傷も、凹みも、煤も。人生の思い出が詰まった「クッカー」 【つづく、つながる、山道具】

自然の中で、ハードに使うことを想定して作られた山の道具は、ボロボロになることが当たり前。街用の服みたいに、着飾るためだけではなくて、自分の挑戦を側で支えてくれる相棒のような存在です。

そうして選んだ道具には、自然と愛着が沸くし、数々の冒険をともにしたストーリーが刻まれていく。一生物の品なら、仮に自分が使わなくなっても、次の代につなげていける。

「山道具には物語が眠っている」。

長く連れ添った道具には、それだけの理由がある。この企画は、アウトドアをこよなく愛する山人が、自らの愛用品とのそこに眠る物語をお届けする連載記事です。

▼第一回目:
「まだ使ってるの?」は褒め言葉。僕とパタゴニアのインサレーション【つづく、つながる、山道具】

今回の語り部

傷も、凹みも、煤も。人生の思い出が詰まった「クッカー」 【つづく、つながる、山道具】

小林昂祐
撮影と執筆業を生業とする。ヒグマが跋扈(ばっこ)する北の原生林から亜熱帯の離島まで。冬はもっぱら山スキー。人が少ない山域を長期で歩くこともあるので道具選びはいつもシビア。流行り廃りに左右されず、気に入ったものを探すのが自分のスタイル。作り手の熱量を感じられるモノが好き。


10年分の山旅をまとめた書籍を春に刊行予定。
https://www.kosukekobayashi.net/



バーナーを組み立て、クッカーに水を注ぎ、火をつける。

数えきれないほど繰り返した作業ではあるが、その楽しさは山をはじめた頃と変わらず色褪せることがない。

料理をつくり、コーヒーを淹れる。慌ただしい山行において、ほっと一息つくことのできるかけがえのない時間だ。

傷も、凹みも、煤も。人生の思い出が詰まった「クッカー」 【つづく、つながる、山道具】

山を登るようになってから、ずっと使いつづけているものがある。そのひとつがクッカーだ。

はじめて買ったのは、EPIgas(イーピーアイガス)の「バックパッカーズクッカーS」。ソロ用としては一般的なサイズで、軽量で強度に優れるチタン製。

110サイズのOD缶がすっぽりと収まる内径で、バタフライ型のハンドルがついていること以外に目立った特徴はない。

傷も、凹みも、煤も。人生の思い出が詰まった「クッカー」 【つづく、つながる、山道具】 (夏の後立山縦走。お湯で戻した質素なアルファ米のご飯が夜の楽しみだった)

「クッカーはこれでいい」

湯を沸かせれば十分。インスタント麺は半分に割って突っ込めばいいし、サーモス用のお湯が必要なら2度沸かせばいい。

アルプスの長期縦走やロングハイクを中心としていたこともあり、余計なものを持たず適度な軽量化を心がけていた。とはいえ山中での食事はささやかながら大きな楽しみだ。ソロ用のクッカーひとつという制限のなかで、工夫しながらできることを模索するのが面白い。

このクッカーが、自分にとっての山ごはんの基準をつくったと言ってもいい。

不便を感じることはなく、日帰りのハイキングから縦走登山まで、ほとんどの山行に持っていった。おそらくだが、自分が持っている登山用品のなかでも最古参ではないか。

振り返ってみれば、当時はアウトドアブランドのこともほとんどわからず、オーソドックスなスペックのものを選んだと記憶している。そのクッカーを、これほどまで使いつづけるとは思いもしなかった。

長年の使用ですっかり色は焼けてしまったが、いまも手放せないアイテムとなっている。

傷も、凹みも、煤も。人生の思い出が詰まった「クッカー」 【つづく、つながる、山道具】

パーティー山行には、1Lほどの容量があるアルミのクッカーを求めた。いわゆる焚き火缶だ。

豚汁をつくったり、水餃子を煮込んだりと、複数人で集まるときに一品をつくるのにちょうどいい。アルミなので熱伝導がよくお湯がすぐ沸く使い勝手のよさも気に入っている。

ガソリンバーナーと組み合わせれば、冬期に雪を溶かし水をつくるのも早い。少し嵩張るが中身はほぼ空洞なので、バーナーやガス缶を入れれば大きさが気になることはない。

傷も、凹みも、煤も。人生の思い出が詰まった「クッカー」 【つづく、つながる、山道具】

難点はアルミという素材の特性ゆえ凹んだり曲がったりしやすいこと。

移動中にバックパックが押しつぶされて歪んだら、力を込めて引っ張りハンマーで叩いて直す。夏の野営では焚き火に放り込まれ、焚き火缶らしく煤まみれで真っ黒。

金属タワシでゴリゴリと磨くのが山行後のルーティーンとなった。

傷も、凹みも、煤も。人生の思い出が詰まった「クッカー」 【つづく、つながる、山道具】

ちなみに購入当初は素材の特性というものはそれほど考えてはいなかった。しかし、使っているうちにチタンの強度の高さやアルミの熱伝導性、軽さを知ることとなった。

シンプルでありながら、よく考えられていると感心する。機能もそうだ。熱が伝わりにくいハンドル、注ぎやすさを考慮した口のデザイン、などなど。金属製のクッカーとひとことで言っても、実は奥が深いプロダクトなのだ。

いずれも、使い込んだことで、すっかり年季が入ってしまった。凹みも煤汚れも、いつのものかわからない。

見た目はボロ、多少のガタツキはあれど、使い勝手が変わることはない。これまでの山行の思い出が刻まれているようで、新品では味気なささえ感じてしまうから不思議だ。

「この愛着は自分だけのものだ」。

一生モノになりうる山道具

傷も、凹みも、煤も。人生の思い出が詰まった「クッカー」 【つづく、つながる、山道具】(まだ「新品」だった頃の貴重な写真。年季とは自分との山行の記録でもある)

登山道具において、一生モノと呼べるものは決して多くはない。

バックパックは穴が空きハーネスが切れ、シューズはソールがすり減り、ウェアは穴が空く。直して使うといっても限度がある。悲しいけれど寿命はあっという間だ。

一方、金属でできたクッカーはよほどのことがない限り壊れることがない。親が使っていたクッカーを受け継いでいる友人もいるくらいだ。

一生モノというと値段が高く貴重な品を思い浮かべてしまうかもしれない。しかし、身近なクッカーこそが、生涯にわたって山行を支えてくれる数少ない山道具なのではないだろうか。

YAMAP STOREセレクト

傷も、凹みも、煤も。人生の思い出が詰まった「クッカー」 【つづく、つながる、山道具】

EVERNEW(エバニュー)
バックカントリーアルミポット

クラシックなスタイルのアルミポット。復刻版的なアイテムで、いわゆる焚き火缶と呼ばれるスタイルを継承している。特徴は吊り下げに便利なハンドル。木の枝を通すことで、焚き火の上で加熱できるようになっている。

素材はアルミで、あっという間に傷がつき、焼け色が残るが、それこそが焚き火缶の醍醐味だ。軽量かつ小型タイプなので、キャンプだけでなくハイキングでも活躍してくれるだろう。

傷も、凹みも、煤も。人生の思い出が詰まった「クッカー」 【つづく、つながる、山道具】

EVERNEW
チタニウムウルトラライトポット600

軽量かつ耐久性に優れるチタン製クッカー。低面積を大きくとった浅めの形状がポイントで、調理がしやすいだけでなく、バーナーの火を効果的に受けることができるため、熱のロスが少ない。

断熱材つきのハンドルやメモリ、注ぎ口など実用性の高い機能がふんだんに盛り込まれている。ちなみに強度が高く硬質なチタンは加工が難しいとされる素材のひとつ。日本メーカーの加工技術の高さを感じられる逸品。

傷も、凹みも、煤も。人生の思い出が詰まった「クッカー」 【つづく、つながる、山道具】

PAAGO WORKS(パーゴワークス)
トレイルポット

ハイキングやキャンプギアを展開するパーゴワークスにとって初となるクッカー。丸型が主流ななかで、あえて角形を選択したのは「コンビニ食材」を想定しているから。真空パックタイプのご飯がそのまま収まり、かつ湯煎もできるのが特徴。

全体をアルマイト加工、内側をフッ素加工してあるため耐久性に優れ、かつ焦げつきにくくなっている。フライパンも付属しているので、煮る、焼くを同時に叶えてくれる優れもの。

傷も、凹みも、煤も。人生の思い出が詰まった「クッカー」 【つづく、つながる、山道具】

SOTO(ソト)
ナビゲータークックシステム/ブラック

ソロからパーティーまで幅広いシーンに対応できる万能クッカーセット。1.8Lと1.3Lの2つのクッカーがスタッキングでき、かつ共通で使用できるハンドル、カッティングボードとしても使える湯切り穴つきのフタなど、至れり尽くせりの機能が揃っている。

専用のスタッフバッグは保温フィルムつきで細部まで抜かりがない。ジャパンブランド、SOTOらしい洗練されたデザインも魅力だ。

クッカーと合わせて使いたいアイテム

    紹介したブランド

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      1924年に金属運動具製造卸として創業して以来、“スポーツを通して健康...

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