ベージュのように「誰が着ても違和感なく合わせられるだろうな」というカラーを選ぶことが多いですね。やっぱり、自分が普段着ないような色はあまり選ばないです。
ただ、シャツに関しては「色違いで揃えたい」というお客様の声も多いので、新しい色を提案したいという気持ちもあります。なので、シーズンごとにカラー展開を変えることもありますね。これまでは本当に僕の好みだけでいいかなと思っていたのですが、最近はいろんな人の意見を取り入れて、新しい色に挑戦するのも面白いなと思うようになってきました。

── 近年ユニセックスでサイズ展開するアウトドアブランドも多いなか、リッジマウンテンギアでは、同じデザインのアイテムをあえてメンズとウィメンズを分けて展開していますよね。その理由は?
シャツやカットソーに関しては、ユニセックスにしてしまうとサイズ展開の調整がすごく難しい。どうしても腕の長さや着丈のバランスが合わなくなってしまうんです。なので、自分が考える女性にとって理想的なウェアのサイジングを実現するには、ユニセックスではなく、ちゃんとウイメンズであるべきだと思っています。
いまはアウトドアウェアでもビッグシルエットがトレンドになってきていて、女性があえてメンズのウェアを着ることも増えています。それはそれでいいかなと思うんですけど、リッジマウンテンギアとしては、やっぱりシャツやカットソーは、ちゃんとメンズとウィメンズで分けておきたい。もちろん、女性がメンズのものを選んで着るのは全然問題ありません。
ちなみに、ユニセックスのアイテムもあるんですよ。スモックのように体型をあまり選ばないアイテムはユニセックスで展開していますし、これから作ろうとしてるアウターでは、生産面などの制約で分けられないものも出てくるかもしれません。それでも、できる限り、そして必要があるアイテムについては、これからもメンズとウィメンズをしっかり分けていきたいと思っています。
「RIDGEらしさ」を生み出す、ものづくりの源泉

── 新しい製品を作る時のアイデアや原動力はどこからくるのでしょうか?
やはりファッションが好きなので、アウトドアではなくファッションアイテムからアイデアを持ってくることが多いですね。
たとえば、スモックは、もともとフランス軍のミリタリーウェアから着想を得ています。昔、自分が好きでよく着ていた服を、アウトドアウェアとして落とし込んで作ることも多いんです。
僕が小学生の頃、兄がマウンテンパーカーのような服を着ていた時期があって、それを思い出して作った……というようなエピソードから生まれたアイテムもあります。「フーデットロングスリーブシャツ」もそうで、僕が小学生の頃に着ていたフード付きのネルシャツがソースだったりします。子どもの頃の記憶を思い出しながら、もう一度自分なりに作りかえてみようかな、みたいな感じです。
ファッションでいう定番のアイテムを、アウトドアウェア用の素材で作ってみたらどうなるだろう?みたいな、そんな軽いノリから形になっていくこともあります。

── 日本各地の工場で生産している印象がありますが、工場とはどのように信頼関係を築いているのでしょうか?
最初のアパレルはTシャツから始めたのですが、当時はアパレル時代の知り合いに相談して、工場を紹介してもらいました。ところが実際に進めてみるとトラブルが多く、思うようにいかなかったんです。
そこで改めて工場を探しなおすことにしました。リッジマウンテンギアのアパレルのパターンを引いている方が、ハイブランドのメーカーでもパターンを担当している方だったので相談したところ、工場を紹介していただきました。その工場はハイブランドを手がけているだけあって、一発目からとてもスムーズで。こちらの意図をしっかり汲み取ってくれるし、クオリティはもちろん、納期や仕様の件も話が早い。そこからずっと生産をお願いしています。
やっぱり自分一人で工場を探すのは難しいですね。信頼できる方からの紹介があって、さらにその工場が自分の理想ともマッチしたので、長くお願いしているという感じです。相性も大きいと思います。そういう意味では、「日本製にこだわる」というよりも、コミュニケーションがしっかり取れるかどうかを一番重要視しているんだと思います。別に海外でもちゃんとコミュニケーションを取れて安心できるところがあれば、全然そっちでも問題ないなとは思ってます。

──ナイフやミニベル、雪平鍋など、ユニークなアイテムの登場も気になっています。どのような背景があったのでしょうか?
完全に僕の趣味のラインです(笑)。他のアイテムみたいに大量に生産はできません。というのも、職人さんが一人で作っているケースが多く、生産数が限られてしまうんです。だから正直、たくさん利益が出るような商品ではありません。
きっかけとしては、少し前から日本のさまざまな工芸品に興味を持つようになったことが大きいです。何十年とものづくりをずっとひたむきにやられてる職人さんたちの仕事に魅力を感じるようになって、「この人たちと何か一緒に仕事できたら面白いな」と思うようになりました。雑誌で見かけた工房に「もしかしたらここからアウトドア製品が作れるかも」と感じたら、とりあえず声をかけてみる。 そんな感じで、気になる職人さんのもとに飛び込んでいってます(笑)
ブランドの魅力が詰まったアイテムたち

── あらためてになりますが、YAMAP STOREで取り扱っているアイテムのなかで、いくつかご紹介いただけますか?
ブランドを象徴するバックパック「ワンマイルトリム」

ブランドとして最初にリリースしたバックパックが「ワンマイル」です。16Lサイズのデイパックで、生地はX-PAC、フロント上部に設けた雨蓋が特徴でした。当時、ULハイク由来のバックパックって、メッシュポケットや巾着型ポケットが主流だったのですが、雨が降るとどうしても水が染み込んでしまう。そこで「雨蓋をつけたい」と思ったんですね。
「ワンマイル」は、3年ほど展開していたのですが、今年リニューアルして「ワンマイルトリム」となりました。商品名の「トリム」は、トリミングの「トリム」。元のワンマイルのボディサイズはそのままに、ポケット形状などを削ぎ落として、よりシンプルに仕上げたモデルです。
また、生地もアップデートし、新たにUltraWeave™ Ultra100Xを採用しました。素材にもトレンドがあり、そうした要素も取り入れながら、ブランドらしさを凝縮したバックパックになっています。

子ども時代の憧れを再解釈した「マウンテンスモック」

先ほどの話にもありましたが、このアイテムは、僕が小学生の頃に兄が着ていたマウンテンパーカーから着想を得ています。
おそらく、とくに機能もないナイロン製のマウンテンパーカーだったと思うのですが、当時は子ども心にすごくかっこよく感じていて、万能なジャケットに見えたんです。これを着ればどこでも行けそうなイメージがありました。そんな子どもの頃を思い出しながら作りました。
デザインは、いわゆる前開きのマウンテンパーカーではなく、フランス軍が雪の中で着るスモックをデザインソースにしていて、ウィンドシェルのように使えるよう設計しました。素材はPERTEX® EQUILIBRIUM、20デニールのものを使っています。裏の加工が特徴的で、凹凸があり、肌に直接触れた時にベタッと張り付きません。薄すぎず厚すぎず、軽量で携帯できますし、普段着としても着られるバランス感も魅力です。

「いなたい」ハイキングウェア「フーデッド ロング スリーブ シャツ」

ブランドとして最初に発売したシャツは、一般的な襟付きタイプの「ベーシックロングスリーブ」でした。その後にリリースしたのが、「フーデッドロングスリーブシャツ」です。こちらも、子どもの頃に好きで着ていたフード付きのシャツがデザインソースになっています。
撥水力が高く通気性のある生地を使い、さらにフードをつけることで、「シャツがシェル代わりにならないか」という発想で作ったアイテムです。フードはテクニカルな形状ではなく、あえてスウェットパーカーのような2枚ハギの構成で、ドローコードもゴムではなく共布です。どこか「いなたさ (※) を残す」というか、登山ウェアやスポーツウェアっぽくないような感じで表現したかったんです。
(※) 「いなたい」・・・もともと「田舎くさい」「野暮ったい」といった否定的な意味でしたが、現在は「ダサかっこいい」と再評価されている、古くて無骨な雰囲気やチープな要素を取り入れたスタイルを指します。

ロングセラーアイテム「グリッドメリノイヤマフキャップ」

ずっと販売させていただいてる商品なのですが、特徴はグリッド状のメリノ生地ですね。 メリノウール100%ということもあり、すごく高価な素材なのですが、通気性、風抜けがいいので行動時でもムレにくくなっています。耳にあたる箇所は生地を二重にすることで、保温性を高めています。ほぼほぼ定番になっているアイテムなので、「ベーシック」とつけてもいいかなって思いはじめています。

これからのRIDGE MOUNTAIN GEAR
── 最近は、オープンアトリエやポッドキャストなどの活動もしていますね。発信の方法、伝え方が多岐にわたっている印象です。
オープンアトリエははじめてみたものの、スタッフが僕しかいないので、どうやってつづけていこうか悩んでいるところです。定期的にオープンしたいのですが、難しいところもあるんです。とはいえ、お客様とのコミュニケーションは大事ですし、誰かに手伝ってもらったりしながら、きちんと形にしていきたいと思っています。
ポッドキャストに関しては、はじめて1年ほど経つのですが、息抜き程度にやってみようかなっていう、ほんと軽い気持ちでした。友人や映像をやってくれてる仲間と一緒にやっています。ビールを飲みながら、本当に世間話をしてるんですよ(笑)。

── 今後の展開、これから作ってみたいアイテムは?
先ほどもお話ししましたが、シーズンを通して着られるアイテムが揃っていないので、冬に使えるアウターや化繊綿のアイテムを企画しています。冬に着るベーシックなウェアづくりに取り組んでいます。うまくいけば、来年の冬頃にはリリースできる予定です。
バックパックに関しても次のステップを進めています。これまでより容量の大きい30リットル、40リットルクラスのモデルを構想しているほか、「これまでのリッジマウンテンギアにはなかった」アプローチのバックパックにも挑戦してみたいと考えています。
シャツやキャップなど定番として愛されるアイテムが増え、ブランドとして少しずつ安定してきた今だからこそ。これまで作りたくても手が回らなかったものに、じっくり向き合えるフェーズに入ってきたと感じています。
これからのリッジマウンテンギアも、ぜひ楽しみにしていていただければと思います。

RIDGE MOUNTAIN GEAR ブランドインタビュー:01
前回(2021年)のインタビューでは、ブランド立ち上げのストーリーや製品開発への想いを伺いました。こちらも併せてお楽しみください。

RIDGE MOUNTAIN GEARが提案する、山と街をつなぐギアとスタイル
「山で過ごす時間と、日常をシンプルに過ごすための道具を作りたいんです」。そんな黒澤さんの言葉どおり、RIDGE MOUNTAIN GEARはこれまで、アウトドアとライフスタイルの2つのシーンを自然につないでくれるプロダクトを生み出してきました。これらのアイテムは、どのような背景から誕生したのか──。ブランド創設期のエピソードから製品づくりに込めた思い、そして今後の展望までをたっぷり伺った、ファン必読の内容です。
RIDGE MOUNTAIN GEAR 紹介商品一覧


黒澤 雄介(くろさわ ゆうすけ)
2019年10月末日に4年間勤務した株式会社山と道を卒業し完全独立、改めてスタートしました。 RIDGE MOUNTAIN GEARは山で過ごす時間や、それにいたる迄の日々の生活をシンプルに過ごす為の道具を作る小さなメーカーです。 山と日常の境界を無くしたい。それはクローゼットの中も同じ事で、道具やウェア選びの煩わしさをいかに無くすか。 そんな事を考えて今は製品作りをしています。

