登山用レインウェアの選び方・着用のコツ| 正しい山道具の選び方・使い方 Vol.4

「山道具の正しい選び方・使い方を知りたいけど、イマイチよく分からない」という方向けの連載企画。第4回目のお悩みテーマは、「レインウェアの選び方と着用方法のコツ」。 

レインウェアはここ10年ほどで劇的な進化を遂げ、年々、快適な着心地にアップデートしています。今回は無雪期の登山を想定し、レインウェアの素材のしくみや種類、チェックすべき機能、着用のタイミングなどを山行経験豊富な山岳ガイドに教えてもらいました。

レインウェアの購入を検討している方、購入する際にどこをチェックするといいのか知りたい方、雨の登山をより快適に楽しみたい方はとくに必見の内容です。

(監修:原 岳広、文:山畑 理絵)

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登山用レインウェアの選び方

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レインウェアの〈素材のしくみ〉と〈種類〉

登山用レインウェアの選び方・着用のコツ| 正しい山道具の選び方・使い方 Vol.4

登山用レインウェアにおいて一番重要な役割は、雨をしのぎ、濡れや寒さから身を守ること。

「防水性」はもちろん、「防風性」も備わっているため、樹林帯から稜線に出て強い風を受けたときなど、体温を下げたくないときにも役立ちます。防寒や安全対策の観点から、レインウェアは晴天時でも必携のアイテムです。

防水透湿性レインウェアの生地は3層構造でできている

見た目や触った感触から、1枚の素材でできているように見えるレインウェア。でも、登山での使用を想定しているモデルは、いくつかの生地を張り合わせて1枚の布にしています。

レインウェアを選ぶ前に、まずは生地の基本構造を頭に入れておきましょう。

登山用レインウェアの選び方・着用のコツ| 正しい山道具の選び方・使い方 Vol.4 一般的に「3レイヤー」と呼ばれるレインウェアの生地構造

一般的に登山向きに作られているレインウェアは、表地、メンブレン(防水性と透湿性を兼ね備える部分)、裏地といった役割の異なる複数の生地が合わさってできています(上記の図参照)。

生地が3枚なら〈3レイヤーまたは3層構造〉、2枚なら〈2レイヤーまたは2層構造〉などと呼ばれます。2レイヤーの場合は、裏地を省いています。価格を安くおさえられるメリットがある反面、快適性では3レイヤーに軍配が上がります。

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では、なぜ防水性に加え「透湿性」もある素材を使用しているのでしょうか? それは、山行中の体の濡れは、雨だけが原因ではないからです。

山には登り下りがあり、歩いていれば汗をかきますよね。その汗によって、ウェアの内部が濡れることがあるため、蒸れを外に逃がす透湿性(汗抜けの良さ)がレインウェアには求められます。

春夏の行動中は、ただでさえ発汗量が多くなるもの。より快適に歩くためには、レインウェアの「防水透湿性」が必要不可欠であり、「透湿性の高さ」が最重要ポイントであることを覚えておきましょう。

レインウェアの形は、おもに3タイプ

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アウトドア用のレインウェアには、〈上下セパレート〉、〈プルオーバー〉、〈ポンチョ〉の3つのタイプがあります。

上下セパレートタイプの特徴

ジャケットとパンツが上下セットになったもの。登山用レインウェアの主流。上下別々のため動きやすい。状況に応じて、ジャケットだけ着たり、パンツだけ履いたりできる。

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プルオーバータイプの特徴

フロントファスナーを胸元までにとどめ、頭からすっぽりとかぶるタイプ。ジャケット単体で販売されていることが多く、別途レインパンツを用意する。頭からかぶるため体へのフィット感が高く、大きな動きが求められるクライミングなどに最適。また、ハーネスをつけたときにお腹まわりがもたつきにくい特長もある。

ポンチョタイプの特徴

バックパックの上からすっぽりと着用できるタイプ。足元まではカバーできず、保温性も低いため登山には不向きですが、もし使用するのであれば、散策程度の平坦な道で、雨風が少ないときに。気軽に着脱できるため、旅行や野外フェスなどのレジャーシーンに向いている。

登山で使うなら3レイヤーの上下セパレートタイプを


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ずばり、登山で使うレインウェアは3レイヤーの上下セパレートタイプがおすすめです。

昨今のレインウェアの選択肢は多く、使う人の体質や登山形式、目的によって一概に言えない部分もありますが、防水透湿性素材を使用している3レイヤーのレインウェアなら、発汗でウェア内部の温度が高くなっても蒸れを軽減でき、上下セパレートタイプにすれば、動きやすく、状況に応じてジャケットだけ、パンツだけ……といった着方が可能です。

3レイヤーで上下セパレートタイプ、この2点をおさえたレインウェアを持っていれば、歩行時のストレスは大幅に軽減できるでしょう。

その他の機能もチェック


素材と形が決まったら、次にチェックするのはその他の機能です。

チェックポイント1|ベンチレーションの有無

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ベンチレーションとは、衣服内の蒸れを逃すための換気口のこと。

数年前まで、ベンチレーションというと雪山などで着用するハードシェルに備わっている機能という印象が強かったのですが、近年はレインウェアにもベンチレーションを装備したモデルが増えています。

脱ぐほどでもないけど暑いとき、雨が止んでいるときなど、ガバッと開いて体温調節がおこなえるため、歩行中の快適性を高めることができます。

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レインパンツにもベンチレーション機能がついたモデルを選ぶと、かんたんにウェア内の温度を調整できます。暑がりな方、脱ぎ着を減らしたい方は、ベンチレーションつきのモデルを選びましょう。

チェックポイント2|フードの構造も個性が出る部分

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レインウェアのフードは、雨の降り具合で、締め上げたり緩めたりを頻繁におこなう部分。片手でキュッと絞ることができる構造を選べば、煩わしさがありません。

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また、ひさしの部分に芯が入っていると、効果的に雨を遮り、視界を保つことができます。ヘルメットをかぶる場合は、フードがヘルメットに対応した大きさかどうかも忘れずにチェック。

チェックポイント3|ストレッチ素材なら動きやすさが格段にアップ

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近年は、トレッキングパンツのようにレインウェアもストレッチして動きやすい素材に進化しています。生地が伸縮すると、肩回りやヒザなど関節の動きを損なわないため、歩きやすさは格段にアップします。

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大胆な動きでも生地が突っ張りにくいので、岩場などで大きく脚上げしたいときもスムーズです。

チェックポイント4|レインパンツは着脱のしやすさも確認しておく

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レインウェアの着用においてもっとも面倒に感じる部分、それはレインパンツの脱ぎはきかもしれません。

つくりのしっかりした登山靴を履いているとなかなか足が抜けず、レインパンツの内側を汚してしまうことも多々……。そんなときは、サイドファスナーが大きく(深く)開くタイプを選びましょう。足を抜きやすくなり、着用時のストレスを軽減できます。

〈 その他おすすめレインウェア 〉

山岳ガイドが薦めるレインウェアの着用方法とタイミング

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降ったり、やんだり。山の天気は変わりやすいもの。雨が強いとき、また降りそうなとき、雨が降っているけど暑いとき……山岳ガイドが薦める、シーン別の着用方法も頭に入れて、より快適な歩行を楽しみましょう。

シーン1|雨が強いときは

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たとえ高性能のレインウェアを着ていても、首元や裾から雨が入り込んでしまっては意味がありません。

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雨風が強いときは、頭、首元、手首、裾をキュッと絞り、上から下まで可能な限り隙間をなくして着用します。

シーン2|再び雨が降りそうなときは

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いったん雨はやんだけど、また降り出しそう……というときもありますよね。もちろん脱いでもいいのですが、再び着るのは億劫に感じることもあるでしょう。

そんなときは、ファスナーを首元だけ開けておいたり、裾の絞りをゆるめたり、ベンチレーションを開けたりなど、天候と体温の状況に応じて着用を。こういったシーンでベンチレーションはとても活きる機能です。

シーン3|雨は降っているけど、暑いときは

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夏の低山など、雨は降っているけど暑いときは「夏だし、濡れても寒くないからいっか」と、ついレインウェアを脱ぎたくなるもの。

しかし、万が一のことを想定すると、どんなときでも体は濡らすべきではないと考えます。遭難してしまい、山で一晩を明かさなくてはならない……なんてことに陥ってしまったとき、もし体が濡れていたら、一刻を争う事態になってしまうかもしれません。そのため、ファスナーの開け閉めで衣服内の蒸れを逃すなどして体温調節するのが最善策です。

レインウェアを着るタイミングは早めを意識する

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着たらやんだり、脱いだら雨脚が強まったり……。レインウェアを着るタイミングは、見極めが難しいものです。しかし、着るのを後回しにしているとトラブルのもとになってしまうことも。

夏の2,000m級の山でも低体温になります。むしろ、払えばある程度落ちる雪が降る冬よりも、身体が濡れさらに風にさらされるリスクのある夏のほうが低体温症になりやすいともいわれています。とくに初心者は早めの着用を心がけ、なるべく体を濡らさないようにしてください。

もしフードかぶったときに音が聞こえにくかったら

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防水対策を優先するのであればフードで耳までしっかり覆うことが望ましいですが、それでは周囲の音が聞こえにくくなってしまうのも事実。

ときには注意喚起する他の登山者からのかけ声や落石など、音で危険を察知する場合もあるため、耳だけ出したり、防水性のある帽子を併用してフードをかぶらなくても濡れないようにしたり、柔軟に対応しましょう。

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なかには、フードに「音抜き穴」を装備しているモデルも。後方からの音が聞きやすくなり、とても便利な機能です。

TIPS|1|

レインウェアはしっかり洗濯しましょう


過去に「汚れによる劣化でレインパンツの裾が破れてしまった経験がある」と、原 山岳ガイド。以来、山から降りるたびに「洗濯機に入れて他の化繊ウェアと一緒に洗っている」のだそう。

レインウェアを長持ちさせる秘訣は、しっかりと洗濯し、汚れを残さないことです。とくに裾まわりは汚れがつきやすい部分。毎回の洗濯が面倒なときは、ゲイターを併用して汚さない工夫をしましょう(この方法は後ほどご紹介します)。

雨の日登山、こんなアイテムがあればもっと快適に

憂鬱になりがちな、雨の登山。けれど、プラスアルファのアイテムで快適さは手に入れることができます。

防水性の帽子

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雨天時は帽子を防水性のあるものに変えることで、よりクリアな視界を保つことができます。

小雨程度であれば、フードをかぶらなくて済む場合も。視野を狭めないので安全性が増し、雨の日にしか味わえない山の姿も見落とすことなく楽しめますよ。

ザックカバー

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耐水性の高いポリエステル素材などで作られているザックカバー(レインカバー)は、荷物を濡らさないための必需品。バックパックの汚れ防止にも役立つので、雨天時に限らず用意しておきたいアイテムです。

防水性のスタッフサック


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ザックカバーは「外側から防水する」アイテムですが、「内側から防水する」発想に転換すると、防水性のあるスタッフサックが活躍します。

使い方はシンプルで、バックパックの内側に防水スタッフサックを入れ、そこに荷物をパッキングするだけ。また、双方を同時に使えば、防水性能をより一層高めることができます。

なお、原 山岳ガイドによると、沢登などでは「大型のビニール袋に荷物を入れてザックにパッキングし、ビニール袋の口をゴムで絞って防水対策する」こともあるそう。いざというときに覚えておきたいテクニックです。

防水性のグローブ

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体温は、手先・足先など末端部分から奪われていきます。よって、夏でも手先を冷やさないことが山の鉄則です。

手先の冷えは、指先が動かしにくくなる(操作しにくくなる)だけでなく、痛みを伴うようになると岩やロープを掴みそこねることにも繋がり、重大な事故を引き起こしてしまう可能性も。「寒い季節じゃないから……」と油断せず、暖かい季節であっても手先を濡れから守る防水性グローブを携行しましょう。

折りたたみ傘


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「山なのに、傘?」と思われるかもしれませんが、平坦なトレイルの樹林帯歩きや、良く整備されていて安全性の高い登山道など、シーンによっては有効なアイテムです。

昨今は100g台の超軽量な折りたたみ傘が登場しており、持ち歩きもストレスフリー。さらに晴雨兼用モデルを選べば、UVカット効果も期待できて一石二鳥!

防水性のゲイター

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靴のなかへの雨水の侵入を防ぐ目的なら、レインパンツの内側に。パンツの裾の汚れを防ぎたいときは、レインパンツの外側に装着。防水性ゲイターは、目的によって2通りのつけ方ができます。

雨天時はもちろん、雨上がりでぬかるみが気になるとき、砂ぼこりが気になるときにも重宝します。

TIPS|2|

晴れの日でもゲイター併用で、汚れを持ち込まない


ゲイターは、じつを言うと晴れの日にも大活躍するアイテム。TIPS 1で、「毎回の洗濯が面倒なときは、ゲイターを併用して汚さない工夫を……」と紹介したように、ゲイターを使う=裾を汚さない=ウェアの寿命を伸ばすことにつながったり、山小屋やテントのなかを汚さずに過ごせたりするメリットがあります。

素材・長さはさまざまありますが、夏の晴天時であれば、通気性のいい素材のショートゲイターが快適ですよ。

命を守る道具だからこそ、素材や機能にこだわって

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最後に、今回の重要ワードをおさらいしておきましょう。

・レインウェアは素材の性能が第一。防水透湿性に優れた3レイヤーを選ぶ
・動きやすさを重視するなら、形は上下セパレートタイプを
・ベンチレーションやストレッチ性など、プラスαの機能をチェック
・防水性小物を駆使すれば、雨の登山はもっと快適にできる

レインウェアは数ある登山道具のなかでも進化のスピードが著しく、年々快適な着心地にアップデートし続けています。雨の日や風が強い日に体温の低下を防ぎ、命を守る道具だからこそ、素材や機能にこだわって選びましょう。

季節はまもなく梅雨シーズン。“体を濡らさないことまでを含めて防水”と意識し、最新のレインウェアで雨の日の登山も快適に楽しみたいものですね!

公益社団法人 日本山岳ガイド協会 認定山岳ガイド(山岳ガイドステージⅡ、スキーガイドステージⅡ)

原 岳広(はら・たけひろ)

バリエーションルート、沢登り、高難度縦走・ピークハント、アイスクライミング、バックカントリースキーなど、四季を問わずオールラウンドにガイド活動を展開。山岳ガイド歴は、サポートを含め約20年。山に行かない日は3歳から続けているクラシックピアノを弾いて過ごすことも。山と同じくらい音楽も楽しむ。

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