進化が止まらない【ツルギライト】|「透湿」を超えた「通気」で、さらに快適な登山を
斜めに大きくあしらわれたジッパーを見れば「あ、ツルギだ」とひと目で分かる、Teton Bros.(ティートンブロス)の代表的なアイテムのひとつ「ツルギライトジャケット」。YAMAP STOREでも売り切れ続出のこのジャケットが、リニューアルして再登場です。
最大のポイントは、なんといっても2021年から新たに採用された次世代の素材「Täsmä(タズマ)」。いわゆる「防水透湿素材」ではなく、より通気性を高めた「防水通気素材」として、これまでにない異次元の快適さを実現しました。
そして、これまでのモデルから引き継いだ、機能的なディテールの数々。これはただの奇抜なデザインではなく、すべて快適に登山を楽しむために必要な機能であり、まさに「機能から生み出されたデザイン」といっても過言ではありません。
新素材を採用した「ツルギライトジャケット」のスペック・魅力について、たっぷりご紹介します。
(記事=寺倉 力)
※カラーバリエーションは4種類
なぜ、レインジャケットを着て歩くと不快なのか

山で雨に降られたら、レインジャケットを着るのがセオリーです。けれども、実際のところレインを着て歩けば、どうしても熱や湿気がウェア内にこもりやすく、不快感を感じることも。その原因は空気が抜けにくいアウター素材にありました。
レインジャケットをはじめ、アウトドアウェアの多くは、アウター生地に防水透湿素材が使われています。これは「水分を遮断して空気は通す」という極薄メンブレン(膜)のはたらきによって、防水性と透湿性を確保しているのです。ところが、この空気を通す「透湿性」も、その機能を発揮できない状況があることをご存じでしょうか。
多くの防水透湿メンブレンのメカニズムは、暖かく湿ったところから、冷たく乾いたところへ流れる、という水蒸気の性質を利用しています。たとえばレインジャケットの場合、着た状態で歩き始めると、体温が上がって発汗量が増えます。そうしてウェア内の水蒸気圧が上昇し、それに伴って気温(温度)が低いレインジャケットの外側へと透湿がはじまるという仕組みです。
そのため、外気とウェア内の温度差が少ない状況では、じつは透湿しにくいという弱点がありました。春から夏、初秋にかけての温暖な季節に、レインジャケットを着て歩くと汗で蒸れやすいのは、それが大きな原因のひとつだったのです。
「透湿」を超えた「通気」を求めて
汗抜けの悪いウェアは行動中に不快なだけでなく、汗冷えによって体温が奪われ、夏山であったとしても致命傷につながります。
そこで、Teton Bros.(ティートンブロス)は、長年にわたって「通気性」にこだわってウェア開発を続けてきました。水蒸気がメンブレンに染みこんで通り抜ける「透湿」ではなく、ウェアを着用した瞬間から、文字通り、空気そのものが行き来する「通気」です。
レインジャケットとしての防水性や防風性は、優れた通気性があってこその機能である、とティートンブロスは考えているのです。
新たに次世代の通気防水素材「Täsmä(タズマ)」を採用

昨年、日本の繊維メーカー・東レと3年間の共同開発によって誕生し、今回、ツルギライトジャケットに採用されたのが、次世代の通気防水素材といわれる「Täsmä(タズマ)」です。
この新素材は、エレクトロスピニング(ESP)製法によるメンブレンによって、「水を止めて空気を通す」という機能を実現しています。これはミクロ単位のポリウレタン樹脂をクモの巣状に吹き付けて重ねたもので、何層にも重なるミクロの網の目が水分を遮断し、同時に通気を可能にしたものです。
ラボテストの結果では、従来の素材と同等の高い通気性を維持しながらも、耐水圧に関しては従来のものを5,000mm以上も上回っています。
また、アウター素材には防風性の高さも重要な要素ですが、この新素材は外気を99.9%遮断することで、高い防風性も備えています。100%にはわずかに欠けますが、残りの0.1%分の風通しは人間の感覚では体感できないほどの細微な数値です。
この新素材「Täsmä(タズマ)」は、各地の山岳ガイドによるフィールドテストをクリアしたうえで、まずは2021年の秋冬シーズンからティートンブロスの全アウターシェルに採用されています。
2022年春夏モデルの「ツルギライトジャケット」では、「Täsmä(タズマ)」を挟む表地には20デニールのメカニカルストレッチナイロンを、裏地には植物由来の10デニールナイロンのニットバッカーを採用。丈夫ながら薄い生地を使用しているため、重量はMサイズで約265gと、従来モデルよりも軽量になっています。
特に夏山で使う温暖な季節用のレインジャケットは、着用しているときよりも、バックパックに入れて持ち運んでいる時間のほうが長いアイテムです。それだけに、軽さと、コンパクトに折りたためる薄手生地は大きなメリット。バックパックの前面ポケットや、雨蓋と本体との間に挟むなど、必要なときにさっと取り出せる場所に収納することができます。
斜めのフロントジッパーに込められた3つの意味
ツルギライトジャケットといえば、なんといっても斜めに大きく開くフロントジッパーが特徴。この世界でも類のないユニークなルックスは、ティートンブロスのフラッグシップモデル「TBジャケット」で使われていた斜めのベンチレーションを応用したものです。その結果、見た目の特徴がすべて機能性に結びつくという優れたデザインを生み出しています。
1. 着脱の容易さ

ツルギライトジャケットは、レインジャケットにしては珍しくプルオーバータイプですが、斜めに配置されたフロントジッパーが大きく開口することで、着脱しにくいというプルオーバーの弱点を解消しています。
2. 着心地の良さ

これはプルオーバーのウェア全般にいえることですが、前面下部にフロントジッパーが通っていないため、着心地が実にやわらか。座っても、体をひねっても、体の動きに硬いジッパーが干渉することなく、アウターウェアを着ているとは思えないほど軽やかに体を動かすことができます。ジャケット前面の上下を止水ジッパーが貫いているのは、実はけっこうなストレスなのだと、はじめて気付かされるでしょう。
3. 高い換気性能

斜めのフロントジッパーはダブルスライダーになっていて、下から開放すれば、そのままベンチレーションとして機能します。首から胸まで、胸から裾までと、そのときの状況に応じて歩きながら自由自在に開放位置を調整でき、大きな開口部から素早く冷たい空気を取り入れることで、すばやく体をクールダウンできます。
つづら折りが続く急な山道を登る場合など、どうしてもオーバーヒートしそうな状況では、通気性の高い素材とはいえ、やはりベンチレーションによる換気が効果的です。
一般的なレインジャケットのベンチレーションは、脇下に配置されている例がほとんど。一度でも使ったことのある人なら、使いにくいと感じたことのある人も多いことでしょう。位置的に開閉しにくく、バックパックを背負った行動中の操作はなかなか難しく、苦労して開けられても、場合によってはベンチレーション効果が薄いことも。
その点、ティートンブロスのアウターシェルは、どのモデルも体の前面に斜めの大型ベンチレーションが配置されており、冷えた外気を効果的に取り入れることができます。その際、バックパックのショルダーベルトにも干渉することなく、急登にあえいでいる最中でも、片手で手軽に開け閉めできます。その優れた仕様を受け継いでいるのが、ツルギライトジャケットのフロントジッパー兼ベンチレーションなのです。
ミニマムにして考え抜かれたディテール

特徴的なフロントジップ以外にも、すべてにおいてこだわり抜かれたディテールも見逃せません。
頭部にフィットするフードデザインに、片手でアジャスト可能なアイレットストッパー

フードは頭部の形状にフィットし、顔の動きにしっかりと追従するデザインとなっています。
フードの内側にはドローコード付きインナーカフがあり、顔との間から風が浸入するのを防ぎます。コードは引き上げるとロックし、降ろすとリリース。片手のワンアクションで調整できるアイレットストッパーも付いています。
大型フロントメッシュポケット兼ベンチレーション

フロントポケットは見た目以上に大きく、裏地にはメッシュ生地を使用。そのため、行動中にポケットのジッパーを開ければ、サブのベンチレーションとしても機能します。
首回りにはフリースライナー

フロントファスナーを締めた状態で、顔に当たる部分には、起毛フリース生地がライニングされ、表生地とのスレから顔を守ってくれます。
シンプルな袖口や、肩周りのパタンニングにもこだわりが

腕や身体の動きを邪魔しないよう、細部は必要最低限の仕様に抑えることで軽量化。たとえば伸縮ギャザーの袖口は、ベルクロ留めのカフよりも手軽でシンプルな構造で、必要な機能性を維持しています。
肩周りのパタンニングは、クライミングアクションに必要な肩の可動域が最大限確保されています。そのため、バックパックを背負った状態でも、肩周りの動きはスムーズ。なおかつ、腕を上げ下げしても肩周りに生地の無駄なたるみなどもない、すっきりとした仕上がりです。
ファッションではなく、フィールドで頼りになるギアとしての一着

個性的なデザインや落ち着いたカラーリングで人気を博してきたツルギライトジャケット。ですが、これらすべてのデザインは、じつは機能に裏付けられていることがおわかりいただけたのではないでしょうか。
「ツルギライトジャケット」のベースとなっている「ツルギジャケット」が世界的にも高い評価を受けているのは、「見た目の特徴がすべて機能になる」という設計思想によるもの。ツルギジャケットで培われた機能性を可能な限り引き継ぎ、大幅に軽量化を果たしたのが、このツルギライトジャケットです。登山やトレッキングシーンではもちろん、通気性とストレッチ性の高さから、トレイルランニングシーンでも高い人気を誇っています。
「ファッションアイテム」ではなく「フィールドで役立つアイテム」として、ぜひ一度袖を通してみてください。その軽々とした着心地には、今までのレインウェアとはきっとまったく異なる新たな体験が待っていることでしょう。
※カラーバリエーションは4種類

今回紹介した商品

寺倉 力(てらくら ちから)
編集者+ライター。三浦雄一郎が主宰するミウラ・ドルフィンズに10年間勤した後、「BRAVOSKI」編集部員としてモーグル、フリースキーに長く携わる。現在、編集長として「Fall Line」を手がけつつ、フリーランスとして各メディアで活動中。登山誌「PEAKS」で10年以上インタビュー連載を続けている。