日本の靴下で、日本の山に登ろう|YAMAPスタッフの「TRAIL SOCKS」工場レポート

日本を代表する靴下の産地である奈良県。長年の経験から培われてきた技術や知識をもとに作られた奈良県産の靴下は、その品質の高さから国内外を問わず高い評価を受けています。しかし、靴下に限らず、日本国内の地域特産品やその技術に関することは、案外知られていないというのが現実です。

YAMAPが日本のものづくりに焦点をあてて企画した、登山のための靴下「トレイルソックス タビ」も、その奈良県にある「西垣靴下」さんで生産されています。素材を厳選し、糸作りから製法まで、手間暇をかけて丁寧に作られた靴下は、耐久性、履き心地、そして山歩きをより快適にしてくれる機能性を兼ね備えています。

そんな日本一の靴下の産地「奈良県」に赴き、「西垣靴下」さんを直接取材。本記事は、「トレイルソックス タビ」に込められたこだわりやその技術だけでなく、『そもそもなぜ奈良県が靴下の産地なの?』といった素朴な疑問までも徹底的に取材、調査したYAMAPスタッフの工場レポートです。

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なぜ、奈良が靴下の産地なの?

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東京に住むYAMAPスタッフが奈良県の「西垣靴下」へ向かう道中。新幹線のなかでふと、素朴な疑問が湧いてきました。

「なぜ、奈良が靴下の産地になったのだろう?」

その疑問の答えは江戸時代にまで遡ります。そしてその経緯には、奈良県の位置する場所の地形が関係していました。

奈良県は、「奈良盆地」と呼ばれる広大な盆地の上に位置しています。奈良盆地はもともと雨が少なく、河川流域などの都合からも、常に水不足に悩まされ続けていました。稲作農業中心の生活は非常に厳しく、江戸時代を生きた先人たちは水不足を補うために、稲作に比較して必要な水量の少ない「綿栽培」を取り入れ、裏作に麦や菜種などを栽培するという非常に効率の良い農業スタイルを生み出します。

これがきっかけとなり、大和国(現・奈良県)は、高品質な綿『大和木綿』の産地となり、その綿を利用した産業として、綿糸づくりや木綿織物づくりが発達していきました。しかし明治時代に入ると、安価なインド綿などが大量に輸入され、この日本での綿作りは瞬く間に衰退したといわれています。

そこで、農家の副業や兼業であった機織りに代わる仕事として、海外から持ち込まれたのが手回しの編み立て機による靴下製造。時代の変化とともに、靴下づくりは農家の兼業や副業から本業へと発展し、現在のような靴下産地が生まれたのです。

名産地で培われてきた技術を直接取材!「西垣靴下」を訪問

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さて、本題の工場訪問へ。東京から片道4時間をかけ、奈良県大和高田市に到着。最寄り駅から10分ほど住宅地を歩くと、大きな看板と建物が。「トレイルソックス タビ」の企画から製造をサポートしてくださる「西垣靴下」さんです。

日本の靴下で、日本の山に登ろう|YAMAPスタッフの「TRAIL SOCKS」工場レポート西垣靴下株式会社・営業部の西垣 俊希(にしがき・としき)さん

「西垣靴下」さんは、1986年創業の靴下メーカー。2000年代からは『用途に合わせた良質な靴下をつくる』ことをコンセプトに掲げた自社ブランド「エコノレッグ」を立ち上げ、自社内でさまざまな靴下の企画や製造を行っています。今回YAMAPがお声かけさせていただいた経緯も、実はこの「エコノレッグ」の靴下がきっかけ。

本日は西垣靴下で「トレイルソックス」の企画に協力してくださった西垣 俊希さんに工場をご案内いただきます。私たちがほぼ毎日身につける「靴下」が、どんな行程を経て作られているのかを、一緒に見ていきましょう。

①企画・設計

日本の靴下で、日本の山に登ろう|YAMAPスタッフの「TRAIL SOCKS」工場レポート「YAMAPオリジナルトレイルソックス」の図面

靴下の編み立ては特殊な機械で行われます。その機械を動かすための指示書づくりこそが、この設計・企画工程の重要な作業です。

まずは、使用目的に合わせた「材料選定」。綿糸や化繊糸、ゴム糸など、一足の靴下はさまざまな素材で形作られます。上記の写真は、「トレイルソックス タビ」の図面。図面上で使われている色の数だけ、異なる素材が使われています。その複雑さは見てわかる通り。

靴下に使用される糸「撚糸」。伸縮性を持たせるために糸作りの工程でクルクルと捻れた状態になっている。靴下に使用される糸「撚糸」。伸縮性を持たせるために糸作りの工程でクルクルと捻れた状態になっている。

素材以外にも、「糸番手」と呼ばれる糸の太さ、編機の「ゲージ(針の本数)」を選びます。ひとつの要素が変わるだけで全く異なる製品が出来上がってしまうため、この指示書を作っていくことこそ、多くの靴下を製造してきた経験と知識があってこそ生み出せる職人技のひとつなのです。

②編み立て

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続いては「編み立て」の工程。先ほど作成された指示書を編み機に送り、必要な糸を機械にセットすることで靴下の製造が始まります。

一見同じ機械が並んでいるように見えますが、編み機は多種多様。一般的な靴下でイメージするリブソックスや、スポーツソックスなどは全て同じ機械で作れるわけではありません。例えば、クッション性の高い分厚いパイル編みが可能な編み機、「トレイルソックス タビ」にも採用されるテーピング仕様の編み方ができる編み機、着圧が付加できる編み機など。作りたい靴下の仕様に合わせて、複数種類の編み機を使い分けています。

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機械を特別に止めさせていただき、機械の中を見てみるとたくさんの針が。この本数が先述した「ゲージ(針の本数)」。ゲージだけでも機械は異なり、中には日本国内に数台しかないような機械も存在するのだとか。理想の靴下はイメージだけでなく、その仕様が実現できる機械が揃っていることも重要な条件。一大産地である奈良には、そういった珍しい機械が多いことも特徴です。

機械の仕事とはいえ、編み機や糸の状態は生産途中にも少しずつ変化していきます。そのため、専門の技術者が編み機や出来上がった靴下の状態を常にチェックする必要があるのです。そして不具合が見られたり、製造途中で糸が切れてしまった場合などは、すぐに調整を行なって品質を維持しています。

③先縫い

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機械で編み立てられた靴下は、つま先が閉じていない筒状の状態です。つま先を縫い合わせて、私たちの想像する靴下の状態にする作業が「先縫い」です。

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靴下は表面が外側の状態で編み立てられますが、「先縫い」工程は靴下を裏返して行う必要があるため、出来上がった靴下は全て手作業で裏返しにする必要がありました。そこで使用されているのが、特殊な掃除機のような機械。靴下を筒状の部分にセットすると、筒の中から足先が吸い込まれ、簡単に裏返しにできるという仕組み。実際に体験させてもらいましたが、機械に吸い込まれやすいように靴下をセットするだけでも結構な力が必要で難しい作業でした。手慣れた皆さんは数秒で何枚もの靴下を効率よく次の工程に送り出していきます。

日本の靴下で、日本の山に登ろう|YAMAPスタッフの「TRAIL SOCKS」工場レポート

裏返しにされた靴下は、つま先を縫うことに特化した特殊なミシンで効率よく縫い上げられていきます。最後に、蒸気をかけて洗濯後の収縮を少なくなくしたり、形を整える仕上げの「セット」工程を経て、靴下が完成します。

スポーツ向けソックスの開発から生まれた「西垣靴下」の特殊な技術

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「YAMAP(ヤマップ)/トレイルソックス タビ」には、「西垣靴下」さんがこれまでに企画、製造してきたスポーツ向けソックスから生まれた特殊な技術が多く採用されています。企画に携わっていただいた西垣さんに、製品に採用されている構造とその効果についてお話を伺いました。

ー 西垣靴下さんが培ってきたスポーツ向けソックスの特殊な技術は、どういったことをコンセプトや目的に開発されてきたのでしょうか?

西垣靴下がスポーツ向けの靴下向けに開発してきた特殊な技術は、「アクティビティに集中できること」を目的に考えられています。

アクティビティに集中してもらうためには、足に余計な負担やストレスを与えないことが大切。そもそも『履いていることを忘れてしまう』ような状態が理想です。ここから、「足、靴下、靴がズレることなく一体化した状態」を靴下の製造技術で作れないかと考えました。そして、もうひとつの考え方が、「足が本来の機能を取り戻すためのサポート」もできる靴下。

「トレイルソックス タビ」にも西垣靴下のさまざまな技術が取り入れられていますが、全てはこのふたつに起因するものです。

ー なるほど。それではまず、「足、靴下、靴がズレることなく一体化した状態」を生み出すための構造を教えてください。

靴下は、足と靴の間にあるハブのような存在です。そのため、構造には足向けの
アプローチと、靴向けのアプローチがあります。

まず足向けのアプローチとしては、見た目からもわかる「クロスエイトテーピング構造※1」。足の甲と、側面、裏側に施されたバツ状のテーピング構造で、足と靴下が密着し、ズレにくくさせています。

※1 意匠第1377135

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そして、アキレス腱の部分に施された「ヒールロック編み」で、靴下によくある踵のずり落ちを軽減。徹底的に足と靴下のフィット感を高めています。これらの機能によって、やや履きにくさを感じるという点はあるかもしれませんが、一度履いてしまえばその効果を感じていただけるはずです。

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そして、靴向けのアプローチは、歩く動作のなかで力のかかる母指球(親指の付け根)部分に施した「編み込みグリップ」。細いゴム糸を靴下に直接編み込むことで、靴の中で足が滑りにくくなり、運動効率アップが期待できます。

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ー 聞けば聞くほど合理的ですね。では、「足が本来の機能を取り戻すためのサポート」の技術についても教えてください。

先ほどお伝えした「クロスエイトテーピング構造」「ヒールロック編み」は、足本来の機能を高める効果もある技術です。それぞれが、テーピングの構造を意識して考えられており、足首や足本体のねじれを抑制してくれる効果があります。また、足裏に施された2本の縦のテーピング※2によって、足裏のアーチが生まれやすいようになっています。アーチが生まれることで足裏への衝撃が緩和され、運動時の疲労感や負担を軽減することができるんです。

※2 特許第6403299

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もうひとつが、足先の構造ですね。「トレイルソックス タビ」は足袋(タビ)型を採用していますが、これが、「足が本来の機能を取り戻す」ために非常に良い構造です。

人間の足は本来、5本の指で地面を掴むようにバランスを取ったり、歩行運動を行うように考えられています。親指が独立していることで指の自由度が増し、親指に力が入りやすくなることで、踏ん張りがきいて動きやすく、歩きやすくなります。筋肉が自然と鍛えられて外反母趾予防にもいいと言われているんですよ。

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ー アーチサポートや足指を使いやすくすることで、「足本来の機能を取り戻す」構造は、YAMAPでも定評のある「山を歩くインソール」とも共通する考え方ですね。靴下とインソールを併用することでより高い効果を得られそうです。

そうですね。足は人間のアクティビティを支える重要な役割を果たす体の部位です。構造を理解して、最適なアプローチをしてあげることで、より快適な山歩きを実現できると思います。

というのも、これらの技術開発に着手した先代の社長が大の登山好きでして。登山好きが考える機能ですから、きっと他のハイカーの皆さんにも共感していただける効果が期待できると思います。

YAMAPのロングセラーアイテム
「山を歩くインソール」
10月末に入荷予定

ー ありがとうございます。最後に、消耗品としてイメージされることが多い靴下を長く使うためのコツなどがあれば教えてください!

皆さんが見落としがちなのは、足のつめを切ることですね。足袋型は、親指に点で負荷がかかりやすい特性があるので特に親指のつめが伸びていないかを確認していただきたいです。

また、洗濯などのお手入れの際は、摩擦や他の衣類とのスレ、引っ掛かりを避けるためにネットに入れて洗うことをおすすめします。干す際は、ウレタンを劣化させないためにゴム糸が多く使われている履き口を上にして早く乾かしてあげるとGOODです。ウレタン劣化の観点で、塩素漂白も避けた方が良いですね。

最後に、一般的な登山靴やブーツなどのアッパー部分が硬いシューズは、摩擦や擦れが起こりやすく、靴下の劣化が早くなってしまうという特性があります。登山ではそういったシューズを用いるため、どうしても劣化は早く感じられてしまうかもしれませんが、だからこそお手入れなどでしっかりとケアして、できるだけ長く使っていただけたら嬉しいです。

靴下のお手入れについて詳しく知りたい方は、こちらも合わせてご覧ください。

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日本の靴下で、日本の山に登ろう

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ものづくりの背景を知ることで、買うこと、使うことへの思いも一層強くなりますよね。今回の取材を通して、登山の靴下選びの大切さと、消耗品だと思っていた靴下を長く愛用するちょっとしたコツを知ることができました。

日本の地理や文化・歴史背景が生んだ靴下の産地「奈良県」。そこで培われた技術や、長く使われてきた特殊な機械を用いて作られた「YAMAP(ヤマップ)/トレイルソックス タビ」は、快適な山歩きのための機能や工夫が込められています。

履き心地、快適さ、どれをとっても満足していただける靴下ができました。ぜひ、私たちの生まれ育った日本の歴史や文化を感じながら、日本の山を歩いてみてください。

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