「これ無しではもう走りたくない」100マイラーTomoさんと“山を走る”インソール

この春、YAMAP STOREが満を持して発売するトレイルラン用のインソール。
「膝がちっとも痛くならない」と、数多くのリピーターを集める「“山を歩く”インソール」、そのトレイルラン版です。

その名も「“山を走る”インソール」。その開発の裏では、日本有数の100マイルランナー・井原知一さんによる日本一ハードなテストが行われていたようです。井原さんとは旧知の仲であり、自身も豊富な100マイルレースの経験を持つ礒村真介さんがレポートしてくれました。

ケガをしない人こそ最強。ケガを予防できるインソールが欲しい

「これ無しではもう走りたくない」100マイラーTomoさんと“山を走る”インソール

突然ですが、皆さんはトレイルランをするときに、シューズのインソールを「入れ替えて」いますか?

トレイルランにハマって、走れる距離が増えて、レースの成績も伸びて。この楽しいレベルアップが止まることなくそのまま続けば最高ですが、どこかで「故障」という壁にぶつかる人が多いのが実際です。

「コーチングの仕事をしていて実感するのは、最終的に一番伸びるのは、ケガをせず継続してトレーニングを積んでいけた人だということ。どれだけ質の高いトレーニングをしても、その都度故障が発生してトレーニングの継続性が損なわれると、成長曲線はギザギザした歯ブラシのようなものになってしまいます。成長曲線は緩やかでもいいので、右肩上がりの方が絶対にいい」

と力説してくれたのは、「Tomoさん」と周囲から親しみを込めて呼ばれる井原知一さん。

ランニングコーチとして、主にオンラインで十数名のランナーのトレーニングを「赤ペン先生」のようなサポートで目標へと導くかたわら、自身も「100マイル(=約160km)を生涯で100本走る」という大目標を掲げ、既に50回以上もの100マイルランを走破しているスーパーマンです。

「これ無しではもう走りたくない」100マイラーTomoさんと“山を走る”インソール
「これ無しではもう走りたくない」100マイラーTomoさんと“山を走る”インソール井原知一(いはら・ともかず)。ランニングコーチ。数年前より高尾に移り住み、玄関を出て数十秒でトレイルに入れる環境を満喫しつつ、国内外の100マイルレースでは何度も表彰台に登る。自身のサイトTomo's pit(https://tomospit.com/)を通じたオンラインコーチングが人気だ。愛称Tomoさん。

YAMAPとインソール専門メーカーのBMZが秘密裏に(笑)共同開発を行っていた、トレイルランのための高機能インソール。

アスリートに試作品をテストしてもらい、フィードバックを受けて改良する。そのやり取りを繰り返しながら、「山を走るインソール」のスタンダードを作りたい。そう考えたときに白羽の矢を立てたのが、日本で最もハードに足を使いこなしているトレイルランナーの一人であろうTomoさんだったのです。

今日は半年以上に渡った二人三脚の総仕上げ、Tomoさんによる最終テストランとそのフィードバックミーティングの模様を追いかけました。

立方骨を支えることで、着地衝撃を吸収するアーチをキープする


BMZはインソールの専門メーカーです。

例えばトレイルランとの共通点が多いと言われるスキーでは、スキーブーツにオーダーメイドのインソールを入れることは半ば常識です。その他のスポーツ、たとえば野球やサッカーでも、トップアスリートになるほど、シューズのインソールを専門メーカーのものに入れ替えるのは珍しくありません。

それならば、活動時間が長いトレイルランニングこそ、インソールに工夫をすることのメリットたるやとてつもなく大きいのでは? 実際、同様に活動時間が長い登山用にとBMZとYAMAPがコラボレーションして開発した「山を歩くインソール」は、YAMAP STOREきっての人気アイテムになっています。

登山専用の「山を歩くインソール」3モデルはこちら

「インソールの役目は、ひとつはフィット感の調整。サイズの調整ですね。そしてもう一つが衝撃吸収です」

と、今回の「山を走るインソール」の開発を担当したBMZの山中さん。

「これ無しではもう走りたくない」100マイラーTomoさんと“山を走る”インソールYAMAPとのコラボレーション商品や、アスリートとのインソール開発を多く手がけるBMZ取締役・山中保さん。本社が群馬県みなかみ町にあるため、開発初期からミーティングはオンライン中心で行われてきた

BMZのインソールは、足の負担を減らすことが命題。そのために用意したのは、単にクッション性のある素材を用いるという解決策ではなく、インソールに凹凸を設けることで足本来が持つ機能をめいっぱい発揮させることでした。

目を付けたのは土踏まずのアーチ部分です。しかもそのアーチ全体ではなく、アーチを支える大黒柱的な役目を持つ“立方骨”をピンポイントで支えるのがBMZのインソールの特徴です。

土踏まず全体をインソールで持ち上げ、固定してしまうのでなく、大黒柱たる立方骨のみを支えることでバランスを向上させ、テントポールのようなたわみを生むこと。これにより足のアーチが正常に働き、人間本来の衝撃吸収機能が存分に発揮されるのです。

このように立方骨を支えるインソールはBMZの専売特許。ちなみに立方骨を支えることにフォーカスしたインソールを考案して以降、ケガの予防のみならず、タイムなどの結果がアップしたアスリートが増えたそうです。へぇ~。

立方骨を支えるとなぜいいか? そのメカニズムはこちらの記事で解説

ちゃんと大きな筋肉を使えていればケガをしにくい

「これ無しではもう走りたくない」100マイラーTomoさんと“山を走る”インソール

山中さん「井原さんとの最初のミーティングは、2021年の秋でしたよね。私たちにはトレイルランの経験がなく、いろいろと素朴なギモンをぶつけたのですが、そのときのやり取りで一番印象に残ったのが『小さい筋肉に頼って走るとケガをする』という言葉でした」

1kmも走れない人に10kmのランニングのことを聞くことはできません。その逆で、F1などのレーシングカーの関係者は乗用車のことだってよく分かるもの。究極的に足を使い込んでいるTomoさんの一言は、トレイルランについての本質を突いていると感じたそうです。

Tomoさんの金言によって、トレイルラン用インソールには、BMZで通称「アシトレ」と呼ばれている機能を使用することに決まりました。

「これ無しではもう走りたくない」100マイラーTomoさんと“山を走る”インソール

アシトレ機能を備えたインソールの特徴は、足指の付け根部にフォースパットと呼ばれる特許取得済のパットを設けている点です。足指を動かしやすく=掴む動作をしやすくするもの。そうすると大きな筋肉を使って大きな力を入れやすくなるのです。アシトレという名称ですが、筋トレのように負荷をかけてパワーアップをうながすものではありません。

その上で、合成樹脂の一つであるEVA素材の中でも、特に弾力が高く衝撃吸収力があり、柔軟性と軽さも備えた高反発EVA素材を中心にしてファーストサンプルを作ることに。

Tomoさん「最初に試した既存の市販品を除くと、ファーストサンプルとして手元に届いたのが4タイプだったでしょうか。EVA素材をベースに、浮指を促すアシトレ機能を備え、表面を人工皮革にしたものと、総EVAのものでまず2通り。そこからインソールに傾斜をつけることで上り坂強化にチューンしたものと、フラットなものと」

いずれのタイプも、最初履いたときは足裏が何かに突き上げられているかのような違和感を受けたそうです。

Tomoさん「でも、2、3日もすればすっかり慣れました。BMZさんに言われたのですが、歯列矯正と一緒で、不健康なものをニュートラルに戻そうとすると最初は痛みや違和感が出るそうです」

山中さん「実際に井原さんの足を何か月かおきにスキャンして計測させていただいたところ、確かに最初はあまり健康そうな足ではありませんでした(笑)。故障されていたのも関係していると思います。テストを重ねたあとの今年の春の計測では非常に健康的な状態に改善されていたんです」

「これ無しではもう走りたくない」100マイラーTomoさんと“山を走る”インソール足指を使うことにより足が鍛えられ、指の接地面積が大きく上昇。指の内側アーチと横アーチの崩れも改善されたとのレポート結果に

地面を掴めるかのような感覚が新鮮だった

「これ無しではもう走りたくない」100マイラーTomoさんと“山を走る”インソール

Tomoさんがアシトレ機能付きのインソールを履きこんで感じたのは、狙い通りの好印象でした。

Tomoさん「とくに上りのとき、足首が無駄に上下しないようヒールロックさせた状態で指先に乗るように走るのですが、その調子が抜群によかったんです。指先がグーの状態になって、力を入れやすく、地面をちゃんと掴める感覚がありました」

人間は力こぶしを作るとき、自ずと手の指を握りしめたグーの状態をとります。その理由は、指を握りしめたほうが腕に大きな力を入れやすいから。足も同じで、足の大きな筋肉を使うためには足指でグーの動きができるかどうかがキーポイントになるのです。

Tomoさん「傾斜をつけたタイプは、確かに上り/下りはそれぞれ走りやすい感覚がありましたが、それ以外のサーフェスではむしろ疲れるような気がしました。10km程度であればOKだけど、100マイルのような長距離になれば不安。途中からフラットタイプに決めうちして、その中で素材違いの履き比べをしていましたね」

左右で別モデルを履いてテストを重ねた

「これ無しではもう走りたくない」100マイラーTomoさんと“山を走る”インソール今回の最終テストランもTomoさんの庭ともいうべき裏高尾にて実施。トレイルや林道など多様なサーフェスがテストランにはうってつけだ

山中さん「表面素材に関してはEVAだけでなく人工皮革素材でも試していただきましたが、最終的には高反発EVAに落ち着きました。数百km程度走ったら交換適期になるという耐久性面で若干の弱点はありますが、ランナーの足形になじみやすく、シューズの中で足がズレにくいというメリットがあります」

Tomoさん「足への密着感が凄いんです。自分もこの素材が一番よいフィーリングでした。小砂利や水がシューズの中に入ったときに、インソールにたまってしまう点は少し気になったので、何度目かのテストサンプルのときにお伝えさせていただきました」

「これ無しではもう走りたくない」100マイラーTomoさんと“山を走る”インソール

この問題には、インソールに入っている直径2mmの孔を1mmに変更することで対応。他にも2ndサンプル、3rdサンプルと複数モデルのテストを重ね、ここに書ききれないくらいのフィードバックを申し入れしたそうです。

ちなみに、一般人の頭で考えると、一度に履いてテストできるのは1モデルのみ。でもTomoさんは日々の体調面での変化がフィードバックに影響してしまわないか気になったそうで、「右足にサンプルA、左足にサンプルB」などと、左右別モデルを履いていたと言うから驚きです。

Tomoさん「2021年の年末に100マイルランのイベントに参加したときも、左右で履き分けて人体実験してみました。このときの結果は23時間8分。そこそこ速いペースで走りました。アシトレの浮指がどのくらいの負荷になるか、負担となって影響するかが気になっていたのですが、結果は完全に杞憂。普段からアシトレ機能のあるインソールでテストランを重ねていて、慣れていたというのもあるかもしれません」

こうして立方骨を支えるというBMZの根幹となる機能はそのまま、足指を使いやすくするアシトレ機能を盛り込み、でも足全体で見たときには余計な高低差がついていないフラットタイプというスタンダードの形状が決定。素材は足なじみのいいEVAを本体、表面ともに使用した最終サンプルが完成しました。

守りこそ最大の攻め!を地で行くインソール

「これ無しではもう走りたくない」100マイラーTomoさんと“山を走る”インソール

Tomoさん「最終サンプルでテストランしてみて改めて感じたのは、大きな筋肉をちゃんと使い続けて走れている感覚があるな、ということ。コアを使えないと足のトラブルにつながります。守りこそ最大の攻めと言いますか、ケガをせずトレーニングを積み続けるためのインソールになったのではないでしょうか」

山中さん「そもそも成人男性の足は左右の長さにバラつきがあります。その上でどちらかの足に故障を抱えたりしていた場合、歪みの生じた状態で長時間、トレイルランの負荷をかけ続けることになります。ヒザが痛くなったり、どこかをケガしたりしてしまうのは半ば当たり前かもしれません。常に均等なバランスなら調整する必要はありませんが、そこがインソールの出番になると考えています」

大きな筋肉、コアとなる筋肉を動員させて走ることにより、骨盤などに余計なブレが生じにくく、フォームにおける骨格の歪みが少なくなるのです。

「これ無しではもう走りたくない」100マイラーTomoさんと“山を走る”インソール

Tomoさん「このインソールなしではもう走りたくないですね。トレーニングでも、レースでも、気分転換のファンランでも。ランナーは走れないことが一番のストレス。コーチングをしているクライアントの皆さんにも自信をもってオススメできる、故障せず走るための最終兵器だと思います」

山中さん「とにかくハードユースしてくれましたよね。井原さんはこちらの提案を毎回すごく面白がってくれ、解像度の高いやり取りができました。大切なことはディテールに宿るんですよね。それが一流アスリートたるゆえんなのかなと。こうしたディテールへのこだわりは最終の製品にも生きてくるんです」

Tomoさん「今履いているシューズのインソールと、このインソールとをぜひ一度履き比べてみてください。違いは一目瞭然、いや一足瞭然!?ですよ」

(写真:藤田 慎一郎)

礒村 真介(いそむら しんすけ)

礒村 真介(いそむら しんすけ)

山道を走って、書く、自称「トレイルライター」。某モノ雑誌の編集者時代にギアの面白さからトレイルランニングにハマり、山の世界へ。仕事柄徹夜にはめっぽう強く、国内外の100マイルレースで入賞経験あり。東京のトレイル&ランニングショップRun Boys! Run Girls!が運営するクラブ「ランボーズ」ではコーチを務めている。各メディアでのテスト企画などを通じ、ここ10年で履いてきたトレイルランシューズは200足以上。ちなみにレースではスポルティバを愛用中。2022年は米国の草シリーズを転戦する野望アリ。

紹介したブランド

  • BMZ

    BMZ

    "足から健康元気に"をモットーに、「立方骨」を支える特許取得インソール...

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